94.この世界との別れ
町には倒れている人がたくさんいた。
きっとみんな起きたら本来のにぎやかさを取り戻すんだろうな。
そういえば、メルニ達はギルドを再びやってみるとか、他の人達は故郷に帰るという感じだったけど、仲間のみんなはどうするつもりなんだろう?
一応大きな目的はもう達成してしまった訳だけど。
「戦いは終わったけど、みんなはこれからどうするの? 故郷に帰るの?」
「私は師匠に忠誠を誓った身。どこまでもついていきますよ」
「私もレンについてきてから色んなことが知れたから、また一緒に旅をしたいわね」
「私も、同じく」
「ボクも一緒に行っていっぱい研究した~い」
「オレももちろん……ついていくッス!」
ついていく……か。
僕もみんなとできることなら一緒にいたいけど……
そういえばバルグはどうなんだろう?
「バルグはどうするの? 天空竜国の王を継ぐの?」
「何バカなこと言ってんだよ? 言わなくても分かるだろ?」
バルグは不満気な顔をした。
まあ、バルグの性格上、王を継ぐなんてことを望むはずがないよね……
ごめんごめん。
でもバルグもついてきたい、か。
そういえばこの世界に来てからほとんどバルグと一緒に過ごしてきたような……
改めて思い返すと、竜の王子と一緒に旅するなんて奇妙だよね。
閉鎖的な天空竜国の生まれでしかも王子のバルグと、どこかへんぴな洞窟にいたただのコボルドだった僕が出会うなんて今考えても奇跡だよね。
まあ、その出会いがブローダンとの因縁とか、天空竜国に行くハメになったとか色々と面倒ごとに巻き込まれることにつながったんだけど。
でも退屈しなかったし、色んな仲間達にも出会えたし、本当に楽しかった。
そうこうしているうちに、僕の体が少し透けていることに気が付いた。
こうやって気づかないうちに僕はこの世界から消滅してしまうんだろうか?
元の世界に戻るだけなんだろうけど、なんだか少し寂しく感じる。
せめて、もう一言だけ、みんなと話せたら―――
そう思ってみんなに話しかけようとしたが、声が出ない。
気づいてもらおうと近くにいるフィナやリザースに触ろうとしてもすり抜けてしまって触ることができない。
しまいには歩けなくなってしまった。
この徐々にこの世界でできることが少なくなっていく感覚はとても辛い。
ついには仲間達が話している声も聞こえなくなってしまった。
そしてレーネシアス神聖帝国を観光しているみんなは僕を置いて先へと進み、僕から離れていく……
僕はその様子をその場からただ見ていることしかできなかった。
僕はこの世界から消えるということを甘く考えていたのかもしれない。
それはつまりこの世界にいるみんなと二度と話すことも出会う事すらもできないということ。
会いたくても会えない。
でもそれは仕方がないこと。
これは自分が選択した道。
このような状態になって、自分がした選択の意味を強く感じることになったけど、でも起こることは変わらない。
元の世界に戻るだけ。
そう、元に戻るだけなんだ。
これまであったことは全部夢。
だから大丈夫、何にも悲しむことなんてない。
僕は自分にそう言い聞かせて必死にこの状況を耐える。
そうしているうちに、体の感覚がなくなり、視野がだんだんと狭くなっていった。
もうすぐ、もうすぐで、夢は終わるのか。
視野もほとんど残っておらず、気を失いかけていたとき、バルグらしき姿が目に入った。
何か言っている?
声が聞こえないから口の動きから何とか類推すると―――
「また会おうな」
……バルグの馬鹿。
僕はそう思うと同時に意識を失った。
僕は目を覚ました。
すると、橙色の空が目に入った。
遠くからは遊んでいる少年たちの声が聞こえてくる。
起き上がると、大きな川とその周囲に生い茂る植物が目に入る。
そしてひんやりと冷たくて心地よい風が吹きあたる。
うん、間違いない。
僕は現実世界に戻ってきたみたいだ。
ということは、この近くに僕の自転車があるはずなんだけど、どこにあるかな?
あった。
寝ころんでいた草原のすぐそばに自転車は横たわっていた。
僕は通路まで歩いてから自転車をこぎ、帰路につくことにした。
それにしても僕が異世界に行く前と本当に変わってないな……
夏の終わり頃という季節も夕方という時間もそうだし。
本当に夢だったのかな?
