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異世界で魔物生活  作者: はちみやなつき
最終章 天使との決戦
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92.みんなの力

 結界の外は、まさに上空というような場所だった。

 真下にはレーネシアス神聖帝国が見え、周囲には雲が漂う。

 足場はあるようだけど、透明になっているから、まるで空に浮かんでいるみたいだ。

 足場は見えないけれど、一体どこまで足場があるのかはよく分からない。


 そんな空間に、人間の僕の姿をした天使ナミエルはいた。



「ハハ、貴様をみくびっていたようだ。まさか全ての結界を破るとは。本当に、魅力的だ……」

「これで結界は切れた! 一気に片を付ける!」



 それからは一方的な展開だった。

 天竜化した僕の攻撃は一層強力になる。

 一方で結界が破壊されたことで天使ナミエルはだいぶ疲弊していて、動きは鈍くなっていた。

 そしてその動きの鈍さから、僕の攻撃は天使ナミエルに当たるようになっていた!

 攻撃が当たる度、ナミエルは傷つき、さらに弱々しくなっていく。


 今までの展開とのあまりの違いにちょっと拍子抜けな感じをうける。



『だが、レン、決して気を抜くなよ。相手は天使の中でも最高峰のナミエルが相手だ。何を考えているかは分からない』

『うん、そうだね。油断は禁物……だね』



 いくら僕が天竜化して力を増したとはいえ、あまりに一方的すぎて何かおかしい気はするんだよね。

 でもそうおかしいのかよく分からないから、攻めるしかないんだけど……



 それからも僕が一方的に攻める展開ではあったが、ナミエルが意外と攻撃を避けてきたリ、なかなかタフでやられないなどもあって、僕の悪魔力がだいぶ枯渇してきた。

 そろそろ勝負を決めないと……



『バルグ、次で決めるよ、覚悟はいい?』

『ああ、もちろんだ』



 バルグとそう念話で言葉を交わしてから、僕は魔法を放った。



「悪魔火球!」



 火球攻撃に悪魔力を加えたシンプルな魔法。

 でもそれ故に少ない魔力で効率的に強力で正確な攻撃を撃てるので、今の状況には最適の一手だ。


 狙いすました悪魔火球は見事にナミエルに直撃し、ナミエルは倒れた。

 そして倒れたままナミエルは動く様子を見せない。



『レン、今がチャンスだ!』

『うん、分かってる』



 僕は魔王から預かった悪魔の憑依薬を取り出した。


 悪魔の憑依薬は悪魔が特定の人物に憑依する為に使うものである。

 憑依薬を使われた者の魂は肉体と分離してしまうので、その隙に悪魔が体を乗っ取るという目的で使われる。


 これから行う作戦は、その憑依薬を使われた者の魂は肉体から分離するという薬の特性を生かしたものだ。

 まず悪魔の憑依薬を天使ナミエルにかけ、人間の僕の魂だけを抜き取る。

 天使には憑依薬は効かないそうなので、そこは問題ないだろう。

 そして次に、抜き取った人間の僕の魂を魔物の体の僕に取り込むのだ。

 そうすることで、天使ナミエルから僕の魂だけを分離でき、無事に救い出せるということだ。


 果たしてこの作戦はうまくいくのだろうか……?



 僕はすぐさま作戦に移った。

 倒れている天使ナミエルに悪魔の憑依薬をふりかける。

 すると、うっすらと何か白っぽい魂がでてきた。



『これが人間の僕の魂……なのかな?』

『恐らくそうなんだろうな。魂だけの存在を見たのは初めてで俺にもよくは分からないが』

『そりゃそうだよね。でも、どうやったらこの魂を取り込めるんだろう? 直接触ってみる?』

『どうなんだろうな? とりあえずそうしたらいいんじゃないか? 他に思い浮かぶ方法もないしな』



 魂を取り込むなんて想像つかないけど、とりあえず触ってみることにする。

 まあ、実体のないものだから触れないような気もするけど……


 僕は恐る恐る魂と思われる白っぽい塊に触れてみる。

 すると触れた瞬間、その白っぽいものが僕の体の中に吸い込まれていく!


 まさか魂を触れるとは思っていなかった僕は度肝を抜かれた。

 その間に白っぽい魂は全て僕に吸収された。


 魂が吸収された。

 いうことは、これで僕はもう一人の僕を取り込むことができたんだろうか……?

 あまり実感湧かないけど。


 そうすると、後は天使ナミエルを倒せば全てが終わるはず。

 天使ナミエルの今の状態はどうだろう?


