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恋空  作者: おこにぃ
1/5

序章:出会い




 桜舞い散る、長い坂道を駆けていく少年が1人。彼の名は「新道 (まこと)




 「はぁはぁ、新学期初日だってのに遅刻なんて冗談じゃないぞ!」


 鞄を小脇に抱えながら、額に浮かぶ汗も構わずに走る。だが、校門まであと数十メートルというところで無情にも鐘が鳴り響く。


 「な、なんてこった、、、」


 その音を聞いた途端、これまでの疲れが波のように一気に押し寄せ、これ以上急いでも無駄という考えが足取りをよけいに重くしていく。走る気力はもう湧いてこない。


 「はぁ、はぁ、、、できれば、入学初日から目立ちたくはなかったんだがなぁ、、、」


 昨夜の自分の失態を恨みながら、いっそこのままさぼってしまった方が、割かし自然とクラスに溶け込めるのではないかと思い始めていた時、校門の近くの花壇に座り込む人影を見つけた。


それは自分と同じ学園の制服を着た女学生だった。


(ん?あの子、あんなところで座り込んでどうしたんだ?)


 いつもなら、気づかずに通り過ぎるか、自分には関係ないことだと割り切って無視するのだが、この時だけは不思議なことに自分から声を掛けていた。


 「よう、あんた。こんなところで座り込んで一体どうしたんだ?」


 声を掛けられた少女は、ゆっくりと、少し長い髪をかき上げながらこう答えた。


 「ちょっと、歩き疲れちゃったから休憩しているところ」


 「歩き疲れたって、、、チャイムの音聞こえなかったのか?早くしないと遅刻よりも目立っちまうぞ」


 「そう、だね。早くいかないと先生たちも心配するだろうし、そろそろ行かないとね」


と、つぶやくと開いていた手のひらをぎゅっと握りしめ、ゆったりと立ち上がった。スカートについた砂を払いながら視線に気づいたのか、こちらの様子をうかがうようにしてこう言った。


 「どうしたの?何か変なものでもついてる?」


その透き通るような水色の瞳は疑問を浮かべながらも、こちらの内心を見透かすかのようにじっと見つめてきた。


 「い、いや、別に何でもないんだ。気にするな」


 「そう?」


まだすこし疑っているようだったが、時間が気になるのか時計を見て小さな悲鳴を上げる。


 「えっ!もうこんな時間なの!?本当に急がなきゃまずいじゃない!」


時計を確認して自分の置かれている現状のまずさに気づいたのか、その場でわたわたしながら周りをきょろきょろした後、こちらに詰め寄りこう言い放つ。


 「あなた何でもっと早く来てくれなかったのよ!おかげで入学から築き上げてきた私の、無遅刻無欠席が台無しじゃない!」


 「んな!?そんなこと知るかよ!こっちだって朝飯も食わずに人生最高ラップで登校してきたんだぞ!」


(こ、この女、、、自分が疲れて休憩したから遅刻しているという現状をこっちの責任にしやがった!)


だが、お互い自分の責任でこうなったという事実は自覚しているので、それ以上何も言わないままにらみ合い続ける。


 「「ぐぬぬぬ、、、」」


そしてその静寂を切り裂くように、先ほどよりも甲高い音が鳴り響く。


 「!?これ一限目のチャイムじゃない!こんなことしてる場合じゃないわ!」


 「それはそっちがやりだしたことじゃないか、と言いたいところだが。これは本当にそんなこと言ってる場合じゃないな」


幸いにも、この学園のチャイムは授業開始5分前になるように設定されている為、いまからでも本気で走れば、授業が始まる前には教室に着くことができる。


(もう始業式にいなかったのは体調不良とかにするにしても、授業中の教室に入るなんていう超目立つことは絶対にしたくない、、、っ!)


なんてことを考えながら、全力で走るために片足に力を込めようとするよりも前に、空いた方の手を強く引っ張られる。


 「ほらっ、急がないと!」


彼女も同じ考えに至ったのだろう、こちらが走り出すよりも先にもう駆けだそうとしていた。否、片足はすでに地面から離れていた。


 「うおっ!そんな強く引っ張るなって!」


若干タイミングがずれたがなんとか転ばないように走り出す。全力で。これからの学園生活を、いかに目立たないで過ごせるかが、今に懸かっているのだから。


 「というか、あんた疲れてたんじゃないのかよ!」


 「あら~?そんなこと言ってたかしら?」


 「言ってたよ!」


 「言ってたとしても気にしない気にしない」


 「それよりも今は走るあるのみよっ」


 「はぁ、まったく、、、わかったよ急ぐぞ!」





 学園へと続く道を駆ける影が二つ。


 まだ寒さの抜けきらない、それでいてほのぼのとした陽気の季節。


 二人は出会う。


 一人は、これから終わるであろう、今までの学園生活に不安を抱えながら、想いを巡らせ。


 一人は、これから始まるであろう、彩に満ちた学園生活を期待しながら、不安を抱えて。




 空はまだ、突き抜けるような青のままでそこにいる。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

初めての投稿になりますので、誤字脱字は確認していますが、見つけた場合は大目に見てくださると助かります。

次回投稿ですが一週間前後で考えています。時間に余裕があればですが。


次回の方も何卒よろしくお願いします。


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