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終わった世界の復讐者 ―僕はゾンビを操ってクラスメイト達に復讐する―  作者: さとうさぎ


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バレンタイン兼エイプリルフール番外編

※本編と関係ないので全然飛ばしても大丈夫なやつです


突然始まるバレンタイン兼エイプリルフール短編。

めちゃくちゃパラレルワールド的設定なので、頭からっぽにして読んでください。

ざっくり言うと、ゾンビパンデミックが起きていない世界線みたいな感じです。


 ーーバレンタインデー。


 世の男子学生たちが異常にソワソワし始める悲しき祭典。

 この少年、夜月 帳もまた、そんな悲しい定めから逃げることの叶わなかった馬鹿の一人であった。


 ところで。


「…………」


 ベッドの上。

 やけに重い頭を引き摺りながら、トバリは体温計を眺める。

 画面に表示される温度は37.8度を示していた。

 風邪である。


「ちょっと無理しすぎたか……?」


 思い返してみればここ数日、夜中はゲーム三昧であまり睡眠をとれていなかった。

 両親共働きで食事も適当になりがちなのも相まって、不摂生が祟ったのか。


 とはいえ、微妙な温度だ。

 体調が悪いとはいえ、学校に行くこともできなくはないだろう。

 普段なら体温計をストーブに近づけてでも全力で休むところだが、今日に限ってはその方針も覆る。


 なにせバレンタインデーだ。

 学校に行かなければ、今年のバレンタインはチョコ0個で終わることがほぼ確定する。

 多少無理をしても、這いつくばってでも登校する理由がある。


 と思ったのだが。


「ーーどれどれ」

「うぉっ!?」


 突然額に手を当てられ、トバリは一瞬硬直する。

 ひんやりとした手が心地よいーーじゃなくて。


「うーん?」


 そうしてみてもよくわからなかったのか、少女はぐいっと顔をトバリの方へと近づけてきてーー額をくっつけた。


「あ、あの、刹那さん? ちょっと近いというか、近すぎるっていうか!!」


 長い黒髪が、トバリの頬をくすぐる。

 透き通るような黒色の瞳が、トバリのことを心配げに見つめている。

 心なしか、なんだかいい匂いもするような……。


「あらら、ちゃんと熱あるね……。残念だけど、今日は学校休んだ方がいいよ」


 全然人の話を聞いていない少女の、くっつけていた額が離れる。

 顔が赤くなっているのを自覚しながら、トバリは少女ーー刹那の顔を見た。


 彼女は沢城 刹那。トバリの幼馴染だ。

 なんだかんだの腐れ縁で、物心ついた頃からずっと、毎朝部屋まで起こしに来てくれるありがたい存在である。


「いや、でもほら、微熱だし? ちょっと授業中寝てたら治るってこれくらい」


 トバリの適当な言葉に、刹那は「あのね」と呆れたように息を吐いて、


「微熱って言っても、甘く見たらダメだよ。ただの風邪も、こじらせたら大変なんだから」

「う……」

「今日は栄養をちゃんと摂って、しっかり休むこと。わかった?」

「…………」


 あまりの正論に、なんの反論も思い浮かばない。

 しかし、とはいっても、である。


「でも、今日はほら、アレだよ。アレじゃない? アレだからさ。学校に行かないわけにもいかないというか、なんというか」

「…………?」


 刹那は不思議そうに首を傾げていたが、不意に生暖かい目になって、


「……もしかして、バレンタインだから?」

「…………黙秘権を行使します」

「あ、なんかそれ無くなったらしいよ」

「無くなったって何!? あるだろ!! 勝手に無くすな!!」


 トバリの的確なツッコミに「はぁ〜」と深くため息を吐きながら、刹那が一喝する。


「トバリくん、今日はおとなしく寝てなきゃだめだよ! それで風邪こじらせても、私知らないよ?」

