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恋空  作者: おこにぃ
4/5

第3章:再会

ようやく長かった新学期初日が終わり、日付は4月8日。

昨日よりも薄着になってしまったにも関わらず、朝日と同時に登校する慎の姿があった。


早起きは三文の徳。はたして吉と出るか凶と出るか、まだ一日は始まったばかりだ。



 「ふあ、、、」


 うっすらと夜の冷たさが残る通学路を、欠伸を押さえながら歩く。昨日はいろいろあったせいか、いつもより早く目が覚めてしまい、そのまま二度寝するのもあれなので、気分転換も兼ねてこうして朝早く登校することにしたのだ。まあ一種の気まぐれというやつだ。


 「この時間だとさすがに朝練の連中もいないか」


いつもの時間なら、朝練中の生徒の元気な声で登校しているので、こうも静かだと少し寂しい感じもするが、これはこれでいつもと違う雰囲気を感じられていいものだと思いながら歩を進める。

しばらく歩くと学園の大きな門が見えてきた。


 「校門も空、か」


昇降口を抜け3階にある自分の教室へ向かう。教室は空。まだ誰も来ていないようだった。


 「暇だな、、、」


現在時刻は6時40分。始業まで2時間弱、誰か来るとしてもあと1時間は自分一人だろう。自習なんて柄でもないのでスマホを取り出す。


 「、、、」


やはり、教室に一人というのは、こう、何とも言えない気持ちになってくる。寂しいとかでは決してない。


 「、、、少し散歩でもするか」


教室を後にして、暇つぶしができそうな場所を探しに行く。


 (暇をつぶすならクラス棟よりも教育棟かなぁ)


クラス棟から教育棟はほぼ反対側に位置していて少しかかるが、それも多少の時間つぶしになるだろう。教育棟へ向かう途中、朝練の生徒とは違う雰囲気の生徒の姿がちらほらと歩いていた。

こんな朝早くでも登校している奴はいるのかと思いながら、教育棟の中をぶらぶらする。


 「来てみたはいいものの、特段、面白そうなところはなさそうだな、、、」


ついて早々教室に引き返そうか頭を悩ませていると、2階廊下の突き当りにあまり見ないタイプの木製の扉を見つけた。


 「なんだこの扉?」


教育棟自体あまり来る機会がないため、設備については疎いのだが、ここの扉だけ他とは違い、明らかに年代物の雰囲気を醸し出していた。


(禁断の扉とかではないよな?)


