90.決戦の地へ
先ほどの青い光線のおかげで、僕達は戦わずに検問所を突破することができた。
あの青い光線の後も攻撃は続いているようで、城壁の様々な部分が破壊されている。
一体どれだけの破壊力を持つ味方なんだか。
正直、あの光線を出している人が天使ナミエルと戦った方がいいんじゃないかと思えてくる。
まあ、実際はそうはいかないんだけど。
そして壁の破壊が続くことで、レーネシアス神聖帝国側から大量の白い塊が攻撃している人の方へ向かっていくのが見えた。
「塊……? あれはなんでしょう?」
「ああ、あれは天使だよ」
えっ、何だって!?
あれが全部天使なんだとしたら、一体どれだけの数の天使がいることになるんだ!?
多分軽く見積もっても千体はいると思うんだけど……
大丈夫なのかな?
「天使ってかなり強いんですよね?」
「うん、強いよ。まあ、レン君が戦った天使ナミエルほど強い個体はなかなかいないだろうけど」
「そうですか……でも大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫だと信じるしかないね。リーダー格である天使ナミエルを倒せば天使全体が弱体化するはず。だから自分達は天使ナミエルを倒すことを考えた方がみんなの為にもなる」
「そっか……そうですよね。みんなの為にも、まず僕は僕がやるべきことをやらないといけないですね」
他の人のことも心配だけど、あんな強力な光線を放てる程の力も持ち主がいるんだから多分大丈夫だろう。
僕は自分がやるべきことをしっかりとやらないと。
レーネシアス神聖帝国の町は閑散としていた。
人の話し声も聞こえず、物音一つしなくて不気味だ。
まあ、遠くからブローダン達が戦っている音が聞こえるから全くの無音という訳じゃないけど。
町は白い石造りの建物がズラッと並んでいて、元の世界でいうヨーロッパの町並みが連想される。
綺麗な景色だから、普段のレーネシアス神聖帝国は観光スポットになっていてもおかしくなさそうだ。
レーネシアス神聖帝国の中央にある大通りをひたすら歩くと、白銀色の城が目の前に近づいてくる。
白銀色の城はとても綺麗だけど、思ったよりもこじんまりとした印象だった。
見た感じ5階建ての建物位の高さしかなさそうだ。
あまりにも小さすぎるし、天使ナミエルは別の城にいるのかな?
「あそこに天使ナミエルがいるんですか?」
「うーん、そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるなぁ」
「え、どういうことですか?」
そうとも言えるし、そうじゃないとも言える……?
どういうことなんだろう?
「実はあの白銀の城、レーネシア・パレスには見えない部分があるんだ」
「見えない部分ですか?」
「うん。実はね、レーネシア・パレスは低層以外に透明化の魔法がかけられているから、外からは見えないようになっているんだ」
「ということは、実際にはもっと巨大な建物だということですか?」
「そうだよ。50階建てと言われているね。実際に入ったことはないから本当かは分からないけどね」
50階建てかぁ……
こういうときって大体ボスは最上階にいるから天使ナミエルも最上階にいるんだろうなぁ……
たどり着くだけで時間かかりそうだけど、間に合うのかな?
それからも僕達は敵と遭遇することなく、あっさりとレーネシア・パレスの中に入ることができた。
ブローダン達の陽動作戦が決まってなかったら、ここまでたどり着くだけでも多くの戦いをする必要があったんだろうな……
本当にありがたい。
レーネシア・パレスの中には人間がちらほらといたけれども、みんな何やらせわしなく動いている
とても、警備をしているような状態には見えない。
「ここはチャンスだ。できるだけ見つからないように進めば、戦わずに一気に上まで駆け上がれるかもしれない」
「それだけ陽動作戦がうまくいっているということですか?」
「恐らくね。今の自分達には時間がない。せっかくのこの状況、利用しない手はないよね」
「はい、一気に駆け上がりましょう!」
戦わずに済むのなら、魔力も温存、時間も節約できるし、一石二鳥。
だから僕達は敵から隠れるように移動するようにした。
その甲斐もあってあっさりと50階までたどり着くことができた。
エレベーターとかないからひたすら階段を上り続けることになるので少ししんどかったけど。
ただ魔物の体だからか、肉体的な疲れはそれほど感じない。
人間の体の頃は5階分上るだけで息切れ切れになっていたことを考えると、だいぶ体力が増えていることは分かるね。
50階ということは、この階に天使ナミエルがいるんだろうか?
