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苦手な方はご注意ください。

セーラー服とショットガン~凶銃ウィンチェスターM1887~

作者: かたゆで

えあぐれん氏のイラスト「セーラー服とショットガン」をもとに書かせていただきました。


http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=49489668


バイオレンス短編です。グロ要素があります。

 深夜。

 ネオンの輝く大通りからは外れた、スクラップ置き場は死んだように静まり返っていた。錆の浮いた、タイヤの外された車、鉄骨、重機。深夜の曇った空の下に、黒々とうず高く積まれている。まさに無機物の墓場だ。

 その墓場の一角に少女は居た。

 少女はツインテールにした金髪をセーラー服に流し、エメラルドの美しい瞳を暗闇に妖しく光らせている。車の屋根で、黄昏ているように座っている。絵画から抜け出てきたような美少女だ。

 その手元には、彼女の小柄で未発達な身体には合わない、大きなショットガンが置かれていた。巨大な死の銃口と、銃床(ストック)の武骨な木目、管状弾倉(マガジンチューブ、特徴的なレバー。

 ウィンチェスターM1887レバーアクションショットガン。5連発の12(ゲージ)のショットガンだ。有名な銃器デザイナー、ジョン・M・ブローニングによってつくられたこの銃は、水平2連のショットガンが主流の時代に、倍の火力を引き出せる銃として、発売当時は注目を浴びた。

 しかし、レバーアクションという散弾(ショットシェルとは相性の悪い複雑な機構、整備を怠るとジャム(装弾、排莢不良)を起こす不便さにより、ポンプアクション式ショットガンが現れると、すぐに姿を消していった。

 しかし、この少女の銃は違う。

 彼女の手にこの銃が渡ってから、それは体の一部となった。分身とも言うのかもしれない。小さな手によって、隅々まで整備されたM1887は、今や血を求める飢えた猛獣となっている。

 そして、その猛獣使いとなった少女もまた、血に飢えていた。ひとたびM1887を構えれば身体が熱くなり、目標に向かって引鉄を引けば、自慰のような快感を体に感じる。

 少女とM1887は今、自身の破壊欲を内に秘めて、じっと機会を待っている。

 彼女の瞳が、光を捉えた。

 3台の黒いトヨペットクラウンが、丸いフロントライトを燈し、土煙を飛ばしながら走って、やがてプレハブ小屋の入口に停止した。少女のいる地点から、100メートル離れたところだった。

 少女はその整った顔の口元をゆがめると、M1887ショットガンを手に取り、左手でレバーを目いっぱい下げ、レミントンの弾箱から取り出した、赤い鹿撃ち(バックショット)弾を後部から装填し始めた。1発、2発とスムーズにチューブに送り込む。

 5発目を遊底(ボルト)の上に置いて、レバーを戻した。鋭い音とともに、ボルトがショットシェルを薬室に送り込む。

 M1887を座った状態で銃口を上に向けた。黒い銃身(バレル)が暗闇で鈍く光る。少女は口元をつぐむと、真剣な、そして熱っぽい瞳で、標的を睨んだ。

 クラウンからは男たちが降りていた。カバンを持ったものや、手に散弾銃(ショットガン)短機関銃(サブマシンガン)、拳銃を持った者も中には見える。

 ここは麻薬(ペー)の取引場所なのだ。手を尽くして調べ上げた少女は、ここを狩場とすることにした。ここに来る者たちに、真っ当な人間などいない。野獣の群れだ。武器を取り出しているところを見ると、どうやら彼らは取引相手を殺す予定らしい。

 そこに乗じて少女は「狩」を始める気だ。

 男たちは、各車に2名ずつ残して、残りの6名でプレハブを取り囲んだ。車を警備している男たちは、絶え間なく周囲を見渡し警戒する。

 少女は、シェルが引っ掛けられている弾帯を肩からたすき掛けすると、ポケットにもシェルを詰め込んだ。そして、車からズックを取り出すと、肩に背負って、M1887を片手に走り出した。遮蔽物が多いスクラップ置き場で、物陰に隠れて忍者のように移動する。

 少女がクラウンから20メートル離れて積まれた鉄骨まで来たとき、重苦しい機銃の連射音が深夜の静寂を叩き割った。プレハブ小屋の中から、旧軍の92式重機関銃が男達に向かって7.7ミリ弾の弾幕を浴びせているのだ。キツツキ(ウッドペッカー)と連合軍に呼ばれたこの機銃は、発射速度が毎分150発と落とされている代わりに、遠距離の命中精度が優れている。

 男達も手に持った火器で熱い返事をする。ドラムマガジンのトンプソンサブマシンガンや、四角い機関部のマドセンM50サブマシンガンが45ACP弾を乱射し、ウィンチェスターM12ショットガンが散弾を扇状に飛ばす。

 少女はここが頃合いと感じた。ズックから取り出したのは、火炎瓶(モロトフカクテル)だった。ガソリンが3分の2、灯油が3分の1の割合で入れられて、口の部分には灯油を染み込ませた布きれを詰めている。

 少女は火炎瓶を手に立ち上がった。車の見張りは、プレハブからの闇を切り裂く曳光弾に目を奪われて、誰も少女に気付かない。

 少女はジッポライターを取り出し、フリントを回転させ着火させた。大気に泳ぐ小さな炎を、火炎瓶の布きれに近づける。布にメラメラとした炎が移り、少女の冷徹な瞳を明るく照らした。

