銃声の行方
艦内通路で応戦するソルクスとミーアは苦戦を強いられていた。
通常なら致命傷になり得る腹を刺し、頚動脈を切りつけても相手は倒れず、ある程度時間が経つと血が止まり再生し始める。
そして、動きは鈍らずに休む間も無く、人間離れした動きで攻撃が繰り出される。
防戦一方となり、ジリジリと追い詰められていく。
「くっそがぁ!」
ノアと交戦するソルクスは致命傷を避けながらも、あちこちに斬撃を受け、満身創痍になっていく。
それはトウマの相手をしているミーアも同様だった。
「いったぁー……。元気なのはいいけど、元気すぎないかい? 少年」
「お姉さん。もう死んでいいよ」
「くっ!」
ミーアの弾丸はトウマの右肩を撃ち抜く。
躱す様子も無い少年は痛覚がないのか、そのまま気にせず向かってくる。
「このぉおお!!」
急所を撃ち抜くことはできなかったが、腹や足に着弾する。
トウマは大量に血を流しながらも、足を止めずにミーアに斬りかかる。
――やっば!
「姉ちゃん!」
ソルクスが叫んだ時、トウマの斬撃は力なく空を切り、その場に倒れた。
「トウマ!?」
ノアは何が起きたか分からず、ソルクスとミーアから距離を取る。
トウマはミーアの前に倒れ、気を失っているようだった。
「えっ!? どゆこと?」
ソルクスは訳が分からず、首をかしげる。
「あっぶなー。やっとかぁ。きっついなぁ」
ミーアは弾倉を交換し、ふぅっと息を吐く。
「お前、何した!」
ノアはミーアに吠えるように叫んだ。
「さぁ? 何でだろうね?」
ミーアは口角を引き上げて笑う。
ソルクスとミーア、両者を相手取らなければならなくなったノアは、間合いを取ったまま動けずにいた。
ノアが徐にポケットに手を入れようとした時、連続した銃声が司令塔から響き渡った。
それを聞いた二人は一瞬で焦りの表情を浮かべる。
「マジかよ!」
「うっそ!」
銃声に気を取られていた二人の間を、ノアは隙を見て斬撃を加えながら素早く通り抜ける。
「おわっ!」
「きゃあ!」
ソルクスはうまく斬撃を受け流したが、ミーアは受け流しきれずに壁に叩きつけられる。
「大丈夫か!?」
「大丈夫! 行って!」
ミーアの指示を受け、ソルクスは司令塔に向かったノアを追う。
――さっきの銃声はショウか!?
暫く途切れていた銃声が、また一つ鳴り響いた。
――ショウ! 無事でいてくれ!
* * *
一発の銃声が鳴り響き、銃口から硝煙が上がる。
「がぁあああああ!!」
銃を落とし、痛々しく悲鳴をあげたヴォダは、自身の手に風穴が空いていることに困惑していた。
「な、何だとぉおお!? てめぇ!! 何考えてやがる!? ぶっ殺すぞ!」
ヴォダは怒りを剥き出し、奴隷の少年を怒鳴りつける。
すると、奴隷の少年はヴォダが動けないように太腿を撃ち抜く。
「ぐぁあああああ!!」
「それはコッチの台詞です」
そういうと、奴隷の少年は顔色変えずに言い放つ。
「がっ……てめぇ、奴隷のくせにっ!!」
「嫌ですねぇ、私がいつ奴隷だと言いました?」
少年は人差し指を立てて揺らしてみせる。
「ダメですねぇ。自分の奴隷はちゃんと覚えておかないと」
カツラをとり、狐顔の少年はニヒルに笑った。
「な、なんだとぉおおお!?」
「甘いですねぇ。同じ格好をしただけで自分の奴隷かどうかも分からないなんて、ハイ。いやぁー、隊長も中々の芝居でしたよ」
白いウィッグと赤いカラーコンタクトを外し、ヨダは苦渋に歪むヴォダをニヤニヤと小馬鹿にした様に見やる。
「お前、自分の仲間を殺して――」
「あー、あれは二人に芝居に付き合ってもらっただけです。あんなんでも騙せるなんて節穴すぎですよ、ヒヒヒ!」
困惑するヴォダに懇切丁寧に説明をするヨダを、ショウは白い目で見やる。
「無駄口を叩くな。ヨダ、後で話がある」
「えぇー……」
ここまで動けるとは聞いていないと、ショウは不服そうに顔を渋らせる。
「茶番は終わったかしら、マクレイア」
「はい。付き合わせてしまい、申し訳ありません」
「いいのよ。中々面白かったわ」
元帥は口角を上げ、跪いているヴォダを座ったまま見下す。
「チェックメイトだな。お前は殺さずにアルトワの監獄に入れてやろう」
「ハンッ! 見せしめにギロチンにでもかけるのか? やってみろよ!」
元帥は葉巻の灰を折ると、鋭い眼光でヴォダを睨みつけた。
「何を言っている。私は貴様を殺すつもりなど毛頭ない。貴様にはその監獄で、出来るだけ情報を吐いてもらう」
「はぁ? そんな事――」
「貴様をありとあらゆる拷問にかけ、治療し、また拷問にかける。情報を吐くまでそれを永遠に繰り返す。安心しろ。心臓が止まったらありとあらゆる手を使って蘇生し、絶対に死なせない」
元帥の圧に、ヴォダは全身から汗を吹き出す。
「くっそがぁあああ! 殺してやる! あんただけは絶対に殺してやる!」