「魔力反応……この先から感じるな……しかも複数」
「天使ナミエルの他にも強い相手がいるということですね?」
「多分そうだろうね。そして一番神聖力がたまるホーリーエリアを守るようにその力のある敵がいる」
「ということは、ホーリーエリアに天使ナミエルがいる可能性が高いということですか?」
「そうだね。そしてそこを目指すなら、戦いは避けられないだろう」
魔王の言葉を聞き、みんなの緊張感が高まる。
いや、本来はもっと早くそうなっているはずだったんだけどね。
まぁ、ここまで戦わずに来れちゃったから、うん。
「みんな、準備はいいかい?」
魔王の言葉に黙ってうなづく。
みんな準備は万端だ。
こうして僕達は決戦の場へと足を踏み入れた。
僕達は大きな一室へと足を踏み入れた。
そこにはモニターがいくつもあって、モニターを何人かの人が見ているようだ。
多分このレーネシア・パレスの監視部屋のようなものなんだろうな。
「し、侵入者……だと!? ええい、見張りは何をやっている!?」
僕達が監視部屋に入ると、そのような怒号が聞こえてきた。
「今すぐ警報を鳴らさないと――――って何だと!?」
次の瞬間、監視部屋にいくつもあるモニターが次々と割れ始めた!
監視していた何人かの人達は慌ててその場から避難し、部屋中混乱に陥っている。
そしてその様子を魔王はニヤニヤしながら見ている。
このモニターの破壊は魔王がやったんだろうな……
「これで助けは呼べないだろう? 望遠の天使、ファスラ?」
魔王は一人の人間に向かってそう言った。
混乱の中でも比較的動じていないあの人間が天使ファスラなんだろうな。
「ここまで我々の監視をくぐりぬけてくるなんて驚きです。一体どのような手を使われたんでしょう?」
「知りたいかい? でもあいにくこちらもそんな余裕はないんでね。さっさと通り抜けさせてもらうよ!」
魔王はそう言うと呪文を唱え、周囲に黒い波動を発生させる!
波動に当たった人間、いや天使達は為す術なくその場で倒れていく。
魔王、やっぱり強いな……
「さすがは魔王といったところでしょうか? でもやすやすとここを通す訳には参りません!」
そう言ったファスラは周囲に謎の音を発声させた。
そしてしばらくすると、次々と天使たちが僕達が通ってきた通路側から部屋の中に入ってきて、僕達を襲い始める!
多分下の階にいる天使がここに集められているのだろう。
「さっきの音……なるほど。施設がなくても連絡できるのか、君は」
「ふふ、伊達に望遠の天使とは言われていませんから。モニターを使わなくても自力で遠くを監視できますし、伝達することだってできるんですよ?」
どうやら目の前にいるファスラという天使が警報を出して、下の階にいる警備の天使をこちらに向かわせているので間違いなさそうだ。
このままじゃキリがない。
魔王もそう思ったのか、こう呼びかけていた。
「みんな、ここは二手に分かれよう。ここで増援を食い止めるチーム、先に向かうチームだ」
「その方が良さそうですね。ここに残るのは広範囲の攻撃手段を持つ人の方が良いですね」
「うん、レン君の言う通り。何としてでもここを食い止めないと、まともに天使ナミエルと勝負することなんてできない、とても重要な場面だ」
こうしたちょっとした時間の間にも天使がこの部屋になだれこんでくる。
この部屋で食い止めるにはそれなりの人員が必要そうだなぁ……
一人強い人が担当しても、少しはもつだろうけど、魔力がすぐ切れてしまうだろうし、よろしくない。
また、天使に対抗するためには神聖力または悪魔力が必要だ。
そのため、僕の仲間が天使と戦うためには悪魔から悪魔力を貸してもらう必要がある。
バルグだけは自力で悪魔力を習得したみたいだけど、そんなことは普通は考えられないからね。
今ここにいるのは、僕とフィナとリザースとエルンとエナとジル、魔王とヴァイル、魔王の側近2名だけだ。
果たしてどうしたらいいんだろうか?
僕は悩んでいると、魔王が口を開いた。
「自分達、悪魔からは自分以外の悪魔3人をここの守備担当にさせようと思う。レン君達からも3人誰かここの守りを手伝ってほしい」
「分かりました。みんな、どうする?」
僕はみんなに呼びかけると、全部僕に任せるとのことだった。
3人か……きっと悪魔と二人一組になって戦うといった所だろうか?
だとすると、悪魔力を持っている人でなくてもよく、広範囲の魔法攻撃ができる人が良いかな?
