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SLUMDOG  作者: 朝日龍弥
一章 少年兵第三部隊
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野良犬の群れ

     挿絵(By みてみん)




 入隊二日目。スラム街出身の少年兵達は、顔合わせを始めていた。少年兵の全体の人数は一個中隊くらい(約二百人位)の人数だ。そこで小隊ごとに分かれていき、別れた小隊はそれぞれ指定された教室のような場所に集められた。ショウとソルクスは同じ少年兵第三部隊に配属された。


 一個小隊五十人程となり、今後の模擬戦闘や実戦で必要になるため、小隊中で誰が小隊長になるか話し合いをする事になっている。ここで小隊長、隊長補佐になると更に階級が上がり、家族への待遇がより良くなるので、やりたいものは少なく無い。それに、縛られたく無いスラム上がりの少年達は、大体のものがそれになろうと息巻いている。ここで前にでる奴らは、大抵が十三歳や十四歳といったところだ。


 少年達に年齢の壁など気にするものはほとんどいないが、ここでは年齢と出身地でかなり格付けされてくるものだ。スラム街でも、どこのスラム出身かで相手がどれほどのレベルなのかがわかる。つまり相手がどれほどの悪環境の中で生き延びてきたか、強さがわかるということだ。スラム街は四つに分類されている。北のノーマン、西のウェーダー、南のサウザー、東のイグルス。大体の子供達が姓に出身地を入れて名乗るのがスラムの流儀となっている。


「俺はサウザー出身だぜ! ウェーダー出身たぁ、たかが知れてるぜ。ここは俺がリーダーやるしかねぇな!」

「僕はノーマン出身だけど、サウザーだってそんな大したこと無いだろ?」

「おお、もういっぺん言ってみな!」

「まぁまぁ二人とも落ち着いて。平和的に話し合おう」

「たぁー! ウェーダー出身者はこれだから。平和的? 笑わせんなよ!」


 大体の小隊は、各スラムの地域でまとまっているのだが、ここ第三部隊では、出身地がごちゃ混ぜになっていた。その為、各スラム街出身者がぶつかり合って主導権を握ろうと、早くも喧嘩が起きそうな事態になっていた。


「ちょっとお前らさー、いい加減にしねぇ? ノーマンもサウザーもウェーダーだってそんなに変わらないだろ?」


 この状況をバカバカしく思ったソルクスが、ついつい口を出してしまう。


「たぁー! お前こそどこの出身よ? 下っ端はすっこんでな」

「はぁー!? 今俺のこと下っ端って言ったお前! 前に出てこい! ぶっ飛ばしてやっから覚悟し――グヘェ!」


 ソルクスがムキになって前に出て行ったところで、ショウの華麗なチョップが頭に直撃した。


「いってーな! 舌噛んだだろうが!」

「面倒はごめんだって言ったよな? ほんとお前は喧嘩っ早くて困る。止めるこっちの身にもなってくれ」

「じゃー止めんな! 三対一だって負けねーもん!」

「このガキ。 ちょいとおいたが過ぎるぜ!」


 ソルクスの発言にイラッときたサウザー出身者が、殴りかかる。ソルクスはすぐさま臨戦態勢に入ったが、突然後ろから襟首を掴まれ、引っ張られ、大きく尻もちをついた。代わりにショウが前に出ると、襲い掛かってきた自分よりも大柄な少年を華麗にさばく。攻撃をいなされた少年が気付いた時には、少年の顔面が床と対面していた。


「何すんだよショウ!」

「お前が殴ったら怪我する騒ぎじゃなくなるだろ。お前は手加減を知らないんだからさ」


 図星をつかれ、黙りこけるソルクスを尻目に、あっけなく攻撃を流された少年はポカンと自分が何をされたのかわからないまま呆けていた。それを見ていた外野もショウの動きに驚く者、感心する者、反応は人それぞれであるが、ショウはその場の全員の視線を集めた。


「お、お前らの出身はどこだよ!」


 はっと我に返ったが少年が声を上げた。


「出身? あーイグルスだよ。東のさ!」


 ニシシと歯を見せて笑うソルクスの言葉に周りがざわつき始めた。


「イグルスって……あの?」

「あそこで生き延びてきたってのか?」

「子供が生きていけるはずねぇよ……」

「あの地獄で……まじかよ……」


 ショウに転がされた少年は言葉なく、ただただ青ざめていた。イグルスで生き延びてきたということは、そういうことなのだ。治安最悪、阿鼻叫喚。そんな中を生き抜いてきた彼らはこの中の誰よりも生き抜く術を知り、誰よりも強かった。この事実から誰についたほうがいいのか、ここにいる五十余名がわかりきっていた。


 そんなざわついた空気が一斉に静まり返る。


 北側の扉が勢い良く開けられた音に注目すると、中に入ってきたのは、整えられた口髭とそれに似つかわしく無いような人懐っこい顔が印象的な中年の軍人。落ち着いているが、少し華やかにも見える軍服と胸につけられた勲章を見れば、相手がどの程度の立場の人間かがわかる。


 コツコツと調子良く鳴る靴音が止まった時、准尉の階級を持つ中年の男性は自己紹介を始めた。


「私は陸軍第七連隊所属、アルガ・ペトロフ准尉だ。本日より君たち少年兵第三部隊の正式な教官となった者だ。早速で悪いが小隊長を決めてもらうという話なのだが……どうやら皆、ほぼ意見は一致しているとみていいのか?」



