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SLUMDOG  作者: 朝日龍弥
五章 第三部隊の番犬たち
36/418

コナーの受難

 ショウ達が戻り、今日から再び第三部隊として訓練するわけだが、ペトロフは帰ってきたばかりだというのに、一日中会議に参加する事となっている。


 ショウとソルクスは大人しくしているようにと言われたため、コナーが指揮を取ることになる。


 以前にもコナーが指揮を取る事があったので、第三部隊の面々はそれには慣れているのだが、コナー自身はまだ慣れない様子だった。


 しかし、事務処理や、自分が長を務める衛生兵部隊への指示は驚くほど的確で早い。


「あとは自信さえ付けばいいと思うんだけどね、コナーちゃんは」

「ネイサン何か言いました??」


 医務室で負傷者の様子を順番に見ていたコナーは、ネイサンの独り言を聞き逃していた。


「いいえ、何でもないわよ」

「そうですか。じゃあ、ネイサンはこっちの皆さんを診てください。皆さん軽傷ですが、負傷者が多くて医務室も手が回らなくて……」


 忙しなく動き回る自分より小柄なコナーを見て、ネイサンは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「ごめんなさいね、コナーちゃん。私が不甲斐ないばかりに、戻ったばかりで疲れてるコナーちゃんに無理させちゃって……」

