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神の愛とは、死にたがりにも届くのだろうか?

 出発は、翌日午前中の間に、準備が出来次第。

 帰還の期限は、学園長達がいなくなった時間と同じ、一週間。

 俺がやるべき準備などたいしてないが、クラスの生徒への説明だけは少し骨が折れた。なんせ、こいつらにはさすがに「学園長が行方不明なんで」とか言えないし。なんやかんやで一週間留守にするとだけ言っておいたが、反応はあまり芳しくないものだった。最終的にはきちんと納得してもらったけど。

 特にアオイなどは「私も一緒にゆきます!」などと言い出し、ミルヴァと二人で宥めるのに数十分掛かった。慕われ過ぎるのも考え物だ。

 唯一というか、リーネだけはほっと安堵した様子で息を吐いていたが、どういう意味かを考えて思い当たった。おそらくこれで、俺が担当していた生徒の面倒もミルヴァが見る事になり、その分自分が付け狙われる時間が減ると安心しているのだ。

 よし! ならば期待に応えよう。

 明日までに俺が受け持っていた生徒達のメニュー表を書き上げてミルヴァに渡しておけば、一週間くらいなら問題なく授業が進めるはずだ。

 ミルヴァにはこれまで通り、リーネの扱きに専念してもらおう。彼女が泣きながら喜ぶ顔が眼に浮かぶ。

 うーむ、我ながら生徒想いだなあ!


「――という事があったわけだよダダダの駄女神さんよ」

『久しぶりに神話してきておいて、いきなりその言い草!?』

「うっさい! てめぇさんざん人に迷惑かけやがってからに、今度顔合わせたらすんごい目に遭わせてやっからな!」

『す、水龍の件はごめーんね♪ と謝ったじゃろうが」

「今ので罪が三倍に跳ね上がったな」

『えええええ!?』


 真夜中。

 俺は職員用の寮の一室にて、アルティに電話を掛けていた。

 既にクラス連中のメニューも仕上がり、後は寝るだけなのだが、ちょっとアホウをからかいたくなる持病が発症してしまい、いてもたってもいられずにアホの子筆頭に連絡してしまったのだ。


『お主の奇怪な持病にはツッコまんが…………アホの子筆頭とはわらわの事かあああああああああ!?』


 また心を読みやがって。今回に関しては手間が省けるがな!


