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異世界で魔物生活  作者: はちみやなつき
最終章 天使との決戦
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83.この世界に来た理由

「これでこの部屋には自分とレン君の二人に……いや、まあいい。君がそのつもりならもう止めないよ」

「どうしたんですか?」

「いや、何でもない。話を始めよう。さて何から話したらいいものか……」



 魔王の言葉から察するに、この部屋に僕と魔王以外の誰かがいるということなんだろうか?

 でもバルグのオーラは部屋の外から感じるし、部屋の中には他に誰の気配も感じ取れない。

 気のせいかな?



「とりあえず、お互いの事を知らないと始まらないよね。まずは自己紹介といきますか」



 そう言った魔王はコホンと咳払いをしてからまた話し出した。



「自分は悪魔族のマストーンだ。こう見えてもかれこれ200年は悪魔族の長をやっているよ」



 200年!?

 悪魔族に肉体は関係ないことは知っていたけど、見た目に加えて穏やかな性格をしているから、そんな年齢だとは思いもしなかったよ……。



「レン君のことも聞いていいかな?」



 ぼーっとしていた僕はハッとして、慌てながら話し始める。



「えーっと、僕は竜人族のレンと申します。あちこち色々と旅をして過ごしてきました」

「うんうん。君には色々と苦労をかけたよね。今の暮らしはどう?」

「色んなことがあって大変ですけど、頼りになる仲間に囲まれていて楽しく過ごしていますよ」

「そっかー、それは良かった! 本当に良かった!」



 僕の言葉を聞いた魔王は嬉しそうでありながら、なんだかホッとしたような表情をしていた。

 なんだか大げさな気がするんだけど……。



「いやー、正直今の暮らしがすごいつまらないようだったら本当に申し訳ないことをしてしまったことになるからね。本当に安心したよ」

「えーっと……申し訳ないことをしたってどういうことですか? 僕と魔王様はこれが初対面だと思うんですけど……」

「あー、そういえば説明してなかったね。実はレン君をこの世界に呼んだのは自分なんだ。だからこの世界の生活がレン君にとってどうなのか気になってね」



 えっ……?

 今、何気にすごく重要なことを聞いた気がするんですけど……?



「魔王様が僕を呼んだんですか?」

「そうだよ。こことは別の世界に住むレン君を召喚したのは自分だ。いや、正確に言えば召喚したのは自分だけではないけど……」



 やはり先程の言葉は聞き間違いじゃなかったらしい。

 この世界に来た理由とか気にしている余裕もなかったから、全然考えたこともなかった。

 まさかこんな形で知ることになるとは……



「魔王様は側近の方と一緒に僕を召喚したということですか?」

「いや、違うんだ。世界をまたぐ召喚は力のない者が行うと命の危険がある。だから自分は召喚を他の人に手伝ってもらったりはしない」

「え、だとすると誰が僕を召喚したんですか?」

「あくまで自分の予想だけど……天使ナミエルが自分と同じタイミングでレン君を召喚しようとしたんだと思う」



 天使が僕を召喚しただって?

 天使と悪魔は敵対する存在なはず。

 一体何があったんだろう?



「天使……魔王様とは敵対する人ですよね?」

「うん。恐らく、自分とナミエルがレン君を取り合う形で召喚しようとすることになってしまったんだと思う。だから召喚をうまくできなかった」

「うまくいかなかった……もしかして僕が魔物になってしまったのって……」

「もし召喚が成功していたら、レン君は自分の目の前に来るはずだった。でもそうはならなかった。そして君の姿も変わってしまった。本当に申し訳ない……」



 そう言った魔王は頭を下げた。

 確かによくよく考えれば、魔王によって勝手に召喚された上に変な所に放り出されていたということになるし、相当ひどいことをされたんだと思う。

 でもそのおかげでバルグをはじめ、色んな仲間に出会えたんだし、今更召喚した魔王を責める気にもなれないなぁ。



「特に気にしてないですよ。もう終わったことですから」

「そうか。そう言ってくれるとありがたい。お詫びといっては何だが、レン君が知りたいことや頼みたいことがあったら何でも言ってほしい」



 知りたいことや頼みたいことか……

 僕を召喚したくらいだし、もしかして魔王ならあの人間の僕の姿をした白騎士についても何か知っているかも?

