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SLUMDOG  作者: 朝日龍弥
九章 邂逅
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銃声の行方

 艦内通路で応戦するソルクスとミーアは苦戦を強いられていた。


 通常なら致命傷になり得る腹を刺し、頚動脈を切りつけても相手は倒れず、ある程度時間が経つと血が止まり再生し始める。


 そして、動きは鈍らずに休む間も無く、人間離れした動きで攻撃が繰り出される。


 防戦一方となり、ジリジリと追い詰められていく。


「くっそがぁ!」


 ノアと交戦するソルクスは致命傷を避けながらも、あちこちに斬撃を受け、満身創痍になっていく。


 それはトウマの相手をしているミーアも同様だった。


「いったぁー……。元気なのはいいけど、元気すぎないかい? 少年」

「お姉さん。もう死んでいいよ」

「くっ!」


 ミーアの弾丸はトウマの右肩を撃ち抜く。


 躱す様子も無い少年は痛覚がないのか、そのまま気にせず向かってくる。


「このぉおお!!」


 急所を撃ち抜くことはできなかったが、腹や足に着弾する。


 トウマは大量に血を流しながらも、足を止めずにミーアに斬りかかる。


 ――やっば!


「姉ちゃん!」


 ソルクスが叫んだ時、トウマの斬撃は力なく空を切り、その場に倒れた。


「トウマ!?」


 ノアは何が起きたか分からず、ソルクスとミーアから距離を取る。


 トウマはミーアの前に倒れ、気を失っているようだった。


「えっ!? どゆこと?」


 ソルクスは訳が分からず、首をかしげる。


「あっぶなー。やっとかぁ。きっついなぁ」


 ミーアは弾倉を交換し、ふぅっと息を吐く。


「お前、何した!」


 ノアはミーアに吠えるように叫んだ。


「さぁ? 何でだろうね?」


 ミーアは口角を引き上げて笑う。


 ソルクスとミーア、両者を相手取らなければならなくなったノアは、間合いを取ったまま動けずにいた。


 ノアが徐にポケットに手を入れようとした時、連続した銃声が司令塔から響き渡った。


 それを聞いた二人は一瞬で焦りの表情を浮かべる。


「マジかよ!」

「うっそ!」


 銃声に気を取られていた二人の間を、ノアは隙を見て斬撃を加えながら素早く通り抜ける。


「おわっ!」

「きゃあ!」


 ソルクスはうまく斬撃を受け流したが、ミーアは受け流しきれずに壁に叩きつけられる。


「大丈夫か!?」

「大丈夫! 行って!」


 ミーアの指示を受け、ソルクスは司令塔に向かったノアを追う。


 ――さっきの銃声はショウか!?


 暫く途切れていた銃声が、また一つ鳴り響いた。


 ――ショウ! 無事でいてくれ!




    *     *     *




 一発の銃声が鳴り響き、銃口から硝煙が上がる。


「がぁあああああ!!」


 銃を落とし、痛々しく悲鳴をあげたヴォダは、自身の手に風穴が空いていることに困惑していた。


「な、何だとぉおお!? てめぇ!! 何考えてやがる!? ぶっ殺すぞ!」


 ヴォダは怒りを剥き出し、奴隷の少年を怒鳴りつける。


 すると、奴隷の少年はヴォダが動けないように太腿を撃ち抜く。


「ぐぁあああああ!!」

「それはコッチの台詞です」


 そういうと、奴隷の少年は顔色変えずに言い放つ。


「がっ……てめぇ、奴隷のくせにっ!!」

「嫌ですねぇ、私がいつ奴隷だと言いました?」


 少年は人差し指を立てて揺らしてみせる。


「ダメですねぇ。自分の奴隷(武器)はちゃんと覚えておかないと」


 カツラをとり、狐顔の少年はニヒルに笑った。


「な、なんだとぉおおお!?」

「甘いですねぇ。同じ格好をしただけで自分の奴隷かどうかも分からないなんて、ハイ。いやぁー、隊長も中々の芝居でしたよ」


 白いウィッグと赤いカラーコンタクトを外し、ヨダは苦渋に歪むヴォダをニヤニヤと小馬鹿にした様に見やる。


「お前、自分の仲間を殺して――」

「あー、あれは二人に芝居に付き合ってもらっただけです。あんなんでも騙せるなんて節穴すぎですよ、ヒヒヒ!」


 困惑するヴォダに懇切丁寧に説明をするヨダを、ショウは白い目で見やる。


「無駄口を叩くな。ヨダ、後で話がある」

「えぇー……」


 ここまで動けるとは聞いていないと、ショウは不服そうに顔を渋らせる。


「茶番は終わったかしら、マクレイア」

「はい。付き合わせてしまい、申し訳ありません」

「いいのよ。中々面白かったわ」


 元帥は口角を上げ、跪いているヴォダを座ったまま見下す。


「チェックメイトだな。お前は殺さずにアルトワの監獄に入れてやろう」

「ハンッ! 見せしめにギロチンにでもかけるのか? やってみろよ!」


 元帥は葉巻の灰を折ると、鋭い眼光でヴォダを睨みつけた。


「何を言っている。私は貴様を殺すつもりなど毛頭ない。貴様にはその監獄で、出来るだけ情報を吐いてもらう」

「はぁ? そんな事――」

「貴様をありとあらゆる拷問にかけ、治療し、また拷問にかける。情報を吐くまでそれを永遠に繰り返す。安心しろ。心臓が止まったらありとあらゆる手を使って蘇生し、絶対に死なせない」


