79.救いの手
山の上を飛んでいると、何やら黒い影のかたまりが見えてきた。
「あの黒い影はなんだろう?」
「……飛竜の群れ」
「飛竜ですって!? あの影全部が!?」
エナはコクリとうなづく。
僕とフィナは半信半疑だったけど、影に近づくにつれ、エナのいう事が本当だということが分かってきた。
遠くで見てもすごいとは思ったけど、近くで見るとさらに迫力がある。
透明化魔法がなかったらこんな所なんてとても通り抜けられる気がしないよ……。
「これ、だ、大丈夫なのよね……?」
「大丈夫。だから落ち着いて」
慌てふためくフィナに対し、冷静なエナ。
あまりにも落ち着いたエナを見たからなのか、フィナも次第に落ち着きを取り戻していくようだった。
まあ、飛んでいる僕からは二人の姿は見えないから推測にすぎないけど。
それからはエナの言う通り、何事もなく飛竜の群れを通過することができた。
大きな山場を越えたようで僕達はみんなほっとした。
しばらく飛んでいると、山を越えたようで、地上には平地が広がり始めた。
恐らく人間の領域にたどりついたのだろう。
「なんかおかしいわね……」
フィナがそうぼそりとつぶやく。
平地を飛び始めてしばらく経った。
でも一向に人間の村らしきものが見当たらない。
ひたすら平らな大地が広がるだけだ。
こんなに飛んでいるのだから一つ位村を見つけても良さそうなものなんだけど……
「ハーナがいたら、人間の領域がどうなっているのか聞けたんだけどなぁ……」
「そうよね。でもハーナちゃんを連れてきちゃうと、私達に協力しているということで最悪裏切り者扱いされかねないわ。危険すぎるし、現実的ではないわよね」
「うん、分かってる。分かっているんだけど……」
なんだかだんだん不安に襲われてきた。
一回地上に降りてみようかな?
「一回地上に降りてみようと思うんだけど、みんなはどう思う?」
「大丈夫だと思うわ。隠密魔法もかけてあるし」
「多分……」
二人とも反対はしないようなので僕は地上におりることにした。
地上におりてから二人を降ろし。僕は天竜化の魔法を解いた。
改めて周りを見渡すと、一面平原で、村どころか森らしいものも一切見当たらない。
その殺風景すぎて不気味な景色を見たからなのか、なんだか気分が悪くなってきた。
「エナに聞きたいんだけどさ、さっきの飛竜に驚いていなかったのって、未来予知で知っていたからなの?」
「うん、そう」
「この今の状況とか、これからどうなるかも分かったりする?」
「ごめん、分からない。見えたのさっきの飛竜のところだけ」
「分からなければいいんだ。ありがとう」
何か分かれば良いと思ったんだけど、そう都合よくいく訳ないよね。
「フィナはこの状況どう思う? 何かおかしいと思っているみたいだけど」
「そうね……この周辺から生物のオーラを一切感じないの。なんだかすごい不気味で……」
生物のオーラを一切感じないだって!?
ということは、この周辺には生物が一切いないということなのかな?
なんか信じられない。
でも僕も周りのオーラを感じ取ろうとしても感じられないから、フィナが嘘をついているわけではないと思う。
一体これはどういうことなんだろう……?
しばらく僕達三人はその場で考え込んでいたけれど、突如光の線が目の前を横切っていくのが見えた。
「えっ、一体何なの!?」
「レン、周りに多くの生物反応があるわ! 気を付けて!」
さっきまで生物の反応が全く感じられなかったのに、急に周りから強烈な殺気を感じ取れるようになった。
この状況はつまり……
『人間の罠だったって訳だな』
『そうだよね。オーラを感じ取れなかったのも、それが原因なのかな?』
『分からないが、その可能性は高いだろうな』
人間の領域は未知の領域。
何が起こるか分からないとは覚悟していたけど、これほどとはね……。
「そこの魔物、既に我々が包囲した! ただちに投降せよ!」
近くから、でもどこか分からない場所から声が聞こえてきた。
姿は見えないけど、相手は人間で間違いなさそうだよね。
一体どうすればいいんだろう?