 せっかくだから聞いてみよう。



「では早速で悪いんですが、一つ聞いてもいいでしょうか?」

「うん、何でも聞いていいよ」

「実は僕が人間の町に行ったとき、僕の人間の頃の姿をした人がいて僕に襲い掛かってきたんですけど、どういうことなのか分かったりしますか?」



 白騎士……あの強烈な敵意と力には終始圧倒された。

 最後になんとか一矢報いたとは思うんだけど、圧倒的に向こうの方が力は上だった。

 一体何者なんだろう?


「うーん、そうだね……恐らく天使ナミエルが召喚したレン君なんじゃないかと思う」

「え……それって僕が二人召喚されたということですか!?」

「うん、その可能性が高いね。自分とナミエルがレン君を取り合って召喚したことで、レン君が二人に分裂し、一人が今のレン君、もう一人がナミエルの所に召喚されたんじゃないかな?」



 僕が二人いるなんて……なんだか信じられない。

 僕は僕だし、僕じゃないあの白騎士もかつての僕だったなんてよく分からないよ……。



「そういえばレン君、その人間のレン君ってどういう感じだったか分かる?」

「そうですね……機械みたいな不自然な話し方をしていて敵意がむき出しでした。それに二対の白い翼も途中から生えました」

「白い翼……やはりそうか。それが30日前となると、まずいな……」



 僕の話を聞いた魔王は表情を曇らせる。

 一体何がまずいんだろう?



「何がまずいんですか?」

「あくまで自分の予想だけど……もう一人のレン君は、天使ナミエルに寄生されていて、身体を乗っ取られているかもしれないんだ」

「乗っ取り……ですか?」

「うん。そしてしばらく経つと、天使ナミエルが完全にレン君の身体を支配し、もう一人のレン君の魂が完全に消滅してしまうかもしれないんだ」



 もう一人の僕の魂が消滅……

 なんだか想像がつかない。



「僕がもう一人の僕と出会ったとき、話し方がぎこちなかったんですけど、それも天使ナミエルの影響なんですか?」

「そうだろうね。その時点でほとんど天使ナミエルに意識を奪われているだろうから、まともに話し合うことすらできないんだろうね」



 そうなんだ……

 ということは、天使ナミエルの影響を受ける前のもう一人の僕に出会えていたら、普通に会話できていたんだろうか?

 自分と会話するなんておかしなことになる訳だけど。



「もう一人の僕の魂はもう消えてしまったんですか?」

「いや、まだ消えていないとは思う。だが、もうあまり時間は残されていないだろうね」

「助ける方法はあるんですか?」 

「うーん、一応考えられなくはないけど、相当厳しい道のりになるよ?」

「できなくはないということですよね? 教えて頂けませんか?」



 魔王は腕を組んでしばらく悩んでいる。

 そして、顔を上げると同時に話し始めた。



「分かった、話そう。もう一人のレン君を救うには二つのハードルがある」

「二つのハードルですか?」

「うん。一つは現時点でもう一人のレン君の意識がほとんどないことだ。何とかしてレン君の意識を呼び覚ます必要がある」

「それはどのようにすればいいんですか?」

「物理的な方法としては、悪魔力をぶつけて天使ナミエルの力を弱めることがある。だが、それではレン君の意識を復活させる直接のきっかけにはならない」



 悪魔力か……

 確かに悪魔力は神聖力の対になる力だから、悪魔力をぶつけることで天使の力を削ぐことはできそうだね。

 でもそれだけだと根本的な問題の解決にはならなそうだし、他にも何かする必要がありそうだなぁ。



「他の方法もあるんですか?」

「そうだね。物理的以外の方法としてはもっと単純で、レン君の活力になるような出来事、良い思い出とか、何か心に訴えることを伝えることで、生きる活力を与えることだ。だけど、これは何がレン君にとって生きる活力になるのか分からないから、むしろ難しい方法かもしれない」



 生きる活力を与えることか。

 僕にとっての生きる活力って何なんだろう?

 自分自身のことですらはっきりしないのに、もう一人の僕の生きる活力なんてもっと分からないような気もするなぁ……。



「これが一つ目のハードル。そして二つ目のハードルは、もしもう一人のレン君の意識が復活しても、そのレン君は天使ナミエルから逃れることができないということだ」

「それは寄生をされているからということですか?」

「そうだね。天使は精神体だから実体を持たない。だから基本的には天使だけを倒すということはできないんだよ」



 天使だけを倒すことはできないって……それじゃ実質助ける方法がないということじゃないか!?



