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SLUMDOG  作者: 朝日龍弥
九章 邂逅
92/439

猛攻

「何があった! 応答しろ!」


 部下から応答がなく、発砲音と異音が響き、船内での異常事態を再確認したエルズは、部下の死を悔やむ間も無く、すぐに元帥へと報告する。


「こちら01! 03、04がやられました! コードレッド! 至急応援を!」

「少尉! がっ!」


 発砲音とともに、背中を預けていた部下が蜂の巣にされたのを目の当たりにし、エルズは無線を切り、物陰に身をひそめる。


「……おかしいなぁ、おかしいなぁ。二人組のはずなのに……。どこなの? 怖いよぉ。僕には無理だよぉ……」


 怯えたような口ぶりをする幼い声に、エルズは背筋が凍った。


「どこにいるの? 僕、隠れんぼ嫌いなのに……」


 ヒタヒタと近づいて来る足音に、エルズは息を殺す。


「どうしよう。早くしないと怒られちゃう。嫌だよぉ。怖いよぉ」


 血の足跡を残しながら歩く少年は、至る所に銃を乱射し、エルズから段々と遠のいて行く。


 ――この少年、ただならぬ気配だ。ここで仕留められるか!?


 エルズは自動小銃を握り直した。


「見つけた……」


 エルズが咄嗟に身を屈めると、弾丸はドアを突き抜け、頭上スレスレを通っていった。


「殺せたのかな? 大丈夫かな?」


 少年はドアを開け部屋へ入ると、横腹に衝撃を受けた。


「ひっ!」


 勢いよく蹴り飛ばされた少年は、部屋の壁に叩きつけられた。


 エルズは直ぐに部屋から脱出し、間隔を空けずに容赦なく自動小銃をふるった。


「ぎゃっ!」


 少年の小さな悲鳴を背に、エルズはそのまま船内を駆け抜け、体勢を立て直そうと、外へ出る。


「何だ!?」


 重低音の爆発が響き渡り、軍艦から火が上がっていた。


「一体……何が起こっているんだ!?」


 エルズは信じられない光景に自身の目を疑った。




    *     *     *




「はっはぁ!! まんまと餌に引っかかりやがって! やっぱ海賊はこうでなくちゃあな!」


 近隣の島に潜んでいたヴォダは、海軍の戦艦と砲撃の撃ち合いをしていた。


 次第に海軍戦艦からの砲撃が少なくなっていくのを見て、ヴォダは次の指示を出す。


「旋回して突っ込め!」


 ヴォダは船を回し、船首から海軍の戦艦に突撃する態勢をとる。


「ガキども! ブースターは持ったな!? 俺の前に女元帥の首を持ってこい! アダラのとこの奴らに遅れをとるんじゃねぇぞ!」


 白髪に紫暗の瞳を持つ子供たちを配備し、ヴォダは口角を引き上げた。




    *     *     *




『第一砲塔、第二砲塔共に応答がありません! 敵艦砲撃できません!』


 館内無線から聞こえてくる焦りの声に、元帥は冷静に指示を出す。


「第三砲塔、第四砲塔は砲撃を続行させろ。副砲もそのままだ」

『ウィルコ!』

「全部隊に告ぐ。各員衝撃に備えよ。船は真っ直ぐこちらに突撃して来るだろう。だが狼狽えるな! 奴らにこの船を沈めるつもりは毛頭ない。この船の上でやり合うつもりだ。武器を持て! アルトワの海を汚すものは容赦しない。我々の船に足を踏み入れた事を後悔させてやれ!」

『『ウィルコ!!』』


 元帥は艦内無線を置き、艦長室の椅子に腰掛け、足を組んだ。


「おい、ショウ」

「わかってる」


 ショウはソルクスの呼びかけに応え、拳銃を抜く。


「閣下、我々も敵部隊の制圧に――」

「それは許可できないわ」

「しかし――」

「お前は部隊長であり、指揮官でしょう? 指揮官が戦場を動き回るもんじゃない。腰を据えていなさい。それでも落ち着かないと言うのなら、私の護衛をしていなさい。マクレイア、お前の部隊からの報告はお前が受け、指示を出せ。直接目で見えていない状態での戦況の把握は必要だ。戦いはチェスのようにはいかんぞ」


