市場で買い物をしました
俺は滑空してきたデビルボアを容易く避けようとしたが、ギリギリのところで体を反らして避けることになった。
デビルボアの羽が真横に延長して飛行機の翼のようになり、それが直撃しそうになったからだ。
「あっぶねー」
「アクセラレーション!」
俺より後ろにいたセレナは風魔法で横に高速移動して避け、ユアは幽霊のようにスカッと貫通した。
「ブルルルッ」
デビルボアは振り向くと再び、さっきと同じように滑空してきた。
「同じ手が通じるかよ、ストーンウォール」
俺が魔法を発動すると、道を塞ぐ程の壁が現れた。普通の「ストーンウォール」だと砕かれそうだから、かなり強化してみた。ついでにトゲも生やしてみた。
直後、ドシャッという音が聞こえた。たぶん、討伐完了だろう。
「ひゃっ!? カ、カケルさんっ! 血が飛んだじゃないですか!」
「ぺっちゃんこなの〜」
壁を崩すと、服の一部に血が付着したセレナが歩いてきた。セレナは気付いていないみたいだけど、血だけではなく小さな肉片のおまけ付きだ。
デビルボアを倒した俺達はライラルへ戻り、セレナが宿に戻って着替えている間に、俺がギルドで報酬を受け取っておいた。
あのレベルの魔物がうろついていると流通にも影響が出るらしく、おかげで多めの報酬が手に入った。
「今からちょっと買い物にでも行かないか?」
「いいですけど、先にお昼にしませんか?」
「おなかペコペコなの」
ユアは今まで何も食べてないし、腹が減ることはないと思うのだが。
「なら、市場を周りながら買い物とかどうだ?」
「たまにはそういうのもいいですね。さっそく行きましょう」
市場の露店をめぐるために外へ出た俺達は、まずは食べ物を売っている露店を探すことにした。
「まさかこんなに早くセレナたんとデートできる日が来るとは」
「帰っていいですか」
「セレナお姉ちゃん……帰るの?」
ユアがセレナの服をつまみ、じっと目を見つめて寂しそうにそう言った。
「うっ…………じょ、冗談に決まってるじゃないですか。お店楽しみですね〜♪」
「楽しみなの!」
ユアのかわいさに、セレナが折れたみたいだ。二人は仲良く手を繋いで歩き始めた。するとユアが視線をこちらに向けた
『貸しひとつなの!』
まさか計算通りだというのか!? 恐ろしい子!
市場の立ち並ぶ通りに入ると、行き交う人々や客で賑わっていた。
食べ物を扱う露店は肉類が中心で、普通の露店だと衣服やアクセサリー、小道具なんかを売っている。
「何か食べたいものとかあるか?」
「私は軽く食べられるものでいいです。あと、飲み物も欲しいです」
「ゆあはお肉がいいの!」
3人で市場をめぐりながら、それぞれ目当ての食料を購入した。
俺はホットドッグみたいにパンに何かの肉を挟んだものを、セレナはサンドイッチと果実水を買い、ユアには俺がアニメで見るようなでかい骨付き肉を買ってやった。
その後、俺達は適当な木陰で一息ついて空腹も満たされ、再び市場をめぐることにした。
しばらく歩いていると、道具屋を見つけた。扱っているのはロープや砥石、ナイフに包帯などで、たぶん冒険者向けの店なのだろう。
「へい兄ちゃん、彼女さんとデートかい?」
「彼女じゃありませんしデートでもないです」
道具屋の店主の言葉を、セレナが即座に否定した。きっと照れているに違いない……あ、もしかして。
「セレナたんってツンデレだったのか」
「カケルさんは消し炭になりたいようですね? 焼き加減はどうしますか?」
「いやいや、消し炭に焼き加減とかないだろ」
「はっはっは、元気があっていいねぇ。それで、なにか欲しいものはあるかい?」
欲しいものと言われても、だいたいのものはストレージに入ってるしなぁ……。強いて言うならさっき見つけたあの瓶かな。正確にはその瓶の中身。
「この青色の液体はなんだ?」
そう言って俺は、小さな瓶に入っている謎の液体を指差した。
「そいつは魔力回復薬だ。名前の通り、飲めば魔力を回復できるが、効果は気休め程度だ」
「私もそれなりのものを何本か持っています。継続的に回復するものもあるんですよ」
魔力回復薬。ファンタジーっぽくてなんだかワクワクする。魔法を使っておいて今更ではあるんだけどな。
俺のストレージにもそれっぽいものが大量にあるけど、何か違うのだろうか。いくつか買っておいて後で調べてみよう。
「それからこっちが体力回復薬だ。飲むか直接体にかけるかすれば、傷を癒すことができる。中には欠損を治せるような代物もあるらしいが、そうそうお目にはかかれないな」
「噂では死んだ人を生き返らせるようなものまであるらしいですよ」
魔力回復薬が青色だったのに対し、体力回復薬は赤色だ。それにしても、すぐに傷が治るなんてめちゃくちゃ便利じゃないか。
まあ、俺は回復魔法も使えるし怪我で困ることはないと思うんだけどな。
「回復薬はポーションって呼ぶこともあるの。魔石にいろんな材料を混ぜて作ることができるの」
「詳しいな嬢ちゃん。アメ玉1つやるよ」
「わーいなの!」
ユアは店主から貰ったアメ玉を口の中でころころと転がして上機嫌だ。俺はそれぞれのポーションを数本ずつ買い、道具屋を後にした。




