試し切りしました
其は……
目が覚めたが……暗い。部屋の中には窓から月の光がさしている。まだ真夜中か、ちょっと散歩でもしよう。
1階に降りるとカウンターにはまだおばちゃんがいた。イスに腰かけてコーヒーのようなものを飲んでいる。この人はいつまで起きているのだろうか。
「夜道には気をつけるんだよ」
「っ! あ、ああ」
急に話しかけないでびっくりするから! さて、宿屋は出たがどこに行こうか。
『出歩かないでって言われてたの』
「あれは浮気するなって意味なんだよ。俺は今のところセレナたん一筋だから大丈夫だ」
とりあえず街を見渡してみたいから、壁などを使って近くの屋根に登った。ギフト【身体強化】のおかげで軽々と登ることができた。
街の中央には大きな時計台があり、そこから東の方へ目を向けると大きな屋敷が見える。貴族でも住んでいるのだろうか。俺も金持ちになりたい。西側は暗くてよく見えない。
とりあえず時計台の方に行ってみるか。
屋根から屋根へ跳び移り、時計台へと向かう。なんかテンション上がってきた。
一度立ち止まり、服を替えて黒いフード付きのマントを装備し、白い仮面もつける。隠れ家で手に入れた、結構気に入っているセットだ。
ちなみに装備の変更は全て【ストレージ】を利用しているため、着替えも一瞬で完了する。
それから黒を基調とした鞘に入った、肩掛け付きの直剣を背中にまわす。鞘には俺好みの装飾が少し多めに入っているが、派手すぎず、剣は実用性重視の扱いやすそうなものだ。
たぶんもう会えないけど、これを作った勇者とは気が合いそうだ。
ついでにギフト【隠蔽】で俺のステータスを隠蔽しておく。この世界にはステータスの概念があるらしいからだ。
変装を終えた俺は再び屋根を跳び移って行く。
少しすると時計台の前にたどり着いた。周りには誰もいない。
「────」
ん? 今何か聞こえたような……
『なあユア』
『たぶんアンデッドなの。近くに墓地があるの』
『街中にアンデッドとかいるのかよ』
『よく発生するの。あと、ゆあはもう寝るの。おやすみなの』
『おいおい、お前は寝なくても大丈夫だろ』
『ぐー、ぐー、むにゃむにゃ……なの』
この野郎、怖いからって逃げやがったのか。仕方ない、1人で見に行くか。もともと1人だけど。
声、というか音の聞こえる方へ歩いていくと、墓地らしき場所にたどり着いた。門が閉じている。
ストレージからはしごを取り出して塀の上に登り、ひょこっと顔を出して墓地を見渡す。かなり広く、スケルトンやゾンビのような魔物がうろうろと歩き回っている。
あのスケルトンはどうやって骨が繋がっているのだろうか、浮いているようにも見える。そうだ、こいつらに実戦相手になってもらおう。
はしごを回収して塀の向こう側へと飛び降りる。歩き始めると、俺に気付いたゾンビやスケルトンがこちらに向かってきた。「あー」とか「うー」とか言っている。
俺は鞘から剣を抜いた。ちなみにこの剣、【鑑定】のギフトで調べたところ『エクスカリバー』という名前らしい。なんでやねん。
うめき声を上げながら近くに寄って来たアンデッド達を、エクスカリバーで次々と切り倒していく。
スケルトンを頭から叩き切り、ゾンビを首ちょんぱする。血は噴き出さないが、ドロドロとした液体がぼとぼとと音をたててこぼれ落ちる。
ゾンビを2体まとめて切り飛ばし、飛びかかってきた犬のようなゾンビを回し蹴りで吹き飛ばす。
足場が悪くなったため宙返りしながらアンデッド達を飛び越え、スケルトンとゾンビをまとめて横一文字に切り裂く。
――――どのくらい経っただろうか、しばらく続けていると動いているアンデッドはいなくなった。周りを見渡せば大量の残骸が転がっている。そろそろ帰るか。
俺はエクスカリバーを鞘におさめた。
「ガアァァァアアアアアア!」
「ん?」
咆哮が聞こえて振り返ると、両手に剣と盾を持ち、鎧を纏ったガタイのいいゾンビがいた。身長は俺の倍ぐらいで、3メートル以上はありそうだ。ゲームで出てくるボス的なやつなのだろうか。
【鑑定】によると『ボスゾンビ』という魔物らしい。そのまんまだ……。まあいいや。今度は試し撃ちだ。俺は銃を取り出し、銃口をボスゾンビへと向けた。
この銃は魔力を込めて撃てるハンドガンだ。魔法銃といったところか。一応鑑定すると『魔法銃』だった。合ってた。
魔法銃の引き金を引くと青く光る魔弾が発射され、ボスゾンビの頭を貫いた。だが、ボスゾンビ倒れない。
さっきより多く魔力を込めて撃ってみると、今度は大きめの魔弾が発射された。弾速も上がっている。
魔弾はボスゾンビの顔面に命中した。そしてボスゾンビはそのまま後ろに倒れて動かなくなった。
そういえば頭を半分切り飛ばしても動いていたやつもいたが、アンデッドにはHPでもあるのだろうか。それとなぜ魔物が装備なんてしていたのかは分からないが、一応装備品を回収しておく。
気が付くと空が微かに明るくなり始めていた。やばい、早く帰ろう。
急いで走り、宿屋の前へ帰り付いたところで装備を解除して中へ入る。カウンターにはまだおばちゃんがいた。
「おかえり」
「あ、ああ」
この人は一体いつまで起きているのだろうか。まさか寝ないわけではないだろうし……もしかしてアンデッド? いや、さすがにそれはないか。
変な考えを捨てて2階へ上がり、部屋へと向かう。途中でセレナと遭遇することもなく、自分の部屋の前に着いた。セレナはたぶん寝ているのだろう。
部屋に入り鍵をかけ、再びベッドにダイブする。相変わらずふかふかだ。
「クリーン」
寝る前に俺のオリジナル魔法で体をきれいにし、大量に倒したアンデッドのことなど忘れて、俺は眠りについた。
黒っぽい格好に変装するのってなんかかっこよくないですか?