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Finis talE ~最果ての地より~  作者: ひつき ねじ
10/20

シャオルーンの章 -10#空想の証明-

「とても気持ちが騒いでいたのに撫でてもらっただけであんなに熟睡できるなんて

お師匠さまの手って癒しというか、不思議な暖かさがありますよね!」


「貴方がぐっすり眠れたのは飲み物に睡眠導入剤が入っていたからですよ」


・・・薬盛った相手を目の前にさらっと言いますかそういう事。




                  Finis talE

                ~最果ての地より~


            シャオルーンの章 -10#空想の証明-




目が覚めると窓の外は真っ暗だった

ヴァンさんと話してからいつの間にか熟睡してしまっていたぼくは

慌てて部屋を出て一階に下りたんだけどリビングには誰もいなくて

通路を挟んだ向かいの、高価な物や本棚が乱雑に置かれた部屋から

人の気配がしたからその扉をノックしてみた


間を置かず「どうぞ」と答えたのは

暗い室内に持ち込んだランタンで手元を照らし読書しているイースさんだった

隣いいですか→好きにしなさい→では失礼して→随分ぐっすり眠っていましたね

という簡潔な経緯(プロセス)を経て冒頭の会話に至る


「薬を盛る意味が分からないんですけど」


「先生と二人きりでしたい話がありましたから」


「わざわざ眠らせなくても立ち聞きなんてしませんっ」


「貴方の主張はどうでもいい、用件だけを言いなさい」


相変わらず氷のような対応だけど

出会った当初の威圧感とか警戒心は随分緩和されたと思う

でも信用されるにはまだまだ遠い、当たり前みたいに薬盛られたし。

会話の間イースさんの視線は本の文字を追うことのみに集中していたけど

ぼくとしっかり受け答えできてるので

二つの事を同時にできる器用な人だということが良く分かった


「お師匠さまはどこですか」


「ベノンと町へ行ってますよ、貴方は私と留守番です

勝手にどこかへ行ったら縛り上げて軒先に吊るしますから

どうぞ遠慮なくどこかへ行って下さい」


「それっていちいち相手にするのが面倒だから

いっそ縛られて吊るされろって言ってますよね」


「ほう?先生の言った通り頭は悪くないようですね

ではついでに言っておきますが、今日のように

自分の行動が当たり前だという言動は今後慎むよう気を付けなさい

先生も私も貴方が思っている以上に力を持っているのですから」


「え・・・」


危ない人が姿を見せずに刃物を投げてきた時ぼくがとった行動の事だよね

ヴァンさんからやんわりと戒められたのにイースさんからも指摘されるって事は

立場的に相当生意気な行動を取ってしまったということだ

ゴールドさんも後でこの件についてチクチク言ってきそうだなぁ性格的に。


先の事を考えて陰鬱な気分になるぼくの様子なんて気にも留めず

そっとページをめくるイースさん


「行きがかり上弟子として居候することになった貴方の事ですから

先生がどんな立場の方かも知らないのでしょうね」


「あ、はい・・・それなりに偉い立場の方だろうとは思ってますけど。

この町で便利屋みたいな事を生業(なりわい)にしてるんですよね?」


歯切れ悪く答えればイースさんの視線が本から離れ

思案するように宙を漂ったかと思えば

軽い音を立てて本が閉じられてランタンの傍に置かれる


もう読まないのかなと様子を窺うと

見方によっては睨まれてると取れるような鋭い流し目を寄こされて

視線が合うと同時に反射的に背筋が真っ直ぐになる

まだ何も言われてないのに「はい!」と相槌を打つ声を出してしまった


「良い機会ですから先生や私たちの事を少し話しておきましょう

シャオルーン、これから話すことは他言無用とまでは言いませんが

あまり公言すべきでない事は理解しておきなさい」


「分かりました」


「先ず、私と貴方の師であるヴァン・レゾンという人物の

世間一般でのプロフィールですが・・・彼はクロスロード連合国の”英雄”です」


「え"っ・・・」


「先の世界戦争で祖国を勝利に導き、千年にも及ぶ争いに終止符を打ったんですよ」


「千年戦争終結の当事者!?ほっ本当ですかそれ!」


「田舎出身の貴方でも流石にこの情報は知っていましたか」


「勿論です!6491年に和平条約が結ばれて

クロス領とアロス領の行き来が公式で可能になったんですよね!

