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Finis talE ~最果ての地より~  作者: ひつき ねじ
17/20

シャオルーンの章 -17#ぼくが育った場所-

「先生、これを使って下さい

四日前の戦闘後に偶然拾った透墨です」


「四日前の戦闘後・・・ってお前なァ」


ヴァンさんも呆れて何か言いたい表情してたけど

イースさん、それぼくが失くしたと思ってたヤツですよね?

ずっと隠し持ってたなんて、酷い・・・




                  Finis talE

                ~最果ての地より~


          シャオルーンの章 -17#ぼくが育った場所-




一切の寄り道なくクロセンツ極東へ向かう事六日目の正午

あれから刺客に襲われることもなく、予定より一日早い行程を踏んでいたぼくらは

目的の村まで目と鼻の先という所まで来ていた


道中殆ど馬車の中で導力(ローク)に関する勉強をしていたので

外の様子を窺い知る機会は極端に少なかった


あと少し、あと少しでぼくが育った村に到着するんだ

「そろそろお前の村に着くぞ」とヴァンさんから声がかかって

幌から外に顔を覗かせれば見知った景色を見つけてなんだか懐かしくなって

森に差し掛かった辺りから御者台に上がるとそわそわと周囲を見渡す


慣れ親しんだ光景をそこかしこに見つけて一層気持ちが騒いだ

そんなぼくの様子を見ていたヴァンさんが笑みを浮かべる

イースさんも心なしか眼差しが優しい


「随分嬉しそうだな、もしかして村に待たせてるイイ子でもいるのか?」


「お世話になっていたお婆様は亡くなられたと伺いましたが

そのご両親やご兄弟のお話は聞いていませんでしたね」


「ぼくの家族はおばあちゃんだけです

おばあちゃんも元々は一人暮らしでした」


「お婆様のお子さんやお孫さんはいらっしゃらなかったのですか?」


「んっと・・・よく、知らないんです

おばあちゃんはあんまり自分の話しをしなかったので。

村の人以外訪ねてくるお客様もいませんでした」


「そうですか・・・先生、土地も土地ですから結界(ケール)だけでなく

召威導術もかけておきますか」


「だなぁ、アロス領国境も山を越えればすぐだ

一応使っとくか」


「 『 オムヌェッダ 』 」


え、イースさん今なんて言ったの。

召威導術(しょういどうじゅつ)』なんていう聞きなれない単語が出てきたから

聞き漏らさないようしっかりヒアリングしてたのにすごく難しい発音を聞いた気がする


しかも導力(ローク)の発現と変換が速すぎる

導力(ローク)を視覚化した際に見える筈の白い靄が出てくる隙なんて全くなかったし

言霊による導力(ローク)変換も瞬く間に行われていた

ヴァンさんが火の玉を出してくれた時の速度とは比べ物にならない

更に、


「え?あ、あの、お二人ともなんかおかしい感じになってるんですけど?!」


「当然でしょう、今し方そうなる効果を持った導術を使用しましたから」


「そうなる効果って」


「使用したのは存在感や気配を薄める効力を持った術です

私はこういったサポート系の術を得意としているので効果も抜群ですよ

目を閉じてみなさい、気配に敏感な貴方でも見つけられない筈です」


言われた通り目を閉じればなるほど、イースさんの言う通り

衣擦れの音や御者台の軋む音がしない限り『そこに何かがある』と

察することが出来ないほど目の前に居る二人の気配が感じられなかった


導力(ローク)ってすごいなぁ

髪を乾かしたり紅茶の温度を適温に保ったり

暗闇を照らしたり怪物を退けたり

日常生活の細かい用途から実用性に優れてる


ぼくの村は導力(ローク)なんて便利な物とは無縁な生活を送っている人ばかり

当然知識だってない

髪を乾かすのも紅茶一杯入れるのだってとても時間がかかってた

最果ての町(アプ・ロ・フォレス)では第一種導力(エルダー・ローク)の知識を持っている人が

大半だってユゥトさんが言ってたけど

暮らしている場所や知識だけでこれほどに生活水準が異なるなんて驚きだ


そういえばぼく、都会らしい都会にはまだ立ち寄ったことが無かったんだよね

最果ての町(アプ・ロ・フォレス)はどちらかと言えば田舎に近い街並みらしい

・・・山村暮らしだったぼくにとっては十分都会な気がするんだけど。

クロス領の中心部に大都市があるって話を聞いたことがあるから

帰りに寄って帰ったりしてくれると嬉しいなぁ


兎にも角にも、


「凄い効果ですね

でも気配を薄くするって、なぜそんな必要が」


と、問いかけた所で『それぐらい察せないのか』と言わんばかりに

イースさんの視線が鋭くなる・・・と、いう表情の変化を

眉が僅かに潜められた時点でいち早く推測して急いで思考を巡らせる


「えーと!えー っと!そう!