 そう思った僕は天使ナミエルの方へ振り返る。

 天使ナミエルは僕が悪魔の憑依薬をふりかけてからは微動だにしない。

 まるでそこには体の抜け殻が残されているだけで、中には何も残っていないように見える。


 えっ、何も残って……いない……?

 何か急に嫌な予感が……


 急速にこみあげてきた不安感から僕は慌ててバルグを自分から分離する。

 するといつも通り二人の竜人族に分離したのだが……



「レン、一体何をする……ってレン、一体どうしたんだ!? 体が真っ白だぞ!?」



 どうやら僕の体は真っ白に変色しているようだ。

 明らかに普通じゃないこの状況。

 やはり天使ナミエルは……



「お、おい、大丈夫か、レン!? しっかりしろ!」



 僕はそのバルグの言葉を最後に、気を失ってしまった。






 僕は目を覚ますと、スライム村の広場にいた。

 なんでこんな所にいるんだろう?

 それに体を見ると、人間の姿になっている。

 魔力消費がないことから、変身してこの姿になっている訳じゃないことが分かる。

 つまり、人間の姿に戻ったということ?


 いまいち状況がつかめずにいると、背後から声が聞こえてくる。



「フフ、目覚めたようだな」



 声がした方へ振り向くと、そこには白い翼を生やした若い男性的な顔をした天使が立っていた。


 この人は天使ナミエルなんだろうか……?

 今までは人間の僕の姿をしていたから、天使ナミエルとしての姿を見たことがなかったから確信が持てないんだよね。



「この姿を見て驚いたか? まあ無理もない。精神体である我が真の姿になるのは精神世界のみ。生物が我の真の姿を見ることの方が珍しいだろう」



 精神世界……

 そうか、ここは僕の精神世界なんだ。

 きっと僕は気を失って、そしてこの状態になっているんだろうな。

 そして天使ナミエルが僕の精神世界にいるということは、やはりそういうことなんだろうな。

 でも悪魔の憑依薬は天使には効かないはず。

 なんであの白い塊の中にナミエルが……?



「我が何故貴様の精神世界にいるのか疑問に思っている顔だな?」

「……天使には悪魔の憑依薬は効かないはず。だからどうして君がここにいるのかが分からない」

「フフ、確かに我には悪魔の憑依薬は効かぬ。だが、いつから我が肉体と魂を分離できないと錯覚していた? 我は精神体。まさかそんなこともできぬと思っていたのか?」



 ……しまった。

 確かに言われてみれば、精神体である天使が魂と肉体を分離できるのはごく自然のことのように思える。

 同じ精神体の悪魔も同じことができるのだから。

 どうして今までそのことに気付かなかったんだろう……?

 それにそのことをなぜ魔王も気づかなかったんだろう?

 思慮深い魔王なら気づきそうなものなんだけど。



「フフ、魔王の奴、我の術中にはまっていることも知らずに、哀れなものよ。そしてそんな奴にこき使われる貴様はさらに哀れ。せめて苦しまないように終わらせてやろう……」



 ナミエルの術中……?

 魔王はナミエルに何かされていたんだろうか……?

 もしかして魔王が作戦ミスに気付かなかったのは、ナミエルが魔王に何かをした影響なの?


 いや、そんなことを考えているよりもまずは目の前にいる天使ナミエルをなんとかしないと。

 そうこうしているうちにナミエルが何かの呪文を唱え終えようとしている。



「フフ、くらうがいい。精神侵食!」



 ナミエルがそう言った瞬間、僕は強烈な不快感に襲われる!

 心が無理やりえぐられるような感じで、気持ち悪い事この上ない。

 そしてナミエルの攻撃を受けると同時に回りの景色が歪みだした。

 ここは僕の精神世界だから、精神が不安定になるとその世界もおかしくなるんだろうな……


 このままじゃやられる一方だし、何とかしないと……

 とりあえずナミエルに攻撃をしてみよう。



「悪魔火球!」



 そう僕は呪文を唱えた。

 しかし、魔法は発動しなかった。

 えっ……どうして魔法が発動しないの!?



「フフ、残念だったな。貴様が目を覚ますまでに我が何もしてなかったとでも思うたか?」

「まさか、魔法を使えないようにしたのか……!?」

「フフ、それだけではない。貴様自身の全ての力を無力化した。我は精神世界の支配者。ならば取り憑いた者の力を奪うことも容易い。そしてそれこそが我が精神世界にて最強の理由。誰も我には手も足も出ぬ」



 全ての力を無力化だって!?