当時の新聞を読んで勉強しました、それまでは完全に断交していたのに

歴史的な瞬間だったってパルニアおばあちゃんも言ってました!

・・・でも、」


おばあちゃんの名前を出すと同時に

当時その情報を教えてくれた様子も思い出して表情が曇る

そんなぼくの表情の変化を見ていたイースさんは

ゆっくりと瞬きしながら改めて視線を向けてきた


「村の皆は口をそろえて凄い事だ、良い事だって言ってましたけど

おばあちゃんはそうじゃなかったんです」


「と、言うと?」


「とても悔しそうで、泣いてました

アロスが降伏した・・・とても屈辱的な事だ、と

それからはこの話題はあまりしたがらなくて、『千年戦争の英雄』に関しても

村の人たちからの又聞きで脚色されているだろうから

参考程度にしか聞いてませんでした」


と言ってもやっぱり『千年戦争の英雄』の話は

ぼくやぼくと同じぐらいの子供たちにとっては憧れみたいな存在で

英雄ごっことかして遊んでいた子供たちを毎日飽きずに眺めていた記憶がある

まるでどこかの童話の主人公のような、現実離れしたヒーロー

大人でも知らない人はいない位有名だ


その『英雄』が、なんとヴァンさんの事だったなんて!!


おばあちゃんの事を思い出すと複雑だけど

雲の上の存在だと思っていたヒーローがすぐ傍にいて

しかも既に話までしてしまっていたと分かれば興奮せずにはいられない


「戦争を終結させた本当の経緯(いきさつ)とか聞いてみたいなぁ・・・!

