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8月8日(金)+α

   〜8月8日〜


「ほらっ! 起きなさい!」


「うげっ」


 俺はマリナに蹴られて目が覚めた。どうやらマリナの体は無事に治ったらしい。


「朝っぱらから何すんだ!」


「何すんだ! じゃないわよ! もう8時なのよ! それまでずっと寝てた方が悪いの! さっさと起きなさい!」


 時計を見ると針は8時6分を示していた。俺はだるい体を起こし、アンパンの置いてあるテーブルに座った。


「……いただきます」


 俺はアンパンを食べようとした。しかし、マリナに止められた。


「トシナリさん。いつまでそんな格好してるつもり?」


「……はい?」


 マリナは何を言っているのだろう。寝ぼけていた俺は、自分の体を見て一気に目が覚めた。服が女物のままだったのだ。


「う、うわわわわわ!」


「ったく。昨日はトシナリさんの心が女だったから許してたけど……。今は許さないわよ?」


「俺だって嫌だよ! こんな格好!」


 俺は急いで変形魔法で服を元に戻した。


 ◇


「それにしても……なんで俺が魔法を使えるんだ?」


 朝食を終え、マリナに聞く。


「ん〜……。多分だけど、あの穴に入った時に少しだけ向こうの世界と繋がったからじゃないかしら。だから簡単な魔法だけなら使えるようになった……とか」


「はぁ……。」


「あと私に散々魔法をかけられて、体が少しずつ魔法に慣れてきたのもあるかもね」


「なるほどねぇ……」


 俺は手から小さい炎を出しながら言う。


「じゃあさ、これから魔法を頻繁に使っていけば向こうの世界に行けるようになるかも知れないって事?」


「かもね〜。でも、あと2ヶ月くらいはかかりそうよ」


「随分と先だな……」


 今度は手から植物のツルを出す。するとマリナが奇妙なことを言ってくる。


「トシナリさん……。もっと早く魔法に慣れたい?」


「……そんなこと出来るのか? 出来るなら慣れたいけど」


「そう……。ならやってあげる」


 この時俺はマリナの言葉の意味を深く考えてなかった。この後自分に降りかかってくる災難のことなど一切考えずに……。


 ◇


 今、俺はマリナに服にされて着られている。


「今まではトシナリさんの体への負担を考えてやってなかったけど……魔法に慣れたいなら少しくらい負担をかけないとね!」


 マリナの言う魔法に慣れる方法とは、体に負担の大きい魔法をかけられることだった。で、今日マリナが使ったのがどんなモンスターでも一撃の魔法。“衣装化魔法”だ。命を持つ物を好きなデザインの服に変えてしまうという、かけられる側からすると恐ろしい魔法だ。この魔法は言わば一撃必殺なので消費MPはとてつもなく多い。そのため使う側の負担も大きいが、それ以上にかけられる側の負担も大きい。何しろ生き物が、意志を持たぬ服にされるのだから。

 ちなみにこの魔法はとある女性プレイヤーから、「布や毛皮以外から作られた服も着せてみたい」という謎の意見が出たために作られた。どうやらその人は普通は作れない、スライムから作った、ジェル状の服が欲しかったらしい。女性の趣味は男からすれば謎が多い。なんであんなベチョベチョした物から服を作りたがるんだ?

 ま、どちらにせよその女性のせいで俺は今、ワンピースにされている。マリナ曰く、人から服を作るのは初めてらしい。というか今までは人から作れることを知らなかったらしい。ただ今日俺で試してみたら成功しただけのようだ。

 ただ、モンスターから作る場合はそのモンスターの毛皮や体がそのまま素材として作られるが、人から作ると何故かその人の着ていた服が素材とされるらしい。つまり今の俺は100%化学繊維というわけだ。


 でも……


 服にされても意識が残ってるのは意外だった。ただ何も出来ずにワンピースとしてフラフラ揺れているだけだが、何故か意識はある。どこで見聞きしているのかは分からないが目は見えるし、音も聞こえる。


「それにしても、この魔法は疲れるわよね〜。今回は実験として奮発したけど、明日からはもっと別の魔法にしよ〜っと」


 マリナは楽しそうだ。明日から俺にかける魔法を考えている。俺もこの魔法が今日限りだと分かって嬉しいが、それよりも早く戻して欲しい。例えどんな魔法にかけても解除魔法でマリナなら少ないMPで簡単に戻せるはずだ。

 もちろん解除魔法とは、使った魔法の効果を取り消すものだ。とはいっても、解除魔法という魔法が単体で存在するのではない。変形魔法の一種として存在している。そのため、変形魔法が使えるなら解除魔法も使えるはずだ。俺が朝、服を元に戻したのもその解除魔法を使っている。つまり俺も解除魔法を使えるのだ。

 しかし今、俺は体が服にされていて自分の意志では動けない。だから今は魔法は使えない。……と思っていたが、俺は前にマリナの言ったセリフを思い出した。


『魔法は精神体だけでも使える』


(……あれ? てことは、今俺は解除魔法が使えるのか?)


