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Finis talE ~最果ての地より~  作者: ひつき ねじ
20/20

シャオルーンの章 -20#ぼくであるということ-

「先生、シャオルーンが

”自分が人間ではない”と自覚したようです」


・・・イースさん

ぼくとしてはもう少し頭を整理する時間がほしかったです




                  Finis talE

                ~最果ての地より~


         シャオルーンの章 -20#ぼくであるということ-




「唐突だな、なにがあったんだ?」


場所は教会内で用意されたらしい客間の一室

顔を合わせるなり、行き成りの発言に

読んでいた書物から顔を上げて目を丸くするヴァンさん


長椅子の右側に座っていたヴァンさんの

膝の片方に頭を置いてうたた寝していたらしいゴールドさんは

興味なさそうにしてはいるものの視線だけは向けてきた

捕まってた時ヴァンさんたちにも刺客が向かった話を聞いたけど

特に怪我もなく無事な様子に安堵する


長椅子に歩み寄ったイースさんは

寝そべっていたゴールドさんを踏みつけようと無表情で勢いよく足を振り上げた

アレは踏みつけると言うより(かかと)落としだ

固い音が聞こえてくると同時に苛立ったゴールドさんの声も室内に響いて

これから展開されるであろう言い争いに配慮して

開かれたままの客間の扉を慌てて閉める


「何しやがるチンカス!」


「先ほど人為的に発生した白霞に乗じて襲撃を受けまして

その際シャオルーンが導力(ローク)の一部を覚醒させました」


「てめェ・・・!無視するなんていい度胸、」


「静かにしてろゴールド

・・・それで?」


起き上がる事で踵落としを回避したゴールドさんが

イースさんを睨みつけて、つかみかかる前にヴァンさんの手が伸びる

そのままゴールドさんの頭をポンポンと撫でると持っていた本も渡して

イースさんとの話を再開した・・・あしらい方が手馴れてる


てっきりつかみ合いが始まるかと思ったけど

意外にもヴァンさんのその行動だけでゴールドさんは唇を尖らせるに留め

受け取った本を持って部屋の端に備えてあったベッドに改めて寝転がった


(あれ、ゴールドさんが大人しい)


動作や雰囲気を観察すると、どこかしら疲れてるようにも見える

無傷っぽいとはいえ、ぼくらと同じく刺客の襲撃を受けたのだから

それなりに疲れてるんだろう

後ろ手に閉めた扉の前で突っ立ってたら振り返ったイースさんの視線だけで

こっちに来いと言われていることを察して足早に歩み寄った

ヴァンさんは目の前まで来たぼくの姿を上から下まで一通り見た所で

小さく息を吐きだし、笑みを浮かべる


「一部覚醒したって割に怪我は無いみたいだな」


「いえ、先ほどまで相当な怪我を負ってましたが

自力で形態変化を成功させてこの状態に戻っています」


「・・・そうか、分かった

シャオ、体は大丈夫か?違和感はないか」


イースさんの言葉で表情を引き締めたヴァンさんの瞳に心配の色が映る

その変化になんだか失敗した気分になって、つい俯いてしまった

ヴァンさんもゴールドさんも驚いたり取り乱したりする気配はない

ということはやっぱり皆、ぼくがどういう存在か

ずっと前から・・・きっと、初めて出会った時から気付いてたんだろう


「お師匠さま、あの」


「ああ」


「ぼくは・・・人間、では ないんですか?」


「どの種族か、と言われれば『緑種(ファミル)』に分類されるだろうな」


「ぼくは、人を殺す生き物なんですか?」


「それはお前次第だ」


「以前、緑種(ファミル)が人を沢山殺した事件があったって」


「他がどうであれ、シャオルーン

お前自身が己を律していれば問題はない」


「ぼく自身が・・・」


「不安か?」


端的な指摘に視線を落として手元で服の裾を握りしめる


―――・・・不安に決まってるじゃないか


行き成り人間じゃないって言われて

髪は生き物みたいに伸縮して

怪我だって初めから負ってなかったみたいに治って

何より人を三人も殺して・・・なのに、


人の命を奪った罪悪感なんて全く感じなかった


むしろヴァンさんへの脅威が減ると思うと良かったとさえ思えてしまって。

その感じられなかった罪悪の根幹に

ぼくが緑種(ファミル)であるという事実があるのだとすれば


(・・・っ)


