88.なじみの村へあいさつ回り
ブローダンによれば、悪魔世界に天使に関する資料があるらしいので、時間がある間はその資料館で天使の情報を集めていた。
そこで分かったことは
・普段の見た目は人間と全く変わらない
・普段は力を抑えているが、白い翼を生やした時に真の力を発揮する
・人間に寄生して力を蓄え、寄生しつくすとまた別の人間へと寄生する
・天使は幻覚魔法を使うので、対抗できる十分な神聖力、悪魔力を持たない者は戦いにすらならない
・神聖力、悪魔力を持たなくても圧倒的な魔力があれば対抗できるが、それに該当する者はごく一握りの竜族などに限られる
ということだった。
やはり思っていた通り厄介な存在だよね、天使って。
そして資料館で調べ始めて数日経った頃、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「なあ、今入ってもいいか?」
懐かしい声。
この声はバルグだろうな。
「うん、いいよ」
「分かった。じゃあ入るぞ」
その声と共にドアを開ける音が聞こえてくる。
すると予想通り、部屋に入ってくるバルグの姿がそこにはあった。
「久しぶりだね、バルグ」
「ああ、本当にな。すまないな、勝手にしばらくどっか行っちまって……」
「別に構わないよ。でもどこに行っていたの? 結構長い間いなかったけど?」
「ああ、それはな……」
バルグはなんだか答えにくそうにしている。
そういえば僕と別れてどこかへ行ってしまったときもそんな感じだったっけ。
「天空竜国に行っていたんだ」
「天空竜国だって!?」
「ああ、大事な戦いの前だからな。一応親にも伝えておこうと思ってな」
天空竜国……
一時は長い間閉じ込められ、脱出不可能とまで思われたある意味牢獄のような場所……
生活自体は平穏そのもので、牢獄なんて感じはしなかったけど、閉塞感は漂っていたよね。
「よく天空竜国に行って戻ってこられたね」
「まあ、そう思うよな。だが俺達、結局宣言通りあそこから脱出してみせただろ? だからあれ以来、親父は俺を認めてくれて、自由に出入りしてくれるようにしてくれたんだ」
おーそうなんだ。
よく考えれば、認めてくれていないと、今でも使者を僕達によこして国に帰らせようとするだろうし、それがないということはそういうことなんだろうね。
そういえば今のバルグって竜人族で、空を飛べないけれど、どうやって天空竜国まで行ったんだろう?
悪魔ネットワークが天空竜国までつながっていたりするのかな?
「バルグって今空を飛べないよね? どうやって天空竜国まで行ったの?」
「飛空艇だ。エルン達に頼んで天空竜国まで飛ばしてもらったんだ」
「おお、そうなんだ。悪魔ネットワークで行けたりはしないんだ?」
「それができたら苦労しないだろ。そこは閉鎖的な天竜の国だ。部外者は基本的には一切立ち入り禁止なんだからな」
「そっかぁ……でもそれだと飛空艇も入れてもらえないんじゃ……?」
「そこは特別な許可が下りたから問題なかったな。まあ本来はダメなんだろうが」
特別な許可ねぇ……
さすがは王族といったところなんだろうか?
「そういえば、天使と戦うことを親に伝えたんだよね? 反応はどうだった?」
「好きにすればいい。そんな感じだったな。何か言いたげな感じではあったが、止めるようなことは言ってこなかった」
「そうなんだ……」
きっとバルグの親のことだから、バルグは決めたことを簡単には曲げない、言っても聞かないことが分かっているんだろうなぁ。
脱出不可能と言われていたあの天空竜国を脱出してしまう位だし。
ある意味諦めみたいな感情があるんだろうね。
「何はともあれ、これで俺の準備は終わった訳だ。そういえばレンは会いたい人にもう会ったのか?」
「うん、メルニには会ってきたよ。あ、でも他の人には会ってないなぁ……」
天使との決戦が終わったら、僕は元の世界に帰ってしまう。
だからメルニ以外の人達にも会っておいた方がいいのかもなぁ。
「そうか。それなら一緒に行くか? レンが会いたい人に会いに」
「バルグはここから出る方法が分かるの?」
「ああ。悪魔ネットワークについては散々勉強したからな。任せてくれ」
あのよく分からないものを理解できてしまうなんてさすがバルグ。
僕が倒れている間に色々やっていたんだろうね。
なんか自分だけ何もしていないようで申し訳なくなる。
「だが、レンは調べものの方は大丈夫か? まだ作業中みたいだったが?」
「うん、大丈夫。もう一通り目は通したし、復習していただけだから」
「そうか、じゃあ時間もないことだし、早速行くか?」
「うん、お願いするよ!」
僕はバルグと一体化し、バルグの案内を受けながら悪魔世界から出ることにした。
バルグの案内によって、僕は迷わずに例の黒い穴の所まで来た。
『さて、悪魔ネットワークの入り口まで来た訳だが、どこに行くか?』
『そうだね……最初はスライム村かな。僕がこの世界で初めて見た村だったし、思い入れもあるからね』
『そうか、分かった。じゃあセッティングするぞ』
するとバルグは黒い穴の中を何やらいじり始めた。
体が一体化しているので僕がいじっていることにもなるんだけど、なんだろうこの感覚?
