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エルフとの出会いは殺し合い

 俺はその場に立っていた。

 見上げてくる視線はどいつもこいつもまだ穢れを知らない青二才のそれで、否応なしに嗜虐心をくすぐってくる。

 さて、まずは何を伝えるべきか――なんて考える必要もない。俺が胸を張って言える事は、たった一つだけなのだから。


「いいか小僧&小娘ども! 死とはすなわち、幸福だあああああああああああああああああああッッ!!」


 『死=幸福』。

 ホワイトボードに書き殴った言葉の上に掌を叩きつけて叫ぶ。

 スマホが振動する。

 教壇の上に立っていると、生徒達が呆気に取られている様子が良く分かる。

 コソコソ近所で囁きあっている声も聞こえてきた。

 だが気にしない!

 そんな些事よりも伝えなければならない事がある!


「いいか諸君? どんな人間――否! 生物であろうと絶対の共通点がある。それが死だ。いかな歴戦の英雄や幻の神獣とて、死は免れん絶対の摂理っ。つまり、幸せな人生とはいかに幸福に死ねるか? その一点に尽きる!」


 世界を征服すると宣言する大魔王でもここまでは強く言い切らんというほどに、力を込めて断じた。

 気迫に気圧されたのか、生徒達が座りながら体を仰け反らせている。

 ふむ、掴みは上々のようだな。


「はいそんなわけで俺の初回授業では、自殺前に必要な身辺整理術や、お気に入りの自殺場所の発見方法などを中心に――」

「喝――――――――――――――――ッッ!」

「ぶへぇッ!?」


 気分良く喋っている途中で、横合いに蹴り飛ばされた。

 ごろっごろと跳ね飛ばされ、危うく壁に激突する寸前でなんとか停止し飛び起きる。

 襲撃魔を指差し、糾弾した。

 

「何しやがんだテメェ! ああ!?」

「何しやがるはこっちの台詞ですよ! 人の愛しい後輩達に何教えてくれてんですか!?」

「大自然、ひいては、世界の真理だよ」

「ものは言い様ですねぇ!? 今のは自殺幇助っていう立派な犯罪ですよ!」

「テメエの不意打ちも立派な暴行罪だろうがあああ!」


 ぎぎぎぎぎ、と両腕を組み合っていると。


「はい、ストップです」

「おっ!?」

「あっ!?」


 べしべしと頭を叩かれ、俺とミルヴァは手を離す。

 ――ミハイル・ハウリング。

 さわやかな香りを全身から漂わせた、茶髪のロンゲを後ろに束ねた、超絶イケメン。

 最初は三十代かと思ったのだが、年齢聞いて正直びっくりした。まだ二十八だと言うのだ。

 老け顔なわけでは決してない。むしろ若く見られておかしくない優顔なのだが、俺が年上に見えてしまったのは、纏っている雰囲気のせいだろう。

 年齢のわりに、どこか達観しているというか……

 はっきり言えば、戦場の匂いを感じる。それが少し懐かしく、年嵩に見えてしまった一因かもしれない。

 まあ、それはともかくとして。


「止めんなミハイル! 俺はこいつと決着つけなきゃなんねぇっ」

「ミハイル先生を呼び捨てにしないでくださいっ! その人は私にとって、村娘神様の次に尊敬しておられる方なんです!」


 睨み合う俺たちを、ミハイルは溜息交じりに見ていた。


「……せめて生徒達のいないところでやってください」



 ――さて、なぜこの様な状況になっているかというのは、少し遡って説明せねばならない。

 ミルヴァとミハイルが感動(?)の再会を果たしたすぐ後、二人に連れられて、俺はいきなり学園長と対面する羽目になった。


「……マジですかよ」


 前を歩く二人の背中をぼんやりと見つめながら、なんともいえない感情を吐き出す。

 世界一の魔法大国と呼ばれる、世界最高峰の魔法学園におけるトップ。それすなわち、この国のトップに他ならない。

 ちょっとした観光のつもりで立ち寄ったアメリカで、いきなり大統領と引き合わされそうになっていると表現すれば、少しは今の俺の気持ちがわかるだろうか?