それにしても長い夢だったな……
一人でいることが当たり前だった僕に一緒に行動してくれる仲間ができたり、魔法が使えたり、ここじゃ考えられないことがいっぱい起きた。
でもそんな世界にもう行けないんだよなぁ……残念。
まあ、夢なんだから当たり前なんだけどさ。
夢と言ってもかなり濃密な経験をしたよなぁ。
仲間と一緒に過ごす楽しさとか、協力して一つのことを成し遂げる達成感とか経験することができた。
他のクラスメートの人達はそういう体験を当たり前のようにしているんだろうけど、僕はそんなことはできなかったし。
まあ、そんな経験を糧に、今日からまた頑張って生きていきますか!
まあ、帰ってゲームをやるだけだけど……ってあれ?
確か宿題があったような気が……
あっ、そうだ!
明日までに提出しないといけない数学の宿題があるんだった!
これはまずい……
この世界的には時間は全く経っていないんだろうけど、僕の体感時間的には学校の授業なんて数ヵ月ぶりみたいなものだから、数学なんてすっかり忘れちゃったよ……
ああ、どうしよう……
『だったらその宿題、俺が手伝ってやろうか?』
『宿題を手伝ってくれるって? 誰がそんなこと―――ってまさか、その声はバルグ!?』
心に直接聞こえてくる声、そしてこの口調。
それは間違いなく―――
『ああ、そうだ。また会えたな、レン』
異世界での相棒、バルグだった。
『って姿見えないから、会えたとは言わないんじゃないの!?』
『おおっと悪い悪い。これでどうだ?』
そうバルグが言うと、目の前に僕と瓜二つの姿をした人間が現れた!
バルグ、人間に変身するのうまくなったなぁ……ってそうじゃない!
全く顔お格好も同じ人がいたら奇妙に思われるじゃないか!
双子としてもあまりに似すぎているし……
ダメダメ。
「なんだよ、言葉がおかしいといったのはレンの方じゃないのか?」
不安そうなバルグを僕と融合させ、自転車を使って帰路につく。
あ、ちなみにその融合した様子を人に見られるのはまずいので、バルグに結界をはってもらいました。
この世界でも魔法を使えることに驚いたけど。
『でもバルグ、どうやってこの世界に来たの? 世界は無数に存在するから僕のいるこの世界に来るのは難しかったはずだけど?』
『フフ、それはそれは苦労したさ。魔王から方法を聞き出したりとか、そのための準備とか色々含めてな。だが、本当にうまくいってよかった』
『僕はバルグが来てくれて嬉しいけど、バルグはもう自分の世界に戻れなくなってしまったけどいいの?』
『ああ、覚悟はできてる。それにそのことは親も了承済みだ』
『そっか、だからガルダン王は後悔しない選択をしろと言っていたのか』
『ああ、そういうことだ』
僕がブローダンと一緒にメルニに会いに行ったときとかにバルグがいなかったのは、天空竜国で両親に会うためだけでなく、この世界に来る為の準備をしていたのかもしれないな。
そういえば魔王が寝不足のときがあったけど、あれってバルグから質問攻めにあって寝れなかったからなんじゃ……
そう思えばその状況に納得がいく。
『それに、この世界に来ているのは俺だけじゃないぞ』
『え、まさか……』
『それはまあ、後のお楽しみだな』
そんあ感じでバルグと念話で話しつつ、僕は自宅に着いた。
「ただいまー」
「あらお帰り、レン。そういえばあなたにお友達が来ているわよ? 珍しいわよね?」
お友達、ということは……
僕は慌てて靴をその場に脱ぎすて、リビングの方へ急ぐ。
そして扉を開けると、そこには五人の学生がいた。
「レン、お帰り!」
「師匠、お邪魔させてももらっています」
「レン、来たよ」
「レンレーン、一緒に遊ぼ~?」
「レンさん、また会えて良かったッス!」
みんな学生服を着た人間の姿をしているが、そこにいるのは間違いない。
紛れもなく異世界の仲間達だった。
『異世界で魔物生活』ついに完結です。一年以上にわたって書き続けたこの物語を無事に終えることができてホッとしています。ここまで読んで頂いた読者の皆様、本当にありがとうございました!




