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SLUMDOG  作者: 朝日龍弥
十章 過つは人の性
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出動命令

     挿絵(By みてみん)




 パナマ港での任務を終え、戻った第三部隊を老朽化の進んだ宿舎が迎え入れる。


 他の部隊の少年兵も、それぞれの与えられた任務に就いているため、宿舎は閑散としている。


「たぁー! 疲れたぁー!」

「移動に時間がかかるからな」

「ロニーは大袈裟なんだよ」


 帰って早々に疲労を吐露するロニーを、ランスとマルクスは軽くあしらう。


「あ、じゃあオイラ、お茶淹れてくるっすね」

「ん。アテも行ぐ」


 パタパタと音を立てて走っていく二人を見て、ヨダは溜息を漏らす。


「相変わらず、お子様パワーは凄まじいですねぇ、ハイ」

「僕らだってまだ子供だけどね〜」

「そうは言っても、年少組のパワーには劣りますよ、ハイ」


 カールソンの指摘に、ヨダはいつものようにニヒルに笑う。


「何をしているんですか!? まだ仕事は残っているのですよ?」


 無駄話について注意をし始めるリカルドに、ヨダは鬱陶しそうに顔を顰める。


「あーもう、うるさいですねぇ、ハイ。少しぐらい休んでもいいでしょう? それに、私を注意している暇があるなら、ネイサンに手を貸してあげたほうがいいのでは?」


 ヨダの指し示す方を見やると、まだ万全ではないレオンを必死に支えているネイサンの姿が見えた。


「ネイサン、手を貸します! レオンさん、僕に掴まってください」


 リカルドは慌ててネイサン達に駆け寄ると、すぐさまレオンに肩を貸す。


「ありがとうリッキー。助かるわ」

「いえ、当然ですよ。こんな状況で手を貸さないのは心のない詐欺師くらいですから」

「嫌ですねぇー。仮にも自称聖職者が、特定の人を侮辱するのはどうかと思いますよ、ハイ」


 両手を広げ、肩を浮かせるヨダに、リカルドは目を閉じる。


「神はいつだって我々を見ているのです」

「はぁ、相変わらずですねぇ。リッキー、ココは無神論者の巣窟ですよ、ハイ」

「神を信じずとも良いのです。信じている者も、信じていない者にも、善良な者に、神は平等に手を差し伸べるのです」


 ヨダの言葉に過激に反論するわけでもなく、淡々と喋り続けるリカルドに、ヨダは面倒臭そうな顔をする。


「あー、リッキーの変なスイッチが入って来たので、私は退散しますね、ハイ」

「大丈夫よ、ヨダちゃん。もう私達は医務室に行くから」

「それはありがたいですねぇ、ハイ」


 既に腰を浮かせたヨダだったが、ネイサンの言葉を聞き入れ、その場でくつろぎ始める。


「じゃあ、行きましょうか」

「ええ」


 ネイサンはリカルドと共に、レオンを医務室へと連れて行った。


「ヨダってさぁ〜。宗教嫌いだよね」


 唐突なカールソンの問いかけに、ヨダは狐につままれたような顔をする。


「また随分と突拍子のない質問ですねぇ、ハイ」

「え〜? そうかな〜?」

「まぁ、私は宗教が嫌いというか、ミード教が好きではないんですよ」


 ヨダの答えに、カールソンは飴玉を食べる手を止める。


「宗教ってミード教しかなくない?」

「他にもありますよ。いえ、ありましたよ。今では文献すら殆ど残っていませんので、名前だけしか知りませんが」

「へぇー。ヨダって本当に何でも知ってるよね〜。で、何でミード教が嫌いなの?」


 ヨダは肩を浮かせてみせる。


「いやー。なんて言うんでしょうね。見てると虫唾が走るんですよねぇ」

「酷い言い方するね〜。リッキーが聞いたら大変だ」

「だって胡散臭いじゃないですか」

「それ、ヨダが言う~?」

「あなたも結構言いますよね、ハイ」


 ニヒルに笑うヨダを見て、カールソンは徐に飴玉を口に放りこんだ。


「まぁ、ヨダがミード教嫌いってことはよくわかったよ~」

「そうですか」


 宿舎の一角でカールソンの飴玉を齧る音だけが僅かに響いていた。




    *     *     *




 第三部隊が宿舎に戻ってから暫くすると、兵站部隊の任務についていた第一部隊が帰還した。


「戻ったのか! マクレイア!」

「ティムか。前線はどうなってる?」