 それじゃあ天使ナミエルに攻撃する手段がないということじゃないか!?

 もしかしてもう一人の僕はずっとこんな状態で過ごしてきたというのだろうか……


 それから僕は何度も魔法を発動させようとしてもダメだった。

 ならば直接ナミエルを攻撃しようと殴りにいっても、ナミエルの体をすり抜けてしまって効果がなかった。

 そしてそうこうしているうちに、だいぶ体の動きが鈍ってきた。

 このままじゃ近いうちに天使ナミエルに精神をやられてしまう……

 一体どうすればいいんだろう……?


 もう一人の僕が今の僕と同じ状態だったとするならば、一体どうやって長い間耐え続けられたんだろう?

 今の僕だとこのままじゃ1日もしないうちにやられてしまいそうな勢いだ。

 一方でもう一人の僕は少なくとも数ヵ月は耐え続けている。

 ということは何か対抗できる手段はあるはず……


 僕が今、人間の姿に戻っているから、もう一人の僕と融合して、知識も共有されているかと思ったらそんなことはなかった。

 もしそうだったら打開策を見出せそうなんだけどなぁ……


 まあ嘆いてばかりいても仕方がない。

 ちょっと状況を整理してみよう。

 まず天使ナミエルの言葉によれば、僕自身の全ての力を無力化したと言っていた。

 実際、魔法を使おうとしても発動すらしないし、直接的な攻撃もすり抜けるような感じで全く手ごたえがなかった。

 苦し紛れに近くにある石を投げても軽々と避けられてしまうので全く意味がない。

 そして手ごたえがないまま時間が経ち、今に至ると。


 うん、こんな所かな。

 果たしてこの中に突破口はあるんだろうか?

 うーん……


 あ、そういえば僕が天使ナミエルを殴りに行っても避けようとしなかったのに対して、石を投げたら避けようとしたよね?

 それはつまり、石ならば天使ナミエルに効果があるということじゃ……!?


 ならば試してみよう。

 ひたすら石を投げて天使ナミエルに当てようとする。

 連続でそこら中に転がっている石を投げた結果、ようやく一つの石がナミエルにヒットした。

 やはり、自分自身でないもの、今回の場合は石であれば、ナミエルに攻撃が通るようだ。

 まあ、ダメージはあってないようなものだけど……



「貴様、せっかく我が寛大な心で直接攻撃しないでやっているのに。よくもそんなものをぶつけてくれたな……覚悟せよ」



 僕が石をぶつけたことでナミエルを怒らせてしまったようだ。

 うん、こちらもただやられっぱなしなのも癪だし、仕方ないよね。

 とはいえ、これはさすがにまずいかな……



「貴様の今の体はただの人間。つまり、我が一撃魔法を放つだけで貴様は死に絶える。フフ、大人しくしていればもう少し生きられたものを。実に愚かだ」



 ただの人間……

 もしかして魔法が使えないのもそのせいなのかな?

 元の世界にいた頃の僕だと魔法なんてもちろん使えない訳だし。

 もしこの世界に来る前の状態に戻ったのならば、確かにナミエルの言う通り、魔法を一撃受けただけで致命傷になりそうだ。



「ではさらばだ……神聖波動!」



 ナミエルの波状の神聖魔法が僕へと襲い掛かってくる!

 僕はそれを避けようとするのだが、ナミエルによる精神汚染の影響か、体がうまく動かない……


 結局僕はナミエルの攻撃を受けることになってしまった!




 ナミエルの攻撃が直撃した。

 しかし、不思議と痛みはなかった。


 どうしてだろうと思っていると、自分の体の異変に気が付く。

 なんと、ナミエルの攻撃を受けた部分の皮膚が硬い黒い竜の鱗に変化していたのだ!


 その鱗には見覚えがある―――ジルの鱗だ。

 いや、地竜の鱗と言った方が正確かな?

 この現象は恐らくジルとの絆魔法『地竜化』によるものだろう。

 今までは天竜としての力が強すぎてなかなか発動することがなかった。

 でも力が全くない今、その力はこの上なく頼もしい。


 地竜の鱗は強い物理耐性を持つが、魔法耐性もなかなかだ。

 現にナミエルの魔法攻撃を受けてもビクともしなかった。


 この地竜化が起きたのは嬉しい誤算だった。

 でもどうして地竜化が起きたんだろう?

 そしてどうして効力を発揮したんだろう?


 今の僕には魔法は使えない。

 散々発動させようとしてもできなかったからそれは嫌でも分かる。

 でも地竜化は発動した。

 地竜化は絆魔法だし、もしかして絆魔法ならば発動できるのかな……?