 大きく振りかぶって、火炎瓶をクラウンに投げつける。大きな弧を描いて、ボンネットの辺りで瓶が割れたかと思うと、パッと発火炎上した。

 プレハブの重機と撃ちあっていた男たちは、昼間のように明るい炎を背にして、飛び退くように駆け出した。

 全体に火が回った車は、ガソリンタンクに引火し、花火のように爆発した。周囲に火の粉とガソリンをぶちまける。周囲は一瞬で地獄と化した。

 爆発に巻き込まれた者は、火だるまになってのた打ち回る。そこを容赦なく死の機銃弾が襲い、絶命させていく。

 少女はM1887を構えると、一番彼女から近いM3サブマシンガン(グリースガン)を撃ちまくっている男に銃口を向けた。炎の光で黒い銃身が一瞬輝いた。

 男は殺気を感じて、彼女にグリースガンを向けたが、遅かった。20メートルの距離でばらまかれた散弾の一発が彼の心臓を抉っていた。

 訳も分からず昏倒する男を気にせず、少女は走りながら目いっぱいレバーを下げ、空薬莢を薬室(チェンバー)から弾き飛ばして、レバーを戻し、次弾を薬室に送り込む。

 一人の男が走る少女に気付き、コルトM1911自動拳銃(ガバメント)を放った。弾は逸れて彼女の足元の地面にあたり、土煙を舞い上げた。

 少女は、ガバメントを向けた男に狙いをつけると、引鉄を引き絞った。男と少女の距離は5メートル程だ。銃口から青白い炎が舌なめずりをして、散弾が放たれる。

 男は拡散しきっていない散弾をまともに胴体に受け、ザクロのように穴だらけになりながら吹き飛ばされた。

 少女はレバーを再び下げて、空薬莢を弾き飛ばす。薬室から薬莢とともに、硝煙が排出された。

 瞬間、耳元を機銃弾の甲高い大気を切る音がかすめた。少女は全速で駆け出すと、まだ爆発していないクラウンの陰に滑り込んだ。

 見ると、ラッパ状の消炎器(フラッシュハイダー)の92式重機の黒い銃口が少女に向けられている。少女が隠れたクラウンに絶え間なく、発射速度の遅い銃火を浴びせる。

 少女は舌打ちをすると、銃火の間隙をついて立ち上がり、レバーを往復させてチューブ内の3発を全弾撃ちきる。轟音が連続し、空薬莢がクルクルと弧を描いて飛ばされていった。畳一畳分の散弾が連続して、襲い掛かったため、しばし銃火が途切れた。

 少女は弾帯からショットシェルを取り出し、走りながらチューブに送り込んでいった。

 あまりにプレハブに近接したので、重機を操作していた二人の男の内の一人が、日本刀を振りかざして少女に向かってきた。

 装填途中の少女は、いったんレバーを戻した後、銃床打撃に備えた。男は白刃を少女に向けて、上段に振り上げた。少女は前受け身で、日本刀の切り下げを鮮やかに避ける。

 日本刀は空を切って、地面に突き刺さる。少女はストックで、前のめりになった男の顎を砕く。ひるんだ男にとどめの散弾を見舞うと、重機に縋り付く射手の男の胴体に向けてM1887をぶっ放した。

 腹部に大穴を開けられた男は、大量の血をどくどくと流しながら、前のめりに絶命した。

 突然、タイプライターのようなトンプソンの連射音が瞬いた。右肩と腹部に焼け火箸をさしこまれたような激しい熱さが走った。

 少女は反射的に伏せると、レバーを下げて、ポケットから取り出したショットシェルを震える右手を制して、チューブに送り込んでいった。

「やったか!」

「腹にぶちかましたんだ、生きてるはずがねぇ」

「あんな小娘に無茶苦茶にされるとはな」

「あっちが機関銃を備えていたのは誤算だったぜ」

 男は口々に安堵の感想を言い合っている。少女は激痛に耐えながらゆっくりと立ち上がった。

「おい、見ろ!」

 M12ショットガンを構えた男が少女を見て大声を上げた。

 少女は血で赤くセーラー服を濡らしながらも、M1887を構えて、レバーを目に留まらぬ速さで連射した。発射炎が暗闇に紛れた男達を照らし、腕や足を吹き飛ばされる様を、スローモーションのように少女の瞳に映し出す。空薬莢が連続で舞い上がり、硝煙を蔓延させた。

 全弾撃ちきったとき、右腕を吹き飛ばされた男を除き、全員が血だらけになって倒れていた。

「この野郎!」

 無くなった右腕の代わりに、男は左手でコルト32オートを少女に向かって構えて、連射した。軽い発砲音とともに、32ACP弾が彼女の頬をかすめた。

 少女は1発だけ装填すると、冷たい微笑を顔に刻んで、M1887の引き金を引き絞った。何回も経験した心地よい反動が体中を駆け巡り、発射炎が少女の目を幻惑させた。

 9粒の散弾はまともに男の頭に吸い込まれ、頭蓋骨が粉々に吹き飛び、はじけ飛んだ。頭の無くなった男は膝を折って倒れ、地面に胴体を晒した。右腕の無くなった胴体と、骨の断面を晒した首の付け根から血が滝のように流れ、地面に忽ち血の池を作った。

 少女は脱力したように座り込むと、M1887を肩に置いて目を瞑った。

 遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。

 少女は意識が遠くなりながらも、凶銃M1887ショットガンを強く抱いた。


                                   

                                      終

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