白兵戦と銃撃
第三訓練所では、主に武器の訓練を主体とした訓練場となっており、射撃用の的や近接戦闘(白兵戦)用の演習場などがある。そこでの武器には実弾や本物の刃物などは置いてありはしない。あくまでも訓練所なのだ。だが仮の剣やナイフなどは大体本物と同じ重さに作られているため、実物を扱うのと違いはほとんどない。
「まずこのナイフから見て行こうか。全員に回ったかね? ナイフはもしかしたら親しみがあるものが多いかもしれないからね。んーそうだな……。誰か模擬戦闘をしてみないかね? 一対一、もしくは自信があるのであれば多対一でも構わないが――」
「はーい! はーい! 俺やります! 俺!」
後ろの方で先ほどの疲れを思わせないほど、元気に飛び跳ねながら手を挙げているソルクスを見て、ペトロフはにこやかに答える。
「イグルス二等兵か。少し口調を正してからなら許可しよう」
「はい! 俺! やりたいであります! 多対一を希望しますであります」
「んーまぁいいでしょう……。これから直していこう。誰か相手はいないか?」
正せないソルクスの口調に半ば呆れ始めながら、新たな挑戦者を待ったが、周りはしんと静まりかえり、手をあげるものは誰もいない。理由は皆まで言わずとも明白なわけであるが。
「誰もいないのか?」
「はい! 俺! 指名するであるのであります!」
「……はぁ。イグルス二等兵、誰を指名したいのだ?」
「勿論! 少年兵第三部隊仮小隊長の、マクレイア二等兵を指名しますであります!」
なんともぎこちない口調でニシシと歯を見せて笑うソルクスに対して、ペトロフは頭に手を当てながらも、指名されたショウを横目で見ると、ショウは少々呆れた様子ではあるが、観念したかのように溜息まじりに前へ進み出た。
「では、マクレイア二等兵、イグルス二等兵。それぞれ私の始めの合図があったら好きに始めてくれ。外野は演習場から離れるように」
スラム街出身の少年達にとって、イグルス同士の戦いは目が離せなかった。イグルスで生き抜いてきた技量を目にしておきたかったからだ。しんと静まりかえる外野と、対面する二人。
「スラムでもこんな風に二人で勝負したっけなぁ。勝負は俺の百九十九勝九十九敗。今回で俺の記念すべき二百勝目にしてやるぜ!」
ソルクスは無邪気な子供らしい笑顔をし、風切り音をさせながらナイフの柄を器用に回してショウの方へ向き直った。
「そうはいっても、俺との勝負で少なからず九十九敗してるからな。今日はお前の記念すべき百敗目にしてやるよ」
そう言いながら、やれやれとナイフを構えるショウ。負けず嫌いな二人の他愛のない会話の終了を見てから、ペトロフは合図を出した。
「――始め!!」
その合図が出た途端、ずっしりと重く鋭い殺気が、周囲の外野をも包み込んでいた。先ほどまでの二人とは打って変わり、真剣そのもの。そこはもうすでに演習場ではなく殺し合いの場と化していた。
「――フッ!」
先に動いたのはソルクスだった。相手の間合いに一歩で近づき、低姿勢からナイフを大きく上に振り切った。ナイフの軌道はショウの右の脇腹から首元までを撫でるように走る。
見切ったショウは自分のナイフを腹前に据えて軽く受け流すと、その流れを使い、低姿勢のソルクスの首元へナイフを走らせた。
ソルクスはナイフを振った勢いを使い、低姿勢の体を回転させながら、足払いをする。ナイフを振り下ろし始めていたショウは、踏み込んだ足で地面を蹴り、ソルクスを飛び越え、前転しながら受け身を取ると、ソルクスの背中めがけて突きをした。
だが、右手の鈍い痛みとともにナイフが宙を舞った。ショウの右手はソルクスの低姿勢から繰り出された蹴りの衝撃により、ショウの意思に関係なくナイフを手放していた。