「それじゃ、もう一人の僕を助ける方法はないということですか?」

「普通の人なら確かにないかもしれない。でもレン君の場合は違う」

「どういうことですか?」



 魔王の言い回しが回りくどくてよく分からないけど、方法があるというのなら聞いておこう。



「レン君は元々は一人で、今は二人に分裂している状態だ。だったら一人に融合しても元に戻るだけだから問題はないだろう?」

「つまり、どういうことですか?」

「そうだね。この悪魔の憑依薬を使って、一時的にもう一人のレン君の魂と肉体を分離させる。そして分離したレン君の魂を君が取り込めばいいという訳さ」



 魂と肉体を分離……そんなことができるのか。

 ただ、魔王の補足説明によると、天使にはこの悪魔の憑依薬は効かないらしい。

 そのことが逆にもう一人の僕の魂とだけ融合するには好都合な訳だけど。



「普通の人だったらこの方法だと、違う人と魂を融合する訳だから、後々生きていく上で良くない影響がでることは間違いないだろう。だから、このことはレン君にしかできない方法なんだ」



 そうか、だから普通の人ならばできないけれど、僕の場合は違うと魔王が言ったのか。

 確かに言われて見ればそうだよね。



「魂が融合した後はもう一人の僕の肉体はどうなるんですか?」

「そうだね。その体には天使ナミエルだけが残る。だから、後は思うぞんぶん倒してもらって構わない」

「余計な心配がなくなって戦いやすくなるんですね」

「それだけじゃない。恐らく天使にとっての寄生先の魂がなくなる分、弱体化することも考えられる」



 そっか……この作戦が成功すれば、もう一人の僕に関する問題もなくなるし、天使を倒すことにもつながるのか……。



「そこで自分からお願いなんだけど……天使を倒す協力をしてくれないかな?」

「えっ、まあ大丈夫ですけど……もし倒さないとどうなるんですか?」

「人間と魔物のバランスが崩れ、魔物達が相当生きにくい世界になるだろうね」

「人間にとっては生きやすいということですか?」

「いや、そうとも限らない。天使は人間の精神に寄生して生きている。天使の勢力が強まれば、天使に精神をむしばまれた人間も増えるから、心の豊かさを失ってしまうだろうな……」



 えっ、それって魔物だけでなく人間にとっても不幸な結果になってしまうということじゃないか!?



「それなら、どうして人間は天使に協力しているんですか?」

「ん? 別に人間が天使に協力しているなんて一言も言ってないよ。天使の存在に気づいている人なんてほんの一握りだからね」

「それって天使に協力する人がいないということじゃ……」

「そうとも言えるね。まあ一部の人間の協力者はいるけど。でもそのことを加味しても天使は強い。それだけ厄介な存在なんだ」



 この世界の天使ってとても恐ろしい存在なんだなぁ……



「そんな天使の蹂躙を放ってはおけない。だからレン君に協力してほしいんだ」



 確かにこの場合、僕が悪魔に協力しない理由がないよね。

 前から悪魔との交流もあるし。

 ただ心配なのは、天使を倒した後、かつてのブローダンみたいに悪魔が人々を支配してしまわないかということなんだよね。

 そんなことになったら、悪魔に助力した意味がなくなってしまう。



「ちなみに天使を倒したら、悪魔はどうするんですか? かつてのブローダンみたいに人々を支配するんですか?」



 僕の言葉を聞いた魔王はガハハと突然笑い始めた。

 一体何がおかしいんだろう?



「まさか。そんなことはしないよ。ブローダンがそんなことをしたのは若気の至りというやつだ。そんなことをしても全然楽しくないし、誰も得をしないだろう?」

「そういうものなんですか?」

「まあ、支配を美徳と考える人もいるし、その人の考えを否定はしないけど、少なくとも自分はそういうことが良いとは思わない。だから自分が魔王をやっている間はそんなことを心配しなくてもいいよ」



 確かにこの魔王は全然偉ぶってないし、あまり支配することを好まなそうに思える。

 それにこの人が嘘をついているようにも思えない。

 これは信じても良いんだろうか?