何も良い案が思い浮かばず、しばらくその場で立ち尽くしていると、四方八方から金の鎖のようなものが襲い掛かってくる!
僕達がその鎖の存在に気が付いたときには既に体に鎖が巻き付けられていて、身動きがとれない状態になっていた。
外そうとしてもなかなか頑丈でしばらく壊せそうにはない。
そして鎖で拘束されてから間もなく、辺りをピンク色の空気が覆われていく。
「レン、これは催眠ガスよ! 吸っちゃダ……メ…………」
フィナはその場で倒れこんでしまった。
続いてエナも倒れてしまい、残るは僕だけになってしまった。
僕は必死にこらえたのだが、身動きがとれないので逃げようもなく、やがて限界がきてしまい、僕も眠りの中におちてしまった……。
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目が覚めると、僕は薄暗くてジメジメした所にいた。
目の前には黒い鉄の棒がたくさん並んでいる。
つまり今、牢屋の中にいるんだろうなあ。
人間に捕まってしまったんだから当然か。
自分の体を見ると、まだ金の鎖でまかれていて、身動きがとれない。
『バルグ、この鎖の外し方分かったりする?』
『さすがに俺でも分からないな……恐らく人間のかなり高度な技術が使われているだろうからな』
『そっか……残念』
バルグでも分からないならどうしようもないよね。
身動きもとれないので、しばらくその場でじっとしていることにした。
しばらくすると、コツコツコツと足音が聞こえてくる。
牢屋を見張る看守の足音かな?
「交代の時間だ」
「やっとか。待ちくたびれたぞ」
「様子は変わりないか?」
「ああ、異常ないよ。異常なさすぎて退屈すぎたさ」
「退屈なのはいいことだろ。戯言はいいから、さっさと休んできな」
「へいへい、分かったよ」
どうやら看守が交代する時間だったようだ。
それからも二人の看守はある程度言葉を交わす。
しばらくすると声がしなくなり、代わりに遠ざかる足音が聞こえた。
恐らく看守の交代が終わったんだろうね。
看守の交代が終わってからもまた長い沈黙が続いた。
この世に音なんてものがあったのか疑わしくなるほど何の音もしなくて不気味だな。
しかし、そんな状況に変化が訪れた。
なんと突然足元に黒い魔法陣のようなものが現れたのだ!
それに気づいても、残念ながら今の僕では身動きがとれないから、どうしようもできないんだけど……
為す術もなく、僕はただその魔法陣が発揮されるのを見守る。
すると、魔法陣から出る魔力が僕の体を包む。
何が起きているのかさっぱり分からないんだけど、痛くないし、むしろ汚れが浄化されるような心地よい気分になっていく。
しばらくすると魔法陣が消え、また静けさが戻ってきた。
『一体何が起きたんだろう?』
『さあ? 俺にもさっぱりだ』
魔法陣の影響を受けたはずなんだけど、特に何の変化も感じない。
呪いとか何かの影響があってもおかしくないと思ったんだけど……
いや、変化がなくはないか。
気のせいかもしれないけど、若干金の鎖の締め付けがゆるくなったような気がするんだよね……。
黒い魔法陣が出現してから少し経つと、コツコツコツとこちらに近づいてくる足音が聞こえる。
看守がこちらに向かってきているということだろうか?
「今なら、人間に変身すれば鎖の拘束をとくことができますよ」
その声とともに現れたのは、厳つい制服に身を包まれた人間だった。
恐らく見た目やこれまでの状況から考えてもここの牢屋の看守で間違いなさそうだ。
でもこの看守今何て言ったっけ?
確か鎖の拘束をとくことができるって聞こえたような気が……
そんなわけないよね?