 絆魔法は僕自身の力ではなく、仲間の誰かの力を借りて発動する。

 そっか……天使ナミエルは僕自身の力を無効化はしたけど、僕の仲間からもらった力は無効化できないのか!

 だから地竜化は効力を発揮したし、もしかしたら他の絆魔法だって……!


 天使ナミエルは僕の姿を見て驚き、固まっていた。

 その一瞬のスキを僕は見逃さなかった。



「精霊使役! 炎の精霊サラマンダー!」



 僕はフィナとの絆魔法『精霊使役』を使って炎の精霊を召喚し、精霊による炎の攻撃を行った。

 攻撃は油断していたナミエルに直撃し、ナミエルの腕に火傷を負わせた。


 思った以上にナミエルにダメージを与えることができたけど、もしかして精神世界のナミエルって打たれ弱かったりするんだろうか?

 もしそうだったら嬉しいけれど、油断は禁物。

 しっかりしないと。


 攻撃を受けた天使ナミエルは危機感を持ったのか、何やら魔法を唱え、姿をくらましてしまった。

 せっかく勝機を見出したと思ったのに、このまま姿を発見できずに時間が経ってしまうと、ナミエルの精神侵食によって僕がやられてしまう。



 何かナミエルの居場所を突き止める方法はないかな?

 

 僕はエルンとの絆魔法『不思議科学』を利用し、エルンの作ったなんでも移動袋を召喚する。

 そしてその袋に手を入れ、居場所を特定するものと念じながら袋から手を引き抜くと、緑の球体が手に握られていた。


 緑の球体は初めて見るものだったが、エルンの知識が流れ込んできているからか、自然と使い方を理解することができた。

 そして僕はその緑の球体を思いっきり地面に叩き付けた!

 すると辺り一面に緑の煙がたちこみ、姿を隠していた天使ナミエルの姿があらわとなった!



「居場所が分かってしまったか。だがもう我は貴様の精神をだいぶ食い尽くした。もう我には追いつけまい!」



 そう言った天使ナミエルはこの場から逃げようとする。

 それを僕は追いかけようとしたのだが、精神侵食の影響で体が思うように動かない……

 くっ、ここは何としてでも追いつかないと……


 僕はエナとの絆魔法『時魔法』を使い、ナミエルの時間を一瞬お染める。

 自分自身に魔力がないから少ししか発動できないけれど、それでもいい。


 そしてリザースとの絆魔法『絶対忠誠』で、ナミエルの進行方向を塞ぐようにリザースに水魔法を放ってもらう!

 リザースの絶対忠誠は僕の指示に絶対に従うというもので、それが例え本人が分からない場所、僕の精神世界の特定の場所であっても指示を完遂するという特徴がある。

 絶対忠誠は、時空などその他影響を受けないらしく、それはこの精神世界も例外ではないらしい。

 ある意味チートな能力だよね。


 故に今回のその絶対忠誠も成功し、ナミエルの進行方向を水の壁が塞ぐ。

 そして水の壁に行く手をはばまれたナミエルに僕は追いつくことができた。


 そして最後にバルグとの絆魔法『天竜化』。

 バルグと同じ場にいないから全身の天竜化は無理だけれど、一部の変化をさせることはできる。

 そしてそこからバルグの力を放つことができるので……



「悪魔火球!」



 バルグが持つ魔力と悪魔力を借り、魔法を放つことができる!



 逃げ場なく、至近距離で放った魔法は天使ナミエルへと直撃し、天使ナミエルの体を焼き焦がす。

 あまりの熱さからか、ナミエルは慌ててリザースが出した水の壁に飛び込もうとする。

 だが、ナミエルが水に触れる直前に水の壁は消え去った。


 ナミエルは自身に魔法をかけようとするのだが、黒い炎の悪魔力が邪魔をしてうまくいかないようだ。

 よく分からないけど、精神世界の中のナミエルはそこまで戦闘力は高くないらしい。

 まあ、よく考えれば僕の力を封じる魔法を常にかけている上、人の精神世界に飛び込むということからだいぶ負荷がかかり続けていたことも一因なのかもしれないけど。

 

 しばらくすると、ナミエルは黒い炎に焼かれて倒れ、動かなくなった。

 しばらく観察しても動く気配はない。


 これで勝ったんだろうか?

 いや、まだ何かあるはず……


 そんなことを思っていると、周りの景色がパッと変わり、周囲は先ほどまでいた上空へと切り替わっていた。


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