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第1話 攻略の始まりは

 西大陸の商業都市レクスに飛んだ俺は、真っ先に道具屋へ行き、アイテムの売却と調達をする。


 今回のクエストは、時間との勝負だ。

 タイマーをセットし、アイテムの整理も手早く済ませて店を出る。


 その足で冒険者組合会館に駆け込むと、NPCの受付嬢が話しかけてきた。


「こんにちは、マウスさん」

「やあミーシャ、今日も一段とキレイだね。急ぎの要件はあるかい?」

「緊急のクエストはないですね……急な出費でも? 実入りがいい依頼、紹介しましょうか?」

「ありがとう、ただ聞いてみただけさ。金はたんまりあるんでね」


 ミーシャの対応はいつも通りだ。NPCは弄ってないのか。

 

 気を取り直し、本題を切り出す。


「話は変わるが、急ぎで全会館に広告を出してほしい」

「承知しました。内容は?」

「『ドラムス、チューナー、コップはレクスの会館に集まれ』だ」


 冒険者組合に所属するプレイヤーは、手数料を払えば会館に広告を掲示できる。


 ソロプレイヤーが人を集めたり、チャットが使えない場合の連絡手段として使うのが主な用途だ。


 倍額払えば全ての会館に広告を掲示でき、さらに倍額支払うとすぐに掲示が完了する。


 ちなみに転写魔術と転送魔術を使っている、という設定だ。


 また、会館には『転送門』というワープゲートがあり、これを通して各会館を移動できる。


 そしてドラムス、チューナー、コップはβ版からの古参で、リアルでは古い付き合いの友人だ。


 特にチューナーはかつての同僚で、このゲームを手掛けたプログラマーでもある。


 あいつらはデスゲームに乗らないと断言できる。すでに解決に動いているだろう。

 とはいえ、集合にも時間が必要だ。


 代金を支払った俺は酒場に向かう。


 デスゲームに乗ったプレイヤーがどれだけいるのか、情報収集がしたい。

 

