年上の私
今日も君の可愛い笑顔を見て出勤。
君は私よりも年下。
満員電車の中でただ君の笑顔を見て毎日、癒されていた。
いつものように満員電車の中で彼を探していると
私は後ろに異変を感じた。
体が動かない。
声が出ない。
私は痴漢被害にあった。
怖くて何もできない。
「おっさん、何してんの?」
誰かが助けてくれた。
痴漢男は次の駅で駅員に連れていかれた。
「ありがとうございます」
私は助けてくれた人に頭を下げて電車に乗ろうとした。
するとその助けてくれた人は私の腕を掴んで私の動きを止めた。
「今日は乗るのやめたら?」
彼の言葉で私は自分の異変に気付いた。
私、震えてる。
彼に手を引かれ、二人で椅子に座った。
彼は私の腕を掴んだままだった。
「ねぇ、いつも何聴いてんの?」
「えっ?」
「いつもイヤホンしてるじゃん」
その言葉を聞いて私は顔を上げて彼の顔を見る。
あの、笑顔の可愛い彼だった。
「何で知ってるの?」
「いっつも同じ時間、同じ場所に立ってるじゃん」
「そんなに目立ってたかな?」
「うん。可愛いなぁって思ってた」
「冗談はやめて下さい」
「なんで敬語?」
彼はそう言って笑った。
「君も目立ってたよ」
「俺が?」
「いっつも笑うとき可愛い笑顔で」
「俺、子供扱いされた?」
彼は少し不機嫌になった。
「子供扱いはしてないけど私より年下でしょ?」
「年下でも俺、男だよ」
彼はそう言って私の腕を掴んでいる手に力を入れる。
「力があるから男なの?」
「それなら年上だから俺を見下すの?」
「えっ、そんなふうに感じてたならごめんなさい」
「ううん。俺もごめん」
彼はそう言って掴んでいた私の腕を撫でる。
「何で声、出さなかったの?」
「声?」
「痴漢にあったとき」
「出なかったの」
「ごめん。思い出させて」
「いいよ。でも私みたいに声も出せない子っていっぱいいるんだろうね」
「俺がいなかったらどうなってたんだろう」
「考えたくない。」
「ごめん」
「君は悪くないよ。私は君がいてくれたから助かったんだよ」
「でも俺がいたのに嫌な思いしたでしょ?」
「君が私の彼だったら隣にいただろうし、嫌な思いもしなかったかもね。
でも君は、私の彼でもなんでもないでしょ?」
「じゃあ今、彼氏にしてよ」
「ダメ。君はまだ学生よ。
同じ年頃の女の子と恋愛しなきゃ」
「なんで恋愛相手をあんたが決めんの?」
彼は悔しそうに言った。
「ごめんね。私は大人で君はまだ学生服を着ている子供なのよ。」
「俺が制服じゃなかったらいいわけ?」
「そうね。」
「じゃあ後、一年だな」
「えっ?」
「俺、後一年で卒業だから。
一年後、俺を彼氏にしてくれる?」
「君の気持ちが変わらなかったらね」
彼は若い。
私よりも年下。
一年という月日がいろんなものを変えることを君は知らない。
だから私は何も考えずに答えた。
君の言葉は一年後には聞けないことは分かっていたから。
その日から私は乗る電車の時間を変えた。
彼とは会わなくなった。
そして春の季節が来た。
駅には桜の花びらがひらひらと舞い落ちてきていた。
あちらこちらから卒業式の話が聞こえた。
今日はどの学校も卒業式みたい。
彼も卒業式かな。
私は笑顔の可愛い彼を思い出していた。
仕事が終わり、帰る電車に乗る。
いつも通りに電車に揺られ。
彼と座ったあの駅の椅子に目を向ける。
彼と話したあの日から私は毎日、駅の椅子を見ている。
彼がいるかもと期待してるんだと思う。
今日もいないと思っていた。
私はその駅に着くと走って椅子に向かう。
走ったせいなのか心臓がドキドキしていた。
「やっと会えた」
そう言った相手は可愛い笑顔を見せた。
「なんでいるの?」
「約束したじゃん。
一年後、彼氏にしてくれるって」
「もう忘れてると思ってた」
「俺だって忘れられてると思った」
「じゃあ何故ここに?」
「俺は忘れられなかったから」
彼の嘘のない言葉が私の心の壁を壊していく。
私、年上なのに。
私は彼を抱き締めていた。
「卒業、おめ……でとう」
私は泣きながら言った。
すると彼は抱き締めていた私の腕を解き、
次は彼が私を抱き締めた。
彼は私より背が高い。
彼は私より体が大きい。
彼は私より抱き締める力が強い。
彼は私より声が低い。
彼は年下でも
ちゃんと男の人だった。
「年上なのに、小さいんだな」
「ヒールを履いたら少しは高くなるわよ」
「身長だけじゃない。
今、初めて触れて改めて気付いたんだ。
やっぱり俺が守ってあげたいって。」
もう彼の言葉一つ一つに私の感情は反応して涙が流れて止まらない。
「泣きすぎ。
どっちが年上か分からないな」
「どう見ても私よ。
君はまだ学生服着てるもの」
「卒業式が終わってすぐ来たんだ。
卒業したことを早く言いたかったから。
今日が最後の制服姿なんだからちゃんと見てて」
私は小さくうなずいた。
彼は年下。
私は年上。
彼は男の人。
私は女の人。
私達は全然違う。
でも同じなところが今日一つできた。
私達は恋人同士。