なんか液体とも固体とも言えない気持ち悪い感覚が手から伝わってくる。
バルグ、よくこんな得体のしれないものを触れるな……
『よし、できたぞ。早速行くか?』
『うん、お願い!』
『大丈夫だな。じゃあ飛び込むぞ!』
僕は思い切り黒い穴に向かって飛び込んだ。
すると前回と同様、飛び込んだ瞬間に景色がガラッと変化する。
気が付けばまた誰かの家の中に着いたようだ。
しかし、今回の家は小さく、断つことができないほど狭いので、着陸時は変な体勢になってしまった。
狭くて窮屈なので、早くここから出ようとしたとき、足下から声が聞こえてきた。
「お……重いです……」
どうやら誰かを下敷きにしてしまっていたらしい!
僕は急いでその家から出た。
家から出ると、そこは見覚えのある空間、スライム村の小さな広場の光景が広がっていた。
なんかすごい久しぶりにここに来た気がする……
しばらくその景色を眺めながら思い出に浸っていると、背後から声が聞こえてきた。
「あなたも……悪魔なんですか?」
その声がする方を振り向くと、そこには小さなスライムがいた。
あなたも悪魔って聞くということは、このスライムって悪魔なの!?
いや、悪魔って精神体だからスライムになることもあるって理屈では分かるんだけどさ。
やっぱりイメージと合わなくて。
「悪魔の一種になったらしいよ」
「なった!? ああ、そういうことですね! 通りで前にお見かけしたときには悪魔力を感じなかった訳ですね!」
目の前のスライムの悪魔は魔王の悪魔転生の魔法について知っていそうだった。
禁術だったと思うんだけど、その術の存在自体は悪魔の中では結構有名なのかな?
「あ、レン兄ちゃんなんだナー!」
「あ、本当だ!」
「わーい!」
そうこうしているうちにスラオ含む村のスライム達が集まってきた。
まあ、このスライムの村に体の大きい竜人族の僕がいたらそりゃ目立つよね。
「久しぶりスラオ、それにみんな」
「会いたかったんだナー色々と冒険してきたんだナ?」
「うん、色々あって大変だったんだよ」
「そっかーオイラにも色々と聞かせて欲しいんだナ!」
それからみんなに今まであったことをかいつまんで話しているとみんな興味津々で聞いてくれていた。
ここでしか生活できないスライムにとっては様々なことが魅力的に聞こえるんだろうなぁ。
「お、お主、来ていたのか。久しぶりじゃのう」
スライム達と話していると、スライムの長老が家から出てきた。
「長老、レン兄ちゃんってばすごいんだナ! 例えば――」
「スラオ、レン殿がすごいことは分かっておる。レン殿、ここで話すのもなんですからワシの家でお話をきかせてもらえないかのう?」
長老からの誘いに断る理由は特にないので素直にうなづいておいた。
それからは長老の家でしばらく冒険の話をすることになった。
「もう行ってしまわれるのか?」
「はい、そろそろ時間なので残念ですが……」
「そうか。ワシらはいつでも歓迎しますぞ。また気が向いたときにフラッと寄ってくだされ」
「ありがとう、そうさせてもらうよ」
「レン兄ちゃん、また来てネー!」
僕はスライム達に見送られながら、スライムの悪魔の家にある悪魔ネットワークを使って次の村へと向かう。
ちなみに行き先はバルグにもう設定してもらってある。
「楽しかったよ、ありがとう!」
「「「「こちらこそありがとう!!」」」」
そう言葉をかけあってから、僕は黒い穴へと飛び込んだ。
するとまたあっという間に周りの景色が変わり、今度はテントみたいな所にたどり着いた。
バルグに頼んだ行先はリ・ザーラ村である。
リ・ザーラ村はまだ再建中なのでこうした簡易的なテント型の家が数多く並んでいる。
到着した場所がそういう家なので、どうやら無事にリ・ザーラ村に到着したらしい。
今度の家には誰もいなかったので、そのまま外に出た。
外の様子は以前リ・ザーラ村に来た時とほぼ変わらない感じだった。
