76.再開を喜ぶ三人
バルグと二人の人間、テールとフートスの間で勝負の約束がかわされた。
その後、バルグはクーリの所に向かい、賢猿族の警察を遠ざけるようにお願いをしに行った。
「レンさん、思い切った作戦にでましたね……いいでしょう。我々の仲間達にはここから遠ざかるよう伝えておきます」
「ああ、そうしてくれると助かる」
「レンさんの強さはエルンからよく聞いているので心配はしていませんが、油断なさらぬように」
「大丈夫だ。それじゃ、行ってくる」
「ご武運を」
クーリとの話を終えたバルグはテールとフートスの所へ戻る。
辺りを見渡すと、クーリの伝達のおかげで賢猿族の警察の人達が僕達から遠ざかるのが見える。
これで戦いの準備は整ったという訳だね。
「本当にお前一人だけを倒せばいいんだな?」
「ああ、そうだ」
「お前はよほど腕に自信があるそうだが、その傲慢さ、絶対に後悔させてやるからな! フートス、いくぞ!」
「うん、分かった!」
そう言った途端、テールとフートスは二手に分かれながらバルグに接近する。
どうやら、戦いは幕を開けたようだ。
「氷血剣!」
赤い氷の塊をまとったテールの剣がバルグに襲い掛かる!
『速い。シールドが間に合わないから避けるしかなさそうだな』
バルグはテールの攻撃をギリギリの所でかわす。
しかし、バルグが避けた先には……
「かかったね! 閃光地獄!」
フートスが用意していた設置魔法が炸裂し、閃光の嵐がバルグに襲い掛かる!
「よし、かかった! さすがフートスだ!」
「テールのおかげだよ! これでボク達の勝利だ!」
閃光の嵐はしばらく続いた。
現在、意識体である僕はバルグほどの痛みを感じないはずだが、それでもピリピリとした感じがする。
「でも本当、テールすごいよ! この戦いを見越して、前々から設置魔法の準備をするように指示してくれたんだね!?」
「そ、そうだぞ。計画性でオレ様の右にでるものはいないからな!」
「うん。本当にそうだよ!」
「さて、そろそろ魔法の効果が切れる頃か。あいつの死体を拝むとするか」
どうやら閃光地獄という設置魔法は前々から準備していたものだったらしい。
道理で戦いが始まって間もない段階でこんな強力な魔法を使えた訳だ。
ということは、僕がクーリと話している間にもずっと魔法の準備をしていたのか!?
二人の為に色々と話し合いをしていた努力を踏みにじられたようで、何だか裏切られたような悲しみと怒りが湧き出てくる。
そんなことを考えていると、目の前を包んでいた白い光が段々と薄く消えていくことに気が付く。
どうやら魔法の効力がなくなってきているらしい。
「そ、そんな馬鹿な!? オレ達の最強の魔法を確かに当てたはずなのに……」
「あ、当たったよね? なのにどうして全然効いてないの!?」
二人の目の前には全く閃光地獄を物ともしないバルグの姿が写っているようだ。
まあ、全く無傷という訳ではなく、少しかすり傷位はついたけど、動くには全く支障はないみたい。
ちなみにバルグを見た二人はしりもちをついて、後ずさりをしている。
僕達の事を倒したと思っていたらほとんどダメージを与えていなかったとなれば、そりゃ驚くだろうね……
「ずいぶんと卑怯な真似をしてくれるじゃないか。後は分かってるだろうな……」
どうやらテールとフートスの設置魔法は、僕だけでなくバルグの怒りにもふれてしまったようだった。
あーあ、もうどうなっても知らないよっと。
その後は一方的な展開だった。
テールとフートスのどの攻撃もバルグには通じず、逆にバルグの一撃は二人の体力を大きく削いでいく。
さほど時間かからないうちにテールとフートスは大きなダメージを受け、体を動かすことができなくなっていた。
『やりすぎじゃない、バルグ? まずい気がするんだけど……』
『そうだな、そろそろ許してやるとするか』
するとバルグはテールとフートスの近くへ行き、回復魔法を二人にかけ始める。
バルグの魔法は二人にとって強力なものだったみたいで、みるみるうちに傷がふさがっていく。
数分すると、目に見えるような傷は全くなくなっていた。
「二人とも大丈夫か?」
「大丈夫……とかそういう問題じゃないだろ! なんだよその強さ!? 聞いてないぞ!?」
「そんなに強いなら強いって言ってくれればいいのに」
自分で強いっていうのもどうかと思うんだけど……
それに二対一で勝負していいってバルグが言っている時点で、バルグがそれなりに強いことは分かるんじゃないかな……
「とりあえず、この勝負は俺の勝ちっていうことでいいよな?」
「まだだ! と言いたい所だが、ここまで力の差を見せられてはもう抵抗する気はおきない。好きにしてくれ」
「テール、ボク達死んじゃうの?」
「オレ達は負けたんだ、仕方がないさ」
あれ、なんか二人とも誤解している気がする。
一言も殺すなんて言ってないんだけど?
