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異世界で魔物生活  作者: はちみやなつき
最終章 天使との決戦
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89.傷だらけのジル

 お世話になった人へのあいさつ回りが終わり、僕は悪魔世界に戻ってきた。



「色んな所に行けて良かった! バルグのご両親に会えなかったことだけが心残りだけど……」

「すまないな。どうしても事情というものがあってだな」

「うん、分かってる。ちょっと言ってみただけだから」



 バルグの事情ね……

 余程のことがあるんだったらまた国から使者が来るんだろうけど、来ていないし大丈夫なのかな?

 まあ、それよりも今はこれからのことを考えないと。



「これからレンはどうするんだ?」

「そうだね……とりあえず魔王に会ってみようと思ってる。あとどれ位時間があるかとか聞きたいし」

「そうだな。そうしようか」



 結構時間がないことは分かってる。

 でもあとどれ位時間があるのか、あとどういうことができるのかなど聞いておきたいんだよね。


 バルグの案内で迷わずに王の間へと向かい、到着する。

 王の間の中は相変わらず静まり返って――――いなかった。



「あ、レンレーン! 久しぶり~!」

「レンとバルグ、間に合ったのね!」

「間に合って、良かった」

「師匠のことですから間に合うと信じていましたよ」



 王の間にはエルンとフィナとエナとリザースがいた。

 みんな先に王の間に来ていたようだった。

 でも間に合ったという言葉……時間があまり残されていないんだろうか?


 スポットライトみたいに照らされた場所まで行くと魔王がそこにいた。



「やあ、レン君にバルグ君。間に合って何よりだよ」

「間に合ったということは、あまり時間は残されていないんですか?」

「うん。予想よりも天使ナミエルの力が強くてね。明日の明け方にはもう出発したい所なんだ」



 明日の明け方って、もう数時間位しかないじゃないか!?

 てっきりあと数日位の猶予はあると思っていたのに……



「そんな時間がないんですか?」

「そうだね。それもブローダンの調査のおかげで分かったんだけどね」

「ブローダンの調査ですか?」

「うん。ブローダンがレン君と一緒にメルニさんの所に行っただろう? そのときの生命の指輪の様子からしてあと一日ももたないことが分かったんだ」



 確かにあの生命の指輪は相当汚れていて、今にも壊れそうな程もろくなっているように見えた。

 やっぱり本当に危ない状況だったんだなぁ……



「ちなみに生命の指輪に念じてもらうようメルニさんに頼んであるみたいだから少しは天使による浸食スピードは遅まるだろう。まあ気休めにはなるんじゃないかな」



 ブローダンが最後メルニに言っていたことか。

 やっぱり指輪の見た目が綺麗になっていたし、効果はあったんだなぁ。



「そうしても気休めにしかならないということは、天使ナミエルをまず弱らせる必要があるということですか?」

「その通り。そして天使ナミエルに対して最も対抗できそうなのが君達、レン君とバルグ君の二人だ」

「僕よりも魔王様の方が強いから天使に打ち勝てるんじゃないですか?」

「いや、自分はそんなに強くないよ。君達に力をあげちゃったし、単純な力比べでいったらもう君達の方が全然強いんじゃないかな?」



 そっか……

 悪魔転生の魔法って使用者の魔力を削る効果があるんだっけ。

 魔王の好意で行われたこととはいえ、なんだか悪いことをしちゃった気がするな……



「自分には天使ナミエルと張り合えるだけの力は残っていない。でも、レン君がナミエルと戦うための知恵を与えることはできる」

「知恵、ですか?」

「うん。例えば君にあげた悪魔力、正直使い方が分からないよね?」

「そうですね、正直」

「だからそういったことを含めて残り時間みっちりと教えるよ。覚悟はいいかな?」



 そう言った魔王はニコニコしながらこちらをじっと見ている。

 みっちりと教えるという言葉から考えると、その笑顔が何だか不気味に思えてくる……

 でももう時間がないんだ。

 どんなことでも準備しておかないとやり直しはきかないんだからね。


 そう思った僕は魔王の言葉にこくりとうなづいた。




 魔王の訓練はとても厳しかった。

 魔王が放つ純度の高い魔法はかなりの威力があり、僕は何度も大怪我を負うことになった。

 そしてそのたびにブローダンの部下、ヴァイルが僕を回復し、そして僕は再び魔王に立ち向かうことを繰り返し行った。


 何度も痛い目をみたけれども、そのおかげで悪魔力をどう力に変えるか、逆に守りに使うかなどを嫌でも覚えることができた。

 とても辛かったけれど、時間がないことや魔王の人柄を考えたらなんとか頑張ることができた。


 ようやくコツをつかめてきたと思ったとき、魔王がピタリと攻撃を止めた。

 あれ、終わったのかな?