うっかり、想像してしまった


脳裏を過ったのはこれまで見てきた浮浪と化した子供たち

周囲に迷惑をかけることでしか生きていけない彼らは

ヴァンさんと関りのない貧しい可哀そうな境遇の戦災孤児だ

もし彼らを手に掛けることがあったとして

果たしてぼくは彼らに罪悪を感じることが出来るのだろうか


「っ・・・」


弾き出された結論に、息を飲み込む

その子供たちを殺すことになっても、きっとぼくはなにも感じない

あれらの存在がヴァンさんの目に触れなくなるのなら

むしろ良い事なのではないかとさえ考えてしまった


そうだ

ぼくはさっき、イースさんをも殺そうとしてた

勘違いだと分かって武装解除はしたけれど

それでも次に同じような・・・ヴァンさんに明確な被害が及ぶと分かった時には

先ほどと同じく、迷いなくイースさんを傷つけようとするだろう


「ぼ くは・・・」


人を殺すのが当然の生き物なのかもしれないと考えるのが怖い

この先なんの感情もなく人を殺し始めてしまったら

自我を持たない緑種(ファミル)と同じく、今のぼくの自我が消えてしまったら

ヴァンさんを傷つけてしまう可能性がある

力の制御なんてどうすればいいのか分からないし

そもそもぼくにどれほどの力が備わているのかなんて見当もつかないし


(ああ、そうだ)