「ああ、大丈夫です! と言いたいところなんですけど……。こうも医務室から出られないと、ショウさんやソルさんが心配で……」


 食堂でのこともあり、ネイサンも二人の顔を思い浮かべながら嘆息する。


「そうねぇ。一番怪我してるの、あの二人だものね。でもここから出られないコナーちゃんの代理で、二人に監視役をつけてるんでしょう?」

「ま、まぁそうなんですけど……。監視役をつけたところで、あの二人が大人しくしていてくれるか不安で……」

「まぁ、大体想像つくわよねぇ……」




    *     *     *




「なるほど。じゃあお前は、俺を監視してるってことでいいのか? マルクス……」


 黒い前髪をセンター分けにした、ショウよりも年齢が二つほど上のマルクス・クレイ二等兵は、思わず苦笑いを浮かべる。


「い、いえ、監視という訳でなく、小官は隊長の身の回りの世話をコナーに言いつけられていまして……」

「つまり監視だろうが。相変わらずだな、コナーは……」


 ショウはコナーの過保護ぶりに、呆れて物も言えぬ様子でいた。


 それを察したマルクスは、慌ててコナーをフォローし始める。


「こ、これは監視じゃないですって! それに、コナーは隊長に無理をして欲しくないんですよ」

「はぁ……わかってるよ。ただなぁ……あれもダメ、これもダメと言われると、何をしていいやら……」


 ショウが一階宿舎の廊下を歩き、それにマルクスが追従する、という形になっている。


 ――この分だと一人で何かするってことはできないな……


「あ、そうだ」


 突然ショウが足を止める。


「どうかされたんですか?」

「折角マルクスが俺のお目付け役としているんだ。お前も、まがりなりにも銃撃兵部隊だ。どれだけ上達したか見たい。人に教える分なら、コナーも文句は言わないだろう?」

「え!? 隊長が僕にマンツーマンで!? い、いいんですか!?」

「別に今までだって教えてたろ? マンツーマンじゃなかったけど」


 ショウの言葉を受け、マルクスは有頂天になる。


「や、やった! 隊長の監視でマンツーマンで銃撃を教えてもらえるなんて、役得ですね!」

「やっぱり、監視だったんだな」

「え!? あ、ち、違いますから! これは! えっと!」

「もういいよ、わかったから。ほら訓練場行くぞ」


 自分から墓穴を掘っていくマルクスに呆れながらも、ショウはそのまま第三訓練場に向かった。




    *     *     *




 医務室の天使の帰還に、駆け込んでくる軽傷の少年兵達の治療でバタバタしていたコナーは、最後の負傷兵を治療し終える。


「はい。これで大丈夫ですよ」

「ありがとな、コナー」


 第三部隊銃撃兵に所属するランス・リー二等兵は、爽やかに感謝をのべる。


「ごめんなさいね、ランスちゃん。手当の必要のない子たちが邪魔で最後になっちゃって」

「いいんだよ、ネイサン。みんなここに来て癒されたかったんだろ。いろんな意味で」

「私はあなたに癒されるわ」

「そう?」


 軽口を交わし、医務室に穏やかな風が流れ始め、コナーたちはやっと一息つく。


「それにしても、やっと終わりましたね……」

「コナーちゃんお疲れ様」

「ネイサンもお疲れ様です」

「二人ともお疲れ。というか俺もお邪魔してていいのか?」


 ランスは据わり悪そうに、キョロキョロと辺りを見回す。


「いいのよ、いいのよ! いやしかし、多かったわねぇ。ウチの衛生兵十人でやって手が回らないなんて……。おかげでもうお昼過ぎちゃったわよ」

「二人ともお疲れ様っす! お茶淹れてきたっすよ!」


 ネイサンとコナーが椅子に深々と腰を埋めていると、コナーよりも幼い茶髪の幼年、クラーク・ウェーダー二等兵が、二人に紅茶を差し入れる。


「ありがとうクラーク!」

「クラークちゃんが淹れてくれた紅茶は絶品よね」

「そんなことないっすよ! まぁ、ペトロフ准尉直伝っすから、自信はあるっすよ? あ、勿論ランスに……ランスさんの分もあるっすよ!」


 少し遅れてランスにも紅茶を差し出す。


「ああ、ありがとな」


 ランスは紅茶を受け取ると、美味しそうに飲み始めた。


「しっかし、コナー。お前隊長たちに付いてった先でなんかしたの? 前よりさー、なんというか……」

「処置が早く的確になったわよね」


 言い淀むクラークを見て、ネイサンが代わりに答える。


「そう! それっす!」

「そ、そうかな?」

「うん! 絶対そうっすよ!」

「第七連隊の人達から色々勉強させて頂きましたし、みんなにも伝えようと思って頑張って勉強してきたんだよ」


 年の近いクラークとの会話に、コナーの口調も砕けていく。


「じゃあ、第三部隊衛生兵の治療の仕方は、コナー直伝っすね!」

