表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SLUMDOG  作者: 朝日龍弥
Prologue
1/400

ショウとソルクス

この作品は、一次創作物になります。

pixv小説にも掲載されています。

     挿絵(By みてみん)




 時は第二次科学戦争末期。膨大なエネルギーと科学力を用いて戦うS派(science派)と、強大な軍事力と圧倒的な兵力で戦うA派(army派)で分かれ、国民同士で殺し合いを繰り広げていた。ことの発端は〝正しく科学を使い、より良い世界を作る〟というS派によるクーデターだった。


 兵力と軍事力の差でA派が優勢かに思われたが、長年保たれてきた平和により軍事経験のない将官や佐官が兵の扱い、軍の運用ができるわけもなく、有能な若い尉官を次々に死に追いやった。また、エネルギー源の枯渇及び供給される食料の不足により、兵の士気は衰え、脱走兵や軍内部での争いが絶えなくなっていた。


 S派の兵力は圧倒的に少ないものの、一部の有能な将官を取り込んでいたため、初めは一個大隊ほどの兵力だったが、拡大、強化して行くこととなる。

時を経て、疲弊したA派との兵力は同等のものになっていき、戦況はS派優勢のまま現状を維持していくこととなる。


 そこでA派は新たな兵力を得るため、スラム街や民間人から志願兵を取り始めた。志願兵は誰でも入れたのである。文字通り()()()だ。


 志願兵にはちょっとしたオプションがある。それは、軍人になれれば誰でも金が手に入り、軍人になったものの家族の住み家が、保証されるというものだった。そのオプションに真っ先に飛びつくのはやはりスラム街の住民達だった。ここスラム街の極東イグルスも例外ではない。


 次々に志願する男達に混ざり、周りの大人たちの胸ほどの背丈の子供が混じっていた。二人の少年は自分より大きい大人たちで前の方が見えず、一人はしきりにジャンプし、一人はつまらなそうにぼうっとしていた。


 軍への志願はもちろん子供も例外では無い。東域のこのスラム街だけでなく、あちこちのスラム街でこういう例は少なくない。だが、男たちは物珍しい物を見ているかのように少年たちを好奇の目で注目した。


「おい、なんでガキがこんなとこにいるんだぁ?」

「ガキが軍人ごっこかぁ? ごっこ遊びならママのとこででもやってな! ってな。ひひひひひ」


 鼻を赤くしている酔っ払いまがいの男達が、少年達にちょっかいを出し始める。


「うるせーな。昼間から酒かっくらってる腐りかけのジジイどもより、俺らのほうがよっぽど役に立つってもんだよ。まぁ、あんたらみたいなのでも、弾除けくらいにはなるんだろうよ!」


 炎髪にアジア系混じりの顔の少年は、中指を立てて酔っ払いの中年達を挑発した。口元を引き上げて笑う様は、まさに悪ガキというのが似つかわしい顔をしていた。


「ガキのくせに生意気なこと言いやがってぇ! 大人を怒らすんじゃねぇって母ちゃんから学ばなかったのかよ!」


 拳を振り上げて思いきり殴りかかる男をひらりとかわして、炎髪の少年は足をかけた。酔っ払いの中年男は、自分の体重を支えることができずに無様に転んだ。


「はは! やっぱあんたは弾除けが似合ってんよ」

「このガキァ!」


 少年は次の攻撃に備えてファイティングポーズを取り――


「ぐぇ!」


 ゴツンという鈍い音とともに、前のめりに倒れこむ少年の後ろで、半ば呆れ顔でゲンコツをした黒髪、黒目の少年が立っていた。


「面倒は起こさない約束だったろう? ソル。少年兵の受付は向こうだ」


 そう言ってソルと呼ばれた炎髪の少年の襟をつかみ、ズルズルと引きずって行った。


「いてーな! 何すんだよショウ! 先に突っかかってきたのは向こうだろ?」

「喧嘩っ早いところ、少しは直したほうがいい。お前こそ弾除けにされるぞ。俺ならそうする」

「うわ! ヒデーやつだな! ショウが一人じゃ軍に志願できないって言ったからついてきてやった親友の気持ちがわかんねぇーか?」

「言ってないし、頼んでも無い。勝手についてきたのはソルだろ。てか、もう自分で歩けよ重いから」

「なんだよ! 殴っといて本当に冷たいやつだなー。内心俺が来てくれて嬉しいんだろう? あいた!」


 突然手を放され、今度は仰向けに倒れて置き去りにされた。


「何すんだよ! バカ!」

「バカはお前だ。お前といるとバカが移る。先に志願してくる」

「おい待てよ! ノリが悪いやつだなー。俺も行くってば! 待てって!」


 スラム街上がりの子供達で形成されるのが、新しく導入された少年兵部隊である。少年兵制度が適用されるのは、ここイグルスを始めとするスラム街となっている。この二人の少年はそこへ志願しに来たのだ。


 少年達が志願する理由としては大きく分けて二つ。一つは自分の身分を上げて豊かな暮らしをするため、もう一つは自分の意志に限らず、自分たちの家族を食わせていくためである。大抵の者はこれらに当てはまる。黒髪、黒目の少年、ショウ・マクレイアは後者だった。


 父は無く、母は死に、残ったのは自分と面倒見のいい妹と幼い二人の弟達だけ。人攫いや、スラムの小汚い大人達から逃れ、食べていくには子供達だけでは難しかった。だから家族のために進んで軍の犬になることを選んだのだ。


 だが、ソルという愛称で呼ばれたソルクス・イグルスはこの二つのどれにも当てはまらない理由から志願していた。ソルクスはショウの母が死ぬ前から一緒に生活を共にしている少年で、マクレイア一家に拾われた子供である。歳はショウと同じ十二歳。ソルクスにとって国とかそういう物はどうでもよかったのだが、ショウが軍へ志願すると、ショウの妹のスーヤに聞き、『ショウが行くなら俺も行く!』と言って付いてきたのだ。


