82.魔王
僕は目を覚ますと何やら薄気味悪い部屋の中にいた。
この部屋、なんか身に覚えがあるような……
「おお、レン、目を覚ましたか! 心配したんだぞ!」
声がする方を振り向くと、そこには竜人族のバルグがいた。
「ここはどこ?」
「ああ、ここは悪魔世界のブローダンの部屋だ。相変わらず趣味悪いよな。まあ、貸してもらっているからあまり悪くは言えないが……」
そっか、見たことがあると思ったら、コーボネルドにあるブローダンの祭壇っぽい所と似ているんだ。
あれってブローダンの好みに合わせて作られていたのかな……?
「それにしても本当に心配したんだぞ! いつまで経っても目を覚まさないんだからな……」
「いつまで経ってもって、大げさだなぁ」
「いや、大げさじゃないだろ。だってレン、30日位ずっと眠っていたんだぞ?」
30日だって!?
ということは1ヶ月は眠り続けていたということか……
それだったらバルグがそんなに心配するのも分かる。
いや、それよりも気になるのはあの白騎士だ。
僕が気を失う直前、僕の目が正しければ、あの顔は……
「バルグ、信じられないかもしれないけど、あの白騎士、僕と同じ顔をしてた」
「ああ、俺も遠目で見て確認している。その事に関して魔王から話があるそうだ」
バルグも見ていたのか……。
まあ、僕が今無事に生きているということは、バルグが助けてくれたからだと思うし、僕の所へ向かう途中で白騎士を見ていても不思議じゃないもんね。
「バルグは魔王から話は聞いているの?」
「いや、まだだ。人間に関する情報はだいぶ話してくれたが、肝心のレンに関することはさっぱりな。どうやら本人にだけ話したいらしい」
僕にだけ話したいなんてよっぽど重要なことなんだろうな。
そういえばどうして魔王は僕の事を知っているんだろう?
会ったこともないのにな……
「もう体は大丈夫そうか?」
バルグにそう聞かれたので、立ち上がったり歩き回ったりしてみる。
ちょっと体がだるいけど、動く分には問題なさそうだ。
「うん、問題ないよ」
「そうか。なら、早速で悪いんだが、魔王の所へ向かってくれないか? レンが眠っている間にも色々とあってな。できるだけ早く情報を知りたいんだ」
「うん、分かった」
もうあれから1ヶ月も経っているんだもんね……
色々と状況が変わっていてもおかしくはないだろうね。
どう変わったのかバルグ達に聞いておかないと。
バルグと一通り話を終えた僕はブローダンの部屋から出る。
魔王のいる所までバルグが案内してくれるようなので、僕はバルグについていくことにした。
結構距離があるようなので、その間にバルグから聞けることを聞いておこう。
「バルグ、僕が寝ている間に起こったことを教えてほしいんだけど……」
「ああ、気になるよな。分かった。だが何から話すべきか……」
バルグはだいぶ悩んでいるようだ。
そんなに色々なことが起こったのかな?
「よし、まずハーナのことについて話そうか」
「ハーナのこと?」
「ああ。ハーナ達ってエプール村で魔物語の勉強をしていただろ?」
「うん、そうだね」
「あれから猛勉強したおかげでハーナ達三人とも魔物語を話せるようになって、無事に釈放されたんだ」
「そっか! それは良かった!」
1ヶ月前からハーナはもうほとんど魔物語を話せていたから、ハーナに対してはあまり心配していなかった。
でも他の二人も話せるようになるとはなぁ。
三人で頑張って覚えたのかもしれないね。
「それが10日位前のことだな。あとは3日前、俺達と悪魔が協力して、ハーナ達をなんとか故郷に帰すことができたんだ」
「そうなの!? それで戦いになったりとかはしなかったの?」
それじゃ僕達が危険を冒してまで人間の領域まで行った苦労はいったい……
「そうだな。そのあたりは悪魔がうまくやってくれたようで、戦いにはならなかったな」
「そっか……それは良かったんだけど、僕達が人間の領域まで行った意味って何だったんだろうね……」
「レン、俺達の努力は無駄じゃないぞ。このことは悪魔の協力を得られたからできたことだし、行動しなかったら悪魔の協力を得られなかったかもしれないだろ?」
「うん、それはそうかもしれないんだけど……」
「だからそう気を落とすなよ。それにレンのおかげでメルニも無事なんだぞ」
「メルニが無事なの!? それは良かった!」
「ああ。だからレンの行動は決して無駄なんかじゃない。むしろ誇っていい位なんだぞ?」
バルグは僕が後悔しないように気遣ってくれているんだろうな。
バルグにもだいぶ迷惑をかけてしまったのに……
みんなの為にもこれからはもっとしっかりしないと。
「そういえば、ハーナ達の村ってかなり厳しい状況って聞いていたんだけど、そのあたりはどうなっているか分かる?」
「そうだな……そこは俺も気になっていたから、人間に紛れて生活している悪魔達に改善をお願いしておいた。中にはだいぶ人間の政治に影響力を持つ悪魔もいるみたいだから、きっとうまくやってくれるだろう」
そうなんだ……
悪魔は人間の中に溶け込んで生活している者がいるとは聞いていたけど、そういう政治とかにも関わっているのか……
自分がもし人間側だったときのことを考えると恐ろしい。
「あ、そういえばメルニがレンに会いたがっていたぞ」
「メルニが? でも僕はメルニの知っているレンじゃないし……」
「いや、メルニが会いたがっているのはそのレンじゃなくて、今ここにいるレンに会いたいと言っていたぞ。感謝の言葉を伝えたいというのと、あと話もしたいらしい」
僕と話を?
