85.変わったブローダン
「まあまあブローダン、自分も悪かったよ。一日待たせちゃってさ」
「待っていた時間のことならどうでもいい。だが魔王、なぜレンを強化した!? そもそも悪魔転生は使ってはいけない禁忌の魔法だろ!? なぜ使った!?」
「うーん……緊急時だし、仕方がないかと思ってね。それに禁忌の魔法といってもレン君に悪影響が出る訳じゃないし、大丈夫だと思ってね」
「確かにレンに悪影響はないかもしれないが……魔王には影響あるだろ!?」
え……悪魔転生って魔王に悪影響がでる魔法だったの……?
禁忌の魔法だということすら知らなかったし、どういうことなの?
「ブローダン、魔王様に悪影響がでるってどういうことなの?」
「あ? そうだな……お前が今持っている悪魔力以上の力を魔王は失う事になった。これは俺様、悪魔にとってはトップの力が弱まったことになるし、今後に関わるんだぞ!?」
悪魔力を失う?
魔法を使ったときに魔力を消耗するけど、それとは違う原理なのかな?
「まあまあブローダン、悪魔力はまた増やせるし、大丈夫だって」
「そう言うが魔王、お前にそんな暇ないだろ? このままじゃお前の力は減る一方だ。お人好しもいい加減にしろよ!?」
「うん、だからごめんってば」
ブローダンが魔王のことを心配している……?
ブローダンにとって魔王は何か大切な存在なんだろうか?
ブローダンが言う通り、自分の種族のトップというのはあるんだろうけど、何か別な、もっと個人的な理由があるような気がする。
「だからレン、今から俺様と勝負しろ。そしてもしもお前が負けるようなことがあったら絶対に許さないからな!」
えっ!?
そんないきなり勝負を挑まれても……
まあ、ブローダンが待っているというのを聞いたときからいつかこうなることは何となく分かっていたけどさ……
ブローダンのあまりに迫力のある言葉に返すことすらできず、とりあえず小さくコクリとうなづいておいた。
「決まりだな。じゃあこの場で決闘をするぞ! 魔王、いいよな?」
「うん、構わないよ」
「なら魔王、お前はもう少し離れていろ。巻き添えをくらうぞ」
「はいはい、分かっているよ」
そう言った魔王はそそくさと部屋の暗闇の中に消えた。
こうして、この部屋の目の届く範囲にいるのは僕とブローダンの二人だけになった。
「よし、これでいいな。じゃあレン、お前に先手を譲る。全力でぶつかってこい!」
ブローダンはその場で仁王立ちして僕の攻撃を待っている。
あれ? ブローダンってこんな熱血キャラだったっけ?
なんかキャラ変わってない?
ブローダンの変化に戸惑いながらも僕は遠慮なくブローダンに魔法をぶつける。
しかし……
「ふん、甘いな」
僕の魔法をブローダンは片手で受け止めてしまった。
えっ!?
これってヤバくない?
「こんな魔法痛くもかゆくもないわ! お前に本当の魔法というものを見せてやる!」
そういったブローダンは呪文をとなえ、巨大な火の玉を作り上げる。
そして火の玉に黒いオーラがまとわりつき始める。
「くらえ! 悪魔火球!」
その黒く輝く火の玉が僕へと迫ってくる!
僕はバリアを貼って応戦しようとするが、僕が張ったバリアはあっけなく壊れ、ブローダンの魔法が僕に直撃してしまった。
僕はダメージは負ってしまったものの、なんとか火の玉を払いおとすことができた。
竜人族の体は丈夫なので、並大抵の攻撃では致命傷にはならない。
なので攻撃を受けることはそれほど問題じゃないんだけど、問題なのは、僕の魔法が全然通用しないことだ。
このままじゃブローダンにダメージを与えられず、僕が一方的にダメージを負っていくだけだ。
一体どうすれば……
『レン君、自分の声聞こえてる?』
部屋の遠くから、でもはっきりとした魔王の声が頭に響くように聞こえてきた。
多分魔王は僕に念話をとばしているんだろう。
僕はブローダンに気づかれないようにさりげなくコクリとうなづいて返事をする。
『聞こえてるみたいだね。ブローダンは強い。でも勝てない相手ではないんだ。自分が君に与えた悪魔力を使えばね』
悪魔力……
魔王の悪魔転生の魔法によって、僕自身で生み出せるようになった力らしいけど、いまいちピンとこないんだよね。
『悪魔力といってもどういう力なのか分からないよね。そうだね……君の中にある喜びの感情、みんなと一緒に過ごす楽しみを君の魔法にのせてみるといいかな?』
みんなと一緒に過ごす楽しみか……
それだったら比較的簡単に想像できる。
でもそんなんでいいんだろうか?