次の斬撃が繰り出される前に、ショウは後方へバク転して距離をとった。
両者一歩も譲らぬ本気の殺し合いの緊張感が、外野から見守る少年兵達、そしてペトロフにも刺さるように伝わってきた。
「……やっぱり強えな。ショウは」
「ぬかせ。ナイフの扱いじゃお前にかなわねーよ」
「それは俺も自信はあっけど、当たらなきゃ勝てねぇーだろ。今は手元にナイフがないとはいえ、まずはその動体視力を封じねぇーとな!」
最初のように瞬時に間合いを詰めて再び同じように低姿勢から切り上げる姿勢をとるソルクス。
ショウもすかさずナイフなしで、受け流す姿勢をとったが、そこにあるはずのソルクスの斬撃が無かった。
「!?」
振り抜くと思われた右手にナイフはなく、大きく捻った体で死角になっていた左手に持ち替え、ソルクスはショウの脇腹でなく首を突きに行った。
一瞬気が逸れたが、咄嗟の防御体勢をとり、すんでのところでナイフの軌道から逃れたが、ショウの右頬に熱い感触がする。
ショウは左に倒れ込む勢いで、ナイフが握られているソルクスの腕に足を絡ませ、前方に倒れ込ませる。
突きの姿勢で踏み込んだ体重がそのまま前方に引っ張られ、体勢を崩されたソルクスは、ぐるっと視界が一周し、そのまま体を地面に叩きつけられた。
重い鈍痛が背中を通じてソルクスの肺に響き、一瞬呼吸を忘れ、全身の筋肉を弛緩させる。
その一瞬をつき、ソルクスの手から離れたナイフを拾い上げ、ショウはすかさず馬乗りになり、ナイフをソルクスの首元に当てがった。
「――そこまで!!」
ペトロフの声に、ショウはピタッと手を止める。
その指示は勝負がついたことを意味し、ソルクスの首にあてがったナイフを下げ、襟首を掴んでいた手を離した。
ソルクスは眉間にしわを寄せ、苦虫を噛み潰したような顔をして悔しがっていた。
「いやはや、君たちの動きには驚きを隠せないよ。ナイフの扱いをよくわかっているね。現代、ナイフだけの達人など存在しない。それは何故か。ナイフ格闘は、素手の格闘と技術的なつながりが強くてね、現代ではそこに拳銃などを組み込むというのが、近接戦闘のスタイルになってきている。つまり、ナイフ格闘が強くなるには、素手の格闘の技術的な向上が求められるということだ。その2つを君たち二人はすでに獲得している」
手放しに称賛するペトロフは、模擬戦闘を終えた二人に向き直る。
「とは言っても、自己流の格闘術だからね。私が教えられるのは、そこに拳銃等を組み込む動き方と、軍隊格闘術くらいかな。ご苦労だった。二人は休んでいてくれて構わない。皆に伝えたいことを彼らは模擬戦闘で十分に示してくれたから、私から言うことは以上だ。では他のものも適当に模擬戦闘でナイフの扱いを見るからね」
「……ちくしょー、負けたー。 てかショウ! いつまで俺の上に跨ってんだよ! 早くどけよ!」
「ああ、悪かった。記念すべき百敗目のお前が、悔しそうに空を仰いでる様子を、もっと上から見下ろしてやろうと思って」
「こっんのやろ!! 場所が悪かったんだよ! これでもナイフのやり合いじゃ、俺が圧倒的に勝ってんだからな!」
「凄腕は場所を選ばないんだろ?」
「っあー!! もう! もう一回勝負だコラァ!」
「まぁ、確かにナイフの扱いだけ見ればお前のが上だよ」
「だろう!? それがわかってりゃいいけどよ!!」
「いいのかよ……」
そんな二人の会話を見ながら、ペトロフは彼らの圧倒的戦闘センスを心から喜ぶべきなのか、内心では些か疑問があった。軍人として生きていくにはとても素晴らしい技術。だが、一般の子供としては、必要のない技術だったからだ。彼らの、いわゆる自己流のスタイルは相手を戦闘不能にするのではなく、相手を確実に殺すというものであるというのは一目瞭然であり、それを身につけさせたのが、今の現代社会の膿たる部分なのだと思わせたのだ。