ゴールドさんが最初から言ってたじゃないか

ぼくが『無害』な内にどうこうって。詳しい事は分からないけど

決して良い意味じゃないって事だけは解ってる

だから、こんな状態のぼくが今臨める『対策』は


「お師匠さま、ぼくと”契約”して下さい」


「断る」


「えっ」


即答で拒否されて目を丸くする

ヴァンさんの表情が一気に厳しいものに変わった

二つ返事で了承してくれると思い込んでたから断られるなんて考えても無くて

イースさんが推奨した事だから”契約”というものにヴァンさんへの害などある筈がない

むしろヴァンさんを守る事が出来るものだと判断して助言通りにしようと思ったんだけど

もしかしてぼく、言い方間違えたのかな

えっと・・・あ、そうだ


「では”リアレイ”というのを、ぼくに」


言いかけて、ヴァンさんが触れていたひじ掛けの手元部分が

握りつぶされる形で砕ける

簡素な長椅子とはいえ頑丈な木でできているのに


「意味分かって言ってんのか」


苛立ちを隠しもしない、ドスの利いた声色

ヴァンさんの目には怒りが宿っていた

発せられる威圧感から今度こそ言葉が出なくなって

初めてぼく自身がヴァンさんを怒らせてしまった気がする

相当マズい事を言ってしまったであろうことは十分すぎるほど理解できたけど

それを鎮める手段が思いつかない

怖いけど、でも謝らないと


「あ、あ・・・ぅ」


ごめんなさいって言わないといけないのにうまく言葉が出てこない

しどろもどろで萎縮しきっていると

突きさすような視線をぼくの斜め後ろに移したヴァンさんが

ちょいちょい、と指先だけでイースさんを呼ぶ


ぼくは両肩を強張らせて、これから聞こえてくるであろう鈍い音に

耐える様に眉を顰め、歯を食いしばった

この雰囲気は確実にイースさんが殴られる流れだ

ごめんなさいイースさん

ぼくはダメなやり方で”契約”の話を持ち出してしまったんだ

意味も分かってないのに持ち出すんじゃなかったって後悔しても遅い


イースさんがぼくの隣を通り過ぎて直後、ガツっと痛そうな音が聞こえて

その音に連動するようにイースさんの背中と頭が揺れた

同時に目をぎゅっと瞑っていたぼくの肩もビクリと跳ねてしまう

どうしよう、ヴァンさんが物凄く怒ってる


「次は破門だ、覚悟しとけよ」


「出過ぎた事をしました、申し訳ありません」


「シャオルーン」


「はっはい!!!」


「来い」


進路を譲るようにイースさんの背中が横に逸れる

そうやって視界の端で見えたイースさんの横顔は頬が赤く染まってて

口の端から血が溢れていた

加減なく殴られたみたいなのに全く表情に出さないイースさんは凄い


(ひぇぇ・・・っ)


おそるおそる歩み寄り、ヴァンさんが手を伸ばせば十分に届く距離まで来る

怒ってるヴァンさんの表情を見るのが怖くて必死になって足元を凝視し続けた

ヴァンさんの片腕が持ち上がり

ぼくの目の前に迫ってきたかと思えばおでこに鋭い痛みを感じて

デコピンされたであろう反動で視界が勢いよく上に跳ね上がる


「よく覚えとけ

契約ってのは決して破る事の出来ない主従関係を築くという事だ

俺とゴールドがその主従関係にある・・・これがどういう意味か分かるか」


「え・・・?っと・・・」


「分からねェか?俺もゴールドも、契約関係にある限り

互いを『個』として見ることは絶対にないと言う事だ

主<あるじ>にとって僕<しもべ>は『使う』ものであり

僕<しもべ>は主<あるじ>に『使われる』存在、そこに尊重や思いやりはない

ゴールドは俺の道具であり、ゴールドにとって俺は使用者で

互いがそれ以上でも以下でもないと言ってるんだ」


「・・・道具、なんてそんな言い方・・・!

二人のやり取りは道具の一言で片付く関係にはとても見えませんっ」


「オメデタイね~

ならお前も契約して身を以て知ればいいよ、ゲロチビ

クソ人間どもに不本意にも従わなきゃならない屈辱と憎悪

意思に反して力を行使される事への嫌悪・・・

使役される度に認めざるを得ないのさ、自分が所詮は『道具』だって事をね」


「で、でも!ゴールドさんもお師匠さまを守ってるじゃないですか!」


「その行動が、いつボク自身の意思だなんて言った?

このボクが自発的に人間を守るとでも?ははっ!有り得ないね!

言った筈だよ、ボクは人間がだ~いっキライなのさ

手当たり次第に殺し尽したいほどにね」


「・・・ゴールドさ、」


「マスターであるヴァンが人を傷つける事を禁止してるから行動できないだけ

許可なしにイクどころかマスをかく事さえ許されない・・・

ボクは全てを支配されてるんだよ、そこの男にね」


「そんな・・・」


「ほんっと、ヴァンはボク以外には優しいよね~

たかが導力(ローク)の消耗品にしかならない緑種(ファミル)に珍しく自我があるからって

ひとつの『個』として扱おうとするなんてさ。契約があろうとなかろうと

ゲロチビは緑種(ファミル)である理から逃れる事なんてできないんだから

考えずに済むようにさっさと契約してあげればいいのに」


本人もそうやって逃げることを望んでるんだからさ、という言葉に

核心を突かれた気がして言葉を失う


(っ・・・ぼくは、)


逃げようとした・・・の、だろうか

存在しない罪悪への恐怖から目を逸らし、考えることを放棄して

イースさんの助言だからとその意味も知ろうとせず提案して

それにゴールドさんが言ってた『緑種(ファミル)である理』

それこそ今のぼくが最も知りたい情報だった

詳しく教えてほしい、と発言するより先に再びゴールドさんが「まぁ、でも」と口を開く


「そうやってゲロチビが判断を丸投げして

全部のしわ寄せを食うのはヴァンだけどね」


「・・・え、」


核心を突かれた直後、更に虚を突かれた

それは、つまり


「当然でしょ、道具の使いどころを考えるのは使用者

道具は契約という免罪符を盾にして命令を忠実に実行すればいいだけ。

・・・『トルスフォエイン』の大量虐殺の時みたいにさ」


「ベノン!」


険しい表情をしたイースさんが声を荒げる

まるでそれ以上口にするなと言うかのように


「あの時は爽快だったよ!