「あはは、頑張るよ」

「しかし、疲れたわねぇ」


 肩を叩くネイサンに、ランスが苦笑いをする。


「人数多かったもんなぁ」

「まぁ、十人全員でやってたわけじゃないっすもんね」

「ねぇ~クラーク~。僕にも紅茶ちょうだいよ~」


 クラークが締め切っているカーテンを見やると、タイミングよくカールソンが顔を覗かせる。


「あーはいはい。わかったっすよ。砂糖多めっすよね」

「流石クラーク! よくわかってるよねぇ~。ついでにドーナツも持ってきてくれたら――」

「調子に乗んなっす! 衛生兵長のコナーからドーナツ制限令が出てるっすよ!」


 ビシッと指をさすクラークに、カールソンは青ざめた。


「えぇ~!? そんなぁ~! 僕耐えられないよぉ~!」

「そんなことより! ちゃんと隊長たちの監視出来てるっすか? その為に衛生兵の仕事割り振らなかったんすから!」

「それなら万事オッケーだよ~」


 カールソンはモニター画面をクラークに見せつつ、自分の仕事ぶりをアピールする。


「で、今隊長は何やってるんだ?」


 ランスの問いかけに、カールソンは画面を確認する。


「今マルクスと銃撃訓練場に向かってるよ~?」

「えぇ!?」


 コナーはカールソンの言葉を聞き、腰を埋めていた椅子から飛び起きると、カールソンが操作している偵察型ドローンのモニター画面を見る。


「マルクスさん何やってるんですか!」

「でも隊長が撃つとは限らないんじゃないか?」

「そうだよ~。マルクスの射撃指導かもしれないよ~?」

「ダメなもんはダメっすよ! 絶対安静ってペトロフ准尉も言ってたっすよ?」


 ランスとカールソンの言うことに、クラークが異議を唱える。


「僕ちょっと行ってきます!! ソルさんの様子もちゃんと確認しといてくださいね!」

「コナーちゃん! ちょっと!」


 ネイサンの制止も聞かず、コナーは医務室を飛び出していった。


「行っちゃったっすね」

「コナーも全然休めないね~」

「ところで、ソルちゃんはどうなの?」


 ネイサンの問いに、カールソンはレーションを食べながら答える。


「ああ、そっちはヨダにドローン渡して、任せてあるんだけどね~。何せ隊長よりすばしっこいから、苦労してるみたいだよ~?」

「ソルクスをカールが担当すればよかったんじゃないか? まだヨダも慣れてないんだろ?」


 ランスの言葉に、カールソンはにっこりと笑う。


「ヨダなら大丈夫だよ~。器用だし。やらせたら、多分僕よりできるだろうしね~」

「てか、どうやって振り分けたんすか?」

「ん? ああ、ジャンケン」


 小首をかしげるクラークに、カールソンは至極当然の様に答える。


「ジャンケン……すか?」

「うん。僕が勝ったから隊長見張ってんの。だって絶対隊長の方が楽だもん」

「まぁ、確かに……そうっすね」


 四人はモニターの画面に映るショウの姿へと視線を戻した。




    *     *     *




 ショウとマルクスが第三訓練場に着くと、早速マルクスに銃を構えさせ、動く的を狙わせる。


 マルクスは、二ヶ月前、ショウ達が軍に入隊した時とは比べ物にならないほど上達していた。しかし、連射式なら引き金を一度引けば決められた数だけ連射できるため、数を撃てば当たらないこともないが、一発ずつ撃ち抜くとなると、動く的には中々当たらない。


「やっぱり当たらないなぁ……。最初の頃の方がよかったような……」


 マルクスは、自信の銃撃の腕に何となく違和感を感じ、首をかしげる。


「でも上達したな」

「い、いえ! 隊長のようには、なかなか行きませんよ……」


 素直に褒められ、嬉しそうにするが、マルクスは自信なさげに俯く。


 そんなマルクスを見て、ショウは一つ問いかける。


「マルクス、射撃において大事なことってなんだと思う?」

「えっと……。風などの影響を考慮しながら撃つことでしょうか?」

「それもあるが、それよりもっと基本的なことだ」


 正解は何かと気にしながら答えるマルクスに、ショウは更に問いかける。


「基本的なこと?」


 問い返すマルクスに、ショウは大きくうなずく。


「ああ、”構え方”と”狙い”だと俺は考えている」

「”構え方”と”狙い”ですか? 本当に基本的なことですね」


 あまりにも初歩的な指摘に、マルクスはキョトンとした。


「マルクスの場合は”構え方”の方だな。まだ身体と銃かブレてるから、ブレないような射撃姿勢をできるようにした方がいい。銃を撃ち始めた時の方が上手かったと感じているなら、その時はペトロフ准尉に構え方を習ったばかりの頃だから、しっかり構えて撃ってたんだろう。准尉の指導が無くなって、段々自分のクセも出てきて、ブレが出てきたのかもな」


