座り込む希望
光だ。
この下水トンネルの先に光がある。
心に希望が灯ったような温かさを感じた。
希望を胸になんて、恥ずかしい言い回しだが
今では信じられない程の力となり自分を突き動かしている。
持てる力、全てで走った。
ついに、外に出ることが出来た。
下水よりも外はもちろん明るかったが、空はどんよりと曇っている。
「やった・・・!」
廃墟以来の部屋の外、しかも屋外だ。
どうやら、あの虫も追って来てはいないようだ。
ここはどこだ?
屋外ならどこでもいいが、人工的なトンネルがあるのだ
街や人の住む場所は案外近いのかもしれない。
四方は森に囲まれているようだが
しかし、その前に私は信じがたいモノを発見する
「人だ・・・!」
男性だ、中年くらいの男性が少し離れた場所で座り込んでいる。
コンクリの、座るのにちょうどいい段になっているところに
私は急いで声をかける
「ねえ!あなた・・・!!」
男は私を見た。
「・・・・やあ、どうも」
男は俯き加減で、やや元気が無さそうに応える。
「ああ!良かった!!」
私の喜び方は、傍から見れば異常だった事だろう
それでも、廃墟の女性とは会話が成立していなかったので
数日ぶりに他の誰かと会話をした私だ
喜ばない訳がない。
「驚かないで聞いてくれ!私はどこか・・・あ、ある場所に閉じ込められていて・・・!!
今は、なぜかはわからないが、ここに居て・・・!!ここはどこなんだろう?教えてくれないか!?」
自分でも喋りながら、こんな早口で捲し立てれば相手は戸惑うし、久々に舌を喋る事に使うのでカミカミであったと思った。
それでも、感情の先走りと説明のしがたさは どうしようもない。
身振り手振りでどうにか、事態の切迫さを伝えようとしたが、落ち着く必要のある喋りだった。
「・・・・・・・・・」
男は黙ってしまっている。
私の異様な雰囲気で警戒させてしまっただろうか?
私は我に返り、冷静になるように努め、呼吸を整えた。
「す、すまない 怪しい者ではないんだ あなたの名前を教えてくれないか?」
彼とは意外に歳が近いかもしれない。
「・・・・・・・・デイビット」
彼は名前を答えてくれた。
「デイビットか、私は・・・」
デイビット
「いいよ、知ってる・・・・・久しぶりだね。」
え? 今のこの男の返答に私は唖然とした。
「私の事知っているのか!?」
驚くべきことだ、彼が私の知人だったなんて
だが、私はデイビットを思い出すことは出来なかった。
どこで会った? 仕事先?共通の友人?学生時代??
デイビットは思い出さない私を見て、また悲しそうに俯いた。
デイビット
「覚えてない・・・・? そうか、仕方ないよね そんなに話した事ないし・・・」
「すまない・・・あの、どこで会ったのかな?」
私も申し訳なさでいっぱいだ。
その時、私が出て来たトンネルの方で気配を感じた。
あの虫たちが、我々を睨んでいた。
大量な数で