戦争終結って大義名分で人間を殺しまくる事ができたもの!

ヴァンの命令のお陰でさァ!!」


「貴様・・・っ」


「ボクに責任はない、当然だよ!

ボクを呼び出して人を殺せと命じたのはヴァンだもの!

契約に逆らえないボクは兵士も、命乞いする女もっ無力なガキも殺しまくった!!

ガキを庇おうとするジジィババァもみィんな例外なく丸コゲにしてやったのさ!

ヴァンがそうしろって言ったんだ!!全部ヴァンの責任さ!」


ーーー・・・そうか

ゴールドさんは『だから』こんな言い方をしてるんだ


「黙れ!これ以上先生を愚弄すると許さんぞ!!」


「お前が癒してあげなよチンカス

今でも苦しんでるヴァンをその粗チンでシコシコ慰めてさァ」


「・・・!!いい加減に、」




「ぼくは望みます」




シン・・・と、場が静まり返る

臨戦態勢だったイースさんとゴールドさんもぼくの発言で呆気にとられ

それまでのゴールドさんの発言に

ため息を吐いて額に手をあてていたヴァンさんも目を丸くしてぼくを見た

大きな瞳をぱちぱちと瞬かせたゴールドさんがぼんやりとしたまま呟く


「『望む』・・・って、なにを」


「お師匠さま、もう一度言います

ぼくと契約して下さい」


「てめェ・・・今俺が言った事理解できなかったのかよアァ?

飾りだけのドタマなら今すぐカチ割ってやってもいーんだぜ!!」


「理解しましたよゴールドさん

やっぱりゴールドさんはお師匠さまを守るために自発的に行動している

そこに契約が存在しているようにはどうしても見えないんです」


「マジで聞き分けねェのな・・・!

俺自身が言ってんのに素直に聴こうとは思わねーワケ?!」


「ちゃんと聞いてますよ、ただ・・・

ゴールドさんの思惑通りに事を運ぶ気はありません

ぼくは、今改めてぼく自身の意思でお師匠さまと契約したいと思ったんです」


「シャオルーン」


「はい、お師匠さま」


「ゴールドの言ってる事は事実だ

それでも俺と契約するってのか」


「はい」


「・・・っフザけんな!!」


ダン、と一際強く床を踏みつけたゴールドさんが荒い足取りでぼくに歩み寄り

胸倉をつかまれ宙吊りにされてしまう

睨みつけてくる怒り一色の形相

その目を、首を締めあげられる苦しみにもがきながらも必死に見つめ返した


「てめェは今!ヴァンに責任を丸投げするって宣言してるも同然なんだぞ!

コイツに今以上に荷物背負わせるってのか!

たかだか消耗品の分際で!フザけんなこの厄介者が!!」


ほら思った通り

やっぱりゴールドさんの意図は別の所にあったんだ

しかもここまで来ても本心は晒さない

ヴァンさんの負担を増やすなって言葉で覆い隠してる


自尊心を刺激しておきながらそれを責任の所在という話にすり替えた

まるで過去の自分の失態を隠すみたいに

生憎だけど、ぼくは一度ヴァンさんとゴールドさんの会話を立ち聞きしている

その時に言ってたゴールドさんの言葉がとても印象に残ってたんだ


『ヴァンはさ、俺だけ飼ってればいいの』


難しい会話の後、ゴールドさんがヴァンさんに言っていた言葉

これこそがゴールドさんのエゴイスティックな本心だとすれば


襟を絞める手に更に力が籠められるけど言い返すには十分

ぼくはもう、誰かの言いなりになったりはしない

この村で過ごした時の様に人に便利に使われるのではなく


これからは、ぼくの意思で


「ゴー、ルド さん」


「アァ?!」


「ぼくは・・・!」


言え、言うんだ

この先目の敵にされようと、虐められようと構うもんか


「ぼくは!貴方の様に失敗したりしない!!