「ついにお母さんみたいなこと言い出したな……」

「おばさんからも頼まれてるからね。『あんなバカ息子、いつでも見放してくれていいからね』って」

「それ頼まれてるって言わなくない?」


 どちらかというと、そこまで面倒見なくていいと配慮されているような。


「……というか、チョコなら私が毎年あげてるのに。それだけじゃ満足できないんだ?」

「…………?」


 刹那が呟くように言った言葉が聞き取れなくて、トバリが首を傾げていると、


「なんでもないよ。ーートバリくんのばか」

「え? ちょ、おい! 刹那!」


 フン、と言い捨てて、刹那は部屋から出ていってしまった。

 なぜかご機嫌斜めになっていたようだが、トバリには理由がさっぱりわからない。


「……ふーむ」


 刹那の言葉が脳裏をよぎる。

 たしかに、あまり体調がよくないにもかかわらず、訳のわからない理由で登校するのも憚られる。

 今日は刹那の言う通り、家でおとなしくしておくことにした。


「とりあえず寝るか」


 一人になってしまった部屋のなか、トバリはそう呟いて再び瞼を閉じるのだった。






「ーーん?」


 微睡に沈んでいた最中、不意にチャイム音が耳に届く。

 どうやら来訪者のようだ。


 瞼を擦りながら時計を見ると、ちょうど午後三時を回ったところだった。

 想像よりも爆睡していたことに驚きながら、トバリはインターホン越しに来訪者を確認する。


「…………んん?」


 玄関先には、二人の少女が立っていた。

 二人とも見覚えのある顔だ。


 一人は小学生高学年くらいの少女。

 どこか眠たげで、長いツインテールが印象的だ。


 もう一人は、トバリと歳の頃はそれほど変わらないくらい。

 刹那ほどではないが、黒髪を長く伸ばした少女だった。


 ユリと琴羽。

 二人とも、最近流行っている『モンスターGO』というゲームで知り合った少女たちだ。

 『モンスターGO』は最近リリースされた位置情報ゲームで、世界中で爆発的大ヒットを記録したビッグタイトルである。

 現実の地形とゲーム内の地形がリンクしており、出現したモンスターを捕まえたり、強いボスモンスターとのレイドバトルができたりと、楽しみ方は様々だ。

 トバリも例に漏れずプレイしており、彼女たちは近所で一緒にレイドバトルを戦った戦友たちの二人だった。


「どした? 今日って何か約束してたっけ?」


 ゆえに、ゲームで何か約束を失念していたかと思い、そう声をかけたのだが。


「あ、いた」

「そりゃいるわ。僕の家だぞここは」

「ちょっと時間、早かったかなって」


 ユリに言われて、トバリは納得する。

 言われてみれば、普通の高校生であればまだ学校にいる時間だった。


「……トバリさん。もしかして寝てました?」


 若干棘のある声色に、トバリは苦笑いしながら、


「今日はサボりじゃないぞ。ちょっと熱が出ちゃってな。多分ただの風邪なんだけど」

「あら、本当ですか? それは心配ですね」


 全然心配してなさそうな声色で、琴羽は言う。


「でもそういうことなら、今日は帰ろっか、ユリちゃん」

「むぅ……」

「悪い。治ったらまた遊ぼうな」


 トバリの言葉に、ユリはかぶりを振り、


「……ちがう。今日はチョコ、わたしにきた」

「ユリちゃん。トバリさんは体調が悪いみたいなので、チョコは持って帰りましょう。それはわたしが食べます」

「ーーーー」


 それはあまりにも疾い動きだった。

 トバリは玄関の鍵を開け、滑るようにユリの前に出現し、


「ありがとう、ありがとう、ありがとう……」

「う、うん」

「なんですかこの人、気色悪いですね」


 トバリのあまりの勢いに、チョコを手渡したユリも若干引いていた。

 ゴミを見るような目の琴羽からストレートに火力の高い感想を呟かれても、トバリは止まらない。