 元帥の圧に、ヴォダは全身から汗を吹き出す。


「くっそがぁあああ! 殺してやる! あんただけは絶対に殺してやる!」

「屈辱かしら? でも、残念。負け犬の遠吠えというものは、見ていて退屈だわ。マクレイア」

「はい」


 ショウはヴォダを後ろ手に拘束し、舌を噛めないように布を口に巻き込む。


「あら、いい格好よ。無様で笑えてくるわ」

「うぅぅ!! ふごぉおお!」

「しかし、うるさいですねぇ、ハイ」


 口に布を巻いてもなお、叫び続けるヴォダを見て、ヨダは呆れたように口にする。


「お前ほどじゃないだろ」

「酷いですねぇ」


 ヨダから自分の銃を受け取り、弾倉を確認していると、ショウは近づいてくる異様な気配を感じた。


 直ぐに部屋の外につながる通路へ銃を構えると、顔にケロイドのある白髪赤目の少年が、凄まじい速さで飛び込んできた。


 ショウは咄嗟に発砲し牽制するが、構わず飛び込み、ヴォダの周りにいたショウとヨダを攻撃する。


「引け! マクレイア!」


 元帥の指示通り、ショウとヨダはすぐに間合いを取り、乱入してきた少年に銃口を向ける。


 出来るだけ生け捕りにしたいヴォダが射線上に居る為、ショウとヨダは引き金を引くことができない。


「ショウ! 無事か!?」


 遅れて追いついたソルクスが、ショウの安否を確認する。


 ボロボロになっているソルクスを見て、不測の事態だと、直ぐに目の前の敵に集中する。


「ソル、アイツは!?」

「あ、おう。砲塔で暴れてたヤベェ奴だ」

「まぁ、ヤベェのはソルさんのその姿を見れば嫌でもわかりますねぇ、ハイ」


 三人と対峙するノアは、様子を伺っている。


 ヴォダは口に巻かれた布を自力でとり、口角を引き上げ、高笑った。


「ハッハァ!! 形勢逆転だぁ!! 皆殺しだぁああ!! ノア! 全員殺せぇええ!!」


 ヴォダの指示を聞き、ノアだけでなく、三人も身構える。


「ハハハハハッ! ノア! ブースターをもっと使え! サードになってぶち殺せ! お前らもう終わりだぜぇ? ハッハァ! ハーッハハハハ――」

「うるさい」


 ノアは高笑いしていたヴォダの喉を一瞬で掻き切り、艦長室に大量の血飛沫が飛び散る。


「っが!! ゴボッ!」


 ヴォダは目を見開き、信じられない顔をしてノアを見た。


「お前、いらない」


 ノアは血を浴びながら、面倒臭そうにヴォダの頭頂部にナイフを突き立てた。


 ヴォダは力なく倒れ、血溜まりを広げていった。


 一連の流れ作業を終え、ノアはゆっくりと振り向き、ショウをジッと見た。


「……ショウ・マクレイア」


 ノアは小さく呟くと、艦長室から逃げるように飛び出していった。


「あ! 逃すか! 待ちやがれ!」

「ソル! 深追いするな!」


 ショウの制止を聞かずに、ソルクスは飛び出していく。


「あーあ、行っちゃいましたねぇ、ハイ。ソルさんなら大丈夫だと思いますが、アレはココで殺せるならそうした方が良いのでは?」

「……できればいいがな」


 ショウは顔を顰め、ノアという少年が何故自分を見て名を口にしたのか、その意味を考えていた。




    *     *     *




 夜が明ける頃、レオンは最後の奴隷の首を片手でへし折り、甲板で繰り広げられていた死闘も終わりを迎える。


 身体にはあちこちにナイフが刺さり、肩で息をしていたレオンは、自身の腕から滑り落ちた子供を見下ろした。


 海軍をはじめ、甲板で戦っていた少年兵達はレオンの人間離れした戦いぶりに、畏怖の念を抱いていた。


「本当に……人間かよ……」


 ロニーは顔を青ざめながら、思わずそう呟いた。


 レオンはロニーの方を睨みつけ、重い体を動かした。


「え!? え!? レオン!? ちょっと待ったぁ!!」


 ロニーは咄嗟に手で防御の構えを取るが、レオンは構わずロニーを手でなぎ倒した。


「あいたぁ!! 何す――」


 ロニーがいた所には斬撃が繰り出され、レオンは自分に刺さっていたナイフを抜いて受け止めた。


 トウマを抱えたノアと、一撃を受け止めたレオンの視線が交差し、幼年はレオンを飛び越えて、甲板を走り抜ける。


「「レオン!!」」


 ロニーとランスが叫び、直ぐにノアに向けて小銃を振るう。


 ノアは構わず走り抜け、トウマを抱えたまま海に飛び込んで行った。


「マジかよ!」


 二人が覗き込むと、跡形もなく姿を消していた。


「待ちやがれ……って、アレ?? どこ行きやがった!!」


 追いついてきたソルクスに、レオンが答える。


「……逃げた」

「あんだよ、ちくしょう! ってお前、ハリネズミみたいになってんぞ!? 大丈夫かよ!!」

(けい)はいつもより真っ赤だ」

「うるせぇな! ってかそんなこと言ってる場合じゃねぇだろ!」

「大事な……い……」


 そういうと、レオンは動かなくなった。


「ん? おい。もしもーし! おい! コイツ立ったまま気絶してんぞ!! 船医室運ぶぞ!! オットン手伝え!」

「お、おう! って! またオットンゆって!!」


 レオンは二人に担がれ、船医室に急いで運ばれて行った。


どうも、朝日龍弥です。

一先ず戦闘の幕引きとなりました。

次回もよろしくお願いします。


次回更新は、1/1(水)となります。

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