やっぱり皆から聞いた通り

天から千の光柱を呼び出して戦場を平和の光で満たしたのかな

それとも聖なる炎で敵兵たちの悪しき心を浄化とかさせたとか・・・!」


見るからにそわそわし始めたぼくに小さくため息をついたイースさんの手とうが

ぼくの頭をふたつにカチ割らんばかりの強さで叩き込まれた

突然の事で防ぐ事はおろか身構えることさえできなくて

理不尽な暴力に対し抗議の声を上げる


「痛ぁ!?なっ・・・なんなんですかイキナリ!」


「戦争とは痛めつけ、血を流し、悲鳴や呪いの言葉を聞き

心を壊しながら人の命を奪う事を意味する・・・復唱しなさい」


「・・・ ・・・せ、戦争とは・・・痛めつけ血を流し、悲鳴や呪いの言葉・・・を、聞き

心を・・・壊しながら、人の、命を・・・」


「シャオルーン、貴方はそれでも当事者である先生に

戦争終結時の事を聞くというのですか」


言われて気付いた・・・ぼくが人から聞いて知っているのは

聞く人言う人の言葉の数だけ改ざんが加えられ大衆用に彩られた美談だという事

そして、その美談の真相を知るヴァンさんにとって

千年戦争の終結は決して華やかではない記憶だという事


「・・・お師匠さまにとって、先の戦争は辛い記憶なんですね」


「仲間を失くし、同胞を奪われ、親友を殺され・・・それでも生き残り

創世記から続いていた無益な戦争に終止符を打った

あの人は争いに関わった全ての人間の業をたった一人で背負い続けている

優しく聡明で、どこまでも綺麗な人なんです」


「イースさん・・・」


「そんなあの人を傷つける存在があれば赦しはしない

私はこの世の全てから彼を守りたくてここに、あの人の傍らにいるんです

わかりますか」


「はい」


「ですからシャオルーン、先生を傷つけるような事があれば

例え貴方であっても死を以って償わせますよ」


「・・・あの、気になったんですけど」


「奇遇ですね、私も気になっていることがあるんですが」


「あ、イースさんからどうぞ」


「では遠慮なく、貴方先ほどパルニアというお婆さんの話をしていましたが

その方はもしやアロス領出身の方ではありませんか」


「え、どうでしょう・・・聞いたことが無いので分からないです」


「先の戦争終結を『屈辱だ』と言ったのが事実であれば

アロスフォニア出身の、しかも高位な立場にあった人である可能性が高いですね

表向きは双方和解による和平条約の締結という運びで

千年戦争で『アロス側が先に降伏した』事を知っているのは一部の権力者だけです


それに貴方の出身地であるクロセンツ極東といえばアロス領国境に隣接している

・・・私の予想が正しいとすれば、シャオルーン」


「なんですか?」


「アロス出身の人間に育てられながらよく偏見も差別もなく育つことが出来ましたね

本来であればクロス側の人間を憎悪するよう洗脳されている筈ですよ」


「洗脳って・・・物騒ですね」


「もっと早くに聞くべきでした・・・貴方、どこで拾われたんですか」


「あ、はい、おばあちゃん曰く村にほど近い『森の中』らしいです

素っ裸でさ迷ってたって言ってました、その辺りの記憶は曖昧なんですけど

やっぱり捨てられたのかなぁ、ぼく・・・それがショックで記憶が飛んだとか・・・」


「分からない事をあれこれと想像しても無意味ですよ

しかし一度、貴方が拾われたという森に行ってみた方が良いかもしれませんね」


「記憶探しの旅に出て一番に行きましたけど

三日散策してなんの収穫もありませんでしたよ?」


導力(ローク)のなんたるかも知らない貴方と、それを熟知している我々とでは

物の見方が根本的に異なるんですよ」


「お、仰る通りです・・・

じゃあ、クロセンツ方面に向かう機会があればその時にでも案内しますね

一昼夜で行ける距離ではないので」


「そうですね・・・寄り道なく真っ直ぐリュナン平原に向かうだけでも片道一週間は掛かる

長旅になるなら先生にも予定をお伝えしておかなければ」


「えっと、ぼくが気になった点を伺っても良いですか?」


話に一区切りついたであろう所でしゅぴっと片手を挙げて

発言権を求めてみる

是と頷いたのを見届けて、ぐっと身を乗り出した

この疑問点を掘り下げればとても興味深い話を聞けると思ったからだ


「さっきイースさん

千年戦争の事を『創世記から続いている無益な戦争』って言いましたよね

先の戦争って命題通り『千年前から』って意味じゃないんですか?

ぼくが知らないだけで、もっと前からクロスとアロスは争ってたんですか?」


「・・・まぁ、隠す事でも無いですし事実だから言いますが

クロスとアロスはこの世が始まる前から仲が悪かったんですよ」


「初耳です!おばあちゃんの持ってた文献には

創世記の出来事にそんなの書いてありませんでした!」


「貴方は歴史文学に明るいようですね」


「はいっ殆どが『ル・ニーア』と呼ばれる歴史文書ばかりでしたが

その本にクロスロード連合国が出てきたのは

千年戦争が始まった辺りからが初めてでしたし

それまでは創世記からずっとアロスフォニアと呼ばれる都市を中心に

世界中が栄華を極め、人々に豊穣と安寧をもたらしていたと記されていましたから」


「・・・それは、もしや大樹神話と呼ばれる『フォニア経典』の内容では?」


「え!?イースさんも知ってるんですか!!?

ぼくあれ、全巻読みました!

凄いですよね!アロスフォニアの楽園の、」


「あの経典の中身はでっち上げと嘘っぱちですよ」


「人々の・・・話・・・」


食い気味にスパっと切り捨てたイースさんの発言で

興奮して話を盛り上げようとしていたぼくの語尾がしぼんでいく

最終的に絶句してしまったぼくに、イースさんは再度告げてきた


「もう一度言いますが、あの経典に真実は何一つ書かれていません」


「・・・」


・・・え?そうなの?

確かに真実が正確に記されている文献は珍しいし、新聞だって

『書かれている内容が本当とは限らない事は肝に銘じておきなさい』って

常日頃おばあちゃんから言われてたからそういう事もあるんだなって思ってたけど


そんなおばあちゃんが読んで学べと渡してくれたものだっただけに

自分が読んだ文献に記された出来事は全部本当だと思ってたから

それが嘘だでっち上げだと言われてしまうと流石に哀しいものがある


気分が沈み込むのと比例するように肩を落とし、眉をひそめて俯く

落ち込んだぼくを気遣うようなイースさんの優しい口調が聞こえてきた

・・・けど、


「学んだ事が偽りだらけだったことがショックなのは分かりますが

歴史文書に捏造なんて珍しくもない事ですよ

それにしても例の経典を全巻とは・・・やはり洗脳教育を受けていたようですね

何にせよ、手遅れな状態でなくて幸いでしたが・・・」


後半の言葉が悲しみに暮れていたぼくの感情を引っ掻いた

反射的に怒りが沸き上がり、つい声を荒げてしまう


「イースさん、洗脳洗脳って言いますけど

ぼくはパルニアおばあちゃんに一度だって何かを強要された事はありません

あの経典だってぼくが進んで読んで学んだんです!