「ったりまえだろ。むしろお前以外の適任に誰がいる?」

『こ、この男、当然の様に神をアホ扱いしてきおったぞ……!』


 なにやら電話越しに戦慄しておられるご様子。


「うーん……」


 学園長は、なにやらこのアホに畏怖の念を憶えていた印象があるのだが、こうして話している限りだと、あのクセ者がそこまで畏れる何かがあるとは感じられないのだが。

 いやまあ、創造神とか言うだけの力があるのは知っている。実際、体験もしてるしな。

 とはいえ、怖れる――恐れる――畏れる…………どれもいまいちピンとこないんだが。

 むしろ和む。弄って遊ぶとここまで面白いヤツも珍しい。

 それに、確か。


「神魔王」

『……ぬ?』

「確か最初に名乗ってただろ? 神魔王なんたらかんたらって。『神魔王』ってどういう意味?」

『アルティリア・リュカリオンな! なんたらかんたらじゃないわ! ――ああ~……確か今お主がいるのは魔法大国ゲインじゃったな。ではアルムハンドから聞いたのかの?』

「ああ、何か……自分がその意味を言うわけにはいかない的な……凄く意味深な言い方してたけどな」

『相変わらずあやつは生真面目じゃのう……そこまで気にするものではないというに』

「んで? 意味は?」

『……お主は逆に、もう少し踏み込むのを畏れてくれて構わんのじゃよ?』


 知らん。

 言いたくなけりゃ言わなきゃいいし、そうでないなら気になるから聞き出すだけだ。


『はあ……神々の間では、創造神とは“産み出すもの”。そして魔王とは“終わらせるもの”を意味しておる』


 そんな切り出しから始まったが、長くなりそうな気がしたので釘を刺しておく。


「あ、暇潰しで聞いただけだから、あんまり長くなりそうなら端折りで頼むわ」

『お、お主……』


 ものすごく何か言いたそうな声色だったが、結局何も言わずに溜息だけが返ってきた。

 話を続ける。


『すなわち、その名を与えられた者とはそのままに、“産み出したもの”“終わらせたもの”を意味しているのじゃ』

「んんー……」


 産み出す。終わらせる。

 アルティは神だ。世界を産み出す、創造神。

 つまり、それは。


『ふむ……一つ問題じゃ。わらわがこれまで、いくつの世界を産み出してきたと思う?』

「あん? 藪から棒になんだよ」

『いいから、答えてみせい』

「……ちっ」


 アルティが産み出した世界の数だと? わかるわけねえだろそんなもん。


「創造神とか言うくらいだから、千とか一万とか、途方もない数の世界造ってきたんじゃねえの?」

『……そうじゃの』


 俺の答えに返ってきたのは、苦笑い。


『本来ならば、そうあるべきなのじゃろうな』


 人間の俺などには想像もできない、はるか遠い過去に想いを馳せる、寂しげな声。

 そういう声は、好きじゃないんだ。

 だから、先に進める。


「で? 答えは?」

『十個』


 他の人はその答えに、どう反応するのだろう?

 解らないが、俺は自分が感じた事を、そのまま口に出す。


「……少ない、な」

『そう、少ない。そしてそれには理由がある』


 その続きを、アルティは迷わず口にした。


『わらわは、創造神として最初に産み出した世界……“根源世界”を、消滅させておる。“終わらせて”おるのじゃよ』


 産み出し、殺す。その両方を、成した神。

 相反する特性を有した、神々の間でも特殊な存在。それこそが――


『神魔王――失敗した神の称号であり、失う痛みを知る神の名前じゃよ』


 折れず、媚びず、屈せず。

 本来ならば蔑称として使われているであろうその名前を、誉れとして言い切る、幼女神の姿がそこにはあった。 


『もう二度と、“我が子”を失いたくはない。そう思ってしまっては、己の手に余るほどの世界は造り出せんでな。創造神としては、おちこぼれもいいところじゃろうが』

「――俺の世界は」

『まだ、途中じゃ』


 有無を言わせず、遮られた。


『……前にも言うた通り、必ず達成してくれとは言わん。だが、出来る限りの事はして欲しい。それがきっと、お主の為にもなる』

「俺の為、か」


 それは、報酬であるところの『望みのままの死に場所』の事だろうか?

 それとも、あるいはもっと別の――


『いやあー、話し込んでしもうたのう!』


 カラッと、あからさまに雰囲気を変えた口調で、アルティが告げる。


『あんまり長く話していては神話代がかさむのでな。今宵はここまでにするとしようぞ』

「なにその壮大な料金? ちょっと興味沸いてくるんだけど」

『あーまったく、今度戦神や豊穣のと話合って配役を考えねばのう。あんまりあくどい役にはなりたくないもんじゃが』

「おいやめろ。舞台の裏側みたいな独り言を言うのをやめろ」

『おっと! たしかにこれ以上は人の子には聞かせられんの。それではセツナよ、次に話す時には、新しい神話の話でも聞かせてやろう!』

「いらんわい!」


 通話終了。

 スマホを仕舞いながら、考える。


「神様も人の子も、いろいろあるわな……」


 明かりを消し備え付けのベッドに横になりながら、少しだけ、ほんの少しだけ決意する。

 ――明日からはもう少し、世界再生を真面目に考えてみようかな。

アルティのフラグをどこでぶっこんで良いのかタイミングが難しく、とりあえずインターバルみたいな回になってしまいました。

次話で旅立ちますので。

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