――彼らは私が想像もできない環境で生き抜いてきたのだな。彼らのような子供をこれ以上増やしてはならない。そして、失わせてはならない……
ペトロフは内心はそう感じつつも、教官の立場からすると、彼らのような少年達でも頼れる戦力として喜ぶべきなのだろうという思いもある。このような未来ある子供たちを、ただの一般二等兵と言って切り捨てられる未来を誰が望むか。いや、ペトロフは望まない。軍人としてではなく、一人の人間として、それを望まないのだ。
* * *
全員のナイフ格闘の戦闘技量を測り終え、続いて小隊が扱う武器は、小銃と呼ばれる軍用銃で、軍隊では最も一般的な小火器である。
まずは動かない人型の的を、それぞれ距離に応じて数発撃ってみるという形で、各個人の銃撃センスを推し量る。
ここにいるほぼ全員が銃を持ったことはない。スラム街でも簡単に手に入る小型ナイフとは違い、スラム街での銃器の流通は厳しく制限されているためである。
一通り銃の構え方、指の添え方、撃ち方を教え、一人ずつ並んで撃たせてみる。全体的に、五発ずつ、距離に応じて撃っているうちに一発か二発、いい者は三発、的に当たるという形だった。それは距離が延びるほど、的に当たる数は限りなくゼロに近くなるわけだが。
「なんか初めて持つ武器ってワクワクするよな!」
「気ぃそらしてないで集中しろよ」
「わーってるよ! 見てろよー! 全部当ててやるかんな!」
そう言って弾を込め、狙いを定めて撃つ。が、ソルクスは的に傷一つ付けられなかった。
「なんだこれ!? くっそ! もっかい!」
凄まじい破裂音とともに放たれた弾丸が、的の左端をかすめていった。
「っんのやろ!! 全然当たんねーじゃねーか! ナイフの方が何百倍も当てやすいぞ! クソが!」
そう言ってドンドン撃ちまくると一発は当たった。遠いものはかすりもしなかった。
「あー! くそっ! ショウ! お前もいつまでも見てないでやれよ!」
「急かすなよ。そうイラついてたら当たるもんも当たらないだろ」
「じゃーやってみろよ!」
「……」
ショウがすっと銃を構える。二人の様子を見ていた外野が、息を飲んでその瞬間を見守る。
――ドンッ!
一発の銃声が鳴り響き、弾は的をかすめていった。ショウはすぐさま撃ち続けるのではなく、暫く間隔をあけて、また一発、今度は間隔をあけずに一発と、的にむけて撃ち続けたが、的に当たるものはなかった。
「……おい……ショウ……お前……」
「……ふぅ。……こんなもんか」
「……ふぅ。……こんなもんか。じゃねぇーだろ! やる気あんのか! 一発も当たってねぇーぞ‼」
ショウは顎に手を当てて目を閉じ、少し考えるような仕草をしてみる。
「初めてだしこんなもんだろ?」
「こんなもんってお前これ、どう考えてもゼンッッゼン、センスねーだろ!」
その様子を見て他の少年兵達は心の中で笑った。
――なんだ。イグルス出身と言ってもただ近接戦闘にずば抜けているだけであって、銃があれば怖くないじゃないか
そんな中、ペトロフはなにやら考え込むように一層難しい顔をしていた。
続いて、ペトロフの指示で、動く的にむけて撃つ形に切り替える。今度の的は当たったら壊れるものだ。だが、ほとんどのものが当たらず、的の一つも壊すことができない。
「あー! もう! ゼンッゼン、だめだー! この武器使えるのかよー?」
「イグルス二等兵。先ほどマクレイア二等兵に言われたろう。気持ちを落ち着けろと。精神を集中させねば、当たるものも当たらんよ」
「んなこと言ったって。それを言った奴があれじゃあ説得力ねぇーよ」