「レン君、だんだん様になってきたね、いい感じだよ!」

「ありがとうございます」

「だいぶ疲れただろうし、じっくりと休もう。少し休んだらいよいよ決戦だ。こんなに頑張ったんだ、きっと大丈夫だよ」

「はい、そうします!」



 そう返事をした僕は王の間から出ようとした。

 でも歩く力が残っていなかったようで、その場で倒れ、気を失ってしまった……






 僕が目を覚ますと、ブローダンの部屋にいた。

 また疲れて眠ってしまったようだったけど、時間は大丈夫なのだろうか?



「あっ、師匠、目が覚めたんですね」



 ベッドから起き上がる僕にリザースがそう声をかけてきた。



「リザースか。そういえば僕がどれ位寝ていたか分かる? 手遅れじゃないよね?」

「大丈夫ですよ。魔王様は先に出かけられましたが、まだ十分追いつけます」



 まだ大丈夫というリザースの言葉を聞いてホッとした。

 一回寝たら数日かかっても目が覚めないとかあったからヒヤヒヤするよね。

 とはいえ、魔王が先に行ってしまっているということは時間的に余裕がないのも事実。

 急がないと。



「他のみんなも先に向かった感じ?」

「はい。フィナさん、エナさん、エルンさんは魔王様と先に向かいました」

「そっか、じゃあ僕達も急げばいいんだよね」

「そうですね。ただ心配なのは、いまだにジルさんの姿を見かけないんですよね……どうしたんでしょう?」



 あ、ジルのこと忘れてた……

 そういえばさっきからジルの姿は見てないよなぁ……

 ジルの身に何かあったんだろうか?



「でも時間がないからもう行くしかないんだよね」

「そうですね。ジルさんにも何か都合があるんでしょうし。待つ余裕は私達にはないですからね」



 リザースやバルグは一度里帰りしているし、ジルはきっと地竜の洞窟に向かったんだろう。

 ジルは地竜の長ジールダースの息子。

 だから地竜の長の後継ぎになる立場にありそうだし、万が一のことがあったら大変だったりするんだろうな。

 そのためにジールダースがジルを決戦の場に向かうことを許さないということは十分あり得る。

 そうなったら僕達がどうこう言う事もできないよね。


 ジルは来てくれたらうれしいけど、あまり期待しないでおこう。



「はぁ、はぁ……れ、レンさん……待ってほしいッス……」



 ジルの声だ。

 何とか間に合ったみたいで良かった。

 そう思って振り返ったとき、ジルの姿を見て僕は驚かされる。


 なんと、ジルの体が傷だらけなのだ!

 誰かに襲われでもしたんだろうか……?



