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そして、糸は絡み始める。

 大会議室の扉を開くと、既に呼び出された全員が到着していた。

 これで全員ですね、とミハイルは確認するように全員を一瞥した後、


「学園長不在の理由、考えられる理由は二つです」


 挨拶もそこそこに、前置きなしで切り出した。

 最大で三百人もの人数を収容可能な空間を、わずか六名で独占している状況を贅沢だと感じる暇もない。

 ここにいるのは、一週間前学園長に呼び出された時と同じ顔ぶれ。

 語尾が長いクセに気は短そうな、意外と情に厚いかもしれない中年男『ヴァルガ・デルフリート』。

 絶賛人体実験疑惑が浮上中の、インテリクール眼鏡な女教師『ミレ・リュ―ン』。

 幼子であれば成り形など飾りに過ぎないとばかりにテンションを上げて反応する変態女子生徒『ハルン・キティ・シュラール』。

 学園長不在のあらましを知る三人。それに関してここ一週間の間、色々と話し合い、それぞれの名前を知った。

 ……ついでにあの変態生徒、実は学園の生徒会長なんだとか。この世も末が近いのかもしれない。

 プロフィール紹介はこの辺にしておくか。

 今はミハイルの話に集中しよう。


「まず一つ、龍族との会談に向かう道中か、あるいはその帰り道にて、なんらかのトラブルに巻き込まれ足止めを食っている状態」


 ミハイルが指を一本立て、言い聞かせる様にはっきりと言葉を紡ぐ。


「そして二つめ。交渉相手の『龍族』そのものと、何かがあった可能性」


 二本目を立て、場の空気や顔色を伺いながら続けた。


「現在考えられる可能性は、以上の二つです。何か意見があればお願いします」

「一つ目の可能性は低そうですね」


 最初に意見を述べたのは、ミレ。

 普段から鋭い眼光が、数割増しの切れ味でもって空間を射抜いていた。


「学長様とレイラ殿のお二人であれば、並大抵のトラブルでは足止めにすら成り得ません。仮に賊の集団が徒党を組んで襲い掛かったとしても、目線もくれずに返り討ちにできるでしょう」

「レイラ?」

「お付きのメイドさんの名前ですよ」

「ああ、あの人か」


 学園では近接戦闘の教官も務めているという、あの隙なしメイド。

 この学園で戦闘を教えていく上で、色々聞いておきたい事があったのを思い出した。利己的な理由で恐縮だが、無事であって欲しいと思う。


「また、金銭的・人間関係等のトラブルも考え辛い……となれば、もう一つの可能性こそが怪しいと、私は考えます」


 世界一の魔法大国のトップであり、数百年にも及ぶ、世界バランスの調律者。そんな人物が、その手の俗な問題を招くとは考えられないと、ミレは言う。

 だとすれば、残る可能性はただ一つ。


「龍族……か」


 俺の呟きに、全員が沈黙した。

 最初から皆の頭にあって、しかし信じたくはなかった可能性。

 もしもその可能性が真実であった場合――龍族との全面戦争を意味するのだから。


「並みの賊にはできない事でも、龍族なら可能性があるって?」

「龍族とは、この世で最強の種族。いかにお二人といえど、周囲を囲まれては分が悪いと言わざるを得ません。なにより、向こうには……」


 最後の言葉はなくとも、その答えを全員が理解した。

 『龍神』ムスペル――――その力、比する者なしと名高い世界最強の龍族。

 ヤツが動きだせば、たとえ学園長であろうと手も足も出ないと、学園長に心酔しているこの三人が認めるほどの絶対強者。

 俺としては、そこまで言われるほどの相手なら、一度お目に掛かってみたいものだが。


「でも、それも違和感がありますねー」


 微妙な空気の中、あえて軽い感じに発された声は、ミルヴァのものだった。

 全員の注目を集めながら、栗色髪の少女が動じる事はない。


「龍族とは何度か顔を合わせた事がありますけど、彼らは自分達から事を荒げる真似を好みません。ムスペルの名の下、その強靭な精神に誇りを抱いている節すら感じました。そんな彼らが、このような意図も不明な謀略じみた行いをするとは考え難いと思いますが」