ヴァンさんにだけ罪を感じさせたのは貴方の僕<しもべ>としての落ち度だ!」


「!!」


「ぼくだったら絶対に間違えたりしない!

ヴァンさんと一緒に!半分こして一緒に持ち続けるもん!!」


「・・・」


「・・・うっぐ!?」


直後、ぼくを掴み上げていたゴールドさんの表情から感情が消える

同時につかまれていた襟が一層締め付けられ、完全に呼吸が遮断された所で

もう片方の手がぼくの顔の前に向けられて


絹を裂くような鋭い音と共にぼくの頭が吹っ飛んだ


・・・あれ?

頭が吹っ飛んだって、なんでそんな事が認識できるんだろう

どうやらゴールドさんの強すぎる電熱で頭部が吹っ飛ぶように溶けたらしい

物凄い高温で、一瞬で焼かれたからか出血も無く断面は黒い塊になってる

斜め上に放たれた真っ直ぐな電撃は見事に壁を貫通し

出来上がった手のひら大の丸い穴の向こう側に外の闇が見て取れた


見て取れたって・・・

ぼく、頭吹っ飛んでるのになんでそれが見えてるんだろう

困惑してたらゴールドさんがヴァンさんによって羽交い絞めにされて

ぼて、と床に落ちたぼくの体はイースさんが助け起こしてくれた

けど、どう見てもやっぱりその頭は吹っ飛んでる

ハタから見ると完全に即死だと分かるぼくの体を前に悠長に話しかけるイースさん


「死にましたかシャオルーン」


「失礼ですね!生きてますよ!!・・・って

あれ?喋れるんですか?ぼく」


「ああ、そこに居たんですか」


ぼくの体を抱え起こしたままのイースさんがふ、と こっちを見上げてきた

イースさんの隣に居たヴァンさんもゴールドさんもぼくを見上げてくる

ヴァンさんに羽交い絞めにされながらも殺る気満々らしいゴールドさんの舌なめずり


「やぁっと本体がお出ましか・・・そこを動くなよ

今度こそたこ焼きにして食ってやるからさァ・・・!!」


「図星さされたからといって逆切れは格好悪いぞ、ベノン」


「黙れよハインリヒ、久々にキレてんだ

コイツ殺すまで止まる気ねェから、俺」


「お前が止まる気なくても俺が止めるがな」


「止めンなヴァン!野郎ゼッテェ許さねェ!!」


「照れ隠しも大概にしろ、教会の修繕費は誰が払うと思ってんだ」


「うるせェ!知らねェ!!全部ぶっ壊す!!!」


「・・・こりゃどうにも止まらんな、仕方ない奥の手だ」


(奥の手?)

何するつもりだろう・・・って思ってたら

ゴールドさんを拘束したまま袖を捲って、取り出した短剣で深めに腕を切りつけると

血が流れ出る前にその傷口をゴールドさんの口に押し当てた


「んぐっ?!」


「少し早いが『ご褒美』だ

いつもより多めにやるからシャオの事は許してやれ」


「・・・ ・・・ ・・・んぐ、んぐぐ」


「聞き分けが良くて助かる、さてシャオルーン

お前もそこで浮いてないでさっさとその体に戻っとけ」


・・・いやいやいやいや、


「意味わからないんですけど?!

なんでゴールドさんに血なんか飲ませてるんですかお師匠さま!」


「なんでって、そりゃあこいつが吸血種だからだが」


地人(メイズ)って・・・人の血吸うんですか?人食べたりするんですか?」


「そういう種類もいるってだけだ

ホラ、死んでるとはいえお前が長い間依り代にしてた体だろう

一番馴染んでる導力(ローク)なんだからこのまま塵に返すのは勿体ないと思うぞ」


促されて、イースさんが抱え起こしてくれている

頭のないぼくの体にとりあえず近づいてみる・・・というか、

(今のぼくどうなってるんだろう)