 世界中のVIPらが集まる、核弾頭のスイッチを握っていると言って過言ではないこの国の最高権力者。

 外見も人柄も知らんが、ちょっとした一言が戦争の引き金になりかねない人物を想像し、俺は恐々しきりである。

 再度の溜息に、ミハイルが苦笑して振り返る。


「そんなに緊張せずとも大丈夫ですよ。学園長は器の大きい立派なお方です。相手がどんな者であれ、礼を失する事はありません」


 安心させる様に落ち着いた声でそう告げた後で、もちろん――と先が続いた。


「君が君なりに、相手に敬意を払ってくれれば、ですが」

「俺のやり方で良いの?」

「構いません」

「分かった」


 言質取ったど。

 そんな俺とミハイルのやり取りを黙って聞いてミルヴァが、不意にクスクスと笑った。


「なんだよ?」

「いえ、少し懐かしいと思っただけです。私も初めて学園長に会った時はとても緊張したものですから」

「お前があ?」

「はい! あまりに緊張しすぎて、つい本人を目の前に村娘神様の素晴らしさを二時間も演説してしまいました!」

「お前良く無事に学園卒業できたね」


 こいつの村娘神とやらの語りを二時間聞かされても怒らなかったというのなら、確かに想像よりは器の大きいヤツかもしれない。

 そんな事を考えていると、二人の歩みが止まった。自然と俺の足も止まる。


「着きました」


 『学園長室』とプレートが張られた、豪華な装飾がなされた鉄扉。

 この扉の向こうに、いよいよ大統領級の大人物が待ち受けている。

 生唾を飲み込む。

 まだ少し体が強張ってはいるものの、心の準備は出来た。

 誰が呼び掛けるまでもなく、重々しい扉が自ら開く。待っていたと言わんばかりに。

 なるほど、さすがはというべきか。

 どういう仕組みかは知らないが、隠密行動など無意味だと、遠回しに釘を刺された。

 学園内、否。この国にいる以上は自分の腹の中だと。

 声も顔も知らない人間が、不敵に笑っているを確かに感じた。


「失礼します」

「失礼しまーす!」


 まずミハイルが。ついで、ミルヴァが元気に声をあげて入っていく。

 俺は特に挨拶する事もなく、その後に続く。

 一筋縄ではいかなそうな相手だ。ならば薄っぺらい、表面だけの挨拶など不要だと判じた。どうせ通用するはずがないのだから。


「ふふ、なかなかの跳ねっ返りのようだな」


 部屋に脚を踏み入れた瞬間の事だった。

 全身が硬直し、意識が揺さぶられる。間違いなく、魔法による攻撃だ。


「――――」


 瞬間、体が反応する。

 余計な空気を全て肺から吐き出し、新しい気だけを一気に取り入れる。普通の呼吸では爆撃に晒され続ける中でまともに息が出来ない。だからいざという時に一瞬で空気を爆発的に取り入れる術を得たんだ。

 『爆呼』!

 意識が回復し、体の痺れが抜け落ちる。

 体の自由を取り戻した俺は、一秒の時間も赦さず、敵手へと飛び掛る。


「――ッ」

「――え?」


 阻止しようとしたミハイルの手は間に合わず、ミルヴァはそもそも状況の把握に及んでいない。

 だが、そんな事は関係ない。

 こいつは俺に殺意を向け、それを実行に移した。それだけで殺すに足る。


「ハハッ! 速いな!」


 愉快そうに笑ったそいつは、俺の手が首に巻きつく前にその姿を消した。

 直後、俺の背後に現れる。

 なるほど、それが『ワープ』ってヤツかよ。

 そいつは俺の背中に軽く手を当て、勝利宣言の様に言った。


「私が魔法士でさえなければやられていたな。その若さで大したものだ」

「髪飾り」

「うん?」

「結構高そうだな?」

「ああこれか? ふふ、確かに自慢のマジックアイテムの一つだな。この国でも随一の職人に造らせた世界でも唯一の作だが、気に入ったか?」

「そりゃあ、職人には悪い事しちまったわ」

「ん? ――――ッ!?」


 髪飾りが粉々に砕け散る。そいつの気が逸れて、手が離れる。

 ――逃がすかアホが。


「死ね」


 体を反転させ、鎌を振りかざす。

 こいつがどういうつもりでこんな事をしたのか知らないが、俺に殺意を向け、ましてや実行に移したヤツに掛ける情けは持ち合わせていないんだよ。

 鎌がそいつの首に巻きつき、命を刈り取る直前――


「そこまでだよ」

「ストオオオオッップです!!」


 二つの邪魔が、その腕を止めていた。


「……離せ」


 殺意は健在だ。

 この二人も、それは感じ取ったはずだろう。

 しかしそんな事で怯む連中ではなかった。


「君の怒りはもっともだと思います。私も、彼女がここまでするとは思っていなかった」

「――で?」

「彼女を赦してはいただけませんか?」

「ヤダね」

「この学園の為にやった事なのです」

「来たばかりの学園の為に犠牲になれるほど、俺は聖人君子じゃない」

「君は――」


 ミハイルがなおも言い募ろうとするが、生憎聞くつもりはない。

 だがそこで、


「……やれやれ、二人とも、構わん。下がっていろ」


 他ならぬ、張本人が切り出した。

 正気かこいつ? 二人がいなくなれば、俺は間違いなくお前を殺すぞ?


「殺せないよお前は。そうなるだけの理由は持ち合わせているつもりだ」

「学園ちょ――」

「下がれと言った」


 ミハイルは顔を顰めていたが、しばらくしていかにも渋々といった雰囲気で頭を下げ、退室する。

 ミルヴァは、俺の方を何か言いたげに見つめた後、同じ様に退室していった。

 ――沈黙が生まれる。


「ふむ? 二人がいなくなった瞬間に飛び掛ってくるかと思ったがな」

「……一応、話だけは聞いてやる。聞いた後で殺すけどな」

「はは! ほんっとうに面白いヤツだなお前は!」


 一体ここまでのやりとりの何が面白かったのか。腹を抱えて笑い出すそいつ。

 ショートに整えた白髪。俺の胸よりも低い背。タンクトップにショートパンツという、色気の欠片も伺えない、動きやすさ重視の格好。

 そしてなにより目を引くのが、人間では絶対にありえない、長い耳。

 こいつは間違いなく。


「自己紹介が遅れたな。私はゲイン――」


 俺の視線に気が付いたか。耳を強調するかの様に顔を振る。


 「――ゲイン・アルムハンド。ごらんの通り、生粋のエルフだ。冥土の土産とならん事を願うぞ?」


 言い終えた後で、再びげらげらと笑い始めた。

 ファンタジーとしては、お馴染みの存在であるエルフ。

 会うのが楽しみだったその種族は、次の瞬間殺すかもしれない存在として、俺の前に現れたのだった。



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 今回のヘイトポイント加減値

生徒達からのなんともいえない感情合計=+200p

ミハイルの戦意=+500p

ミルヴァの戦意=+500p

ゲインの殺意=+1000p

現在のヘイトポイント=100億1万2千752p

初めてのエルフがあんなんで、セツナも困惑しています。

次の話の後に、今話の冒頭に繋がります。

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