おばあちゃんを悪い人みたいに言うのは止めてください!」


俯いたまま怒鳴る、なんて

気遣ってくれたイースさんにあたるような真似をしてしまったと気付いて

途端に後悔の波が押し寄せた

でも、その後悔に気付かないフリをして意固地になってしまったのは

やっぱりぼくがまだまだ子供だからだろうか

イースさんの口調だって悪意のある言い方ではなかったのに・・・


「気分を害したのであれば謝りましょう」


「イースさんが言ってることだってそれこそ嘘っぱちかもしれないじゃないですか

創世記からだなんて、そんな昔の事をどうして真実だと言い切れるんですか?

その時代を生きてきたわけでもないのに」


ぼくの返しに驚いた顔をしたイースさんが

一拍置いて落ち着いた口調で謝ってくれたけどそれでも腹の虫は治まらなかった

それを察したらしくすかさず話題が切り替えられる


「歴史に関して真実か偽りかを追求するのはナンセンスですね

話題を変えますか、次はベノンに関してですが」


「イースさん、まだ話は終わってません!」


「彼は人間ではありませんよ」


・・・


「・・・はい?」


ぼくの気を逸らす意味でなら大成功といったところだろう

余りに突然の言葉で一瞬頭が理解する事そのものを拒否してしまった

ちなみにイースさんが『ベノン』と呼んでいるのはゴールドさんの別名だ

・・・なんでベノンと呼んでいるのかは聞ける機会がなかったけど

もしかしたら今聞くことが出来るのかもしれない


「ぼくのことおちょくってるんですか?

確かにゴールドさんって男の子なのに女の子みたいな見た目してるし

すっごく可愛いし、なのに大人じゃないと生えない場所に毛が生えてたり

口調が吃驚するぐらい汚くて見た目からくるイメージが崩壊してますけど

だからって人間じゃないなんて、いくらなんでも酷過ぎると思います」


「ですが事実です、彼は人間ではなく『悪魔』と呼ばれる存在ですよ」


「天使や悪魔なんて空想上の生き物の事じゃないですか

あんなの本の中の作り話で実在なんてしないって知ってます」


「天使も悪魔も・・・『精霊』も実在するんですよ」


「信じません」


「そうですか、では本人に聞いてみるといいでしょう

彼は自身が魔族である事に誇りを持ち、人間と同一視されることを非常に嫌いますから

嫌がらせするには丁度良いかもしれませんね」


ぼくの反対意見は相手にされず、見事に受け流されてしまった

少し前に言われた『貴方の主張はどうでもいい』という言葉が頭の中で繰り返される


(だったら、ぼくと話をするなんて

意味ないって言ってるようなものじゃないか!)


それ以上に陰口みたいな事を言うイースさんと居るのが不快で

ぼくは早々に席を立つと足音を荒立てながら部屋を出た

普段よりほんの少しだけ強く扉を閉めた所で玄関先から音がして

同時に感じた人の気配にヴァンさんたちが返ってきたんだろうかと

表情を明るくすると小走りで玄関へ向かう


辿り着くと同時に目の前の扉が開かれ、ヴァンさんとゴールドさんが帰ってきた

・・・のは良いんだけど、ヴァンさんは何故か全身ずぶ濡れだ


「おかえりなさっ・・・い・・・」


「お、シャオ 起きたのか

ただいま」


「どうしたんですかその恰好!?」


「ロア狩りの連中を見つけてな、この通りだ」


肩をすくめてヤレヤレってジェスチャーしてるけど

何がどうこの通りなの、と思ってたら

後から入ってきたゴールドさんが鼻をつまみながら補足してくれた


「川を泳いで逃げようとして溺れてちゃ世話ないね、あんなの助ける価値ないってのに

ヴァンもヴァンだよ、あんな原始的な助け方して・・・さっさと風呂入ってきてくれない?

