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恋空  作者: おこにぃ
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第2章:学園

遅刻寸前で着いたにもかかわらず、自分のクラスを知らないという失態を犯した慎は、できるだけ目立たないようにするため屋上でのサボりを決行する。そして青空の下、新たな出会いを果たすのだが、現実は思うように進まないのである。



――――――キーンコーンカーンコーン




 「んあ?」


 目を覚ますと、見覚えのない天井が広がっていた。


 「、、、うちの天井こんなに青かったっけ?」


どうやら、まだ完全に目は覚め切ってないようで、しばらく無心で雲を眺めていると、徐々に意識がはっきりとしてきた。


 「あ、思い出した。いつの間にまた眠っていたのか、、、」


上体を起こし、凝り固まった身体をほぐすようにその場で腕をぐるぐる回す。やはり、コンクリートの上で眠るのは身体によくないらしく、節々からバキボキと嫌な音が、振動とともに全身に伝わってくる。


 「痛つつ、、、というか今何時だ?」


あれからどのくらい経ったのだろうか。太陽はすでに傾きはじめ、校庭からは小さく生徒たちの話し声が聞こえてくる。時計の針は正午過ぎを指すところだった。


 「うーん、少し寝すぎたがちょうどいい時間になったみたいだな」


立ち上がり最後の柔軟を済ませる。もう少しだけ寝ていたかった気もするが、ようやく生徒手帳を取りに行くことができると思うと、幾分かやる気もわいてくるというものだ。


 「さて、ちゃっちゃと取りに行って自分のクラスだけでも確認しますかね」


そして、出入り口に降りようとしたところで、穏やかな寝息を立てて寝ている少女の姿が目に入る。結局あの後、自分と同じく眠り込んだらしい。


 (うーん、さすがに起こしておいた方がいいよな?)


いくら人気がないとはいえ、女の子1人こんなところに放置しておくわけにもいかない。


 「おーい、起きろー。こんなところで寝てると風邪ひくぞー」



ゆさゆさ、、、



ゆさゆさ、、、



軽く身体を揺さぶってみるが反応はない。よほど深く眠っているようだ。


 「おーい」


再度声を掛けてみるが、反応は帰ってこない。


 「はぁ、しょうがない。後で風邪を引かれても困るからな」


ジャケットを脱ぎ、ぐっすりと眠る少女の上にやさしくかぶせる。吹き抜ける風が少し肌寒く感じるが、上からカーディガンでも羽織ればなんとかなるだろう。


 「これでよしと、じゃ俺はそろそろいこうかね」


忘れずに立入禁止の札を掛け屋上をあとにする。1人にするのは心苦しいが、そうしばらくしないうちに目を覚ますだろう、そう思い学生課へ向けて歩き出す。


 「しかし、改めて見るとほんと、無駄に広いというかなんというか、、、」


教育棟から事務棟へとつながる、渡り廊下を歩きながらそうつぶやく。確かにほかの市や県にも、同程度の敷地面積を誇る学校は存在するだろう。しかし、学園はそこから一線を画していた。この学園が他と違うところといえば、生活に必要な設備はもちろん、食堂で使うための野菜を育てる農場があったり、ショッピングモールと見間違うほどの購買や、果てには簡単な娯楽施設までところだ。それはまさに、学園という名の町であった。


 「うーん、これはどういうことだ?」


そして進むこと数10分。もうとっくに学生課についていてもおかしくはない頃合いなのだが、一向に窓口は見えてこない。


 「もしかしなくても迷ったか?」


きょろきょろとあたりを見回してみるが、学生課らしき札はないようだ。事務棟には間違いないのだが、どこも同じようなつくりでできているため、どこがどこなのか見当もつかない。