メルニは僕の竜人族としての姿を見ているだろうし、もう誤解はさすがにとけているだろう。
それでも話したいというなら、時間ができたときにゆっくり話してみたいな。
「起こったことはだいたいそんな感じ?」
「ああ、大体話したな……。あとは推測に過ぎないが、天使が勢力をだいぶ強めていて、あと10日もしないうちに攻め入ってくるんじゃないかと言われている」
あと10日だって!?
もうあまり時間がないじゃないか!?
僕と戦ったあの白騎士が天使の中の一人だとするならば、一体天使の集団はどれだけ強大な力を持っているんだろう……?
考えただけでも恐ろしい。
「だからできるだけ急ぎたいのさ。レンには無理を言って申し訳ないんだが……」
「いや、僕のことは気にしなくていいんだよ。もう、全然大丈夫だしさ!」
「そうか、それならいいんだが」
そもそも僕がこうなったのも僕自身がした判断によるものだし、バルグに責任はない。
それにもう終わったことだし、気にするだけ無駄だと思うんだよね。
「お、そうこうしているうちに着いたぞ。この扉の向こうに魔王がいる」
僕とバルグの目の前には巨大な黒い金属の扉がそびえ立っていた。
扉には様々な魔物の絵が彫られている。
所々に宝石が散りばめられており、重量感だけでなく、どこか気品さも感じされられる。
まさに魔王の間の扉といったところかな?
「レンさんとバルグさんですね? お待ちしておりました。中へどうぞ」
扉の前に立つ二人の鳥人の姿をした悪魔の門番が扉を開ける。
鈍い音を出しながらも扉はゆっくりと開いていく。
「レン、行くぞ」
バルグの言葉を聞いた僕はこくりとうなづいて、バルグの後をついていった。
黒い巨大な扉を通って魔王の間へと入っていく。
扉の先は大広間になっていて、明かりはうっすらと浮かぶ魔法の光で照らされている。
見た目は幻想的で良いんだけど、薄暗いので遠くまで見通すことができないのでちょっと落ち着かない。
僕はそんな部屋の中を恐る恐る進んでいく。
何でもお見通しで、ブローダン達悪魔の頂点に立つ魔王。
一体どんな恐ろしい人なんだろう……?
しばらく歩くと、魔法の明かりが集まっていて、大きなスポットライトのようになっている所にたどり着いた。
でも今度は明るすぎるため、目が慣れなくて、周りがよく見えない。
目を慣れさせようとその場でしばらく立ちつくしていると、どこかから声をかけられた。
「やー、君がレン君だね? 会いたかったよー」
明かりに目が慣れると、その声の主を認識することができた。
見た目は若い人間の男性で、すごいニコニコしながらこちらに近づいてくる。
この人は一体誰なんだろう?
「レン、このお方が魔王様だぞ」
えっ、この人が!?
まるで友達みたいに、フレンドリーに接してくれているこの人が魔王なの!?
てっきり地竜の長、ジールダースみたいな威厳ある感じの人だと思ってたんだけど……。
「あなたが魔王様なのですか?」
「そうだねー。自分は悪魔の長をやっているから、その認識で良いと思うよ」
声を交わすと、この人が魔王だということがやっぱり信じられなくなるんだよね。
話しやすくて助かるんだけどさ。
「そういえば僕に話があると聞いたんですけど……」
「あーそうだねー。早速話しちゃおうかな? でも悪いけど、自分とレン君の二人で話したいから、バルグ君はちょっと外で待ってもらってもいいかな?」
やはり本当に僕にだけ話したいことがあるんだな……
それほど大事なことなんだろうか?
そんなことを思っていると、部屋中に移動する音が響き渡った。
僕と二人で話したい訳だから、魔王の手下もこの場にいてはいけないことになるし、そのためなんだろうね。
しばらく待っていると、再び部屋は静まり返った。
恐らく周りのオーラから感じ取るに、現在この部屋にいるのは魔王と僕と――――バルグの三人だけだ。
「バルグ君、レン君に関することだし、気になるのは分かるんだけど……自分の言う事、聞いてくれないかな?」
「俺はここずっとレンと一緒に過ごしてきた。もう一心同体という言葉通りの状態で過ごしてきた位の中なんだから、俺も聞いていいだろう?」
確かにバルグの言う通り、この世界にきてからはずっとバルグと行動を共にしている。
一時期離れたときもあったけど、短期間だったし、今更バルグをのけものにするのもおかしな話かもしれないよね。
「だからこそだよ、バルグ君。君に一番聞いてほしくないことなんだ。なんとか協力してくれないか?」
バルグに一番聞いてほしくない……?
一体どういうことなんだろう?
魔王の言葉を聞いたバルグはしばらく考え込んでからこくりとうなづく。
「分かった。俺は少しここを出ることにしよう」
「分かってくれて嬉しい」
あのバルグがあっさりと引き下がった!?
てっきり抵抗して魔王と口論になると思っていたんだけど、意外だなぁ……。
結局バルグは言葉通り、王の間の扉の方へ向かっていく。
そして、扉が閉まる音を確認してから、魔王は話を始めた。