 ショウの的確な分析と指摘に、マルクスは目を丸くする。


「まずは初心に帰ってみろよ。”狙い”はいいから、多分お前ならもっと上達すると思う。”構え方”を意識してみろよ」

「は、はい!」

「じゃあ、俺が手本を見せてやるよ」

「え!? 隊長、怪我が……」


 銃を貸せと言うショウに、マルクスはたじたじになる。


「大丈夫だ。やらないと俺も鈍るし、右手だって人差し指が動けば引き金は引けるさ」

「そ、そうですか」


 ショウはマルクスと一緒に小銃を構えてみせる。マルクスの構え方一つ一つを指摘してからまず自分が撃つ。


 全弾命中し、射撃の腕が鈍っていないことを再確認する。


 五発撃ち終えたところで、一発一発の銃の反動が身体全身にビリビリと伝わり、ショウは少し顔をしかめた。


「さ、流石ですね!! ……どうかしましたか?」

「いや、俺も少しブレてるな……」

「そんなことないですよ!」

「まぁ、後から修正すればいいか。ほら、もう一回撃ってみろよ。今度は構えを意識してな」

「は、はい!」


 マルクスは姿勢を気にしながら、銃を構える。息を殺し、集中して的を狙う。不規則に出てくる動く的を狙い、ショウが的を撃ち抜く姿をイメージしながら引き金を引く。


 マルクスは見事的を五発中三発撃ち抜いて見せた。


「見ましたか!? 隊長!!」

「ああ、見たよ。やっぱりお前は長距離射撃に向いてるかもな」

「そ、そうですかね?」

「ああ、後は経験と慣れだろうな。それは俺もなんだけど。期待してるぞ、マルクス二等兵」

「は、はい!」


 マルクスは少し照れながらも、期待に応えようと大きく頷いた。


「よし、もうちょっと射撃練習して、その後は――」

「こらー!!」

「ヤベェ」


 ショウは突然甲高い叫び声を聞き、バツの悪い顔をする。


 声がした方を見ると、丸い目で睨みを利かせ、頰を膨らませながらコナーがこちらに歩いてくるのが見えた。


「あー、コナー。もう医務室当番の仕事終わったのか? えっと、どうだった? みんなの様子は?」

「ああ、皆さん打撲やら何やらで軽傷なので、特に問題はないと思います」


 コナーは、反射的に報告をし始める。


「そうか。じゃあ、午後はいつも通り訓練できそうだな」

「そうですね……じゃなくて!! ショウさん!! 僕もペトロフ准尉も安静にしてくださいって言いましたよね!?」

「あー……激しい運動はしてない。それに動かないと身体鈍るし……」

「銃は撃っちゃダメです!! マルクスさんも! ショウさんに教わるのはいいですけど! 撃たせちゃダメじゃないですかぁ! これじゃあ監視付きの意味ないですよぉ……」


 コナーはがっくりと肩を落とす。


「ごめんコナー。隊長がマンツーマンで教えてくれるっていうから、ツイ……」

「もう……。今度は気をつけてくださいね! ショウさんに上手く流されないようにしてくださいよ?」

「うん、気をつけるよ。やっぱり隊長は油断できないなぁ」

「あ、そうだ。マルクス。狙撃の話なんだが」

「え? あ、はい。何でしょう?」


 注意をしに来たはいいが、すぐに自分達の世界に入っていってしまうショウたちを見て、コナーは大きく溜息をつく。


「もう……仕方のない人達なんだか――」

『もし、そこの女神様。聞こえます? ハイ』


 気が付くと、傍らにカラス型のドローンがとまっており、コナーは首を傾げた。


「ヨダさん? ですか? どうしてここに? というか、女神って何ですか? 聞き捨てならないんですけど」

『おや? どうやら聞こえているみたいですね。私は特に変なこと言ったつもりはないのですが、ハイ』


 報告で聞いてはいたが、カラスからヨダの声が聞こえ、コナーは何とも不思議そうに、いろんな角度から観察してしまう。


『そんなにジロジロ見られると、流石の私も恥ずかしいんですが、ハイ』

「あ、すいません! つい……。そういえば、ヨダさんはどうしてここに? ソルさんを見張っていたはずじゃ……」

『ああ、まさしくそのことを伝えに来たのですよ』


 ソルクスを見張っているはずのヨダガラスがここにいる事実から、コナーは眉を寄せる。


「……なんだか嫌な予感がするんですけど」

『ロニー・オットー二等兵が目標をロストしました。因みにドローンでの捜索も難しいですねぇ、ハイ』

「やっぱり!!」


 コナーの声が射撃場に響き渡った。




どうも、朝日龍弥です。

イグルスの奔放さに悪戦苦闘するコナー。

彼は苦労性ですね。

胃薬をあげたい。


次回更新は、11/28(水)となります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] コナー君が生来の逞しさを本領発揮していくところが見ていて眼福です!! ソルさんとショウさんみててコナーさんが一番衝撃には強いんだろうなぁと思ってしまいました。 コナー教にお布施したい………
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