1人でうんうんと唸っているところへ不意に、軽い衝撃とともに聞き覚えのある声がした。


 「ややっ?君はいつぞやの遅刻少年じゃないか!」


 「うおっとと、なんなんだいきなり!?」


突然の衝撃に、軽く前のめりになりながらもなんとか、転ばないように身体を支える。


 「いったい誰だ、、、って今朝の休憩女!」


 「なにか迷ってそうだったから、つい。ごめんね」


彼女は、少し申し訳なさそうにして、顔の前で軽く手を合わせる。


 「あんたはつい、で人の背中をたたくのか!?」


 「だからこうして謝ってるじゃないか。そ、れ、と、私の名前は一房あまり。休憩女なんて失礼な呼び方、やめてくれないかな?」


あまりにもマイペース過ぎる彼女の言動に(まこと)も流されたのか、叩かれた時の怒りはすでに沈静化していた。


 「ったく、わかったよ。こっちも失礼な呼び方をしたのは謝る、すまん。えっと、一房あまりな、俺は新道(まこと)よろしくな」


 「新道くんね、こちらこそよろしく~」


と彼女はこちらが出した手を無視して、肩の近くでひらひらと手を振る。そして頭にはてなマークが見えるほど完璧に、首をかしげながらこう問いかけてきた。


 「ところで君は、こんなところできょろきょろしてどうしたんだい?」


 「あー、いや、事務棟まで来たのはいいんだけど道に迷っちたみたいで、、、その、迷惑じゃなければ学生課の方まで案内してもらえると助かるんだが」


こちらが恥ずかしいのを我慢してそう提案すると、彼女は一瞬きょとんとしたあと、身体を折り曲げ腹を抱えながら笑い出した。


 「っぷあはははははは、もしかして今までずっと迷っていたのかい?そうだとしたら君はかなりの方向音痴ということになるだが」


 「んな?!そんなわけないだろ!?」


 「だから今日も道に迷って遅刻したんじゃないのかい?」


 「ぐっ、それは違うと言いたいが、否定するとまた傷口が広がりそうだからなんともいえん、、、」


うまいこと誤解を解こうと、脳をねじきれんばかりに長考していると、ようやく笑い終えた彼女が涙目まじりにこう言った。


 「ごめん、ごめん。ちゃんと案内してあげるからそんな顔しないでって。それと、おちょくったりして悪かったよ〜」


 「まぁ、案内してもらう手前何も言えない自分が悲しくはあるが、案内してもらえるなら助かるよ」


またもや彼女のマイペースさにのまれつつあるが、案内してもらえるなら些細な問題と割り切ることにした。


 「それじゃ、案内してあげるからついておいで」


 「うっす、お願いしまーす」


 「はーい」


彼女の後をついていく。意外にも歩く速度が速いため、若干歩幅を広くとり置いていかれないようにする。




――――――そして歩くこと数分、学生課と書かれたネームプレートの前に到着する。




 「はい、ついたよ」


 「、、、すげぇわかりやすいところにあったな」


それもそのはず。事務棟の1階、正面玄関から入ってすぐ左に曲がったところにそれはあった。つまり、渡り廊下からでなく外から事務棟に入れば難なくたどり着けたのだ。


 「それじゃ、ここまででよかったかな?」


 「ほんと助かったよ、ありがとな」


 「ま、これからは迷わないように、校内マップくらいちゃんと確認するんだよ~」


 「ういうい。それじゃまたな」


そう軽いやりとりを交わしながら一房と別れる。


 「ずいぶんと長い道のりだった気がする、、、」


なにはともあれようやくたどり着いたのだ、さっさと受け取って帰ってしまおう。

しかし、窓口をのぞいても誰もいない。


 「あの、すいませーん」


奥の方に呼び掛けてみるが反応はない。みんな出払っているのだろうか。


 「すいませーん」


再度呼び掛けると、奥の方からおっとりとした雰囲気の女性が慌てながらパタパタと駆け寄ってきた。


 「お待たせして申し訳ないですー!」


書類の束を抱えながら走るその足取りは、かなり危なっかしいものだった。今にも転びそうにーーー