「ジャックの話だと、相変わらず膠着状態が続いてるらしい」

「第四部隊も前線にいるのか?」

「ああ。ジャックの部隊と俺の部隊で、陸路を分けて物資を送っているからな」


 ジャックはコロラド戦線から帰還して以来、大人しく任務を遂行しているようで、前線の大人達との摩擦も少ない。牙を抜かれた犬の様にすっかりおとなしくなった。


「そうか。取り敢えず、アルトワ領から物資を受け取っている。そこから必要なものを渡すように言われているし、俺たちも手伝おうか?」

「ああ、いや。こっちは手が足りてるから大丈夫だと思う。中将からの命令もなしに動いたらマズイだろ?」

「まぁ、そうだな。ペトロフ准尉が報告に行ってるから、俺たちは待機だな」

「あの、さ。マクレイア」


 ティムは目を泳がせて、ショウをチラチラと見る。


「……なんだ?」

「その、シャーロット陛下はご存命なのか?」

「元気そうだったが……それがお前となんの関係が?」

「あ、いや。前に一度遠目で見たことあったから気になってな。ほら、ここじゃあ、あんまりそういう話も聞かないだろ?」


 何か他に聞きたいことがあるようにも見えるが、ティムの質問の意図が分からず、ショウはそのまま会話を続ける。


「そうか。知り合いだったのか」

「いや、知り合いと言ったら烏滸がましいだろ! シャーロット陛下に至っては一方的に知ってるだけだし……」


 ティムが元々ハミルトン家に仕えていた貴族だった事もあり、気になるのは当然のことかと思いながらも、ショウはティムの発言に何処か引っかかる。


「至ってはって。じゃあ、アイリーン王女の事も知ってるのか?」

「勿論だ!」

「そうか……。なかなか、高圧的な人だったぞ」


 鼻高々にしていたティムは、ショウの話を聞き、何か思うところがあったのか、真剣な面持ちで向き直る。


「……姫にあったのか?」

「話す機会があってな。……どうかしたか?」

「いや……。なるほど高圧的か。確かに。あの人は昔から気高く強かな人だったからなぁ」


 ティムは何処か懐かしむような表情をしていた。


 ――聞きたかったのは王女の事か……


 ショウは深く追求せず、姿の見えないもう一人の小隊長へと話を移す。


「……そういえば、エリックはどうした?」

「あ、ああ。エリックは中央の街で何やら騒ぎがあったらしくて……。そっちに駆り出されてる。大人は外の敵で手一杯だからな」

「外の敵、ねぇ……」


 ショウは積荷をトラックに詰め込む部隊の様子を眺め、小さく呟いた。


「じゃあ、俺は早く物資を届けに行かなきゃだから、またな。マクレイア」

「ああ、気をつけてな」


 物資を前線へと運び出すトラックへと乗り込み、再び前線へと繰り出していく。


 ショウはその様子を敬礼で見送り、ショウに気づいたティムも敬礼で返した。


 トラックの後方しか見えなくなった頃に、ショウは自分を呼ぶ声の方へと目を向けた。


「ああ、マクレイア軍曹、ここにいたか」

「ペトロフ准尉」


 報告を終えたペトロフが立っており、その手元には赤色の書類が見える。それを見たショウは一瞬顔を曇らせた。


 それを察したペトロフは、目を細めた。


「ああ、これはまた後で渡すよ。今はこっちだ」


 ペトロフは赤色の書類ではなく、一枚の紙を差し出す。


「長旅から帰還したばかりで、君達を休ませたいのは山々なんだが、クルード中将から出動命令がでてしまってね」


 ショウは書状を受け取り、それに目を通す。


「なるほど、承知いたしました」

「では、部隊を召集し、すぐに向かってくれ」

「ペトロフ准尉はどちらへ?」

「私はまだ閣下に呼ばれていてね。その要件が片付いたら直ぐにそっちに向かうよ」

「わかりました」


 ショウは早速準備に取り掛かる。


 ショウの持つ書状には、”反政府組織の弾圧”と書かれていた。


どうも、朝日龍弥です。

本日から十章開幕となります!

休む暇もなく、出動した第三部隊が向かった先は……。


次回更新は、1/29(水)となります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっと10章! 9章、謎は深まるばかりでしたが、ここから伏線回収めちゃくちゃされていきそうなので、ワクワクしつつ読ませていただきます!!
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