だったら……
「フィナ、エナ、ジルにここの守りを任せたいんだけど、いいかな?」
「分かったわ、任せておいて!」
「うん。私、守る」
「必ずレンさんの期待に沿えるよう頑張るッス!」
3人とも快く引き受けてくれたようで良かった。
ちなみに僕がこの3人を選んだ理由は消去法だ。
まず僕やバルグがここに残ってしまうと天使ナミエルを倒せなくなるから除外。
リザースは魔法を多少は使えるようになったみたいだけど、それでも接近戦主体で広範囲攻撃には向いていないから除外。
エルンは未知数だけど、魔法はあまり使えなさそうだから除外した。
そうなると残るのは先ほどの3人になるという訳だ。
ジルが若干不安だけど、地属性の魔法には長けているからきっと大丈夫なはず。
ジールダースに傷をつけられるほどの強さになったらしいし、心配ないだろう。
「もたもたしていると状況はどんどん悪くなる。ここを一気に抜けるよ!」
「はい!」
そう言った魔王は呪文を唱え、黒いオーラの膜に覆われる。
「レン君達もこの中に入って。この中ならば安全に高速移動ができる」
「分かりました、ありがとうございます」
魔王の言葉を聞き、僕とエルンとリザースは魔王の作った膜の中に入ろうとするが……
「そうはさせるかぁ!」
そう言った一人の天使が僕達に向かって神聖魔法を放つ。
だが、その魔法をヴァイルが軽々と防いでみせた。
「魔王様、今のうちです」
「すまないね、ヴァイル。恩に着るよ」
僕達はヴァイル達に感謝しつつ、先に向かうことにした。
監視部屋を抜けると一本の大通りへと出る。
僕達はそこを迷わずに駆け抜ける。
すると再び大きな一室へとたどり着いた。
そこはまるで研究室のようだった。
透明な容器に何かの液体が入っていて、その一部は火にかけられたりしている。
蒸発した液体をまた別の容器に入れたりしているんだろうな。
「全くなんだね? 我々の研究を邪魔する輩は?」
研究室の奥の方から声が聞こえる。
研究者でもいるんだろうか?
「あ、研究の邪魔はしませんよ。このまま奥に通していただければ」
「奥へ通るだと!? ならん! それだけは絶対にならん! お前達、ホーリーエリアを破壊する気だな? わざわざこんな所までくるんだ、そうだとしか考えられん!」
「あっちゃー、通してくれませんかー」
魔王が交渉しようとしたみたいだけど、失敗したようだ。
まあ、ここまで来た以上、戦いが避けられないことは分かってはいたけれど。
「邪魔者は排除する! これでもくらえ!」
そう言った研究者は紫色の煙を発生させる。
これ、明らかに毒だよね?
早く浄化の魔法を使わないと……
「レンレーン、ここはボクに任せて~! レジストマテリアルからの~浄化煙!」
エルンが辺りに白い煙を発生させる。
すると、白い煙と紫色の煙がぶつかり、透明になる。
おそらく中和されたんだろうな。
「くっ、なかなかやるな……ではこれならどうだ? 誘爆粒子、そして着火!」
「させないよ~レジストマテリアル! からの湿潤空間!」
研究者が爆発を起こそうとするが、エルンの技によって湿った空間になり、爆発はしなくなった。
エルン、なかなかやるなぁ。
「みんな~ここはボクに任せて先に行っちゃって~」
「うん、頼んだよ、エルン!」
エルンの研究者としての腕前は一人前だ。
だからこの状況、研究者対決はエルンにも十分、分がある。
ここは任せてしまっても大丈夫だろう。
「そんなことを我輩が許すとでも思っているのか!? 蒸留熱水!」
「何のこれしき~レジストマテリアル! 冷却水流!」
研究者の追撃をエルンが防いでくれるおかげで僕達は難なく研究部屋を突破することができた。
僕とリザースと魔王は研究室を抜け、大通りを駆け抜けた。
そして大通りをしばらく進むと、巨大な扉が立ち塞がる。
見上げるような大きさ。
軽く30メートルはありそうなほど巨大で、天使の絵などが宝石で描かれていて、きらびやかなつくりになっている。
「この先から巨大な力を感じる――――ホーリーエリアだ」
「ついに、ここまで来たんですね」
「うん。でも迷っている時間はないよ。みんな、準備はいいかな?」
魔王の言葉に僕とリザースはうなづいて返事をする。
ここまで来たんだ。
もう今更引き返そうなんて思わない。
「分かった。じゃあ、開けるよ」
そう魔王が言うと、魔王の魔法によって扉が鈍い音をたてながらゆっくりと開いていく。
僕達は通り抜けられそうな隙間ができたらさっさと扉をくぐり抜けた。