「ならば一体、誰の仕業であると?」


 ミレがやや苛立った様子で問い掛ける。

 一見冷静に見えても、敬愛する学長様が安否不明なこの状況は、少なからず彼女から余裕を奪っているようだ。


「単純ですよ。第三の可能性――『第三勢力の介入』です」

「――――!」


 俺以外の全員が息を呑む。

 それはある意味、必然とも言える盲点だった。


「げ、ゲインと龍族の仲を拗らせる他勢力!? ありえません!?」


 バンッ! 耳が痛くなりそうな音が響くほど強く机を叩き、ミレは叫ぶ。

 それまで黙して思考に徹していた、他の連中もそれには頷いていた。


「だなぁぁぁ、龍族との交渉に下手を打てば間違いなく戦争だぁぁ。んな事望む連中はそうそういねぇぜぇぇぇ」

「大勢力はほとんど誰かしか身内が学園関係者だからね。かといって、小勢力にそんな事を実行し、あまつさえ成功させるほどの力はない。ちょっと、現実味に欠けるんじゃないかな?」


 そう、それこそがある意味この学園における最大の『防衛力』。日本における『核の傘』にも等しい、世界大戦への引き金だ。

 だからこそ、無意識の安心感。

 “この国にはあれがある。だから本気で手を出してくる相手などいやしない”。百年に満たない年月でさえ、そんな思い込みを植えつけるほど強力な鎧なのだ。まして、何百年もの間そのシステムを構築し、管理し続けてきたゲイン・アルムハンドという、稀有と呼ぶのも生ぬるい、まさに千年に一人の逸材が存在してしまった。

 有体に言おう。この国は、纏った鎧の強度とその鎧を造った頭脳に甘え、平和ボケを起こしていた。


「……」


 その中で一人、ミハイルのみが、ミルヴァの話を冷静に受け止めていた。

 腹の中で何を考えているのかは解らないが、他の三人のように頭から否定する……という雰囲気は感じない。

 そして、こういう雰囲気を発する時には決まって、あの『匂い』が鼻につく。

 やれやれ。あんまり俺の前でその匂いを発しないで欲しいもんだが。


「普通なら、そうですね。ですが今の世界情勢で、実際に手を出してきそうなところに心当たりがあるのですよ」


 そこでミルヴァは、いつもの快活なものとは違う自嘲にも似た笑みを浮かべ、自らその名を口にした。


「ヴァンストル王国」


 地図を広げ、ゲインとは海を隔てた反対にある大国。その上に指を置く。

 遠い眼をした少女が見据えているのは、果たして国か。それとも、その先にいるであろう、実の姉なのか。


「彼の国には、この国を滅ぼす理由があります」

「それは、どんな……?」


 ミルヴァの言葉に偽りの色を感じなかったからだろう。

 ミレがやや気後れした風に、静かに訊ねてきた。ヴァルガとハルンの二人も、何も言わずに少女の返答を待っていた。


「――」


 即座、ミルヴァに視線を飛ばす。

 ――良いのか? この状況で明かせば、立場が悪化する恐れがあんぞ。

 ――仕方ありませんよ。流石に学園長先生やレイラさんの安否と引き換えにはできませんし、この辺りが限界でしょう。

 覚悟ありか。なら俺からこれ以上口を挟むつもりはない。

 ミハイルを見れば、目付きを険しくしながらも制止する様子はなかった。あいつも俺と似たような心境らしい。

 そして少女は、


「自己紹介が遅れましたね。私の名は、ミルヴァーナ・レウ・ヴァンストルと申します。現ヴァンストル王国における、王位継承権第三位所有者となります」


 俺との初対面では決して見せなかった。王族としての仕草にて、呆然としている面々にその正体を告げたのだった。 

大国同士の思惑が絡み始めます。あと数話くらいで、重要な新キャラ登場します。

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