 「ぷぎゃっ」


ーーーー転んだ。しかも顔から盛大に。


 「だ、大丈夫ですか?」


 「うう、、、お見苦しいところをお見せしました、、、」


そう涙目で言いながらも、散らばった書類を流れるように集めている。そして、すべての書類を回収し終えた彼女は、コホンと一つ咳払いをして窓口に着く。


 「それでこちらにどのようなご用件でいらしたのですか?」


 「えっと、生徒手帳の受け取りに来たんですけど」


先ほどまでとは違う、シャンとした彼女の雰囲気に少し戸惑うが、これも仕事の顔というやつなのだろう。


 「生徒手帳の受け取りですね、ではこちらに氏名と学籍番号の方をお願いします」


 「はーい」


 「済みましたら次はこちらの書類に、、、」


 「うぃっす」


 「次は、、、」




そんな事務的なやりとりをいくつか交わした後、高級そうな合皮カバーに包まれたタブレットが目の前に置かれる。


 「ではお待たせしました。これで受取処理は完了です。最後にパスワードの設定と、部屋番号の入力だけ忘れないでくださいね」


 「ありがとうございます」


その場で手早く入力を済ませズボンのポケットの中にしまう。


 「他に何かご用件はありますか?」


 「いえ大丈夫です」


 「次は無くさないように、十分気を付けてくださいね」


和やかに微笑む彼女に軽く会釈を返してその場から立ち去る。目的が果たせれば長居は無用だ。すでに放課後なのでそのまま昇降口へ向かおうとするが、何かを忘れている気がする。


 「おっとそうだ、自分のクラスを確認しておかないと」


生徒手帳を取り出し、学園からのメールを確認する。どうやら学園からのメールの他、教師からも個別でいくつか送られていたらしく、未読がかなり溜まっている。


 「全部確認するのは面倒だし、クラス通知だけ見ておけばいいか」


少し下の方までスライドすると、わかりやすく大文字で【重要】と表題の付いているメールを発見する。開いてみると自分のクラス番号と2年次から使用するロッカーの場所と初期パスワードが記載されていた。


 「2年7組、、、今年は前半組か」


前半組と後半組。体育祭や学園祭での役割分担などをわかりやすくするために、それぞれ10クラスずつに分け、ご丁寧に校章バッヂなども微妙に異なったデザインにしているのだ。


 「とりあえずクラスもわかったことだし、席だけでも確認しに行かなきゃな」


明日からの学園生活のために、できるだけ早くクラスの方には馴染んでおかねばならない。かといって、クラスの隅にいるような俗にいう陰キャではなく、あくまで中堅。クラス内ヒエラルキーで言うところの、3番目の位置。グループ学習などで、いなくても変わらないがいないと何となく足りない、くらいの位置にいなければならない。下に行けば行くほど、逆に悪い意味で目立つのだ。


 「さすがに初日いなかっただけでハブられるなんてことないとは思うが、、、」


少し不安になってきたが、そうなったときは諦めてクラス外で居場所を作るとしよう。などと考えているうちに、2年7組の教室の前にたどり着く。


 「おお~、2年ともなると教室の造りも1年の時とはだいぶ違うんだな。というか会議室とかじゃないよな、これ」


1年次の教室は、明らかに新設されたばかりと見間違うほどに無機質で機械的なきれいさだったが、2年次の校舎はまるで逆。校舎全体が、年季の入った木造建築でありながら、劣化で倒れる心配を微塵も感じさせないほどの重厚さと、それでいて心が休まるような温かさを醸し出していた。


 「よし、、、」


造りの違いに驚きつつも、自分の席を確認するため教室の扉を開ける。


―――ガラガラッ


教室ではまだちらほらと、帰らずに談笑しているクラスメイトもいたが、大半は部活なりなんなりで出払っていた。できれば空っぽの方がありがたかったが、久しぶりに学園に来る生徒もいるので、友達と話していたいのも仕方がない。


 (俺は寮暮らしだからあんまりわからんけど)