「これくらい当然の反応だよ。バレンタインに女の子から貰うチョコレートの価値をわかってないのは君の方だ、琴羽」

「そんなカッコつけられても反応に困るんですけど……」


 トバリの熱弁にも聞く耳を持たず、琴羽は肩をすくめるばかりだった。


「まあいいです。ほら、これあげるからさっさと帰ってください」

「帰るって何!? ここ僕の家!! ここが僕の帰るべき場所!!」


 琴羽が適当に投げたものをキャッチしながら、トバリは抗議の声を上げる。

 市販されたファミリーパックの一口サイズチョコ、その個包装の一つだった。


 ユリがくれたのは可愛らしい紙の箱に入ったものだ。

 開けてみると、デフォルメされたクマ型のチョコがいくつか入っていた。

 手作り感がすごい。とてもうれしい。

 琴羽のそれと比べると落差が大きすぎて笑えてくるが、義理なら琴羽のくらいがちょうどいいのかもしれない。


「でも、ほんとありがとな。ユリのこれ、手作りだろ? すごくうれしいよ」


 トバリの素直な感謝の言葉に、ユリはわずかに顔を綻ばせて、


「喜んでもらえたなら、よかった」

「チッ」

「いま舌打ちしたよな琴羽! 見逃さなかったぞ!!」

「ユリちゃんの笑顔は、あなたみたいなモッサリにはもったいないですよ」

「モッサリって何だ! 具体的にどの辺がモッサリしてるのか言ってみろ!!」


 露骨に不快感を示す琴羽は、やけに重いため息を吐いて、


「病人はおとなしくしててください。熱が上がったらどうするんですか? ほら、ユリちゃん、もう行きましょう」

「それは正論なんだけど、体温を上げた原因に指摘されるのは解せない!」

「バイバイ、トバリ。またあしたね」


 渾身のツッコミも虚しく、二人は仲良く帰っていった。

 ユリはぶんぶんと手を振りながら、琴羽は一度も振り向かないまま。


「……ったく」


 遠ざかっていく二人の背中を見ながら、トバリは思った。


「モンスターGO、やっててよかったぁ……」






「……んん?」


 レトルトの卵粥を貪りながらゲームをしていると、不意に玄関のチャイムが鳴った。


 時間は夕方の五時を回ったところ。

 もしかして、学校が終わった刹那が来てくれたのだろうか。

 そう思ってインターホンを覗く。


「うげ」


 そこには見知った少女の姿があった。

 刹那と同じ制服姿の、黒髪の少女だ。

 ただし髪は肩くらいで切り揃えられており、その瞳の色は刹那よりもやや深い色をしている。


 沢城 亜樹。

 刹那の異母姉であり、トバリにとっては幼馴染の一人だ。

 同じ学校に通うクラスメイトの一人でもある。


 そのように関係はそれなりに深いのだが、トバリはなぜか亜樹があまり得意ではなかった。

 なぜなのかはわからない。

 なんだか見ていると、少し不安になってくるというか。言葉を選ばずに言うとちょっと怖い。

 なぜかはわからないが。


「人の顔を見て、うげ、とは失礼ね」

「……あれ? 僕インターホン押したっけ?」

「押したんでしょう。気づかない間に」


 肩をすくめる亜樹の言葉に、トバリは納得する。

 どうやら間違って通話ボタンを押してしまったらしい。


「すいません。トバリのやつ、今日は風邪拗らせちゃったみたいで。それで、ご用件は?」

「なんで他人みたくなってるのよ、あなたは……。風邪引いたのは知ってるわ、刹那から聞いたから」

「じゃあなんで来たんだよ。風邪うつして欲しいのか? 合法的に学校を休みたいとか?」

「あなたじゃないんだから、そんな馬鹿みたいな理由で来ないわよ」

「ふーん……」


 最近の亜樹は、学校を休むことが多い。

 体が悪いとかではなく、何やら裏でコソコソやっているらしい。

 本人が詳細を語りたがらないので、あまり詮索しないことにしているのだが。


「あなたも今日がなんの日か、忘れたわけじゃないでしょう?」

「ーー! まさか……」


 トバリの予感を肯定するかのように、亜樹は右手に紙袋を掲げて、