あたりを観察してみると、扉上に「館書図」とかすれた文字が書かれている木製のプレートを見つけた。


 「図書館か、1年も通ってるのに場所すら知らなかったとは、、、」


そうつぶやきつつ、扉に手を掛ける。ギギギと重たい音を立てながら扉を開くと、図書館特有のカビ臭い臭いが鼻についた。


 「おおお、、、」


眼前に広がる本、本、本、本。上も本、左も右も本。見渡す限りの本の壁が広がっていた。そして、奥の方には上に上るための階段がある。


 「もしかして3階までぶち抜いてつくってあるのか?」


普段あまり本は嗜まないのだが、この規模の図書館ならば、見て回るだけでもそれなりの時間つぶしはできるだろう。気になったものがあれば何冊か借りていけばいい。

案内図に目をやると、図書館1階は主に、様々な大学の参考書や各種教科の補助書、さらに学生達に人気の高いライトノベルや漫画等が置いてあるようだ。


 「あまり漫画とかは読まないからなぁ」


続いて2階の案内図を見ると、上の階にはどうやら、各種専門書から学園OBや教師の人間が出した著書が置いてあるようで、その隣には古書と書いてあった。


 「古書?」


教師の著書なんぞに興味はないのだが、古書というワードには好奇心をくすぐられるものがある。


 「ちょっと見てみるか」


奥にある階段を上ると、より一層古本の臭いが強くなってきた。下の階は現代的な雰囲気だったのだが、上の階は図書館よりも、蔵に近い雰囲気だ。


 「静かだな、、、」


直射日光厳禁のため窓はなく、照明も最低限しかないため、体感よりも温度が低く感じられる。下と同じく、本棚は天井まで届いており、中2階と可動式の梯子もあった。


 「こうも多いと、どこから回るか悩むな」


しばらくうろうろしてたが、帰るときの効率も考えて一番奥の方から回ることにした。本の森の中を奥へ奥へと歩いていく。

思っていたよりも長い道を物色しつつ進んでいくと、ようやく一番の奥の棚にあたった。


 「これ、帰り道迷ったりとかしないよな?」


奥まで来て振り返ると、上って来た階段はすでに見えなくなっており、より一層薄暗さと肌寒さが増していた。まるでここが学園の図書館ではないどこかのようだった。

一抹の不安を抱えながらもあたりを見渡す。古書といっても背表紙などがあるわけではないので、何が書かれているのかは中身を見てみないとわからないものばかりだ。


 「ま、それだから面白かったり新しい発見があるんだけどな」


適当に、目に付いた本を一冊手に取って開いてみる。そこには、現代文字ではない文字で何かが書かれていた。


 「よ、読めん、、、」


読めはしないが、何となく何が書かれているか理解しようとページを進めていく。


 「、、、」


結局、読めはしなかったが、途中の挿絵から察するにおそらく、昔の地質調査などの成果が書かれているのだろう。本を戻し、次の本を物色し始める。


 「なにかぱっと見で面白そうな本はないものかねぇ」


そうしてしばらくあたりを歩きまわってみる。




――――――数十分後




 「うーん、、、めぼしいものはない、がっ!いった!」


少しの間歩き回っていると、ガンッ、と進行方向にいきなり現れた扉に思い切り頭をぶつける。


 「いたた、、、なんだいきなり?」


少し遅れて扉の向こう側から声が聞こえた。


 「す、すいません!だいじょうぶですか?」


ひょっこりと顔をのぞかせたのはおとなしそうな茶髪の女の子だった。


 「い、いやすまん、ちゃんと前を見てなかったこっちにも非はあるから気にしないでくれ」


そういうと、彼女は申し訳なさそうに頭をぺこぺこと下げながら謝罪を口にする。


 「そんなっ、ちゃんと確認せずに扉を開けた私が悪いんです!謝らないでくださいっ」


謝罪の言葉を並べながらもぺこぺこと頭を下げていた。

すいませんすいませんと、頭を下げ続ける彼女を何とか落ち着かせると、こう問いかける


 「それで気になったんだが、この扉は一体?」


 「あ、えっと一応バックナンバーとかを置いてる、倉庫兼司書室になっているんですけど、、、」


 「へぇそれは知らなかったな」


1階のカウンター裏にも扉らしきものがあったのだが、それとはまた別のものらしい。少し気になる。


 「もしかして中、気になります?」


そんな(まこと)の視線に気づいたのか、目の前の彼女はそう問いかけてきた。


 「えっ、あ、気になることは気になるな」


 「よろしければ見ていきますか?」


 「えっいいのか?」


 「本当は委員会の人か司書以外は入れないんですけど、ご迷惑をおかけしたお詫びということで特別です」


口元に人差し指を当て、いたずらな笑みを浮かべながら手招きをする。

 

 「それじゃあお言葉に甘えてお邪魔させてもらおうかな」


中に入ると、そこにはこじんまりとしたデスクといくつかの本棚、それと奥には給湯室があるようだ。部屋自体はそれほど大きくはなく、倉庫というよりは書斎のような雰囲気だった。


 「少し待っていてくださいね、今お茶をお出ししますから」


 「いやそんなお気遣いなく」


 「遠慮なんてしなくても大丈夫ですよ~」


先ほどよりも柔らかい笑みを浮かべ給湯室へ入っていく。お茶を作ってもらっている間、ぼーっとしているのもあれなのであたりを見渡してみる。

表の書庫とは違い、ここにはかなり年代物の書物が置いてあるようで、どれも厳重に錠付きの棚に収納されていた。そして違うところといえば、ここには窓があるのだ。そこまで大きなものではないが、外の光を取り入れるには十分な大きさの両開き窓がつけられていた。