見かねたペトロフがソルクスにアドバイスをするが、聞く耳を持たない。
そうやってソルクスが悪態をつき始めた時。ガラスが割れた音が聞こえ、ソルクスを含め全員がその音がした方へ目を向ける。そこには一心に的を撃ち抜くショウの姿があった。
連続で撃ちぬき、与えられた持ち弾をほかのものより多く当てていく。その光景を理解できず周りの誰もが唖然としていた。
「な、なんで当たるんだよ! ってか、なんでさっき当たんなかったんだよ! 意味わかんねーよ! やっぱやる気なかったんだろ!」
ソルクスが周りで見ていた全員の声を代弁するかのように、ショウに疑問をぶつけまくる。
「さっきのアレは、ナイフ投げる時と一緒で銃弾にも風の影響とかあんのかと思って、風が強い時、弱い時、距離が近い時、遠い時で環境を変えて撃って試しただけ。まぁ真面目に当てようとして全部当たんなかったのは事実だが……」
「でも動いてるのじゃ状況全然違うじゃんか!」
「それはナイフを投げる時と感覚は同じだから、弾がどれだけの速度で的に当たるかとか、さっき撃ってみてわかった感覚を足せば難しくないだろう」
「俺、ショウが言ってることゼンッゼンわかんねーよ」
「だろうな」
「相っ変わらずムカつくヤローだなー! でもまぁ、お前の動体視力を考えれば当たらない方がおかしいか。なんだかわからんけど納得した!」
「結局わかんねーのかよ」
その様子を見ていたペトロフはショウの類い稀なる戦闘センスと分析力に、驚かずにいられなかった。
――この少年達。特に黒髪の少年には驚かされてばかりだ。さっき考え込んでいたのはこのためだったのか……。しかし、こんな実力差を見せつけられたら、周りの者はたまったものじゃないね
そんなペトロフの懸念は当たり、彼らを見る周りの少年兵の目は先ほどまでと打って変わり、畏怖の目へと移り変わっていた。
――化け物だ。こいつらは、こいつは俺らとは違う
そんな声が聞こえてくるようだった。
だが、そんな事もお構い無しと言わんばかりに、ショウ達はちょっとした小競り合いを続けていた。
「でも、ナイフは俺のが強いし!」
「さっき負けたろ」
「うるせー!! 俺はな――」
三回ほど手を叩く音と、『注目』の一言で、ペトロフに視線が集まる。
「ご苦労様。皆の技量は大体わかった。今日はここまでにしよう。明日からは今日最初にやった練度を上げるための駆け足。これは当分やる羽目になるから覚悟しておいてくれ。それと今日見たところで、君たちの技量に足りないところ、伸ばすところを各個人補い、伸ばしていきたいと思う。詳細は明日伝えよう。各自、今日の反省点をまとめるように。では宿舎へ解散してくれ。そろそろ食事の時間だろうしね」
「「「サー・イエス・サー」」」
バラバラと宿舎に戻っていく少年兵達の背中を見送り、ペトロフは尉官宿舎の方へ足を運び始めた。
「ペトロフ准尉」
「ん? ああ、なんだい? マクレイア二等兵」
突然ショウに呼ばれ、少々間の抜けた声が出てしまった。そこにはソルクスもつまらなそうに並んで立っていた。
「俺とソルに兵の動かし方を教えて欲しい」
「君たちに?」
これまた突然の申し出に少々驚きを隠せなかったが、まだあどけない顔に似合わず真剣な眼差しで真っ直ぐ自分を見る黒髪の少年に、ペトロフは思わず顔をほころばせた。
「それを知ってどうする? なぜそれを知りたいのだ? 昇進を狙っているのか? 私が思っている以上に君たちは野心家だったということかね?」
その返答にショウは少し間をおいて答え始めた。