 よし。物は試しだ。俺は強く念じて、自分に解除魔法を使ってみた。


「う〜ん。何にしよっかな〜。霊化魔法でも疑似爆破魔法でも良いし……、って……え?」


 マリナが俺にかける魔法を考えていると、いきなり驚いたような声を上げた。いや、実際に驚いている。なんたって自分の着ていた服が急に光り出したからだ。


「これは……解除魔法?! でも何で?!」


 光る俺の体……つまり服はゆっくりと形を変えて元の人型になっていく。そして気付いたら、俺は下着姿のマリナに抱きついていた。


「よしっ! 成功! って……あ……」


 無事に元に戻った俺は、マリナが顔を赤くしているのに気付いた。恥ずかしさと怒りが混ざっているのがよく分かる。


「あ……ご、ごめん……」


 俺はマリナから離れ、謝りながら後退する。しかし、マリナの怒りは収まらなかった。


「これでも……食らいなさい!」


 そうマリナが叫ぶと、俺は急な眠気に襲われた。


 で、俺はそのまま意識を失った。


 ◇


   〜*月*日〜


 ここは……?


 気が付くと俺は見たこともない場所にいた。周りには廃屋と焼かれた森が広がっていた。まだあちこちで火が上がっている。まるで森の中にあった村が空襲を受けたかのような風景だった。


「……何だこれ」


 俺はそう言うと、自分の体の異変に気付いた。


(声が……高い?)


 ふと自分の体を見ると、俺はあることに気が付いた。


(俺……子供になってんのか? しかも女の子……)


 明らかに俺の視線は低く、体も柔らかくて髪が長い。声も高くて、着ている服も女の子が着ているような可愛い系のデザインだ。


 まさに今、俺は推定6歳程の女の子になっていた。


 その時だ。いきなり後ろから誰かが俺の手を掴んできた。


「!」


 そこにいたのは見たことの無い女性だった。


「ほら! マリナ! 何やってんのよ! 早く逃げないと死んじゃうわよ!」


「……何のこと?」


「何寝ぼけた事言ってんの! とにかく早く逃げるわよ!」


「はぁ……」


 俺はよく分からないまま女の人に引っ張られていった。


 ◇


 女の人に10分程引っ張られて着いた場所は橋の下だった。そこには他に多くの人がいた。


「あっ! マリナちゃんだ〜!」


 そこにいた1人の女の子が俺を見ると急に抱きついてきた。


「?! だっ、誰?!」


「どうしたの? マリナちゃん。大丈夫? アカリだよ?」


 そう言うとアカリちゃんは俺をギュッと抱き締めた。


(えーっと……)


 一旦状況を整理しよう。どうやら俺はマリナの魔法でどこか分からない場所に来たらしい。で、俺はマリナになっている。


 それ以外は何1つ分からない。ここがどこか。あの村には何があったのか。


「きゃぁぁぁ!」


 俺が現状を整理していると、誰かの叫び声が聞こえた。どうやら今俺達がいる橋が崩れ始めたらしい。


(って早く俺も逃げないと!)


 いつの間にか俺に抱き付いていたアカリもいなくなり、俺は橋の下から非難する。そして橋の方を見ようとした時、


「危ない!」


 急に俺の体が突き飛ばされた。


(何だ?!)


 俺は空中で体を捻り、俺を突き飛ばした人を見る。それは、さっき俺を引っ張ってきた人だった。そして、俺は視界の上に何か落ちてくる物を見つけた。そしてそれは女の人を直撃した。


「!」


 爆発が起こり俺は爆風によって吹き飛ばされた。俺に熱い風と生温い赤い液体がかかる。そして俺は川に落ちた。すぐ隣には誰かの腕が落ちてきた。足も落ちてきた。そして頭も……。


 その顔を確認した時、俺は意識を失った。


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