談笑する生徒をわき目に、自分の席はどこらへんなのか見渡していると、黒板にA4用紙サイズの座席表が張り出してあるのを見つけた。


 「新道、、、新道、、、あった」


窓際から2列目の最後尾。惜しくも窓際最後尾という特等席にはなれなかったが、教室のど真ん中や1番前の席に比べれば十分恵まれている方だろう。


 「さて、とりあえず席の確認もできたし、今日のところは帰るかな」


これ以上学園に用事があるわけでもないので、早々に教室を後にする。

出る直前後ろから「誰?」「さぁ?」などと聞こえたが、彼らがクラスの上位グループでないことを祈ろう。







 昇降口から外へ出ると、頭上にあった陽はすでに校舎の影に隠れようとしていた。


 「やっぱり、日が暮れ始めると少し寒いな」


あれだけ心地よく身体を包んでいた風も、太陽というバフが無ければマイナス要素でしかなく、シャツ1枚では防ぎきれないようだ。


 「ちゃっちゃと帰りますか」


心配の種も1つ解消できたので、早く寮の温かい布団で、だらだらしようかと帰路を急いでいると、腹の虫をくすぐるような匂いが鼻腔から胃へ通り抜けた。


 「この匂いは、、、」


その匂いの正体を理解すると同時に、腹が大きな音を立てて催促をはじめた。


 「そういえば、今朝は何も食わずに来たんだっけな、そりゃ腹の虫様もご立腹なわけだ」


腹の虫をなだめるように腹部をさすりながら、少し先にあるコンビニへ駆け足で向かう。昨年の夏にできたばかりの店なのだが、寮と学園の間という好立地に佇んでいるため普段から立ち寄る機会は多い。やはり、深夜近くまで開いている店は少ないので非常に助かっている。


 「イラッシャイマセー」


この気の抜けたような声も聞きなれたもので、目的のブツの前へそそくさと向かう。


冬の代名詞、寒い日には必ず食べたくなる、アレ。


 「すいません。この、こんにゃくとだいこん、それと煮つけ卵としらたきお願いします」


――――――おでんだ


 「こんにゃくだいこんにつけしらたきすっねー」


やる気のない声を出しながら、ぱっぱと容器におでんを詰めていく。


 「330円になりまーす」


 「はいよ」


ピッとレジのタッチ部分に生徒手帳をかざす。


 「ありざいまーす」


アツアツのおでんを片手に自動ドアをくぐり外へ出る。このまま帰ってもいいのだが、今朝から焦らされている腹の虫は待てないらしく、先ほどよりも強く要求してくる。


 「ま、ここで食べちまうか。どうせ寮に帰れば夕飯があるしな」


あまりこういった場所で食べるのは好まないのだが、空腹と鼻腔に届くおでんの匂いの誘惑に勝てるはずもなく、敷地の隅にある花壇に腰掛け、容器のふたを開ける。


 「やっぱ寒い日にはこれだよなあ」


今すぐかぶりつきたいのを我慢して、味噌とからしを蓋の隅に準備する。そしてアツアツの大根を味噌につけてハフハフと頬張る。


 「っ~はぁ~うますぎる、、、」


冷えつつある身体の芯から、じんわりと熱が広がっていく。おそらく今食べている物以上に、おいしく感じるものなど世界中どこを探しても見つからないだろう。


 「この卵がまたうまいんだよなあ」


そう言いながら煮つけ卵を頬張ろうとしたとき、ふと、どこからか見られているような視線を感じた。


 「、、、?」


きょろきょろとあたりを見回してみるがそれらしい人影は見えない。


 「、、、気のせいか?」


気を取り直してふたたび頬張ろうとするが、やはりまだ視線を感じる。


 「どこだ?」


と、今度は注意深くあたりを探してみる。


 (、、、じー)


 「あ、」


――――――いた。店の敷地の裏の角から、薄い緑色の髪をした少女が顔だけをひょっこりと出してこちらをじっと見つめていた。


 「あのー」


こちらが声を掛けると驚くようにして、少女はサッと顔を引っ込めてしまった。


 「、、、」


その方向を気にしつつ、三度煮つけ卵を頬張るそぶりを見せると、やはり顔だけを出してこちらを見つめている。


 「はぁ、、、」


卵を汁の中へ戻し、そちらへ顔を向けるとまたもや顔を引っ込めてしまったので、仕方なくおでんを片手に裏へと向かう。


 「なぁあんた」


いきなり声を掛けられたことに驚いたのか、一瞬ビクッと身体をこわばらせた後ゆっくりとこちらへ顔だけを向ける。


 「おっと、驚かせて悪いな、さっきからこっちの方チラチラ見てたから気になって声かけたんだが、俺になにか用でもあるのか?」

 