「ほら、これ。欲しくないの?」

「ぐ、ぐぐ、ぐぐぐぐ……」


 トバリは観念したように、玄関のドアを開けた。


「はい、どうぞ」

「……どうも」


 ふんだくるように、亜樹の手から菓子折りを奪った。

 誰もが知っているような高級ブランドのロゴ入りだ。


 なかなか大きく、重量もあるような気がするが、一体おいくらしたのだろうか。

 ……まあいいか。もらえると言うのなら素直にもらっておこう。


 というか、わざわざチョコレートを渡すためにやってきたのだろうか。

 もしかして暇なのか。


「それで、ほんとに何しに来たんだ? チョコだけ持ってきたのか?」

「あら。これを見てもそんな態度でいられるかしら?」


 おもむろに、亜樹はスマホを取り出した。

 画面に映し出されているものを見て、トバリは驚愕する。


「なーー! それ、はーー!!」


 亜樹が持つスマホに映し出されていたのは、『モンスターGO』の画面だった。

 それ自体は別に驚くものではない。

 問題は、そこに表示されているモンスターの方だ。


「日本じゃ手に入らないレアモンスター、しかもプラチナ加工だと!? どうやって手に入れたんだこんなもん!?」

「捕まえたの。トバリに自慢しようと思って」


 『モンスターGO』には、限られた地域でしか出現しないモンスターも存在する。

 日本に住んでいる限り、海外限定のモンスターの入手は困難を極める。

 まして特殊加工が施されたモンスターとなると、その希少価値はトバリの想像を絶するものがあった。


「……というかこいつって、ヨーロッパ限定とかだった気がするんだけど」

「行ってきたの」

「お前学校休んでるなと思ってたら、そんないいとこ行ってたのかよ!!」


 亜樹の家は相当な金持ちなので、そういうこともあるのだろう。

 一庶民としては羨ましい限りである。


「交換してあげましょうか? その子」

「いいのか!?」

「ええ。同じようなのを何匹も捕まえてしまったのよ。ほら」


 亜樹はそう言いながら、画面をスクロールする。

 確かに同じモンスターが何匹か表示されている。

 それぞれレベルが違うので、同一個体ではないことは確かだ。

 確かなのだが、


「お前それ、チートとか使ってないよな……?」

「使ってないわよ。そんなもの使わなくても、何がどこに出てくるかくらい予想つくでしょう?」

「いや、つくわけないだろ……」


 モンスターの出現場所やタイミングは、完全にランダムとされている。

 亜樹の発言は意味不明なものだったが、彼女が変なことを言うのは昔からの話で、今に始まったことでもない。


「まあいいや。気が変わらないうちに交換してもらおう」

「声に出てるわよ、まったく……」


 呆れたような息を吐きながらも、亜樹の口元は微笑んでいるように見えた。

 そんな何気ない表情の変化を眺めていると、ふと思い出したように、


「そういえば、少しの間、学校を休むことにしたから」

「少しってお前、休んでばっかりだな。出席日数足りなくて留年しても知らないぞ」

「大丈夫よ。学校に話はつけてあるから」

「ああ、そう……」


 独特の言い回しが恐怖を誘う。

 あまり深くは聞かないことにした。


「ほら、終わったみたいよ」


 亜樹の言葉の通り、トバリの方のゲーム画面に、亜樹がくれたモンスターが表示されている。

 無事に交換が終わったようだ。


「ありがとう。大切にする。あと皆にめっちゃ自慢する」

「はいはい、どういたしまして」


 亜樹はトバリの言葉を適当に聞き流しながら、帰り支度を整えていた。

 用事はこれで終わったようだ。


「ーートバリ」


 不意に真面目な声で、亜樹がトバリの名を呼ぶ。


「なんだよ」


 ほとんど日が沈みかかった夕暮れの中、亜樹の表情は窺い知れない。

 けれど、その口元は穏やかな微笑みをたたえているような気がした。