「ジル、その怪我はいったい……?」

「ああ、この怪我ッスか? 全然気にしなくていいッスよ! いつものことなんで!」

「いつものことって?」

「どこか修行の旅に出かけて帰ってきたら、どれ位強くなったか見せる為に親父と戦わないといけないんスよ」



 どうやら地竜にはそのような風習があるらしい。

 実力世界の地竜だとそれが普通なのだとか。

 ただ今回はいつも以上に厳しかったのだという。



「親父、なかなか許してくれなかったッス。いつも以上に戦えたし、初めて親父に傷をつけることすらできたというのに……辛かったッス」

「もしかして、傷をつけたことで怒らせちゃったのかな?」

「いや、むしろ嬉しそうだったッス。そしてそれから攻撃が激しくなって……この有様ッス。もっと手加減してくれてもいいッスよね? 理不尽ッス」



 あのジールダースに傷をつけたのか……

 ジルも知らないうちに強くなっていたんだなぁ。


 ジルを修行にだした甲斐があったということで、ジールダースが喜ぶ気持ちも分かる。

 ただ、強くなったことが分かったのは嬉しいんだけど、その傷だと……



「ジル、とても強くなったのはいいんだけど、その傷じゃ戦えないんじゃないかな?」

「うっ、だ、大丈夫ッスよ!? これ位の傷、大したことないッス!」

「でもなぁ……」

「行かせてほしいッス! オレだけ取り残されるなんて絶対嫌なんスよ……みんなに会えなくなるなんて、絶対後悔するから嫌なんスよ……」



 確かに大戦にはなるけど、もうみんなに会えなくなるなんてすごい悲観的な気がする。

 勝率は高くないかもしれないけど、でも、しっかりと準備はしてきたし。

 負けること前提に考えるのはどうかと思うんだけど……


 まあ、それだけジルが僕を含めた仲間達に愛着を持ってくれているという事だし、何とかしてあげないとね。



「分かった。ちょっとそこでじっとしていてね」

「ん? 了解ッス」



 そう言った僕は治癒魔法でジルの傷を癒していく。

 悪魔力で底上げされた僕の魔力はジルの傷を完治させるには十分だった。



「レンさん、今から魔力を使っちゃって大丈夫なんですか?」

「うん、大丈夫だよ、リザース。むしろこの程度の魔力の消費で負けるくらいなら、元々勝てなかったということだろうし。そして何より、ジルだけを置き去りにするのもかわいそうだから」

「レンさん……本当に、本当に感謝するッス……オレ、精一杯頑張るッス!」



 喜ぶジルを加えた僕達三人は急いで悪魔ネットワークの入り口へと向かった。


 リザースによれば、他の仲間達はレーネシアス神聖帝国の国境付近で待機しているのだという。

 神聖帝国の出方を見つつ、隙を見計らって突撃するとのことだった。

 そこには魔王や魔王の側近もいるそうだ。


 僕達は悪魔ネットワークの入り口にたどり着く。

 そのときにバルグにレーネシアス神聖帝国に最も近い転移先を設定してもらった。

 ちなみにリザースもある程度はこの悪魔ネットワークのことを分かるらしいんだけど、自分で行先を指定したりはできないとのこと。


 そして実は悪魔達であっても悪魔ネットワークの行先まで指定できる人は半分にも満たないらしい。

 そんなことを気軽にやってのけるバルグはすごいと思った。

 まぁ本人に言うと調子になるだろうからそんなことは言わないし、心を読み取られないようにはっきりと考えないようにしたけど。





 悪魔ネットワークを使ってからの移動は順調だった。

 目的地までの道はリザースが案内してくれたし、道中いきなり戦いになるようなこともなかった。

 敵と遭遇しなかったのは、リザースの道選びもあるけれど、何より一番大きいのは、リザースとジルがそれぞれ自力で人間に変身する魔法をできるようになっていることだ。

 そしてただ人間に変身するだけでなく、魔物特有の邪気を消す魔法もかけることができているらしい。

 一体いつの間にそんな魔法を覚えたんだろう?

 リザースとジルは魔法を苦手にしている印象だったんだけどな?


 そうこうしているうちに目的地にたどり着いたようだ。

 レーネシアス神聖帝国は国境を高い城壁のようなもので囲われている。

 そのため国境を突破するにはいくつかある検問所みたいな所を突破するしかないのだとか。

 そこで魔王たちは検問所の近くに隠密結界を張って隙をうかがっているという訳だ。

 ちなみに結界は悪魔力によって作り出されているので、味方、つまり悪魔には見えて、敵の天使からは見えないようになっている。



「おっ、レン君来てくれたんだね。間に合ってよかった。ゆっくり休めたかい?」

「はい、おかげさまで。それより様子はどうですか?」

「そうだね……なかなか隙を見せてくれないな。さすがは敵の本拠地といったところか」

「そうですか……」



 レーネシアス神聖帝国は人間の国家の中でも最大の勢力を持つと言われている。

 それは天使の力の恩恵もあるんだろうけど、それだけじゃないことがこの鉄壁の守りから感じられるなぁ……



「鉄壁の守りですね。それが崩れるときがくるんでしょうか?」

「そうだね……そこはブローダンの働き次第という所かな?」

「ブローダン……ですか?」

「うん。ブローダンには自分達に協力してもらえそうな人を集めてもらっていたんだ。そろそろのはずなんだけどな……」



 そういえばブローダンは僕と離れるときにやるべきことがあると言っていたけど、そういうことだったんだね。

 ブローダンって結構魔王から重要な仕事を任せられているし、だいぶ魔王から信頼されているんだろうな。



 ドカーン!!!



 あれこれ考えていると、急にどこか遠くから強力な青い光線が発せられ、目の前にあった検問所が木端微塵に破壊された!?


 その青い光線によって検問所は粉々に破壊され、目の前を覆っていた壁がなくなり、巨大な道が出来上がった。

 急な攻撃によって相手側は大混乱し、あたふたしている姿が遠目に見える。



「よし、今がチャンスだ。みんな、準備はいい?」



 魔王の呼びかけにみんな黙ってうなづく。

 もう迷いはない。


 こうして魔王を先頭にし、僕達は決戦の地、レーネシアス神聖帝国の中へ突入した。


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