そんな疑問を即座に解消すべく、近づいたぼくに向かって

イースさんが大きめの鏡を向けてきた


そこに映っていたのは・・・


「・・・ 虫?」


「ほう、随分と丸くてぷにぷにしてそうなデカい虫ですね

しかも意味不明なトサカが付いてる上にド短足の四本足も付いてます

足とはいっても腹の丸みが邪魔して床を這おうものなら

その足では全く以て足としての用を足さないと思われます

むしろその丸みを応用して転がった方が早いかもしれませんね」


「・・・ど、動物?」


「虫よりは近いかもしれませんがそれだと目や鼻、耳がどこにも見当たりません

出ている声はその丸い腹から紡がれる腹話術かも知れませんし

見えている理由も顕微鏡を用いらなければ確認できないかもしれません

全身に目がある場合は潰す時の事を考えるとはぁやれやれ肩が凝ります」


「怖い事前提に説明しないで下さいよォ!」



「さっきの今だってのに、余裕あるなぁシャオ」



ヴァンさんが感心したように呟いくれるけど内心全然余裕なんか無いです

イースさんが説明してくれた、丸くて、ふわふわ浮いてて

役に立たなそうなちっちゃい前足と後ろ足があって

トサカみたいなのがあって、でも目とか耳とか鼻とかそれっぽいの無くて

そんな今のぼくの名状し難い姿は本来の緑種(ファミル)の姿なのだという。

刺客との戦闘時に起こった不可解な全方位の視野も

口から発せられたわけではない声も、全て本来の姿に起因しての事だった


なんとか首のないぼくの体に戻って・・・というか、

感覚としては自分のお腹に吸い込まれていく感じだったんだけど

先の出来事の時と同じように

強くイメージして体を復元させるようイースさんに言われ

二度目だった事もあり最初よりはスムーズに自分の頭を元に戻すことが出来た

視覚も、聴覚も人のそれと同じような感覚に戻る


「っぷは!!で、出来ました!戻りましたお師匠さま!」


やっぱりリキみ過ぎてつい呼吸を止めてしまってた

やっと顔が元に戻ったと思いつつ確認するようにぺたぺたと自分の顔を触って

笑みを浮かべながらヴァンさんたちに顔を向ければ

何故か三人ともぼくから若干の距離を取ってた


「・・・どうしたんですか皆さん」


「おェ~、今度から頭吹っ飛ばすの自重するわ」

「夕食時だというのに食欲が失せました」

「今度から体の復元は人目のない所でやるように、な?」


復元する間、必要以上にグロテスクな光景を晒してしまったらしい

その後、用意された夕食の席で

ゴールドさんが開けてしまった穴の修繕に関する話をして

刺客の襲撃とか色々あった関係で一泊するという流れになった


そして就寝前

契約をしたい、と改めて告げたぼくに対してヴァンさんは



「絶対にお断りだ」



と、なにやら嬉しそうな笑みを浮かべて返事を返される

結局断られてしまった理由は分からなかったけど

最初と比べて怒った様子は全然なかったから

次の機会にまた「契約してほしい」って言ってみようって気持ちになった

まだ完全な知識じゃないけど

今回の事を切っ掛けに自分が何者であるかを知る事もできたし


ぼくは戦災孤児ではなく人ならざるモノ

自我を持った、この世界では精霊と認識されている緑種(ファミル)

そんなぼくに記憶がなかった理由なんて簡単なもので


『拾われる以前の記憶は初めから存在しなかった』


これが最終結論


パルニアおばあちゃんに拾われて

知識を身に付けていく中で記憶という存在を知って、ぼくという個を理解して

そしておばあちゃんの言葉を胸に、四か月前この村を旅立った




『 お行きなさい、シャオルーン


  自分自身の為に


  本当の貴方を見つける為に 』




(おばあちゃん ぼく、見つけるよ)


自分自身の為に、これが本当の自分だと胸を張って言えるように

これからの自分を作っていく


ヴァンさんの傍で、作っていきたい




シャオルーンの章 ~完~

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