アロス領が近くて、お師匠さまを狙ってる連中と

無駄な小競り合いを起こさない為とかですよね?!」


「そういう事です、さぁ そろそろ着きますよ

術布(シュテフ)はちゃんと巻けてますか?

一次帰郷の挨拶をしたい人がいるなら行ってきなさい

我々は教会へ向かいます」


言われて今一度自分の髪の状態を確認する

短くなって前より簡単に布で覆えるようになったから今もバッチリ(ロア)を隠せてる

服装も軽装で、身なりだって見違えるほど良くなったから

ひと目見ただけじゃ村の人たちはぼくがシャオルーンだって気付かないだろうなぁ

(ここで暮らしてた頃は麻布で全身すっぽり隠してたから

今みたいに腕や足を晒した事なんてなかったもの)

そして『教会』と聞いてただでさえ浮足立ってきた気持ちが踊りだす


「ぼくも一緒に行きます、牧師さまには

おばあちゃんの次に、って言えるほどお世話になっていたので」


「では 案内を」


「はいっ喜んで!」


御者台に座っていたヴァンさんと入れ替わる形で台へ座ると一次的に手綱を渡され

その行動の意図が分からず隣に座るイースさんを見上げれば

珍しくフードを目深に被り、口や鼻も襟元の余っていた布で覆っていた

見えるのはほんの少しの白銀の髪と青く煌めく瞳だけ


身なりを整え終わったのか、ぼくから手綱を取り上げると

いよいよ村の中へと馬を踏み込ませる

珍しく露出度が極端に低くなったイースさんの見た目に目を奪われた


「イースさん、普段から神秘的な雰囲気ですけど

その格好だとより際立ちますね」


「近づき難いでしょう、こういった山村では妙に興味を持たれるのを防ぐ為に

巡教者を装った方が都合のいい場合が多いんです」


「なるほど・・・では ぼくも皆さんに関しては

必要最小限の説明に留めておきますね」


「理解が早くて助かります」


「あ、目の前の分かれ道は左に行って下さい」


村の人たちが遠巻きにぼくらを見てる

馬車なんて初め見たんだろうなぁ、数人が誰かを呼びに行く素振りが見受けられた

村の中を通り過ぎる間にも同年代の子供が家から出てきてこちらの様子を窺い始める

仲が良いとは言えなかったけど見知った顔だ


(手を振って挨拶したいけど

今の格好じゃあ話をしないと気づいてくれないだろうなぁ)