 「もうこんな時間なのか」


窓の外から差し込む朝日に、目を細めつつ背もたれに体重をかけていく。見た目よりも柔らかいソファーに沈み込みながら、奥から漂ってくるお茶の匂いを堪能する。


 「んあ、、、」


朝早く起きすぎたせいか、今頃になって眠気が増してきたようだ。日差しがある分、表よりも若干ではあるが暖かく、眠るのにはちょうどいい温度と柔らかさである。

そうして睡魔と戦っていると、お茶の支度が終わったのか奥の方からとたとたと、彼女がやってきた。


 「お待たせしました~、っておや?何やら心ここにあらずって感じになってますね~」


 「いや、すまんすまん。あまりにも心地が良くてな、つい」


 「ふふ、だんだん暖かくなってくる季節ですからね、春眠暁を覚えず。です」


そう言いつつ、彼女は目の前の机にティーセットを広げていく。


 「今日はオーソドックスにダージリンです、この時期に採れたばかりの新茶なので、とても良い香りが楽しめますよ」


 「確かにいい香りだな」


正直、紅茶の香りの違いなど分からないのだが、鼻を通るこの匂いがとてもいいものだということはわかる。


 「では、お互い落ち着いてきたところで、自己紹介、しましょうか」


 「あ、そういえばそうだったな」


紅茶を一口すすりつつ彼女の自己紹介を聞く。


 「では改めまして、私は郡山(こおりやま)つむぐと申します。この学園の図書館で司書兼文化委員長を務めさせていただいております」


そう言い終わると彼女、郡山(こおりやま)つむぐは深々とお辞儀をする。


 「ご丁寧にどうも、俺は新道慎(しんどうまこと)特に何もやってない一般学生だと思ってくれ」


こちらも深々と頭を下げる。


 「ふふ、そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ。同じバッジの色なんですから」


そういう彼女の胸元には、赤い輪郭の紋章が輝いていた。


 「そうだったのか、てっきり上級生かと思ったんだが、、、」


 「もう、そう思っていても、女性の前では口にしないのが紳士ですよ?」


まあ年上にみられるのは慣れてますけどね。と微笑みながら紅茶に口をつけている。


 「あー、、、それよりこの紅茶ほんとうにうまいな」


 「ええ、とても良い香りです」


紅茶のおかげなのか、先ほどまでの眠たさはいつの間にか消え去っていた。日本人の眠気覚ましには、お茶のカフェインがいいと聞いていたがここまでとは。


 「はふ、、、」


なんというか落ち着く。ただお茶を飲んでいるだけなのに、どこか懐かしい雰囲気を感じさせる空気がここにはあった。


 「だいぶ、この場所を気に入っていただけたみたいですね」


空になったカップに紅茶を注ぎながら、彼女は言う。


 「ああ、なぜかはわからないけどいい場所だな、ここ」


 「ふふ、中にはここの独特なにおいが苦手な人もいるのですが、新道(しんどう)君はそうじゃないみたいですね」


 「まぁ落ち着くにおいだしな」


そうですか、と微笑む彼女とともに、ゆったりとした時間を過ごす。特に会話などはなかったが、この静寂が心地よくもあった。






 そうしてしばらく過ごしていると、胸ポケットが震えた。


 「ん?なんだ?」


何かの通知だろうか、カバーを開いて画面を見る。そこには見覚えのある名前とともに一文添えられていた。


 「おっと、もうこんな時間なのか」


時計は8時10分前を指していた。


 「そろそろ俺はいかないと、お茶ありがとな」


 「いえいえ、こちらこそお付き合いいただいて」


 「あ、片付けとかしていくよ」


 「いえ、片付けはこちらでやっておきますので、新道(しんどう)君は先に教室に向かってください。お待たせしている人がいるのでしょう?」


まだほんのりと湯気のあがるカップを片手にゆったりと、彼女はそう答える。


 「ほんとなにからなにまで世話になっちまったな」


 「ふふ、いいんですよ、好きでやってますから」


 「本当にありがとうな!またいつかお礼しにくるから!それじゃ!」


 「ええ、それではまた、お待ちしておりますね」


司書室を出ると、少し駆け足気味で図書館のなかを進んでいく。

クラス棟まで戻る頃には、周りはすでに登校してきた生徒たちでにぎわっていた。この時間帯は、朝練連中も登校してくるので、一気に密度が増える。


 「くっ相変わらずすごい人ごみだな」


人の壁をかき分けながら教室へ向かう。あと少しのはずなのだが、なかなかたどり着けない。


 「ぬあっ、あと、、、少し、、、、、、ん?」


教室の前まで着いたとき、足先にこつんとなにかが当たる。


 「なんだこれ」


それは煤汚れた懐中時計だった。


 (一応あとで学生課に届けておくか)


途中で落とさないように内ポケットにしまっておく。そして教室の扉をくぐると、自分の席付近から元気な声が聞こえた。


 「あー!やっと来た!おっそーい!」


 「いやぁ悪い悪い、ちょっと寝坊しちゃってな」


 「もう!新学期早々からそんなだと、これからが心配でしょうがないよ、、、」


頭に手を当てながらやれやれと、首を振る彼女こそ先ほどのメールの主「小井川(おいかわ)このみ」である。いわゆる幼馴染というやつで、かれこれ6年近い付き合いになる。


 「それに昨日だって、何も言わないで休んだから心配したんだよ?」


 「昨日はちょっと色々あって連絡できなかったんだ、すまん!」


 「怒ってるわけじゃないんだけど、連絡くらいは頂戴よね」


と彼女は、めっという仕草を見せる。どうやらかなり心配してくれていたらしい。これからは、しっかり連絡はしておくとしよう。


 そうこうしてると始業のチャイムが鳴り、担任の先生が入ってくる。各々席に着いたところで、いつもと同じ朝礼が始まる。

自分にとっては初めて見る顔ばかりなので、今のうちに覚えておくとしよう。幸いにも、席は全体が見渡せる角になっていたので、きょろきょろと見回していく。


するとその中に一人だけ見覚えのある顔があった。


 「あ、」


すると彼女も気づいたようでひらひらと手を振ってきた。


 (またあったね)


そう小声で言う彼女は休憩女こと一房(ひとふさ)あまりであった。













この日も空は青いままで佇んでいた

ここまで読んでいただきありがとうございます。

次話登校遅れてしまい申し訳ありません。少し時間はかかると思いますがしっかり書いていきたいと思います。


始めたてで拙い個所もあるとは思いますが、何卒よろしくお願いいたします。


次回投稿は一週間程度を目途にしています。


現在書き進めているのとは別に、もう一つ物語を書く予定なので、よろしければそちらもぜひよろしくお願いします。


お時間があれば感想や改善案などを下されば創作の励みになります。


以上

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