「まあ、自分がいなくても、ほとんどの悪魔は支配するよりも種族にとけこんで、共に生活することを好む者が多いから、レン君の心配は無用だよ」



 確かに色んな種族の身体をした悪魔がいるけど、ごく普通に生活していた。

 何か力で支配しようとしていたら目立つだろうけど、そんなことはないから、この世界の悪魔は共生を望んでいるという魔王の言葉も間違ってないのかもしれない。

 なら、天使に勝った後の心配もそんなにしなくても大丈夫そうかな。



「分かりました。そうであれば、僕は喜んで協力します!」

「ありがとう、その言葉を待っていたよ」



 僕の言葉を聞いた魔王は嬉しそうにうなづいている。

 しかし少しすると、急に真剣な表情になって僕の方へむきかえる。



「この作戦を実行する上で、レン君に伝えなければいけないことがある」

「どうしたんですか、あらたまって?」

「これは前々からそうなんだけど……天使を倒したら、レン君、君は元の世界に帰ってもらうことになる」



 えっ……!?

 ここにきてまた爆弾発言を聞くことになろうとは……



「どうしてそんなことが言えるんですか?」



 確か世界は無数にあるから、特定の世界、つまり元いた世界に戻ることは難しいって聞いたことがあったと思うんだけど……



「それはね、自分がレン君を召喚した目的が天使ナミエルを倒すことだからだよ。召喚された者は召喚目的が達成されれば元いた世界へと帰ることになる。もちろんそれはレン君も例外ではない」



 天使ナミエルを倒すために召喚されただって?

 でもなんでそんな目的の召喚で僕が選ばれたんだろう?

 僕には何の力もなかったのに。



「どうしてそんな天使を倒す目的で僕が召喚されたんですか? 僕には何の力もなかったと思うんですけど」

「うーん、どうなんだろう? 自分はただ天使ナミエルを打倒するに相応しい者という注文しかつけてないから分からないなぁ。答えられなくてごめんね」



 魔王にも分からないか……

 いや、今更終わったことだからそんなに気にしてないし、いいんだけどね。


 それにしても元の世界に帰るのか……

 しばらくこの世界で暮らしてきたから元の世界で暮らしていた日々が遠い昔のように感じる。

 住み慣れた所に戻れるという点では嬉しいんだけど、バルグをはじめ、この世界で出会った仲間達と別れて二度と会えないと思うと、なんだか胸にぽっかりと穴が空いたような気分になる。

 それだけ今の世界にも愛着があるということだよね。



「召喚した自分が言うのもなんだけど、レン君が天使ナミエルを倒すかどうかは自由だ。だけど、もし倒さなかった場合、相当辛い未来が待っていることも理解してほしい」

「はい、分かってるつもりです。ただ、やっぱりもう少し考えてもいいですか? 色々なことを聞きすぎたので、ちょっと頭の整理をしたいんです」

「うん、分かった。レン君はまだ目覚めて間もないんだ。身体を休めつつ、よく考えてくれると嬉しいよ」



 そう会話を交わした後、僕は王の間を後にした。





 王の間から出ると聞きなれた声が聞こえてきた。



「あ、レンレンだ~」

「あ、本当だわ! 無事に目が覚めて良かったわ!」

「無事で、良かった」

「本当にご無事で何よりです」

「オ、オレはレンさんのこと信じてたッスよ!」



 王の間の扉の前でエルンなど仲間達が待っていてくれていたみたいだね。



「フィナとエナも無事だったんだね、良かった」

「悪魔の人が助けてくれたのよ。私とエナが気絶して目が覚めたときにはエルンの家にいたわ。だから私達は大丈夫」



 フィナとエナはエルンの家に送られていたのか。

 じゃあなんで僕だけ牢屋行きなんだろうなぁ?

 よくよく考えるとなんかおかしい気がしてきた。

 まあ正確に言えば僕だけじゃなくてバルグもだけど……って、そういえばバルグはどこにいるんだろう?



「そういえばバルグがどこにいるか知らない? 王の間から出てきたと思うんだけど……」

「バルグさんですか? いや、見ていないですね」

「バルグのオーラはどこからも感じられないわね。一体どこにいるのかしら?」

「バルグさんならきっと何か考えがあるんスよ。きっと大丈夫ッス!」



 ジルの言う通り、バルグはバルグなりに何か考えて行動しているんだろうし、気にしても仕方がないか。


 僕はみんなと軽く話した後、僕が寝ていたブローダンの部屋まで案内してもらい、部屋でゆっくりと休むことにした。

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