     挿絵(By みてみん)




 静まり返る教室にペトロフは話を続ける。


「まぁ今回は仮の小隊長を決めるだけであって、なにも正式なものでは無い。我こそがというもの、そうで無いもの、この一ヶ月のうちに誰が正式に小隊長に相応しいかを決めればいい。頭の無い隊長に付き従っていたら痛い目に遭うのは君たちだからね。焦ることは無いさ。で、だ。そこの黒髪の少年と炎髪の少年。君たちはここにいる志願少年兵達の中でも腕っ節が自慢らしいが、それだけでは小隊長に向いているとは到底言えない。が、まぁ、あくまで仮の小隊長、受けて見る気は無いかね? ここの者達はもう君たちに逆らう気が無いようだからね」

「勿論やる。たとえ仮でも正式に小隊長になればいい話だからな」

「俺は補佐でいいや。隊長なんて柄じゃ無いし」

 

 ショウとソルクスは二つ返事で小隊長及び小隊長補佐を引き受けた。


「引き受けてくれるのは構わないが、一応私は准尉。君らはまだまだ、ヒヨッコもヒヨッコの二等兵。上官にその態度は無いんじゃないかい? 君たち二人に限らず、この場の全員だよ。君たちはまだ子供だが、軍の政策によって集められた少年兵。立派な軍人だ。上官が扉を開けて入ってきたら、まずは敬礼をするのが軍の礼儀だ。郷に入れば郷に従えというやつだよ。これから言葉遣いも覚えていってもらうからね。わかったら返事と敬礼! はい練習!」

「……サー……イエス……サー」

「声が小さい。バラバラ。はい! やる気だしてもう一回。さんはい」

「「「サー・イエス・サー」」」

「やればできるじゃないか。次からもこの調子で頼むよ。それじゃあ第一訓練所に移ってくれ。これから君たちの基礎訓練及び武器の扱いを教えるから」

「…………」

「……わかったら返事、そして即行動ね」

「「「サー・イエス・サー」」」


 ペトロフの優しげな、しかし何処か威圧感のある話し方にすっかり毒気を抜かれ、話を彼のペースに持って行かれた少年兵達は、急いで第一訓練所に移動した。



    *     *     *



 ショウがペトロフにまず出された指示は、トラックの外周。寄せ集めの少年兵といえど兵の練度を上げないことには、弾除けにもならない故、足並みを合わせ、駆け足でトラックを走り続ける。少しでも乱れがなくなるまで、歩いて走っての繰り返し。その都度声をかけるのは、仮小隊長であるショウの役目だが、寄せ集めの、それもスラム上がりの少年達は中々足並みが揃わず一向にトラックを走り終えることはできない。


 疲労により足並みが余計に合わなくなってきた頃合いで、ペトロフからやっと止めの合図が出た。何十周も休まずやっていたので、流石に体力自慢の少年兵達もバテていた。それはショウやソルクスも例外ではない。子供の体力はたかが知れている。


「ぜぇ……ぜぇ……もう……無理……」

「はぁ……はぁ……元気だけが……取り柄のお前が……バテんな……はぁ……モチベーション下がるだろ……」

「相変わらず……ぜぇ……冷てぇやつだな……小隊長殿は……」

「その呼び方……はぁ……やめろ……」


 ショウは膝に手をつきながら、ソルクスは倒れこみながらに憎まれ口を叩いていた。そんな軽口を遮るように、ペトロフが三回ほど手を叩く音が響き、バテバテの少年達が全員その音の先へ注目した。


「お疲れ様。見事なバラバラ感だったね。君たちの一つ目の目標は一ヶ月後に始まる模擬戦までに練度を高めることだ。まぁ、どこの小隊も同じような訓練をしている。つまりこの中で一人でも、手を抜いたものがいれば、他三つの小隊から遅れをとることになる、ということだ。遅れをとるということはどういうことになると思う?」

「実戦では死につながる……ということ……」

「その通りだマクレイア二等兵。だから君たちは日々精進していかなければならないよ。でも休むときには目一杯体を休めなさい。働きすぎも良くない。怠ける者が出てくるからね。以上のことを理解したら、次は君たちの武器の扱いを見させてもらう。どの武器に適性があるのかなどで、この小隊での役割が決まってくる。ナイフや剣、槍などが得意なものは白兵戦闘要員。銃器やボウガンなどが得意なものは射撃戦闘要員と大きく分けて2つに別れることになる。どれも扱いが難しいという者は、戦闘要員ではなく衛生部隊と振り分けていくことになるがね。では、第三訓練所に移動してくれ」

「「サー・イエス・サー」」


 まだぎこちないが、ちゃんとした返事を聞いてペトロフはにこやかに答えた。


どうも、朝日龍弥です。

引き続き懲りずに投稿していきます。

いやぁ、戦闘描写って本当に難しいですね。

文章を下書きして、自分なりにOK出しても、やっぱり修正しての繰り返し。

そんなこんなで今回から一章を更新したわけですが、随時修正していくかも知れません(笑)。

さて、一章が始まり、話が進むごとにキャラクターが増えていきますので、よろしくお願いします。

次回更新は5/2となります。

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