「刹那のこと、よろしくね」

「へいへい。姉様の留守中は任せとけ」


 トバリがひらひらと手を振ると、亜樹はドアの向こうへ消えていった。






「ーー来ない」


 そう。来ないのである。


 誰が来ないのかと言うと刹那だ。

 空腹感をゼリー飲料で誤魔化しながら、トバリはただひたすらに待っていた。

 ゲームにも身が入らず、ベッドで横になってしまっている。


 いつもなら、とっくに夕飯を作りにきてくれている時間だ。

 今日はトバリの体調が悪いのも把握しているので、何か作りにきてくれるものとばかり思っていたが、アテが外れたのか。


「なんか怒ってたしな……何だったのかよくわからんけど」


 今朝の様子を思い出しながら、トバリは呟く。

 いずれにせよ、来ないなら来ないで自力で夕食を何とかしなければならない。


 こういう時に、普段から来てくれる刹那のありがたみが身に染みる。

 そんなことを考えていた時だった。


 玄関の扉が開く音がして、誰かが階段を登ってくる気配がある。

 この時間にそんなことをする人間は一人しか心当たりがなかった。


「……トバリくん、起きてる?」


 なぜかドアの隙間からひょっこり顔を出す刹那に、トバリは苦笑しながら、


「起きてる。今日は来てくれないのかと思ったぞ。寂しかったぞ」

「ーー! も、もちろん行くよ! 体調が悪いのは知ってるから、心配だし……まだ、あんまり良くなってない?」


 なぜかあたふたしながら尋ねる刹那に首を傾げながらも、トバリは続ける。


「朝と比べたら、だいぶマシかな。けっこう寝てたし」


 体感では熱もかなり落ち着いている。平熱か、ほとんど平熱に近いくらいだろう。


「あとは刹那がバレンタインのチョコをくれたら、多分元気になれると思うんだけど」

「ーーふふ、なにそれ」


 可笑しそうに刹那は笑う。

 ドアの影から姿を現した彼女の手の中には、可愛らしい紙製の箱がある。


「そこまで言われたら仕方ないので、トバリくんにチョコレートをあげます。大切に食べるように」

「ははっ! ありがたく頂戴します!」


 わざとらしく恭しく、トバリは刹那からチョコを受け取る。

 そして、どちらからでもなく吹き出した。


「開けていい?」

「もちろん、どうぞ」


 作り主からの許可も貰ったので、早速開けてみる。


「おお……!!」


 中に入っていたのは、大きなチョコレートのタルトだった。

 随分と可愛らしくデコられたそれに、トバリは驚嘆の声を上げる。


「すごいな、これ……作るの大変だっただろ」


 トバリはまったく料理ができないので分からないのだが、結構な労力がかかっていそうだ。

 しかし、刹那の返事はない。


 彼女の視線は、ある一点を見つめていた。

 亜樹が持ってきた菓子折りである。


「ああ、それ。さっき亜樹が持ってきてくれたやつ。中身はまだ見てないけど」

「ふーん。亜樹も来てたんだね」


 やや意味ありげな顔で菓子折りを覗き込む刹那だったが、


「あれ、これ……」

「なんだ? どうかしたのか?」


 何かに気づいたように、刹那は紙袋を開けた。


「……紅茶、だね」

「チョコじゃない……だと!?」


 中には、やけに高級そうなティーパックのセットが入っていた。

 ……言われてみれば、これがチョコレートとは一言も言っていなかったような気がする。


 もしかすると、刹那からチョコレートは貰うだろうからと、それに合うようなものをプレゼントしてくれたのだろうか?

 そんな気遣いができるタイプとは思わなかったが、


「それじゃ折角だし、ありがたくチョコタルトと一緒にいただくとしますか」

「そうだね」


 小さく刹那と笑いあいながら、トバリは思う。

 こんな何気ない日常が、ずっと続いてくれたらいいと。

 


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