僕は半信半疑で魔王の言った通りに魔法を放とうとする。
すると、僕の魔法に黒く輝くオーラがまとわり始める。
「お、お前なんで急にそんなこと……!?」
ブローダンはかなり焦っているようだ。
実際これから放つ魔法からはかなりの力が感じられるし、これだったらブローダンも無事では済まないだろう。
「くらえっ! ファイアーボール!」
シンプルな火の玉による攻撃。
でもその魔法には高密度な悪魔力が凝縮されているので、強烈な威圧感も感じられる。
ただの火球として放ったつもりだったけど、これは先程ブローダンが放った悪魔火球と非常に似ていて、それでいてブローダンのものよりもはるかに大きなエネルギーがありそうだった。
魔王が与えてくれた悪魔力というものは凄まじいね。
そんな火の玉が呆然と立ち尽くしているブローダンに直撃することになった。
「勝負ありだね。ブローダン、もういいかな?」
その声と共に現れたのは魔王だ。
見た感じ、僕の魔法を受けたブローダンは黒焦げになっていて、しばらく立ち上がれそうにない。
魔王の言う通り、もう勝負はついたんだろうか?
しかし、そんな見た目に反して、ブローダンはすくっと立ち上がる。
まだ戦うつもりなのかと僕は身構えていると、
「チッ、分かったよ。レン、お前の勝ちだ。俺様は少し休んでくる」
そう言うと同時にブローダンは王の間から出て行ってしまった。
あれ?
てっきりブローダンならまだ戦おうとするのかと思っていたんだけど……?
なんかあっさりと負けを認めた所に違和感があるなぁ。
「ブローダンも成長したんだねぇ」
立ち去ったブローダンを見送りながらぼそりと魔王がそう言った。
「どうしたんですか?」
「いや、以前だったらまだ無理をして戦おうとしたんだろうけど、そうはしなかったからね」
「僕もブローダンは戦おうとすると思っていました。でもどうしてそうしなかったんでしょう?」
「どうなんだろうね? まあ、あくまで自分の予想にすぎないんだけど、レン君と以前戦って負けたことが大きな転機になっているんじゃないかな?」
「僕と以前戦ったときって……コーボネルドでの戦いのことですか?」
「うん、そうだよ。あのときのブローダンは強大な力を持っていて、自分の力を過信していた。でもだからこそ、そのおごりからレン君に負けることになってしまった。そこから自分の力を正確に把握して自分がするべきこと、できることを考えるようになったんだと思うよ」
「そうなんですか……」
あの戦いは僕達だけでなく、ブローダンも変えていたんだね……。
そういえばコーボネルドの戦い、ブローダンとの因縁は僕がこの世界に来てからついて回ってきたものだったよなぁ。
何とか頑張って退けることができたから良かったけど、もしできなかったらどうなっていたんだろう?
考えただけで恐ろしい。
というか、そもそも魔王はブローダンをどうして止めなかったんだろう?
ブローダンはやんちゃしていたと魔王は言っていたから、ブローダンの行動を良くは思っていなかったのではないかと思うんだけど……
「実際ブローダンには色々やってもらうことがあるからね。ブローダンはそれを考えて無理をしすぎないようにしたのかもしれない。でもそうやったやるべきことの判断と引き際を判断できるようになったのもレン君のおかげだよ。ありがとう」
「いえ、僕は大したことはしてないですよ。それより気になったんですけど、ブローダンがコーボネルドを占領したとき、どうして魔王様は止めようとしなかったんですか? もう終わったことなので別に気にしてないんですが、ちょっと気になって」
ブローダンより格上である魔王だったら、ブローダンの横暴ぶりを簡単に力でねじ伏せられそうな気がするんだよね。
でもそうしなかったということは、何か理由があるんじゃないかと思って聞いてみることにした。
「うーん……本当はそうしたかったんだけど、できなかったんだよね。レン君達に迷惑をかけてしまってごめんね」
「いえ、別に終わったことなのでもう気にはしてないんですけど、ちょっと気になったものですから」
「そうか、ありがとう。ちなみに自分がレン君達を助けられなかった理由は、その当時の自分は大きなダメージを追っていて、魔物世界に行く力が残っていなかったんだ」
「大きなダメージって何ですか?」
「自分がレン君を召喚するとき、天使と召喚の取り合いになったんだけど、その影響で多量の天使の力、神聖力が自分の体に入り込んできて、体に大きな負担がかかったんだよ。だからしばらくその場で動けなかったし、復活して活動できるようになったのはつい最近のことなんだ。だからレン君達を助けることができなかったんだよ、本当に申し訳ない」
僕を召喚したときの影響がつい最近まで続いたのか。
だから魔王の名前もしばらく聞くことがなかったのかもしれないね。
天使ナミエル……魔王に重傷を負わせるほどの神聖力の持ち主か……
これからそんな強大な敵と戦おうとしているんだよね、僕って。
本当に大丈夫なのかな?