「……昇進は、したい。ここにいるやつの半分はそうだと思う……。昇進は自分の野心とかそういうのじゃなくて、階級が上がれば自分の家族は優遇されるからだ。ただのスラム上がりではなく、軍で働くものの家族という扱いになるだろ? それを野心というのならそれでいい。だけど、知りたい一番の理由は、昇進したいことじゃなく、自分たちの身を守るためだ」
「ほう? 身を守るためと?」
「そうだ。ある程度、どういう時にどう兵を動かせばいいかわかっていれば、上の人間の指示にどこまで従ったらいいのか、敵はどう攻めてくるのかがわかると思う」
ペトロフは少年の考え方に目を丸くした。
ただ体を鍛える、武器の扱いをよくするという言われたことだけにとらわれず、先の先を見据えた彼の考えに、畏敬の念さえ抱いたのだ。ただ目の前の敵だけを排除するのではなく、あくまでも全体的に、客観的に戦場を見ようとする彼は、やはり少年兵の中でも一番指揮官に向いているのだと、改めて思い知らされたのだ。
「で? 俺たちに教える気あんの? ないの?」
今まで黙っていたソルクスが、いつまでも黙っているペトロフに対して、待ちきれないという態度で回答を急かした。
「ふふ。そう焦ることはないよ、イグルス二等兵。そして君もだ。マクレイア二等兵。言われるまでもなく、小隊長及びその補佐官には教えるつもりだったよ」
「……! じゃあ!」
「まぁ待て。そう急かすな。まだ話は終わってない。マクレイア二等兵。さっき君は上の人間の指示にどれだけ従ったらいいかの判断材料に使用するという考え方をしていたろう?」
「……? ……ああ」
何か間違っているだろうかと、ショウは首を捻る。
「じゃあそれは君たち二人だけが知っていれば、考えればいいというだけで、本当にいいのかな?」
「どーいうことだよ? わかるように説明しろよ!」
「待てと言っているだろう、イグルス二等兵。君は少し忍耐ということを覚えた方がよさそうだね」
「むー……」
ソルクスは口を曲げ、眉を顰めた。
「いいかい? マクレイア二等兵が考えたことは君たち二人だけに当てはまらず、君たちの指示で動く、他の少年兵達にも該当するということだよ」
「……。なるほど……」
「なるほどな! ……で、どういうことだ?」
「つまり、ここにいる全員がそれを知る権利、義務があるということだよ。そうすれば、より一層小隊の意見が一致しやすく、士気も上がりやすい。そしてなにより、隊長が一人で頭をかかえるより、皆で知恵を出し合った方が、効率が良く、いい手が浮かぶというものだしね。人一人の、ましてや子供の絞り出す知恵など、たかが知れているのだよ」
「むー……」
考え込むように腕を組んで目を瞑りながら、ソルクスは頭を傾ける。
「あと、これだけは肝に銘じておくことだ。上官の命令は絶対ということ。それに逆らえば、戦犯として裁かれることもあるからね。ちょっとしたことなら、営倉に入るぐらいで済むけどね。念を押して言っておくよ。明日は我が身だよ。それは君たちが必死で生き抜いてきたスラム街となんら変わりはないよ」
「……」
「よくわかんねーけど。取り敢えず効率良く殺ってればいいってことだよな!」
「「はぁ……」」
ソルクスの発言に二人の大きな溜息がでた。
「あと、君たちに口調の話をしても、どう直していいかわからないだろうから、その都度こう言った方がいい、とレクチャーしていこうと思うよ。今決めたことだがね」
「わかった!」
「そういう時は〝承知しました〟か、敬礼の方がいいよ」
「ショウチシマシタ」
「まぁ、よしとしよう。その調子で頑張りなさい」
「おう! じゃなくて、ショウチシマシタ!」
「では、二人も宿舎へ戻りなさい」
「「サー・イエス・サー」」
背筋を伸ばしてビシッと敬礼を決めると、二人の少年は駆け足で宿舎へ戻っていった。
ペトロフはその背中が宿舎の中へ消えるまで、見送っていた。