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過去と今と、これからの事

 本日、俺の授業は二回ある。

 一回目はミハイルがなんとかしてくれたが、二回目まで何かあれば、今度こそ俺のクビは間違いあるまい。

 三度目の正直というヤツだ。今度こそ俺は、この試練を乗り越えなければならない!


「それで、授業内容は思い付きましたか?」


 あの頂上庭園から地上に帰還し、職員室へと向かう途中、ミルヴァが問い掛けてきた。

 答えは、持ち合わせていた。


「ああ、お前が教えてくれたからな」

「んん? 私、何か教育に役立つ様な事を教えましたっけ?」

「連中をものっそい剣幕で一喝しただろうが」

「ぬぐ……」

「自分と同じ立場を背負ってる連中が、あんまり下らん事やってんのが我慢できなかったか?」

「……そんなんじゃありませんよ。下らなさ具合じゃあ、今の私も五十歩百歩ですからね。それに」

「それに?」

「私も学園に入ったばかりの頃は、不適合クラスでしたから。彼らの気持ちも、少しは分かります」

「……お前、魔法士として天才なんでなかったっけ?」

「セツナさん。不適合クラスですよ」


 ああ、なるほど。魔法士として飛び抜けた才を持っていたとしても、優秀とは限らない。


「学園に入る前は、本当に楽しみだったんです。だって、初めて国の外に出られて、しかも魔法に関して世界一の発展国で勉強ができる事が嬉しくて」


 なんとなく、こいつのクセが分かってきた。過去の楽しかった事を回想する時、必ず両の目を細めるのだ。

 眩しい光を、平気で直視できる人間など居ない様に。

 しかし、直後に俯き、口を噤む。細めた眼の意味は、別に意味に取って変わる。


「彼、もしくは彼女らは、いずれ必ず、その立場の壁にぶち当たります。その時にあの程度の器量では、まずその壁を攻略できないでしょう。乗り越える事も、打ち破る事も、叶わないと知るべきなのです」

「今のお前みたいに、か?」

「私は、そも壁に立ち向かう事すらせず、逃げ出した人間ですから。せめて私くらいは越えてもらわなければ困るのですがね」

「……」

「彼らも、私にとっては可愛い後輩ですから」


 振り向いた笑顔は、またも眼が細められていた。

 こういう時に、あんまり邪魔をしたくはない。ない、のだが。

 まるで今こうしているのが楽しくないと言われている様で、少し気に入らないな。


「ま~あ? 考えてみればお前が不適合扱いでも別に不思議な事でもないわな。村娘教の変態だし、むしろ学園卒業できた事が奇跡みたいなもんだろうしな」

「お、おおう!? なんですかいきなり、喧嘩売ってますか買いますよクラァ!?」


 シュッシュと拳を突き出してくるミルヴァ。瞳はきちんと現在へと戻ってきていた。

 繰り出される、意外と的確に急所を狙ってくる拳を受け止め、にやりと笑う。


「うう……何ですか? 嫌な予感がします」


 察しのいいヤツだ。まさにその通り。

 ミルヴァの耳に顔を近付ける。少女はぎょっとして逃げようと体を捩るが、その前に俺が耳元で呟く方が早い。


「お前…………ミハイルに惚れてんだろ?」


 数秒、確実に時が止まっていた。また、すぐに動き出したのだが。

 その瞬間のミルヴァさんの顔ったら! 後にスマホで保存しておかなかった事を後悔したくらいだ。


「☆△@◇■○×◎△□~~~~~~ッッッ!!!??」


 瞬間湯沸かし器であろうとそこまで速攻では沸かんだろうというほどに顔面を爆発させ、音調の狂った楽器の如く、呂律の回らなくなった舌で不思議言語を言い募っている。

 いやあ~おもしれぇ!


「不適合クラスに送られて傷心の少女に優しく話しかけるイケメン教師か。まーなんともありきたりな筋書きだわなぁ」

「――――――」

「んで、見事に更正した少女は、恩師の教師に恋をすると。ぶっは! お前、何年前の人間だよって話――」


 そこまで実に愉しんでから、ミルヴァの様子がおかしい事に気が付いた。

 いや、最初からおかしなヤツではあったが、今はそれに輪を掛けておかしいのだ。

 体中をマグマが煮えたぎっている風に真っ赤っかなのは相変わらずとして、今は顔を伏せ、全身をぷるぷると震わせている。


「こここここ……」

「こここ? こけこっこ?」

「こ、こ、こ……殺す! 貴方を殺して私も死ぬ!」


 天才少女が、その膨大な魔力を開放する。

 あまりの魔力量に周囲一帯が震え上がり、空気を一杯まで入れた風船みたいに、何時破裂するかもわからない時限爆弾も同然に、バチバチバチバチ! と大気を震わせている。

 こいつ、本気過ぎる!?


「はあ!? いや待てお前、思い詰めるにもほどがあんだろ!」

「黙りなさい! 私の秘密を知られた以上、もう殺すしか!」

「ただ恋愛のきっかけをちょこっとからかっただけだろが!? ついさっき国家機密相当の過去バナしたヤツが気にする事かよ!」


 強烈な殺意が向けられているわけだが、流石にこんな状況で殺し合いをする気にはなれない。

 あーやべ、ちょっとからかい過ぎたかなぁ。

 愉しかったのは事実だから、謝る気はしねーけど!


「ちぃ……やるしかねぇか。まさかお前と、こんな下らん事がきっかけで雌雄を決する事になろうとはな!」


 少しでも大袈裟な言い回しを使って気分を盛り上げようと姑息な作戦を用いてみる。

 すると怒り心頭のはずのミルヴァが、意外にも乗ってきた。


「ふ、私もですよ。貴方と出会ったばかりの頃は、こんな事になろうとは――あー、ちょっとは予想してましたけど。まさかこの場で決着を着ける事になろうとは!」


 何か、いい感じに場が暖まってきてしまった。

 あーなんかもー、いっそここまできたら後先考えずに楽しんでやろうか。

 こいつと本気でやり合う事は、魔法の威力を見せ付けられた時から望んでいた事だし。

 ちょっと思っていたより早くその願いが叶ってしまうみたいだが、別に俺にデメリットねーし。

 ……ひょっとしたら、これで教職クビになるかもしんないけど。それはそれだ!

 互いの眼に、殺気が宿ろうとした、その瞬間。


「抑えろ馬鹿者共」


「ぐえっ!?」

「はうっ!?」


 全身が強制的に拘束された。

 見ると、ミルヴァも同じ形で身動きが取れなくなっている。

 この状況をもたらした当人は、呆れて溜息を吐いていた。

 俺達より頭一つ分背が低い、白髪のハーフエルフ。この国の大統領的存在な御方が、こめかみを指で押さえて唸っていた。

 その小さな口から搾り出された次の言葉は、


「次の一コマはミハイルに任せよう。お前達は少しばかり、説教が必要らしいからな?」


 こうして俺達は、学園長様直々に説教を食らう羽目になった。

 かろうじてクビは免れたが、流石に「次はないと思え」と、最終通達を受けてしまった。

 うんまあ。さすがに、次は真面目にやるよ? うん。

 もちろん、俺のやり方でな……!

ようやく授業開始です。次はまとも(?)に授業します。

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