幼女が顕現しました
ごゆっくり
昼休憩を終えた俺達は再び馬車に乗って出発し、夕方には高い壁に囲まれた大きな街にたどり着いた。
再出発してから街につくまでに2回ゴブリンの群れに遭遇したが、俺とセレナがファイアーボールで難なく焼き払った。
街に入るために門へ近づくと、門番の男が話しかけてきた。
「通行証か身分証はお持ちですか?」
「これでよろしいですかな?」
カールがギルドカードのようなものを門番に見せ、セレナもギルドカードを提示した。俺もセレナを真似て同じようにギルドカードを見せる。
「はい、通っていいですよー。ライラルの街へようこそ」
『カールのあれもギルドカードか?』
『あれは商人ギルドのギルドカードなの』
そんなのがあったのか。そういえばギルドでも素材の買い取りをしてたし、なんらかの繋がりがあるのかもしれないな。
ライラルに入った俺達は冒険者ギルドで依頼達成の報告をして報酬を受け取り、その後カールと別れた。
そしてなんと、俺は冒険者ランクシルバーになった。つまりDランク冒険者へと昇格したのだ。
随分と昇格が早い気もするけど、洞窟に住み着いたゴブリンの討伐とかCランクの護衛依頼とかもやったしな。
しかも依頼達成率100パーセントだ。人柄なんかも判断基準に入るらしいけど、これはセレナとパーティを組んでいる時点で言わずもがな、ということだろう。
「これからどうしますか?」
「とりあえず宿をとって休もう。一日中馬車に乗ってたし」
それから一番近くの宿へとやってきた。
「いらっしゃいませー!」
宿の受付にいたのは俺より少し年下ぐらいの青年だ。
「2部屋お願いします」
「何泊ですか?」
「1泊です」
「かしこまりました、4000ベルになります」
この宿も1泊で1人銀貨2枚か、これくらいが相場なのかもしれない。ちなみに食事代は別料金だった。
翌朝―――俺は今日もセレナとギルドへと来ていた。さて、今日はどんな依頼を受けようか。
『もしもしますたーなの』
『どうしたユア?』
『ゆあ、この世界で顕現できるようになったの』
『顕現?』
『そうなの、任意の人物にだけ姿が見えるようになるの。物にも触ったりできるの』
『そんなことが出来るようになったのか。やってみてくれ』
ユアが『わかったの!』と返事をして、数秒後には……目の前にピンクの髪をした6歳ぐらいの幼女が現れた。そしてなぜか宙に浮いている。
『おおー』
『ますたー、改めてよろしくなの』
『ああ。よろしくな、ユア』
『はいなの!』
これは驚いた。本当にユアの姿が見えるようになっている。
『周りからも見えるようにしといてくれ』
「わかったの」
お、いいタイミングでセレナがこっちに歩いて来た。ユアは椅子によじ登り、セレナに挨拶する準備をしている。
「カケルさん、その子は誰ですか?」
「紹介するよセレナたん。この子の名前はユア、えっと…………さっき出会った妖精だ」
しまった、どうやって紹介するか考えてなかった。
「よろしくなの、セレナお姉ちゃん!」
「かわいい……って、カケルさん、前々から頭がおかしいとは思っていましたが、まさかここまでだったとは……」
「今までそんなふうに思ってたの!?」
そんなやり取りの後、セレナにロリコン疑惑をかけられたりするも、俺とユアの必死の説明によりなんとかわかってもらえた。
ユアが浮いたり消えたりしたときにはセレナが目を点にして石のようにピシッと固まったりもしたが、ちゃんとわかってもらえて良かった。
ユアの紹介を終え、俺達は再び依頼選びを続けた。今日受けた依頼は『デビルボア』の討伐だ。最近、森の近くの街道によく出るらしい。
というわけで、俺達は街を出て森近くの街道へとやって来た。今からデビルボアを探すところだ。
「今回は場所とか書いてなかったけど、どうやって探すんだ?」
「匂いに敏感な魔物なので、これを 使っておびき寄せます」
そう言ってセレナは、腰につけているポーチから血が滴る肉を取り出して投げ飛ばした。かなり強い匂いが漂ってくる。
「よくそのポーチに入ったな」
そこまで大きな肉ではないがセレナのポーチに入れるとほとんどのスペースが埋まりそうだ。
「このポーチには空間魔法が付与されているんです。馬車1台分くらいの容量があるんですよ」
「簡単に手に入るものなのか?」
「かなり高価なものですが、私はダンジョンで手に入れました」
「ダンジョンは世界中にあるの。資源が豊富だから、ダンジョンをめぐって戦争が起きることもあるの」
ユアには姿も声も公開状態にさせている。珍しいことは珍しいようだが、一応精霊使いとかいうやつもいるらしい。
さらに、ユアにはオンオフの機能があることもわかった。ナニがとは言わないが、プライベートは大事だもんな。うんうん。
ユアがセレナに色々吹き込んでもいけないし、あの黒装束に変装するときもオフにしておこう。
「カケルさん、デビルボアが来ました」
いつの間にか現れたイノシシに羽が生えたような魔物が、さっきの肉を口にくわえてこっちを向いていた。
「あの羽じゃ飛べなさそうだな」
「あの羽は魔力を浮力に変換するためにあるの。ドラゴンの羽も同じ仕組みなの」
「ユアちゃんは物知りですね」
「えっへんなの」
ユアの説明を聞いていると、デビルボアが加速して飛び上がり、なんと滑空しながらこちらに突っ込んできた。
次回更新遅れます。申し訳ありません。