「屈辱かしら? でも、残念。負け犬の遠吠えというものは、見ていて退屈だわ。マクレイア」
「はい」
ショウはヴォダを後ろ手に拘束し、舌を噛めないように布を口に巻き込む。
「あら、いい格好よ。無様で笑えてくるわ」
「うぅぅ!! ふごぉおお!」
「しかし、うるさいですねぇ、ハイ」
口に布を巻いてもなお、叫び続けるヴォダを見て、ヨダは呆れたように口にする。
「お前ほどじゃないだろ」
「酷いですねぇ」
ヨダから自分の銃を受け取り、弾倉を確認していると、ショウは近づいてくる異様な気配を感じた。
直ぐに部屋の外につながる通路へ銃を構えると、顔にケロイドのある白髪赤目の少年が、凄まじい速さで飛び込んできた。
ショウは咄嗟に発砲し牽制するが、構わず飛び込み、ヴォダの周りにいたショウとヨダを攻撃する。
「引け! マクレイア!」
元帥の指示通り、ショウとヨダはすぐに間合いを取り、乱入してきた少年に銃口を向ける。
出来るだけ生け捕りにしたいヴォダが射線上に居る為、ショウとヨダは引き金を引くことができない。
「ショウ! 無事か!?」
遅れて追いついたソルクスが、ショウの安否を確認する。
ボロボロになっているソルクスを見て、不測の事態だと、直ぐに目の前の敵に集中する。
「ソル、アイツは!?」
「あ、おう。砲塔で暴れてたヤベェ奴だ」
「まぁ、ヤベェのはソルさんのその姿を見れば嫌でもわかりますねぇ、ハイ」
三人と対峙するノアは、様子を伺っている。
ヴォダは口に巻かれた布を自力でとり、口角を引き上げ、高笑った。
「ハッハァ!! 形勢逆転だぁ!! 皆殺しだぁああ!! ノア! 全員殺せぇええ!!」
ヴォダの指示を聞き、ノアだけでなく、三人も身構える。
「ハハハハハッ! ノア! ブースターをもっと使え! サードになってぶち殺せ! お前らもう終わりだぜぇ? ハッハァ! ハーッハハハハ――」
「うるさい」
ノアは高笑いしていたヴォダの喉を一瞬で掻き切り、艦長室に大量の血飛沫が飛び散る。
「っが!! ゴボッ!」
ヴォダは目を見開き、信じられない顔をしてノアを見た。
「お前、いらない」
ノアは血を浴びながら、面倒臭そうにヴォダの頭頂部にナイフを突き立てた。
ヴォダは力なく倒れ、血溜まりを広げていった。
一連の流れ作業を終え、ノアはゆっくりと振り向き、ショウをジッと見た。
「……ショウ・マクレイア」
ノアは小さく呟くと、艦長室から逃げるように飛び出していった。
「あ! 逃すか! 待ちやがれ!」
「ソル! 深追いするな!」
ショウの制止を聞かずに、ソルクスは飛び出していく。
「あーあ、行っちゃいましたねぇ、ハイ。ソルさんなら大丈夫だと思いますが、アレはココで殺せるならそうした方が良いのでは?」
「……できればいいがな」
ショウは顔を顰め、ノアという少年が何故自分を見て名を口にしたのか、その意味を考えていた。
* * *
夜が明ける頃、レオンは最後の奴隷の首を片手でへし折り、甲板で繰り広げられていた死闘も終わりを迎える。
身体にはあちこちにナイフが刺さり、肩で息をしていたレオンは、自身の腕から滑り落ちた子供を見下ろした。
海軍をはじめ、甲板で戦っていた少年兵達はレオンの人間離れした戦いぶりに、畏怖の念を抱いていた。
「本当に……人間かよ……」
ロニーは顔を青ざめながら、思わずそう呟いた。
レオンはロニーの方を睨みつけ、重い体を動かした。
「え!? え!? レオン!? ちょっと待ったぁ!!」
ロニーは咄嗟に手で防御の構えを取るが、レオンは構わずロニーを手でなぎ倒した。
「あいたぁ!! 何す――」
ロニーがいた所には斬撃が繰り出され、レオンは自分に刺さっていたナイフを抜いて受け止めた。
トウマを抱えたノアと、一撃を受け止めたレオンの視線が交差し、幼年はレオンを飛び越えて、甲板を走り抜ける。
「「レオン!!」」
ロニーとランスが叫び、直ぐにノアに向けて小銃を振るう。
ノアは構わず走り抜け、トウマを抱えたまま海に飛び込んで行った。
「マジかよ!」
二人が覗き込むと、跡形もなく姿を消していた。
「待ちやがれ……って、アレ?? どこ行きやがった!!」
追いついてきたソルクスに、レオンが答える。
「……逃げた」
「あんだよ、ちくしょう! ってお前、ハリネズミみたいになってんぞ!? 大丈夫かよ!!」
「兄はいつもより真っ赤だ」
「うるせぇな! ってかそんなこと言ってる場合じゃねぇだろ!」
「大事な……い……」
そういうと、レオンは動かなくなった。
「ん? おい。もしもーし! おい! コイツ立ったまま気絶してんぞ!! 船医室運ぶぞ!! オットン手伝え!」
「お、おう! って! またオットンゆって!!」
レオンは二人に担がれ、船医室に急いで運ばれて行った。
どうも、朝日龍弥です。
一先ず戦闘の幕引きとなりました。
次回もよろしくお願いします。
次回更新は、1/1(水)となります。