イースさんは導術を使用までして『興味を持たれるのを防ぎたい』と言っていた

ならばぼくもここでは挨拶する人物を最小限にしておいた方が良いかもしれない

故郷なんだから気兼ねしなくてもいいかもしれない、でも

この村の人たちよりイースさんたちの意向を優先したい


村の人たちに挨拶をするならここでの用事を終えて帰る時だ


ぼくの誘導で牧師さまの家に辿り着いたけど

そこには既に屋内から出迎えの準備をしていたらしい牧師さまの姿があった

既に村の中で騒ぎになっていたらしく馬車が着く前に

村人が牧師さまに報告しに来てたらしい


三ヵ月前、旅立つ日に見上げた建物となんら変わりのない様子に安堵する

教会の前で馬を止め、イースさんが御者台を下りると牧師さまの元へ歩き出し

ぼくもそれに倣うように慌てて牧師さまの方へ向かった


「これはこれは・・・このような辺境の地に

零導師(セラヴ:フィニ)』がお越しになられるとは一体何事でしょう」


零導師(セラヴ:フィニ)・・・

過去イースさんから、騎士(セイン)導師(セラヴ)には

それぞれ実力に応じて称号が違うと説明を受けたことがある

零導師(セラヴ:フィニ)ってどれぐらいのランクなんだろう


「突然の来訪で申し訳ない、巡礼に立ち寄らせて頂きました

義儒をお受けしても宜しいか」


「勿論で御座います、どうぞ中へ」


当たり前だけど野次馬が多い

徐々に増えつつある村人に、物珍しさについ見に来てしまう心理は理解できるけど

いくらなんでも興味津々すぎるのでは・・・

と、思ってたらゴールドさんの怒声が響いた


「クソガキ!勝手に馬に触るんじゃねェ!殺すぞ!!」


可憐で美麗な容姿の一体どこから

そんな声が出るのかと思えるほど野太くてドスの聞いた声色

吃驚して全身が跳ねて、急いで背後を振り向く

野次馬していた子供の数名が不用意に馬車に近づいて馬に触ろうとしたらしい

子供の興味は幸いにも馬だけだったから良かったけど

車内にはヴァンさんが居るから勝手に中を覗かれるのは困る


だってヴァンさんはイースさんのように牧師さまに挨拶をしに出てきてないから

お師匠さまであるヴァンさんがこの場に出てこないという事は

あえて姿を隠してる可能性が高い

その推測を裏付けるように幌の上で睨みを利かせていたゴールドさん

怯えた子供たちはそそくさと一緒に来ていたらしい親の傍へと帰っていく


突然の罵声に驚いた牧師さまに、イースさんの目は穏やかに笑みを浮かべて

さらりと背後の状況を受け流した


「連れの口が悪くて申し訳ない、どこか馬を休ませられる場所はあるだろうか」


「お優しい方ですね、馬には狂暴な一面がありますから

子供たちが蹴られずに済んで良かった

宿でしたら当教会をご利用下さい、馬小屋は裏にあります

替えの馬は居りませんが手入れはしてありますのですぐに使えますよ」


「助かります

義儒を行ったら発つ予定ですので宿に関してはお気遣いなく」


「分かりました、準備を整えますので自由に寛いで下さい」


牧師さまは前と変わらずの好意的解釈だ

馬なんて村では一度も見た事なかったから

教会の裏にそういう設備があるとは思わなかった


思い返してみればこれまでの道中も馬を変える際に

ここと似たような施設を経由していたような。


それよりもっと驚いたのは

牧師さまに第一種導力(エルダー・ローク)に関する知識があったという事

ぼくも結構ここの蔵書を読ませてもらってたけど

導力(ローク)に関する本は一度だって見た事がない

・・・一般に教えちゃいけない知識なのかも


「では村の中を見て回ります

車内にもう一名休んでいる者がいますがそのままに」


「長旅は大変ですね、滞在に変更される場合も遠慮なく仰って下さい」


話を終えて、野次馬が遠巻きに群がる中

イースさんはゴールドさんにアイコンタクトだけで

教会裏の馬小屋へ馬車を移動させるように指示を出した

不満げにしていたゴールドさんは面倒くさそうな表情はしたけど

渋々御者台に下りて馬車を移動させ始める


「では我々は村を見て回りましょう」


「はい」


短く返事を返したぼくの声色に聞き覚えがあった牧師さまは

少しばかり怪訝な表情をしていたけどこの場で名乗り出るのは控えておいた

やっぱり格好が違うだけで気付かれないもんだなぁ

周囲が野次馬だらけの状況でシャオルーンですって言ったら

多分イースさんも”巻き込まれて”面倒な事になると思うからこれ以上は黙っとこう


教会は村全体で見ると最奥の端に位置してる

村の中心に向かう形で歩き始めたイースさんを避ける様に人垣が割れて

先ほどのゴールドさんの件もある所為か声をかけてくる人はいなかった


他者の耳が届かなくなったであろう距離まで歩いた所で

イースさんが声を潜めて話しかけてくる


「先ずは貴方のお婆様の家に向かいましょう

ここの魔導師(リメオン)が正式に派遣されている者で安心しました

辺境では身分を偽って教会を開いている者も多いと聞いていますから」


魔導師(リメオン)、ですか?牧師さまではなかったんですね」


「一般的には牧師で構いませんよ

我々(ロア)を持つ者の専門的な呼称が魔導師(セラヴ:リメオン)というだけです

階級でいえば上から三番目ですね」


「では、零導師(セラヴ:フィニ)というのは」


導師(セラヴ)の役職の中で最高位の称号です

この世に数名しかいません、ちなみに

留守を任せた際に居た妙齢の女性の事を覚えていますか」


「はい、綺麗な方でした

名前は確か・・・えっと・・・えーっと、」


「シュレン・ウォーケン、彼女の持つ称号は聖導師(セラヴ:クロア)

導師(セラヴ)という枠組みの中で二番目に権威を持つ立場にあります」


「えっと、一番目が零導師(セラヴ:フィニ)