「心配しなくても大丈夫ですよ。私はレンさんの味方ですから」
看守が味方?
一体どういうことなんだろう?
というより、そもそもどうしてこの人は僕の名前を知っているんだ!?
「どうしてあなたが僕の味方だって言えるんですか? そもそも名乗っていないのにどうして僕の名前を知っているんですか!?」
いきなり現れて自分は味方だと言われてもいまいちピンとこないんだよね……。
この状況で助けてくれる人がいることはとてもありがたい事なんだけどさ。
看守はしばらく考え込んだ後、ゆっくりと話し始めた。
「味方の証拠ですか……そうですね……では、レンさん、試しに人間に変身してもらえないですか? そうすれば私の言葉が本当だということが分かりますから」
人間に変身だって?
どうして変身しないといけないのかさっぱり分からないんだけど……
『まあ、レン、とりあえずその人の言う通りにしてみないか? どのみち俺達ができることはそう多くないんだからな』
『うん、分かったよ……』
身動きがとれない今の状態じゃ、戦おうにも満足に戦うことすらできない。
もし罠だったとしても、他にできることはないんだよね……。
理由もよく分からないまま、僕はしぶしぶ人間に変身することにした。
エルンの部屋で練習したときと同じように人間への変身を試みる。
すると、特に問題なく変身することができた。
いや、それだけじゃない。
なんと人間に変身したとたん、金の鎖がとれたのだ!
「え、これってどういうこと!? もしかしてもっと早く人間に変身していれば金の鎖はとれていたっていうこと!?」
「いや、そんな簡単なことではないですよ。確かに今は人間に変身したことが一因にはなっていますが、それだけでは金の鎖は外れないです」
「じゃあどういうこと?」
「そうですね……実は先程私がレンさんに神聖魔法に対抗できる力を与える魔法をかけたのです。そのこととレンさんが人間に変身することで放出する魔力が抑えられることによって金の鎖が外れたのです」
神聖魔法に対抗できる力を与える魔法……もしかしてあの黒い魔法陣のことかな?
避けることもできないし、そのまま魔法の影響を受けたけど、やっぱりあの魔法は僕にとって良い影響を与えるものだったんだね。
でも神聖魔法に対抗できる力とは一体……?
「神聖魔法に対抗できる力とは何なの?」
「それはですね……まず、神聖魔法の根源は何か知っていますか?」
「神聖魔法の根源……魔力かな?」
「確かに魔力もありますけど、それだったら魔力を持つ魔物も神聖魔法を使えますよね? でも実際にはほとんどの魔物は使うことができない」
そっか……確かにそう言われれば、神聖魔法の魔法を使う魔物なんて見たことがない。
いや、バルグは使えるみたいだけど、そのバルグもあまり得意とはしていないし……
バルグだったら何か知っているのかな?
『いや、俺もあまり詳しくは知らないな。しいて言えば、人間の聖職者が得意としている光属性の魔法だということ位か』
『人間の聖職者……何か宗教の信仰対象から力を得ているということかな?』
『どうなんだろうな?』
バルグもよく知らないのか……
宗教の信仰対象だというならば、恐らく神とかそのような類の存在がこの世界に実際に存在しているんだろうか……?
「分からないですか。では答えを言いましょう。正解は、天使による力なのです」
「天使……つまり天使の力に対抗できる力は……」
「はい。私達悪魔による力になります」
天使と悪魔……この世界で天使と悪魔が戦っていたというのは知っていたけど、今も続いているんだね……
というより、この看守悪魔なの!?
見た感じ完全に人間なんだけど……
「本当にあなたは悪魔……なの?」
「信じられないですか? うーん、そうですね……ではこれならどうでしょう?」
そう言った看守は何かブツブツと唱えると急に姿を変えた。
何に変わったのかというと……
「コボルド……というかブローダン!?」
そう、かつて赤い宝玉に宿っていた悪魔、ブローダンの姿がそこにはあったのだ!




