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ある一日

sfです。短めのお話。

遠い、遠い、未来の話


 2機と1人の話


 ◆


「相手も弾切れか」

「こっちだってもうなぁんにもないですよぉ」


 赤みがかった空に浮かぶ灰色の雲。痩せこけた大地。 見渡す限りに緑色は存在しえない。そんな場所に、25mの鉄の人形が演舞を舞っている。


 一つは、黒く、曲線を描く装甲に不気味に光る一つ目。ひとつは、白い装甲に、人懐っこさを覚える大きなお目目が二つ。顔に当たる部分が黒いディスプレイとなっており、赤い線でまるい目を描いているのは、顔が愛玩されるべくデザインされているから。


 その二機が相対し、しのぎを削っている。兵器らしい兵器はすでになく、その手にあるのは原始的な武器。


 黒い方が、右手に光る剣、レーザートーチを剣と見立てて持っている。溶接用の物を無駄に長くした見栄え用であるが、当たれば相手の装甲を両断できる。その性質上剣術の鍔迫り合いができない。それを見越してなのか、左手には巨大なラウンドシールドが装備されていた。


 白い方も、同じく右手に光る剣だが、こちらは粒子を高速で循環させてその摩擦で切り裂く、拡大解釈上のチェーンソーを持っている。外見上の違いは双方にほとんどない。


「ナイトロード、レーザーブレード稼働を確認。こりゃきますね」

「あんな高性能なシールドがあるとはな」

「飛び道具全部防がれちゃいましたもんね」

「こちらの攻撃はすべて無力化ときている。だがアレは今まで見たことない。出来れば鹵獲をしたい。レコード、できるか? 」

「6ちゃんがそう言うなら、やるだけやってみますけど」

「なら、頼む。敵機来る! 」


 黒い方……ナイトロードと呼ばれたその機体が真正面から、白い機体を両断せんと振り上げる。


「レコード! イノセントにカーボネンナイフを! 」

「オンラインとっくですよぉ! 」


 白い方……イノセントも対応すべく動いた。左手に別種の兵装、ナイフを装備する。ナイフといっても、刃渡りは鉈といってもよいほど長い。コンバットナイフをモチーフにしている為である。そのナイフが、ナイトロードの攻撃を真っ向から受ける。


 そう、受け止める。レーザートーチを受け止められるほど、このナイフの硬度は硬く、法外な耐熱性もある。このナイフがナイフたらしめているのは、材質の重量であった。カーボン、炭素繊維を何千何万何億と織り込んでいる為、カーボンの利点であるはずの軽さが消え去り、ナイフの大きさでなければ保持すら危うくなる。


 そのようなナイフでレーザートーチを防ぐものだから、火花がやたらと出る。前後で2人乗りの構造をしたコクピット内部で、2人は目を細めた。


「ヘルメットをかぶっておけばよかった」

「すぐ終わらせます? 」

「あれか。あまりやりたくないが」

「どうしてです? 」

「……嫌なんだ」

「どうしてですか? 」


 火花が散り続ける。高熱によりナイフが赤熱化していく。如何に高温に耐えうるといっても限度があった。しかしそれを無視した上でレコードと呼ばれた少女は再度問いかける。


「どうして、ですか? 」

「あの姿のレコードは、怖い」

「でも、あれは本来の私です。本来の役目です」

「だとしても、6号は、今のように話せるレコードがいい」

「どうしてそこまで? 」

「あの姿のレコードは、まるで6号の知らないレコードみたいで、6号を知らないレコードのようで……いつも、胸部が、痛くなる」

「大丈夫ですよ」


 微笑みながら金髪の少女は言う。


「あの姿になっても、私は貴女を忘れません。それに、痛みだってじき治ります」

「……本当だな? この胸部の痛みもなくなるな? 」

「ええ。6ちゃんの体の正常な反応です」

「そうか…なら、お願い、できるか? 」


 前後に分かれているコクピットで、後方のパイロットを見るためには、体ごと振り向かねばならない。6号と名乗る彼女はそれを行い、金髪の少女、レコードへと向き直る。火花によってその微笑みははよくみえた。


「では、パスムーブを」

「わかった」


 レコードがその右手を手の平を上にして差し伸べる。そのまま、6号は懇願するかのようにその手へと口をつけた。キスの場所によって意味があることなど、6号が知らない。知っているのは、この行為には、レコードを最大まで利用するための鍵であること。一瞬でありながら、どこまでの長く続くような口付けが終わり、レコードの声色が冷たい物へと変わる。彼女は、この機体をサポートするAIを搭載した、ガイノイドだ。