 ショウは鬱陶しく思うも、普段から一緒にスラム街を生き抜いてきた友が来てくれるといい、内心では心強く感じていた。


 受付を済ませると、二等兵という階級を言い渡される。この段階で家族の身の安全は保障され、スラム街から抜け出すことができるのだ。妹のスーヤに家族証明証を渡し、手続きを見届ける。家族証明が終わると、新しい家、と言っても仮設住宅への移住の手続きをする。随分と太っ腹な軍の新しい制度に眉を顰めるものは誰もいない。仮設住宅は、狭く小さいが、スラム街出身の子供達、特にイグルスで生きてきたショウ達にとっては、豪邸に住んでいると思わせるほどだ。彼らにとっては〝家〟があるとはそういうことなのだ。


 入隊を終えた少年達は各スラム街から一か所に集められる。これから三ヶ月~六ヶ月の訓練を経て、晴れて戦場に出兵することができるのだ。


 イグルスを出た頃は二人きりだったトラックの荷台は、何回か停車するにつれて、他のスラム街で育った少年兵志願者で身動きも取れないほどになっていた。


 長い時間トラックに詰め込まれていた少年たちは、既に使われなくなっていた下士官宿舎の前に集められた。


 丸々と太っている中年の偉そうな男の中身のない長い話を聞き、ぎこちなくバラバラな少年達の敬礼を終え、それぞれ割り当てられている部屋へと入る。


 これから長くて半年位は世話になる部屋、広さは四畳くらいに二段ベッドが並べられている二人部屋だった。二人がまず目をつけたのは勿論ベッドだった。普段から野宿まがいの彼らにとって目の前にあるベッドに感動を覚えるほかなかったのである。


「俺上な!」


 そう言ってソルクスは梯子を使わずジャンプと腕力だけで上に登ってはしゃいでいた。


「全く……遊びに来たんじゃ無いんだぞ」

「でもさでもさ! これ夢みたいじゃんかよ! 軍てのは思ったより太っ腹だよな! あー付いてきてよかったー。ショウも寝転んでみろよ! 木の葉のベッドより何十倍いや何百倍も寝心地いいぞ!」

「はぁ……」


 ショウは溜め息まじりに呆れて見せたが、スラムにはないベッドに好奇心を抑えられず、ショウはベッドに飛び込むという行動に至った。


 ベッドと言っても粗悪品なのだが、彼らにとってそんなことはどうでもいいことだ。地面や木の葉などと比べてはならないほど柔らかく、体温がシーツやマットレスに伝わり、その体温の熱で心地よく暖かく、どこか懐かしい感覚。そのままでいるとあっという間に夢の世界へ誘われる感じがした。


「なぁ、ショウ」

「なんだ?」

「スーヤ達、元気かなぁ?」

「さっき別れたばっかりだぞ?」


 ショウは呆れたように息をつく。


「でもさーやっぱ心配じゃん? お前だって内心、心配してんだろ? あいつら俺らが守ってきたし。スラム街イグルスを抜け出したって言っても、スラム上がりの奴らが集まるとこに結局引っ越しだからよ」

「……心配無いさ。俺らがいなくてもスーヤはやってけるし、一応あそこは軍が厳しく見張っているはずだ。まぁ俺はお前が残ってくれた方が安心だったんだけどな……」

「はぁ? 俺がお前の入隊を聞いて黙って残ると思ったのか? それにスーヤにお前のこと心配だから、できるなら一緒に行ってくれって、頼まれたしな!」


 ソルクスは二段ベッドの上から顔を出し、ニシシと笑った。


「俺らダチだし、相棒だろ? お前は俺にスーヤを守ってほしいって言った。でもスーヤはショウを守ってほしいって言った。スーヤとショウ。どっちが危なっかしいかと言われたら、間違いなくお前だろ!」

「なんでそうなるんだよ。お前にだけは危なっかしいとか言われたく無い」

「なんだよ! 人がせっかく心配してやってんのに!」

「別に感謝してないわけじゃ無い。まぁ、ソルがいてくれると戦いの場で動きやすいし、こっちとしては心強いからなぁ……」

「だろ! もっと俺様を頼れ!」

「あと馬鹿だから動かしやすいしな」

「だろ! ……ん?」

「おやすみ」


 ショウは無理やり会話を終わらせ、眠りについた。



どうも!本日初投稿となります、朝日龍弥と申します。

前々から投稿したいとは思っていたのですが、小説投稿欄に来るとどうも緊張してしまって、なかなか一歩踏み出せませんでした(笑)。

でも、勇気を振り絞って投稿することにしました。小説初心者でありますので、温かい目で見ていただけたら幸いです。

手探り状態で投稿するので、この作品がどれだけの方に見ていただけるのかわかりませんが、主人公であるショウをはじめとして、これから登場するキャラクター達の生き様を覗いていただければと思います。

SF、ミリタリーなのですが、実は私自身戦争系は少し苦手でして。かなり勉強不足な面が大いにみられると思います。

今後少々過激な描写を書いていく事になると思いましたので、R15にチェックを入れました。

今後週一くらいでアップできればと思います。

この作品は、pixv小説、文芸にも投稿したものになります。

5/27追記

本日からこちらにも挿絵をつけることになりました。

よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
Xから来ましたー とても魅力的な作品ですね! 私好みです(≧∀≦) ショウとソルの親友であり相棒であり兄弟でもあるような関係も素敵だなぁと思いました 二人の会話がやんちゃでいきいきとしていて、二人の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