「そんな強大な天使に僕が本当に勝てるんでしょうか?」
「うーん、正直厳しいだろうね。でも戦うのは君一人じゃないだろう? バルグ君は君と文字通り一心同体になって戦ってくれるし、フィナちゃんやリザース君をはじめ、君には多くの仲間がいる。みんなで戦えばなんとか勝機が見えてくると自分は思うんだ。レン君もそう思わないかい?」
そうだ、僕は一人じゃないんだ。
つい、僕一人で全部終わらせよう、戦おうとしていたけど、別にそうしなくてもいいんだよね。
今はみんなそれぞれ用事があるみたいだけど、決戦前には戻ってくれると言ってくれているし。
みんなと協力し合ってここまでこれたんだから、今度だってきっと……
「だから戦いは厳しいかもしれないけど、レン君一人で抱える必要はないよ。自分もいつだって相談にのるからね」
「ありがとうございます」
「レン君はレン君なりにできることを少しずつやっていくといいよ。焦ってばかりじゃ仕方ないからね」
「そうですよね。そうします」
僕ができることか……
一体何ができるんだろうか……?
それから言葉をある程度交わした後、僕は魔王にお礼を言ってから王の間を出ることにした。
天使ナミエルを倒す作戦で一番キーになりそうなのが、人間の僕を精神的に呼び覚ます方法だよね。
この世界に来る前の僕と同じ考えをしていると考えると良いと思うんだけど、何が心に響くのかな……?
今の僕だったら間違いなく心に響くのは仲間に関する事だと思う。
色んな大変な場面でも一緒に乗り越えてきたし、楽しいときも一緒に楽しめたし、大変な旅でも良い思い出になっているのは仲間のおかげだ。
だから、仲間に関することだと心に響きそうなんだけど、もう一人の僕もそうなんだろうか?
メルニによればもう一人の僕はギルドチームに入っていたらしいし、仲間はいそうだけど……
とりあえずメルニから人間の僕に関する詳しい話を聞いてみようかな?
でもメルニってどこにいるんだろう?
いや、そもそもこの悪魔世界からどうやったら出られるんだろう?
ここに来るまでの間は気を失っていたからさっぱり分からないよ。
どこに向かえば良いのか分からないので、とりあえず王の間にいる魔王に聞くために道を引き返すことにした。
するとその途中でまさかのブローダンとすれ違う。
まあ、すれ違うだけならよくあることだし、面倒だからあまり関わらないように――――
「おい」
声が聞こえるような気もするけど、多分気のせいだ。
「おい、聞こえているのか?」
うん、気のせい。
「レン、お前無視してんじゃねーぞ!?」
その声が聞こえると同時に力いっぱいの拳が目の前を通り過ぎていく。
間一髪で避けることができたようだった。
あー、これは話さざるを得ない感じだよなぁ……
あまり関わりたくなかったんだけど……
「あー、ごめん。ぼーっとしていて気づかなかったよ」
「お前、本気で殴るぞ? どう考えても俺様のことに気付いていただろう?」
ブローダンはだいぶイライラしているようだ。
これだからあまり関わりたくないんだよなあ……
「怒らせたようならごめん。そういえば僕に何か用があるの?」
一応僕に非がある訳なので謝っておく。
それにしてもブローダンが話しかけてくるなんて珍しいよね。
もう勝負は終わったんだから特に用事もなさそうなものだけど。
「ようやく聞いてくれるようになったか。そうだな、魔王からレンの面倒をみるように頼まれた。とても忙しい俺様だが、特別にお前の頼みを聞いてやってもいいぞ」
色々とやりたいことや頼みたいことはあるけど……
ブローダンに頼むのはなんか嫌だな。
「特にないよ。時間を作ってくれたのに悪いけど」
「特にないだと? お前、まずこの悪魔世界から出る方法が分かるのか? そもそもここがどこかよく分かっているのか?」
うっ……ずいぶんと痛い所をついてくるなぁ。
仲間がいれば聞けるんだけど、なぜかみんなどこかに行っちゃっていないんだよね……
でも素直に分からないっていうのもなんだか癪にさわるし……
僕がどうしたら良いのか悩んでいると、ブローダンがこう言ってきた。
「これから俺様は悪魔世界から外の世界へ向かう。ついてくるかどうかはお前次第だ」
そう言ったブローダンはどこかへ歩いていく。
間接的について来いって言っているのかな……?
あんまり気が進まないけど、さっき魔王に頼まれたってブローダンが言っていた位だから、魔王に頼るのは違う気もするしなぁ……
仕方ないからついていくことにしようかな。
そう決めた僕はブローダンの後をこっそりついていくことにした。