 4時間以内に終われば死者が出ないといっても、この状況でのPKは気分のいいものではない。

 なにより、PKされた側の精神的ダメージは計り知れないだろう。


 酒場に到着すると何人かプレイヤーがいたが、互いに距離を取っている。

 そして俺を見るなり表情が硬くなる。


 言っておくが、俺はそんな威圧的な風貌じゃない。

 種族は人間で、容姿も髪と瞳以外はリアルとほぼ同じにしてある。

 なので見てくれは鉄製装備で固めた金髪碧眼のおっさんだ。


 だが、プレイヤーの名前とレベル、職業、HPゲージはデフォルトで開示されている。

 俺は職業(ジョブ)が三次職のパラディン、レベルはカンスト、おまけに『三ツ星』と来ている。


 一方、酒場のプレイヤーは初心者から中級者ばかりだ。

 大半が一次職で、数少ない二次職もレベル的に転職したてらしい。


 このゲームの職業は、育成では結構重要だ。


 まず、ゲーム開始時に選択する一次職は変更できない。そして一次職によってなれる上位職は限定される。

 唯一、『村人』だけが他の一次職にいつでも転職できるが、代わりになれる上位職がない。


 二次職以降であればレベルを20落とす代わりに直近の下位職に戻れる、逆行の儀というシステムがある。

 ただ、実行できる場所と時間が限られるうえに金もかかる。


 そして職業ごとに『得意』なパラメータが設定され、初期値とレベルアップ時の上昇値に補正がかかる。

 加えて、レベルアップなどで得られるGP(グローポイント)を振る際も、得意なパラメータは消費GPが少なくて済む。


 たとえば、一次職の剣士はSTRとDEX、魔術師はMPとINTが得意とされ、上位の職業ならより高い補正がかかる。


 だから必要レベルに達したら即転職するのがセオリーだ。


 そして、最大3回までレベルをリセットして職業を決め直す、転生システムがある。


 転生時は保有GPの半分と技、魔法、スキルを引き継ぎ、最初に選んだ職業の得意パラメータにも補正がかかる。


 たとえば、剣士から始めたプレイヤーが転生し、魔術師を選択した場合、STRとDEXに剣士相当の補正がある、という具合だ。


 このボーナスは転生後に同じ職業を選んでも重複する。再度剣士を選択すれば、STRとDEXに二重の補正がかかる。


 もちろんデメリットもある。

 レベルアップに必要な経験値が増え、同じ職業に転生した場合、転職に必要なレベルが上昇する。


 で、転生するたびに名前の横に星が表示され、転生回数が上限に達したプレイヤーは星が3個ある、というわけだ。


 ちなみに4回目以降の転生もできるが、条件が厳しく、そのクセうまみが少ないため、やらないプレイヤーが大半だ。


 5回目に至ってはイレギュラーすぎるので、現状1人しか達成していない。


 話を戻すと、この場にいるプレイヤーの中で、俺は圧倒的に強いわけだ。


 そんなヤツに襲われたら、抵抗できずに殺されるという緊張だろう。


 だから警戒心を解くため、笑って話しかける。


「そう焦らないでくれ。俺はPKなんてしない。あのデスゲームうんぬんが本当だと思ってるのか? そんな馬鹿な話があるか」


 デスゲームを信じていない風を装い、カウンターで無防備に酒を飲む姿を見せる。


 すると1人のプレイヤーが話しかけてくる。


「その……あれは嘘だと思っているんですか?」

「ああ。あんたは違うのかい?」

「正直、半信半疑で。ログアウトできないのは確かですし、さっきからフレとも連絡が取れなくて」

「サーバーが不調だったりすればそうなるさ」

「でも……」


 他のプレイヤーも同意と言いたげに不安そうな顔を向ける。


 ここでデスゲームが本当だ、と言えばパニックになるだろう。


「……ま、本当ならまた身の振り方を考えるさ。それより、情報交換といこうじゃないか」


 言葉を濁して話題を切り上げ、その場にいるプレイヤー間で情報交換を始める。


 自分はNPCが平常通りなことしか伝えられなかったが、他プレイヤーの周辺でPKは起きていないらしい。


 ただ、疑心暗鬼となったパーティーが散り散りになった、という話はあった。


 思っていたよりプレイヤーのモラルは高かったらしい。


 安堵したのもつかの間、外から悲鳴と怒声が聞こえる。


 酒場の外に飛び出すと、4人の少年少女が、4人の男に追い回されていた。


 4人はいずれも一次職、レベルも1人を除いて1桁台で、星もない。

 その1人もレベル11、初心者をようやく卒業という段階だ。


 一方、4人の男は全員二次職でレベルも50台、かつ一ツ星だ。それなりに熟練したプレイヤーと見ていい。


 黒いローブ姿の男が呪文を唱え、ベレー帽にゆったりした服を着た、サキという名の少女を鎖で拘束する。

 妨害やデバフを得意とする『ウォーロック』らしい。


「リア充は死ねえっ! 水面(みなも)斬り!」

「エンジョイ勢はくたばれ! 乱れ斬り!」

「しゃあ! アナコンダ・ブレイド!」

「サキ!?」

「ハルナ!」


 ハルナというエルフの少女が駆け寄るが、間に合わないだろう。


 3人の男が一斉に飛びかかり、技を発動させる。


 サキの職業は『薬師(くすし)』。

 一次職でも味方のサポートに特化しており、HPとVITは特に低い。


 一方、男たちは『サムライ』、『双剣士』、『剣闘士』と、バリバリの前衛だ。

 いずれもSTRに高い補正がかかり、剣闘士が使った技は、自分のSTRが対象のVITより2倍以上高ければ、問答無用で即死させるものだ。


 身動きのとれないサキは目をつぶってしまう。


 だが、攻撃は当たることなく終わる。


「リジェクトカーテン!」


 なぜなら俺がサキの前に障壁を張り、3人を吹っ飛ばしたからだ。

 

 少し遅れて男たちとサキの間に割って入り、担いでいた十字槍を構える。


 男たちはすぐに敵意を向けてくる。


「なにすんだよ! おっさん!」

「邪魔するな!」

「そいつは俺たちの獲物だぞ!」

「なるほど、PKエンジョイ勢ってわけか」

「エンジョイ勢じゃない! ガチだ!」

「ナめた口きいてると殺すぞ!」


 その態度を見て、俺は確信する。


 元からPKをやっていたパーティーだ。

 

 デスゲームが本当と思っているかは知らないが、全プレイヤーにPKが解禁され、調子に乗って無差別にPKを仕掛けているのだろう。


 仲間が集まるのに、まだ時間がある。

 それにこの状況で初心者狩りをする連中を、放っておくわけにもいかない。


「奇遇だな、おじさんもガチ勢なんだ……ただし悪い子をおしおきする方のね。おいたが過ぎる悪ガキどもには、少し痛い目を見てもらおうか!」


 いきり立つ悪ガキたちに、俺は不敵に笑ってみせた。

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