そう聞かれた少女はフルフルと顔を横に振る。


 「ん?ならなんでこっち見てたんだ?」


少女はしばらくうつむいていたが、なにか言いだそうと顔を上げた瞬間、少女が言葉を発するよりも先に、くぅーという可愛らしい音が耳に響く。


 「あっ、、、」


そして少女は、お腹を押さえ込んで再びうつむいてしまった。


 「もしかして、お腹がすいてたから俺のおでん見てたのか?」


その問いかけに小さな少女はコクコクと首を縦に振る。


 「それならすぐ近くに売ってるんだから買ってこればいいじゃねえか」


 「、、、、、、」


 「え?何か言った今?」


何かを伝えたいのか、口をパクパクとさせているが小さすぎてほとんど聞き取れない。


 「すまんもう一度言ってもらってもいいか?今度は音量大きめで頼む」


するとその少女は、今にも消えそうなほどか細い声でこう答えた。


 「、、、生徒手帳、、、落とした」


 「は?」


 「それで、、、なんとか寮まで帰ろうとしたけど、空腹で力が入らなくて、、、」


 「で、ここで行き倒れていたと」


 「うん」


はぁ~、と大きなため息をつく。まさか学園内で行き倒れている人間に出会うとは。今日はいろいろ起こる日だ。そして先ほどまでの視線は、こちらを見つめていたのではなく、この手に持っているおでんを凝視しているものだった。


 「じー、、、」


そして、今もずっと見ている。


 「、、、あー、これ食べるか?食べかけで悪いんだが」


 「、、、!本当にいいの!?」


そう容器を差し出した途端、目を大きく見開きこちらの目を凝視してきた。が、すぐに逸らしてしまった。


 「ん」


 「あ、ありがとう助かる、、、」


少女は容器を受け取ると少し躊躇いながらも、勢いよくこんにゃくにかぶりついた。


 「あ、こんにゃくは中身の方熱いから気をつけろよ」


言うのが遅かったのか、少女は一生懸命口をハフハフさせながら熱を逃がしていた。そして飲み込んだと思うと次々と残りの具材も頬張っていく。


 (しかし、人が食べてるのを見てると余計に腹が減ってくるな)


おいしそうに食べる少女のおかげで、大根しか食べられなかった腹の虫が、お怒りモードへ突入しかけている。早急に寮へ帰りこの空腹を満たす必要があるようだ。


 「それじゃ俺は帰るけど、あんたも遅くならないうちに帰るんだぞ」


、、、こくこく


口に頬張りながらうなずく少女に背を向け、寮への帰り道へ戻ろうとする。


 「あ、あの」


その直前、後ろからのか細い声で呼び止められた。


 「ん?まだなにかあるのか?」


もじもじしながら目の前の少女はこう切り出す。


 「な、名前。あなたの名前、まだ聞いてなかったから」


 「なんだそんなことか。俺は新道(まこと)。あんたは?」


 「み、深山(みやま)ひかげ」


 「深山さんかよろしくな」


 「よ、よろしく」


そんなやりとりをしている間も、腹の虫も限界が近づきつつあるので早々に帰らなければ。そう思いつつ話を切り上げる。


 「んじゃそろそろ帰るわ」


 「あ、あの今日のお礼はいつか必ず、、、」


 「いいって、気にすんなよ。またな~」


 「う、うん、またね、、、」


小さく手を振る少女を背に、駆け足で帰路へとつく。まだ陽は見えるが、沈み始めるとあっという間に暗くなるので、それまでには寮に着いていればいいのだが。


 「まさか、行きも帰りも走ることになるなんてな、、、今日は不運なのかもしれないな」


そんなことを思いながら、より一層駆け足で寮へと向かうのであった。









―――――――同時刻 有咲学園教育棟屋上


 「ん、ぅうん、、、」


ようやく目を覚ました少女の上には、見覚えのないジャケットが1着被さっていた。


 「、、、誰の?」


誰のかは気になるが、沈みかけている陽を前にそんなことを考えている場合ではない。この学園の完全下校時刻は20時のため、はやく帰らなければこんな屋上で1晩を過ごす羽目になる。


 「、、、帰ろ」


のろのろと起き上がり出入口へ向かう。とりあえず寮に帰ったらもう一度寝ることにしよう、とジャケット片手に思うのであった。





そして今日も、いつもと変わらない1日が過ぎていく。
















空はまだ青いままそこに佇んでいた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

始めたてで拙い個所もあるとは思いますが、何卒よろしくお願いいたします。


次回投稿は一週間程度を目途にしています。


お時間があれば感想や改善案などを下されば創作の励みになります。


以上

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