生臭いったらないよ」


「水も滴るイイ男を目の前になんつー物言いだお前は」


「ボクの美貌に勝てると思ってんの?

大体ヴァンとはイケメンのカテゴリーが違うでしょ

いいからさっさとその不快な臭いをなんとかしてきてっ」


確かにゴールドさんの言う通りとてもドブ臭い

川を泳いだにしてもきっとものすごく汚い場所だったに違いない

汚れきった髪を後ろにかき上げながらお風呂に向かうヴァンさんを

すれ違いざまにうっかり鼻をつまみながら見送って気が付いた


通路の先、お風呂場へ続く扉の前には

いつのまに部屋から出たのかイースさんの姿があって

その腕には数枚のバスタオル

ヴァンさんの肩越しに視線が合うと明らかに睨みつけられ

感じた威圧感から鼻をつまんだままだったぼくは

慌ててその手を下して直立姿勢で固まり

ヴァンさんが脱衣所に入った後を追って扉を閉める瞬間まで

責めるような、非難するような視線は外れることが無かった


脱衣所へ続く扉が閉ざされた所でやっと体の力が抜ける

ぼくの後ろで一部始終を見ていたゴールドさんが楽し気な声色で(つつ)いてきた


「ヴァンの事を汚物みたいに扱うからだよ

鼻なんかつまんじゃって、ほんとバカだねお前」


ゴールドさんもしっかり鼻つまんでましたよね、と不公平を指摘した所で

ぼくの身の安全が脅かされることは目に見えてるのであえて触れないでおく


「臭すぎてつい反射的に・・・しかも出遅れちゃった・・・

ホントはぼくがお湯の準備をしなきゃいけなかったのに」


「ま、性質上穢れは嫌悪対象なんだし、しょーがないんじゃないの?」


「性質上ってどういう事ですか」


「誰だって汚れものは触りたくないでしょ?

ま、アイツだったらヴァンのクソでも平気で食べそうだけど」


「冗談に聞こえないんですけど」


「はははっ!あのチンカスの事分かってきてるじゃん!

ヴァンに関しちゃアイツは相当イカれてるからね」


それは先ほどの会話で十分理解できた

イースさんは根っからのヴァンさんびいきだ


『 優しく聡明で、綺麗な人 』


その印象はイースさんから言われるまでもなくぼく自身も思ってた事

共感からとても親近感が沸いたんだけど

後でおばあちゃんを非難されたのはやっぱり嫌だったし

ゴールドさんの事だって、ぼくなんかよりずっと長く一緒に暮らしてるのに

家族同然であろう相手を『悪魔』と罵るなんて

どんなに犬猿の仲であっても人間性の否定はやっぱり言い過ぎだと思う


「ぼく、イースさんがあんなに最低の事を言うなんて思ってませんでした」


「へぇ?それってボク以上に最低の事言ったってこと?」


自分が普段から最低な発言をしてることは自覚してるんですね、と

言ってみた所でぼくの身の安全が脅かされることは目に見えてるので

これについてもあえて触れないでおく


「はい」


「興味あるなぁ、教えてよ」


「ゴールドさんの事を『悪魔』だって、人間じゃないって言ってたんです

あんまりです・・・酷過ぎますよ」


「”ひどい”?なんで?」


「なんでって!ゴールドさんの人間性を否定する発言ですよ!?

普段の罵り合いなんかとは違います

ぼくだって、どんなに仲が良くても言っていい事と悪い事の区別はつきます!」


「あっははは!!」


(え・・・?な、なんで笑えるの?)

ゴールドさんはお腹を抱えて大声が出るほど笑ってる

酷い事を言われてるのに、どうして・・・


ぼくの狼狽をよそに一頻り笑い終えたゴールドさんは

心底愉快そうな笑みを浮かべてぼくを見下ろし、言った


「だってボク、正真正銘の『魔族』だもの」


覗き込まれた瞳は明らかに人間のものではなく

まるで目の中だけで月食が起きたかのように不自然で歪な形を模していた

ぼくはこの日、初めてこの世界に天使と悪魔が実在していることを知った



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