 ショウは拳銃を握りしめ、眉をひそめた。


「ショウ、何迷ってんだよ。ここに残れって言われてんのはお前だけだぜ? 俺がお前の代わりに暴れてきてやるから、安心しろよな!」


 歯を見せて笑うソルクスを見て、ショウは大きく息を吐いた。


「……艦内無線をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「好きに使え」

「失礼します」


 ショウは無線を持ち、少年兵に命令を出す。


「少年兵第三部隊に告ぐ。我々の任務は海軍部隊の警護と敵の殲滅だ。ツーマンセル以上で作戦に当たり、行動を開始しろ」

『『イエッサー!』』


 応答を聞き、ショウはソルクスに向き直る。


「ソル、まずは砲室の方を見に行ってくれるか?」

「わーってるよ。任せとけ」


 ソルクスはショウの肩を叩き、部屋を出て行った。




    *     *     *




『少年兵第三部隊に告ぐ。我々の任務は海軍部隊の警護と敵の殲滅だ。ツーマンセル以上で作戦に当たり、行動を開始しろ』


 ショウの指示が静かに響く中、第三砲室内部で作業していた女性兵士が、重い音を立てて倒れる。力のない身体から、じんわりと血が広がる。

 無数の女性兵士の死体の中に、血塗れのナイフを持った少年が立っていた。


「……? 女じゃない奴いる」


 顔にケロイドがある、白髪の少年は首を傾げ、紫暗の瞳を鈍く光らせた。




    *     *     *




 第四砲塔と、副砲から発射される爆音と衝撃の後に、一際大きな衝撃が海軍艦隊に走る。


「うわぁあああ!!」


 檣楼(しょうろう)にいたマルクスは、小銃と共に振り落とされないよう、必死にしがみつく。


「まさか突っ込んでくるなんて! 他のみんなは――ん? 何だろう?」


 敵艦を見やると白髪の子供達が、こちらに飛び移って来ようとしているのが目に入った。


「子供? 僕達と同じ……? でも、みんな紫暗の瞳をしてる……。そういう人種なのかな?」


 マルクスはコロラド戦線から使用している小銃のスコープを覗き、様子を伺っていると、子供達が首筋に一斉に注射器を突き立て始める。


「何を――」


 マルクスは、その姿をハッキリと視認した瞬間、引き金を絞っていた。

 全身に冷や汗をかき、恐怖にも似た不快感を取り払おうとしていた。


 ――よくわからないけどマズイ感じがする! こっちに来させちゃいけない!


