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SF・ホラー短編

1万年後の海の底

作者: 相戯陽大

地球温暖化、それは1万年前に起こった世界滅亡の危機。それは核戦争の危険とは比べほどにもならないくらいの勢いで都市を飲み込み、地球の表面を3割覆っていた陸地も今では1割にも満たない。このせいで人間の文明はかなり後退したと聞く。


「おい、聞いたか。また1人消えたってよ。」


ここ日本も北海道と本州の日本アルプスと呼ばれていたところを除けば小島しか残っていない。その中でも日本一の標高を持つ富士島が今の日本の首都で、僕の住んでいる島でもある。


「海の中探しても見つからなかったって聞いたぞ。」


僕の仕事は、海の底から小舟で人間の財産を引き上げること。僕はかつての関東平野を担当している。元々首都圏だったこともあり、人間の全盛期の頃の最先端がごろごろ転がっている。おかげでここ1万年の日本の歴史は誰よりも詳しくなった。そんなやりがいのある仕事ではあるけど、同業者が次々と失踪しているという噂があるのが気がかりだ。


「おい、もう日が暮れるぞ。早く帰ってこい。」


同僚が岸で僕を呼んでいる。少し物思いにふけている間にすっかり海は夕焼けに染まっていた。


「ごめん、今行く。」


岸に向かって漕ぎ始めた。一日の疲れのせいか、オールがとても重い。海が僕を帰らせまいとしているかのように。

「うわっ…!」


次の瞬間、目の前が銀色になった。怖い。寒い。苦しい。舟がひっくり返って僕は海に落ちてしまったのだ。僕も誰にも見つけてもらえずに、海の底で永遠に眠るのだろうか。だんだんと恐怖は薄くなる、暖かくなる、苦しくなくなる。


「ん…?」


半分生きることを諦めていた僕は、次に気がついたときここは黄泉の国ではないだろうかとさえ思った。しかし僕は生きている。でも、あたりを見回してみると見たことのない景色が広がっていた。後ろと上は固い壁、下は綿のような床で左右と前は布の壁ようだった。


少しするとその布がひとりでにするするとスライドして、壁の向こう側に白い服を着た少女が立っているのが見えた。この白い服を僕は知っている、1万年前に看護師が身につけていたものだと何かの本で読んだことがある。


「まだ寝てないとダメですよ?」


少女は日本語に近い言葉でそんな感じのことを言った。というのも、少女の日本語は独特な訛りがあり、それは田舎の言葉というよりもむしろ昔の言葉と言った方がいいほどだったのだ。


「…君が僕を助けてくれたのかい?」


「いえ、救急隊の方たちですよ。私は看護をしているだけですから。」


救助隊、とはなんなのだろう。もちろん助けてくれる部隊なのだろうと予測はつくが、そんな部隊の存在は聞いたことがない。


「こっちの世界のこと、これからゆっくり教えてあげます。だからそんなに考え込む必要はありませんよ。」


看護師の少女はさらに僕を考え込ませるような言葉を残し、布の壁をスライドさせた。


こっちの世界、とはなんなのだろう。僕はここから出ようとして布の壁をスライドさせようとしたけれど、うまく壁が動かない。


しかたなく布をくぐって外に出ると、さっきより少し広い場所に出た。ガラスの窓が付いている。外に庭があり、植物がたくさん植えてあるのが見えた。植物と言っても花や木ではなく、とても大きな葉っぱのようなものだった。


看護師の少女の言葉通り、ここは僕の住む世界と少し違う。言葉は通じ合えるけれど聞いたことのない言葉だ。それにガラスを加工する技術は僕の世界にはまだない。海底で見たことがあるだけだ。植物に至っては全然違うが、庭に植えるという文化は同じだ。


僕は、ある一つの仮説が頭をよぎった。僕は1万年前に来てしまったのではないだろうか、と。そうだとすれば言葉の違いや技術の進歩に説明がつく。植物もこの1万年で変わってきたのだろう。


僕は窓から飛び出した。憧れの1万年前の世界を見て回るために。しかし飛び出した瞬間、僕は自分の仮説が間違っていることに気づいた。窓の外は空気ではなく水が充満していたのだ。こんなところに1万年前の人間が住んでいたわけがない。僕は街の真ん中で意識を手放した。


「おい、しっかりしろ!」


次に目が覚めたときは、僕は自分の仕事場にいた。同僚たちが僕を見ていてくれたらしい。


「お前、海に落ちてから3日間行方不明だったんだぞ!」


「ごめん、心配かけて。」


僕はその3日間、意識がある状態は数分だったけれど、その間に起こったことは誰にも言わないでおくことにした。言っても誰にも信じてくれないし、今まで海で消えていった人たちも向こうの人たちにもてなされて暮らしているだろうから。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何か、ありえそうな話ですね。
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