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8月6日(水)

   ~8月6日~


 時刻は午前7時。マリナが来る前は、この時間が俺の起床時間だ。


 床に敷かれたマットの上で目覚めた俺は、いつもなら既に起きているはずのマリナが、ベッドの上で気持ち良さそうに寝ているのを見つけた。


(昨日の魔法の使い過ぎのせいで疲れてるのかな……)


 俺はマリナを起こさないように静かに1日を始めた。

 まずは新聞を取りに受け取り口へ。ひとまず、その場で1面だけに目を通し、机の上に置いておく。

 次に朝食。とは言っても俺は朝は軽く済ませるので、戸棚にあった食パン1枚と牛乳1杯だけで終える。ちなみにこの牛乳は、一昨日マリナが俺から搾乳したものだ。200リットルも搾れたらしく、あの夜にそれを魔法で殺菌し、圧縮して牛乳パックに入れていた。だから見た目1リットルでも、中からは次々と新鮮な牛乳が出てくる。それが全て俺から出たものというのだから驚きだ。

 さて……皿を洗った後は掃除っと。棚に立てかけてある箒を手に取り、床の埃を掃いていく。マリナを起こさないようにベッドの下も綺麗に……と。

 これで朝にすることは一応終わった。洗濯は2日分をまとめて行うので今日はやらなくていい。


「……さて。何しよう……」


 俺は周りを見て何かないか探す。しかし心をくすぐられるものは見当たらない。マリナが来るまではパソコンで色々とやっていたが、今はそれをやる気になれない。


 ……え? パソコンで何をしてたかって? そ、それは……まぁ、ヤ、ヤーフトップニュースを見たり、ヨウツーベでゲームの実況見たり……。え? 俺の左手が落ち着いて無い? だから嘘ついてる? 雉じゃあるまいし、そんなこと言うな!

 な、何こっち睨んでくるんだよ。止めろ! 見るな!

 ……はい。すみません。パソコンで変なページ見てました。Rと1と8が書いてあるページです。ごめんなさい。


「って、何やってんだ俺……」


 虚しく1人漫談(?)をしている俺が恥ずかしく思える。


(ホント、何やってるんだか……)


「だよな、やっぱり俺、変だよな……」


(変っつーか、変態よ……)


「変態じゃねーよ! 健全な男なら……って……え?」


 何だ? なんかさっきからマリナの台詞が聞こえてるような……?


(聞こえてる訳じゃないわよ。トシナリさんの脳が私を演じてるだけよ)


 ?! マリナ?! って……どういうこと?


(今は、私はトシナリさんの脳に思考回路を委ねてるのよ)


 ……ごめん。意味が分からない。


(つまり、今のトシナリさんは私とトシナリさんの両方って事よ!)


 はぁ……?


(分かったわ。こうすれば良いんでしょ!)


 何か分からないが、マリナが怒っているのは分かった。で、『こうする』ってどうするの? マリナさんが私に何かを伝えようとしているって事は分かるんだけど……。


(……ん? 私?)


 今、自分のこと、私って言った? ん? あれ? 私って……トシナリさん……よね? あれ? え? 私はトシナリさん? 私……どうしちゃったの?


 しばらく混乱していると、トシナリさんの声が聞こえてきた。


(分かったか? 俊成。何が起きているのか)


 ふぇっ?! わ、分からないよぅ……。だって私はトシナリさんのはずよね? でもなんか違和感あるし……。


(まぁ良い。戻すぞ)


 そうトシナリさんの声が言うと、なんか頭がクラクラしてきて、俺は倒れそうになった。


(どう? 今度こそ分かったでしょ?)


 マリナ?! 今、俺どうなってたんだ?


(この体の主となる精神を入れ換えたのよ)


 えっとつまり……よく分からないけど、俺はマリナになっていた……ってこと?


(ちょっと違うけど……。要は精神ってのは思考回路なのよ。だからトシナリさんのメインの思考回路が私の思考回路に切り変わってたってこと)


 どっちにしても意味分からん……。てか何でまたそんな変なことを……。


(簡単に言うと……昨日の魔法の使い過ぎで体がちょっと壊れちゃってね……。意識はあっても体とリンクしてない状態だったから、トシナリさんに憑依したのよ)


 壊れた?! 大丈夫か?! マリナ!


 俺はマリナの体に近寄る。


(そんな大袈裟な……。トシナリさんに分かり易く言うと、体が疲れたのよ。昨日、1回MPが空になっちゃって……その影響ね)


 それ……いつ治るんだ?


(大体3日あれば完全に治るわよ)


 つまり3日もこの状態!?


(嫌ならさっきみたいに私と精神を入れ替える? 少し変わった日常になるわよ?)


 いや、今は良いよ……。ところで、MP無しで何で憑依魔法が使えるの?


 そもそも憑依魔法とは、モンスターに憑依して、動きをある程度コントロールすることが出来る。魔法を使っている人は攻撃も防御も出来なくなるが、それでも便利な魔法だ。


(……1晩も寝てりゃそれぐらいのMPは回復するわよ。魔力は精神だけても使えるしね)


 ……よく分からないけど、まとめると、






1・(初めて知ったが)魔力は体を保つ役割も持つため、MP切が発生すると体が昏睡状態になる。


2・よって今、マリナの体は十分に機能していないが、精神は普通に生きている。


3・魔力は精神体でもコントロール出来るので、体は動かずとも魔法は使える。


4・で、今マリナは憑依魔法で俺に憑依している。


5・この状態であと3日過ごさなくてはならない。






 ……ってこと?


