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悪魔憑き




 ぴちゃぴちゃと、湿った音が飼育小屋の中に響いていた。








 燃えるような夕焼けが、誰もいないグラウンドを照らしている。


 休日の小学校の校舎は、痛いほどの静寂に包まれていた。




 逢魔が刻。


 昼と夜の挟間であり、この世とこの世ならざるものが混ざり合う時間帯だ。




「…………」




 飼育小屋の中に立っているのは、まだ年端も行かない少女だった。


 その目はどこか虚ろで、覇気がない。


 およそ表情と呼べるものが欠落した少女は、明らかに正常な様子とはかけ離れている。




 少女の足元には、薄汚れたバケツが置かれていた。


 その中は、赤黒い液体で満たされている。


 ところどころ、動物の毛や羽毛が浮き、ゆらゆらと揺れていた。




 その手には、血まみれの兎の死骸が握られている。


 雑に皮を掴まれたそれは微動だにせず、既にこと切れているようだった。




「…………」




 血の出が悪くなった兎の死骸を、少女は当たり前のように投げ捨てる。


 小屋の中心には、同じように少女によって屠殺された兎や鶏たちの遺骸が山積みになっていた。




 少女は沈黙を保ったまま、掃除用のブラシをバケツに突っ込んだ。


 鮮血を滴らせるブラシを持ち、地面に擦り付ける。


 遺骸を中心に、綺麗な円を形作っていた。




「…………」




 同じような円を二重に描くと、少女はブラシを用済みとばかりに放り投げる。


 彼女が次に取り出したのは、書道で使うような筆だった。




 バケツの血に筆を浸し、少女は一心不乱に何かを地面に描き始めた。


 円と円の間を埋めるように、奇妙な文様がものすごい早さで描かれていく。




 一見すると、とても意味のあるものには見えない。


 それは現存するどの言語体系の文字と比べても、似ても似つかない。




「…………」




 ただ、それを描く少女の表情は真剣そのものだった。




 ……だから、気付かなかったのだ。


 少女のすぐ近くに、誰かが近づいてくる気配があることに。










「――ずいぶんと楽しそうね、せつな?」








 金網の向こう側。


 夕焼けを背負うように、少女の姉――亜樹が、興味深そうな顔で妹の奇行を眺めていた。

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