「パスムーブ認証。イノセント最大稼働します。状況を確認。現在カーボネンナイフ、および粒子サーベル装備中」

「レコード。粒子サーベル、最大駆動」

「敵機エネルギー吸収率15%以下。2秒しか持ちません」

「やってくれ。イノセント最大稼働」

「オーダーを受諾」


 レコードの宣言と同時に、白い人形が、愛玩の姿を変える。


 身体中に行き渡らせるためのオイルがあまりの高熱で蒸発し、煙が各所から噴き上がる。その湯気がイノセントの姿を心綺楼のように揺らめかせた。そして、顔のデスプレイは首からせり上がった装甲に大部分を隠されて、僅かに残したディスプレイ部分が小さな瞳となって相手を睨みつける。


「イノセント最大稼働。粒子サーベルリミッター解除。《グローブ》使用可能」

「グローブ使用」

「その前に敵の攻撃。斬撃が正面より」

「やってみせる! 」


 ナイトロードが鍔迫り合いを止め、レーザートーチを振り上げる。真正面から破壊の意思が刃の形をして襲いかかる。まだナイフは防御に使用できる。


 しかし6号はそれを選択しない。迫り来る刃を、リミッターが解除されたイノセントの運動性を駆使し回避を行う。真正面からくる刃を、左脚を軸にして、まるで踊るようにくるりと右回転する。


 イノセントの装甲はあえて長く作られている、それは、このイノセントはタキシードをモチーフにしているからである。その長い裾のようになった装甲がひらりと舞うように、敵の攻撃を優雅に回避した。


 そして、回避と反撃は同時に行う。回転した勢いをそのまま利用し、右手にもつ剣を、横薙ぎにする。ただの粒子サーベルであれば、よくて相手の腕を切り落とすだけに終わる。しかし今、手にもつのは、タキシードを着る者は身にまとう手袋と同じ名をする武装。それはまだ婚姻関係があったころ、グローブとは花嫁を守るために花婿が身につける物であった。


「出力全開! 」

「オーダーを受諾」


 粒子の放出が一瞬で高まり、刃渡りが倍以上になる。粒子の行き来もまた倍に、その結果。


 ナイトロードを、腕の上から切り伏せ、胴体をも両断した。これほどの威力がなければ、花嫁を守るに値しないという法外な設計を実践して見せた。


 断面が溶解しながら、駆動途中のままごとりと上半身が落ちる。まだ動いて慣性がのこったまま、腕が地面をなんども滑っている。そしてたっぷり10秒かかったのちに、下半身も制御を失い、上半身と重なるように倒れ込んだ。


「状況終了。通常駆動へ移行します」


 レコードが冷たい声を出し終え、さきほどまでの、感情豊かな声へと変わる。


「はぁ! おわった! 帰りましょう! そろそろ磁気嵐が来ちゃいます! 」

「本当に同じレコードなのか、いつもいつも混乱する」

「そうですか? 」

「声も、仕草も違う。だがこうして6号に話してくれる時だけは、いつものレコードだとわかる」

「そうですとも! 仲人はサポートするのが仕事なのです! 」

「なら、船に戻ろう」

「あいあいさー! 」


 イノセントの顔にせり上がった装甲がおり、再びディスプレイが現れる。鋭く尖らせるようにひかった目が、もとの、まるい愛玩目的の顔になる。


「今日の食事はどうなる? あのはんばーがーというのか? 」

「気に入ったんですか? 」

「……気にいる、というのは、よくわからない。なにか別の、おそらく固有名刺のある感情のはずだ……そうだ。きっとこれも嫌いのひとつだ」

「うーん。違うと思いますよ? 」

「なら、これはなんていうんだ? 」

「《好き》という感情、かもしれません」

「そうか……気にいる、と、好き、か……そうだな。きっと私はハンバーガーが好き、なんだ」

「よかったです! 6ちゃん一歩前進です! 」

「感情は大変だ。でも、ちょっとずつ教えてくれ。レコード」

「はぁい! 」


 レコードはガイノイドである。すでにアップデートを重ねた彼女は自我、シンギュラリティに目覚め、そして6号に、感情を教えている。


 しかし6号はガイノイドではない。彼女は生身の人間だ。


 彼女は、発展した結果自我を捨てた人類の、久しぶりの肉体を得た個体である。彼女、および人類はすでに太陽系を出て外宇宙へと到達している。なぜそんな人類が、いまさら地球にやってきたのか。


 それも答えはある。この地球は寿命を迎えつつあった。その調査と記録を取るために、製造序列、6号は大地に降り立った。


 これは、自我を無くした人間と、自我を手に入れたガイノイドが、終わる地球を記録する物語。

まだ続きます。

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