いや、よく見れば以前はなかった石造りの家がちらほらと見受けられる。
復興は進んでいるみたいで良かった。
「あ、レンさん、来てくれたんですね!」
村の様子を眺めていると、近くから声をかけられた。
声の主はリザースの親友、リーザーだ。
「あ、うん。突然来ちゃってゴメンね」
「いえいえ、大歓迎ですよ! こちらこそリザースがお世話になっていますし、お互い様ですよ」
リーザーは笑顔で僕を出迎えてくれている。
でも僕は以前操られているリーザーと戦ったことがあったけど、そのときに燃やしたり水流で押し流したりしてしまったからなんか罪悪感がある……。
「どうしたんですか、晴れない顔をして?」
「いや、どうしてそんなにリーザーが好意的に接してくれるのかと思って……。以前リーザーにひどい事しちゃったから……」
「ああ、そのことですか。そのことなら、こちらにも非がありますし、特にレンさんを責めたりしないですよ。むしろ自分の実力不足が分かったので、一層訓練の励みになって良かったです!」
リーザーの言葉はまっすぐで、嘘偽りはないように思える。
気にしていないのならそれで良いんだけど。
「それよりここで話すのもどうかと思うので、私の家で落ち着きながら話しませんか?」
「うん、それじゃお言葉に甘えさせてもらうよ」
そう言葉を交わしたあと、僕達はリーザーの家へと向かった。
「レンさんに再び会えて良かったです。このまま会えなくなってしまったらどうしようかと思っていましたし」
リーザーの家へと到着してくつろいでいると、そうリーザーは僕に話しかけてきた。
「そうだね。僕もこうしてリーザーと和解できたみたいで嬉しいよ」
「別に私は最初からレンさんのことを悪く思ってなんかいなかったんですけどね。それより、レンさんはここへ悪魔ネットワークを使われてここまで来たんですか?」
リーザーも悪魔ネットワークのことを知っているのか。
まあ、リザースが教えたとかそんな所だろうけどね。
「うん、そうだよ。あまり時間は残されていないから飛んで移動するのももったいないからね」
「そうですよね。世界中を一瞬で行き来できるなんてすばらしい技術です。まあ、そのためには悪魔がその場所で拠点を構えていないといけないようですが」
「ということはランドリザードにも悪魔がいたんだ」
「ええ、そのようです。あ、別にそれが分かったから処刑するなんてことはしないですよ!? リザースから悪魔には友好的な人が多いと聞いていますし、今まで通り過ごしてもらう予定です」
リーザーさすが、懐が深いね。
同じ種族だけで過ごしている以上、異種族がそこに混じるとその人の性格がどうであれ過ごしにくく感じそうなものだろうに。
「リザースはリーザーに会いに来ていたの?」
「はい。すごい使命感にあふれる良い表情をしていましたよ。そして二度と会えなくなるかもしれないということを言っていました」
二度と会えなくなる……
リザースずいぶんと消極的だなぁ。
確かに勝率でいったら低いんだろうけど、でもやるしかないんだ。
リザースに心配をかけないようにもっと僕がしっかりとしないと。
そして必ずこれから挑む大勝負で天使に打ち勝ってみせるんだ。
それからリーザーとおしゃべりをしてからリ・ザーラ村を後にすることにした。
「レンさん、大きな戦いを控えていて大変でしょうけど、レンさんならきっと大丈夫ですよ!」
「ありがとう、リーザー。じゃあ僕は行くね」
「ええ、お元気で!」
リーザーやその配下の者達に見送られながら僕は次の場所へと向かった。
リ・ザーラ村の後は、大蛇族の所、エプール村など旅で訪れた場所に行き、お世話になった人へのあいさつ回りを行った。
みんな元気そうで何よりだった。
ただ、天空竜国だけはバルグからの強い反対を受けて行くことができなかった。
バルグによれば和解したって聞いたから行っても問題なさそうなんだけど、何か事情があるのかな?
まあ、気にしても仕方ないか。