 コロラド戦線から磨きがかかったマルクスのスナイプにより、何名か絶命させるも、白髪の子供達は、なりふり構わず飛び移ってくる。


 甲板で迎え撃つ海軍兵と第三部隊は、人間の物とは思えない赤い目を持つ子供達の動きに、苦戦を強いられていた。


 小銃を持たず、近接武器だけで乗り込んでくる子供達。


 肩や足だけでなく、腹や背中に銃弾が当たるくらいでは怯まず、止まることなく殺しにくる子供達は、まるで悪鬼そのもの。


「たぁー!! 何なんだよこいつら! マルクス! そっちから狙撃しろ!」


 ロニーは小銃で子供達を撃ちまくるが、捉えきれず、仲間と混戦状態になっていき、銃をまともに撃つことができなくなっていく。


「ロニー! この状態でマルクスの狙撃は期待できないぞ! それに、叫んだって聞こえないだろ! あと、隊列を崩すな!」


 甲板で応戦する第三部隊に指示を出すランスは、ロニーのボヤキに注意をする。


「くっそー! あいつ狙撃しか能がないのに!」

「マルクスに言いつけるぞ!? 喋ってないで集中し――ロニー!!」


 応戦していたロニーが懐に入り込まれ、敵のナイフがロニーの心臓に向かって突き出される。


 ――やべぇ、死んだ


 死を覚悟したロニーだったが、大きな手が子供の腕を掴み上げ、流れるように首を捻った。


「レオン!」

「た、助かったぁあー!!」

「バーサーカー……。安心早い。コレの動きを止める。足、腹ではダメだ。首を捻るか、頭を撃て」


 レオンは自分が殺した子供を一瞥した後、戦いに参戦する。


「レオンさん! ここだけじゃない! 何人か侵入されてる!」


 ランスの言葉を聞き、ネイサンの顔がレオンの頭をよぎる。


「たぁー! まだまだ乗り込んでくるってのに! 中まで対応できねぇぞ!」

「……いい」

「え!?」


 レオンの言葉に、ロニーが驚嘆の声を上げる。


「だって、中にはネイサンだって――」

「中、アイツがいる。隊長も、コナーも」


 レオンは部隊を牽引する三人を思い出し、背負っていた斧を抜いた。


「だから、(おれ)は――」


 飛び掛かってくる敵の頭に、レオンは迷いなく斧を振り下ろした。 


「ここ守る。それが、己の仕事」


 今まで怯まなかった子供達が、レオンを前に一歩下がった。


「ここは、誰も通さない」


 レオンの紫暗の鋭い眼光が、無数の真紅の瞳(あか)とぶつかった。




    *     *     *




「う、うぅ……」


 船医室にいたコナーは、戦艦がぶつかり合う衝撃で転倒していた。


「コナーちゃん無事!?」

「だ、大丈夫です。ネイサンも大丈夫ですか?」

「ありがとう。私は平気よ」

(やっこ)さんも無茶するねぇ。お互い沈んだらどうすんだか」


 くつくつと笑うバレンシアに、コナーは笑い事じゃないと真剣な表情になる。


「敵は元帥の首が狙いさね。あわよくば、私らの何人かは生け捕りにして、性奴隷にでもする気だろうねぇ」


 バレンシアは煙管を吸い、全く焦った様子がない。


「さて、餌にかかったのはどっちなんだろうねぇ」

「船医長。そんなに悠長にしている暇は――」

「コナー! アネさん! 生きとるかー!?」

「皆無事っすか!?」


 船医室の戸を開け、ラウリとクラークが飛び込んでくる。


「こっちは大丈夫だよ! 二人も無事で良かった!」

「外の状況はどうなってるのかわかる?」


 ネイサンの問いかけに、ラウリが答える。


「いんや。わからん。甲板の方にさ、アニさんが向かったんは見たけんど……」

「レオが? そう……」


 ネイサンは目を見張った後、淡い笑みを浮かべた。


「みんな、隊長の艦内無線聞いたっすか?」

「うん。ツーマンセル以上で動くようにって言ってたね」

「アテら年少組はツーマンセルじゃ足りん。纏まって動かな」

「そうだね……。ここにソルさんやレオさんがいれば別だけど、そうした方がいいね」


 ラウリの考えに、コナーも賛同する。


「そうは言っても、ラウリちゃん以外全員衛生兵だから、人数がいても戦力的には心許ないわよね……」

「そうじゃな。アテの爆弾はココじゃ使えんでな」

「えっ!? ば、爆弾あるんすか!?」


 ラウリの発言にクラークは、少し後ずさりする。


「持ってなか。作っちょらん」

「そ、そっすか」


 クラークは息を吐き、緊張した様子で、しきりに辺りを見回す。


「自分達の身を守ることを考えるなら、下手に動かない方がいいけど、僕達の任務は海軍の人達の護衛と敵の殲滅だから――」

「無理に動く必要は無い」


 バレンシアの言葉に皆が注目する。


「あんたら子供に護られるつもりはないよ。まぁ、敵をやってくれるなら嬉しいけど、無理に死に急ぐ必要は無い。それは大人の仕事さね」

「で、でも――」

「海軍の心配はいらない。私らは海の女だ。美しく、気高く、そして(したた)か。いざって時、アルトワの女はそこらの男よりも強いよ」


 煙管を片手に言う彼女の言葉に、少年達は息を飲んだ。


「お喋りはそこまでじゃ」


 ラウリが小銃の安全装置を外し、ドアの前に立つ。


「ウヌらも抜くんじゃ。敵がくるでな」


 一つの足音がし、他の全員が拳銃を抜く。


「ラウリ待って、味方だったら――」