(よく出来ました〜)


 誉められるが、少しも嬉しくない。憑依されるなんて感じが悪い。しかも今はマリナの考えていることは、結局は俺の脳が考えていることなので、端から見れば自分で自分を誉めていることになる。ただの自画自賛男だ。


(失礼ね。今トシナリさんが考えてることがそのまま私に伝わるんだから、少しは自重しなさい!)


 つってもなぁ〜。俺、一方的に取り憑かれたんだろ? なんか利益無いっつーか……。


(そう……残念ね。なら、トシナリさんと精神も記憶も入れ換えちゃうかな……)


 は?どういうこと?


 マリナに問う(結局は自分にの脳に問うのと同じだが……)が、返事が無い。すると、急な目眩に襲われて……。






 っと。こんなものかな。ちょっとトシナリさんの体を奪うのは罪悪感あるけど……仕方ないよね。


(ってマリナ?! 何したんだ?!)


 何って……分かるでしょ。私がトシナリさんの体を乗っ取ったのよ。完全にね。


(はぁ?! 何すんだ! 返せ!)


 明日になったらね〜。それまで私に文句言ったこと、反省しなさい!


(そ、そんなぁ〜)


 さて、“バイト”ってやつまで何してよっかな〜。






   〜俊成編〜


 ……マリナに体を乗っ取られました。


 なんて言うんだろう……この感覚。自分の体なのに、自分の意志に関係無く動かされる。ラジコンにされた気分だ。勝手に手が動き、水を飲み、トイレに行く。全身からの信号は受け取れるが、脳からの信号は受け取ってもらえない。


 どちらにしても、変な気分だ……。こういう時は……寝てよう。






   〜マリナ編〜


 トシナリさんの意識は寝たみたいね……。まぁ、そっちの方が有り難いかな。頭の中で文句言われるのは五月蠅いし。


 暇な私はトシナリさんの部屋を捜索してみる。


(とはいっても……何も無いわね……)


 トシナリさんの部屋は何というか……質素とでも言うのが適切かな。食事用のテーブルに“パソコン”の置いてある机。ベッド。キッチンには食器や食品を入れる棚と、“冷蔵庫”、“電子レンジ”、“炊飯器”などがある。


 ……ホント、何も無いわね。


 私は仕方無く、“パソコン”の電源をつけてみる。使い方はトシナリさんが使ったのを見たので多少は知っている。


「これが……ゲーム?」


 “デスクトップ”の左下にあったマークを押して、物色していると、『ゲーム』と書かれたボタンを見つけた。試しに押してみると……


「ソリティア、チェス、スペード、ハーツ……。色々あるのね」


(名前だけじゃどんなゲームか分かりやしないわ。)


 試しに“チェッカー”というゲームのヘルプを見てみる。


「コマを交互に1マスずつ動かし、相手のコマを取るゲームです(略)。

 ……なるほど、頭脳線ってことね。それならルールは簡単そうだし、やってみようかな……」






 結果。勝率0%。


(この手のゲームはやっぱり慣れ、なのね)


 その後、“バイト”に行くまでの間、私はゲームを片っ端からやっていった。





   〜雉編〜


 つまり今の矢田君はマリナちゃんなのか。


 僕の父さんのラーメンで、矢田君と会うと、矢田君は僕を引っ張っていき、


「今の私はマリナだから」


 とだけ言って去っていった。おそらく矢田君は何かをやらかしたんだろう。前もマリナちゃんに女にされてたし……。


(あの矢田君は可愛かったな……って何考えてんだ? 僕)


 あの時何があったのか。それは、矢田君がマリナちゃんに魔法で女にされ、色々されていた。

 色々、というのは、僕自身は矢田君に何があったか分からなかったからだ。女にされた矢田君はマリナちゃんに風呂場に連行され、何か非道いことをされていたらしい。僕は風呂場まで行かず、リビングでくつろがせてもらっていたので、何をされていたか見ていない。が、風呂場から聞こえてきた悲鳴から、よほど非道いことをされていたのが分かる。実際、矢田君が出て来たとき、何か腕やら足やら、色々な所から血が滴り落ちていた。

 その後矢田君はベッドに倒れ込み、そのまま寝てしまった。


「痛そうだったな……」


 しばらく一昨日のことを考えていると、父さんの声が聞こえてきた。


「おら! 直樹! ぼっとしてないで、準備終わったらさっさと仕事しろ!」


「あい! 今行く!」


 よし! 気を切り替えて仕事だ!


 ◇


「ところでさ、ホントの矢田君は今、どこにいるの?」


 バイトが終わり、帰りながらマリナちゃん(体は矢田君だけど)に聞く。


「トシナリさん? ここにいるわよ」


 そう言ってマリナちゃんは自分(でもやっぱり矢田君の体)の頭を指す。


「ここって……?」


 小さくなって頭に乗っている……訳ではなさそうだな。だとしたらマリナちゃんが矢田君になっている説明がつかない。だとすると……


「まさか矢田君は意識だけの存在となっている……とか?」


「まぁ、そんな感じかな〜。今も『早く戻せ!』って喚いてるし」


「はぁ……。そうですか……」


 大変そうだな、矢田君。マリナちゃんに体を乗っ取られちゃったか。


「でも、何でわざわざ体を乗っ取ってるの?」


「まぁ、色々あるのよ〜」


 なんか誤魔化された。けどまぁ、どうしても知りたいって訳じゃないし、別にいっか。


 そうこうしている内に、矢田君のアパートの前に来た。


「じゃ、また明日」


「じゃあね〜、キジさ〜ん」


 そして僕は自分の家に向かって歩き始める。






 それにしても、マリナちゃん、接客上手かったな……。今度バイトに来てもらえないか聞いてみよ……。


 僕は新たなバイト候補を見つけて、クスリと笑った。


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