二番目が聖導師(セラヴ:クロア)で、三番目が・・・」


「全部で五段階の称号がありますが覚えなくてもいいですよ

学導院に通う機会でもなければ必要のない知識ですから」


「学導院って、導力(ローク)を学べる学校の事ですよね

楽しみだなぁ」


「貴方には縁のない場所です

そんな事よりさっさと案内して下さい」


縁がないってそんなにバッサリと言い切らなくても・・・

イースさんも『神童』と呼ばれるほど優秀らしく

ヴァンさんにだってクロスロード連合国の英雄という輝かしい功績がある

そんな人たちの下で学ぶのだから学校に行く必要だって無いのは分かってるけど

(興味あるんだけどなぁ)

ヴァンさんも帰りに可能であれば寄ってくれるって言ってたから

内心楽しみにしてたのに

イースさんがこんな調子じゃあ期待はしない方がいいかも


教会の対角にある斜面を登って少し奥まった細道を歩く

過去に何度も、何度も行き来した道

三ヵ月も経ってるのに牧師さまが手入れしてくれてるのか獣道にはなってない

この先にあるのはパルニアおばあちゃんと過ごした家だけだ

村人が数名、遠くでこっちの行動を見てる

それを見てるとなんだか途端にヴァンさんたちが心配になってきた


「お師匠さまはあのまま馬車に?」


「いえ、私たちの行動は貴方の家と周辺の森に分かれています

今頃はベノンと共にこの村周辺の探索を始めているでしょう

森に囲まれているので夜が訪れるのも早い

暗くなる前にこちらも早めに用事を終わらせますよ」


「いつの間にそんな段取りを」


「貴方が眠っている間に。

あの家で間違いありませんか」


「はい、良かった

まだ誰も移り住んでなくて」


「こんな奥まった場所に立っている家なんて不便で仕方がないでしょう

先ほど見た限りでも村に若い人は少なかったようですし

水を汲む川も麓に近かった、老体に先ほどの坂もかなり堪えるでしょうから

心配せずとも今後も空き家のままの可能性は高いですよ」


もう随分と痛んでるようですし、と

家を一望できる場所まで来て付け加えるイースさん

牧師さまも家の手入れまではしてないらしく

たった三ヵ月だというのに屋根の一部は崩れてしまっていた

近くに落雷もあったようで木が真っ二つに割れてしまっている


蔵書や巻物といった類は簡易だけど地下にあるから雨風に晒される心配はない

イースさんが目的としているのも書類関連だろうと踏んで

立て付けの悪くなった扉を強引に開けると一番にその場所へ案内した

屋根が崩れていた場所は風呂場だ

地下で書物に目を通し始めたイースさんを見届けてから

家の中の状態を大まかに確認する


(・・・うん、これならまだ宿としても使えそう

いざって時はぼくがここでお師匠さまたちをおもてなししよう)


粗末な台所で一人しきりに頷きながら、扉のない狭い自室に向かう

藁を詰めて布で覆っただけの寝床と切株を再利用しただけの机を見て

ヴァンさんの家で用意された今のぼくの自室を思い出すと

その”差”につい苦笑いしてしまう

部屋の隅に置いていた替えの麻衣を手に取ると懐かしいなと独りごちた


「本当に・・・信じられないほどの生活の変化だなぁ

ここに居た時のぼくでは考えられない状況だ」


肌触りの良い服と、毎日のお風呂

隙間風のない暖かい夜、心配の必要がない日々の食事


知ってしまった、経験してしまった


こんなにも恵まれた生活を当たり前に享受している人たちが居るという事

ヴァンさんたちがどんな生活をしているか、なんて

この村の人たちにはきっと想像もつかないだろう

そしてぼくも、その『想像のつかない生活』をしているのだと思うと


(・・・ちょっと気分良いなぁ)


優越感


この村はぼくの故郷ではあるけど住んでいる場所はもう違う

みんなが憧れている英雄を知っている

人の力以上に便利なものがある事を知っている


(自慢したいなぁ)


ここでの用事を終えて帰る時に挨拶しようと思ってるから

その時に、ここでいつもぼくをのけ者にしてた子供たちにくらい

”羨ましい”って、羨望の目で見られたい


恥ずかしくてヴァンさんたちには言わなかったけど


ぼくはこの村で暮らしてた頃

いろんな人たちに便利に使われる日々を送っていた



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