「味方じゃなか」

「えっ……」

「何かを引きずっちょる」


 ラウリの言う通り、何かを引きずる音と何者かの嗚咽。


 その音と声は、船医室の前でピタリと止まり、全員に緊張が走る。


 ドアが勢いよく開き、ラウリが引き金を絞ろうとした時、飛び込んできたのは血だらけのエルズだった。


「っ!?」


 ラウリは銃口を上に向け、投げ込まれたエルズをそのまま避ける。


「うわぁ!! エルズ少尉!?」


 コナーとネイサンがエルズを受け止める。


「かしな!」


 すぐにバレンシアが間に入り、エルズを診はじめる。


 銃声がし、コナーが前を向くと、ラウリが赤い目をした白髪の少年に向け、引き金を絞っていた。


「ラウリ!!」


 少年は流れるようにラウリの懐に潜り込む。


「君も僕を虐めるの?」


 見開かれた赤い目と口角が引き上げられた顔に、ラウリは寒気を感じた。


 振り下ろされたナイフを小銃で受け止めるが、異常なまでの力に、押し返すことができない。


 少年は右肩に血の跡があるが、傷一つない。


「虐める? 血だらけでよう言うわ! 笑わせるないな! 虐めっ子はどっちじゃ!」


 押しのけようとするラウリを助けようと、クラークが拳銃を構えるが、ラウリも射線上にいるため、撃つことができない。


「みんな僕達を虐めるんだ! お前達も、みんなぁ!!」

「ぐっ……。ウヌ、ほんに人け? 気っ色悪かね」

「うるさい! うるさい! うるさい!」


 ナイフの連撃を小銃で防ぎ続け、ラウリはそれを上に弾き返す。しかし、少年はそれを見逃さず、ガラ空きになったラウリの胸部を勢いよく蹴り飛ばした。


「がっ!」


 ラウリは後ろに吹っ飛び、体勢を立て直そうとするが、背中を丸めて咳き込み、立ち上がることができない。


「ラウリ! このっ!」

「クラーク! ダメだ待って!」


 クラークが少年に向けて発砲するも、少年は既に刃こぼれしたナイフを拾い上げ、姿勢を低くして標的をクラークに変えた。


「ひっ!」

「クラーク!」


 コナーはクラークを押しのけ、前に出る。


「コナーちゃん!」「コナー!」


 ネイサンとバレンシアが声を張り上げるも、既に振り上げられたナイフは、コナーの眼前に迫っていた。


 コナーは反射的に目を瞑った。


「とうっ!」


 聞き覚えのある声の後、コナーが目を開けると、少年は頰を蹴り飛ばされ、床に転がった。


「えっ!? えっ!?」


 ブルネットの髪をおさげにしている後ろ姿を見て、コナーは目を見開いた。


「私の天使達に、なーにをしてくれてちゃってるのかなぁー?」

「ミーア中尉!?」

「やっ! 私の天使達! お待たせっ!」


 軽く敬礼をしながらウインクをする姿は、ここが戦場だということを忘れてしまうほどの軽快さがあった。


「遅かったじゃないか、ミーア。本当に待ちくたびれたよ」


 バレンシアが意識のないエルズを治療しながら、声を掛ける。


「うっ……それはごめんなさい。ちょーっとここまで来るのに手間取っちゃってー」


 ミーアはボロボロのエルズの姿を一瞥すると、呻きながら、ゆっくりと立ち上がる少年に向き直る。


 少年の腹に垣間見た奴隷紋を確認し、大きく息を吐いた。


「ふーん。ミズガルズ商会かぁ。私の時には、君みたいなのはいなかったなぁ」

「何で? 何で? 何で? 上手くいかない。上手くいかない。みんな僕を虐める。殺さなきゃ。殺さなきゃ」


 爪を噛みながらブツブツと呟く少年に、ミーアは両脇のホルスターから二丁拳銃を取り出し、更に着剣する。


「ちょっとおイタが過ぎるよ、少年。まだ、遊び足りないなら、お姉さんと遊ぼっか」

「うがぁあああ!!」

「コナー、メカクレくんをお願い!」

「は、はい!」


 ミーアしか見えていない少年は、彼女を追いかけ、船医室から出て行く。


「ラウリ! 大丈夫!?」

「ゲホッ! ヒューッ。だ、大丈夫じゃ……。ヒューッ。ちょい、モロに食らっちゃ……だけじゃ」

「顔真っ青だよ!?」

「ちょい、唾が変なとこ行きおって、咳き込みすぎっちゃ」

「本当に大丈夫?」

「ふぅ……。平気じゃ。酸欠なだけだでな。深呼吸すればよか」

「一応、バレンシアさんに……」

「平気じゃ言うとる! 他に手伝わないけん奴が居るじゃろ!」


 ラウリに言われ、バレンシアの方を見ると、ネイサンと共にエルズの処置に入っている。


「ウヌも行くんじゃ。アネさん達と一緒に少尉を助けるんじゃ。アテはクラークに一緒にいてもらうでな」

「わかった。でも、終わったら診てもらってよ? 約束だよ?」

「わかっちょる。はよ行け」

「うん。クラーク! ラウリをお願い!」

「わ、わかったっす!」


 ラウリは大きく深呼吸すると、直ぐに小銃を握り直した。



どうも、朝日龍弥です。

場面転回が多くなってしまいましたが、いかがでしょうか?

緊迫する小型船内で相手取るエルズ。甲板で戦うレオン。船内の索敵をするソルクス。船医室に乱入するミーア。

次回も戦闘が継続していきますので、よろしくお願いします。


次回更新は、12/18(水)となります。

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