しばらくそこでバルグとテールとフートスは立ち尽くしていると、クーリが近づいてきた。
「レンさん、決着はつきましたか?」
「ああ、話はつけてきた。後は頼む」
「はい、お任せ下さい」
話をつけたというよりも、力でねじ伏せたような感じだけどね……
返事をしたクーリは他の警察の人と連携し、テールとフートスを刑務所へと連行した。
これでこの件は一件落着という所かな?
その後、僕は警察の所へ行って、テールとフートスの今後についてクーリから聞くことにした。
「テールさんとフートスさんはそれぞれ別の部屋で過ごしてもらうことになります」
「別の部屋……うん、そうなるだろうね」
もしハーナとテールとフートスが一緒の部屋だったら、力を合わせて脱獄計画でもたてそうだからね。
別々の部屋にするのは当然のことかもしれない。
ハーナ達には気の毒だけど仕方がないことなんだ.
「あとレンさんにはハーナさんだけでなくテールさんとフートスさんの教育もお願いしたいのですが、よろしいですか?」
「うん。確かその条件でハーナと面会できるようにするってことだもんね。分かってるよ」
「ありがとうございます。それと一つ提案があるのですが、よろしいでしょうか?」
「どういう提案なの?」
「ハーナさんと一緒にテールさんとフートスさんを教育してあげるというものなんですけど……」
「一緒に? それでもいいの?」
一緒に教育ということになれば、一人ひとりに教えるという手間がなくなるし、僕としては助かる。
でもそれだとハーナ達三人が一緒にいるということになるけれど、いいのかな?
「はい。レンさんが見ていて下さる訳ですから、そのときだけは三人を一緒にしても問題ないかと」
まあ、確かに僕がその場にいる訳だから、うかつに脱獄計画なんてたてられないよね。
そこまで考えた上での合流の許可っていうわけか。
「それにレンさん、テールさん達にハーナさんと面会させてあげるって言ってましたからね。こんな形で申し訳ないんですけど……」
「いや、謝らなくてもいいよ! むしろそういう機会をもらえただけありがたいから」
そういえばそういう事を言ってたっけ。
ちょっと忘れていたけど、これでテール達との約束も果たせるっていうわけだね。
まあ、当の本人達は殺されると思っていた位だから、そんな約束を覚えていないだろうけど。
テール達との話し合いをした翌日、僕は再び警察へと向かう。
「レンさん、おはようございます。調子はいかがですか?」
「大丈夫。特に問題ないよ」
「それは良かったです。今日から三人も同時におしえていただく必要がありますからね。かなり無理なことを頼んで申し訳ないんですけど、あまり気負いすぎずにほどほどでやっていただければと思います」
「心配してくれてありがとう。いつも通りやるから大丈夫だよ」
教師でもない素人の僕が一人で三人を教えるという状況を考えれば大変だと思われても不思議じゃないかもしれない。
でも僕自身はなんとかなるんじゃないかと考えている。
だって実際は僕一人じゃなくてバルグと二人で教えているようなものだし、それぞれ担当する所を分けているから所々で休めるだろうから、そんなに辛くないと思うんだよね。
心配そうなクーリと共に奥は教育部屋へと向かった。
いつもの教育部屋に到着すると同時に声をかけられる。
「レンさん、おはようございます!」
「ハーナ、おはよう」
声をかけてきたのはハーナだ。
最近は警備がそんなに厳しくなくなり、部屋にある仕切りがない状態から始まることが多いのだ。
だからその状態に不自然な所は何一つない。
だけど……
「あれっ、テールとフートスの姿が見えないな?」
「えっ、テールとフートスがここに来たんですか!?」
そう、テールとフートスの姿が見えないのだ。
それにハーナの返答から察するに、ハーナには二人がここに収容されることになったことを知らされていないようだ。
まだ収容して間もないし、賢猿族の人もテールとフートスに対してずいぶんと警戒しているんだろうな、きっと。
「うん。これからはその二人と一緒にここで魔物語を教えることになると思うよ」
「そうなんだ……二人とも無事で良かった……」
ハーナは二人の安否をずいぶんと気にしていたらしい。
確かにハーナ達人間にとって、魔物側の大地では、生きていくことさえ過酷なんだと思うし、心配するのは無理もないと思う。
人間の町があればそこで飲み食いできるだろうけど、そんな所は一切なさそうだし、常にサバイバルしているようなものだもんね……。
「レンさん、テールさんとフートスさんを部屋に入れますが、よろしいですか?」
部屋についているスピーカーからクーリの声が聞こえてくる。
「うん、お願いするよ」
「分かりました。ちょっと待っていてくださいね」
クーリとの会話を終えてしばらくすると、ハーナの部屋の後ろにある扉があく。
そして賢猿族の警察の人と共にテールとフートスがこの部屋へとやってきた。
「ハーナ、会いたかったぞ!」
「ハーナ、無事でよかった!」
ハーナに気づいたテールとフートスは真っ先にハーナの元へと駆け寄っていく。
賢猿族の人も二人を止めることなく、静かに見守っている。
しばらく三人は久しぶりの再会を喜び合っていた。
三人の再会が一段落ついたところで僕は声をかける。
「そろそろ始めてもいいかな?」
すると三人はハッとした様子になり、慌てて部屋にある椅子に座る。
その様子を見届けた賢猿族の警察の人は部屋の外へ出て行った。
「ふう、ようやく落ち着いたね」
「騒いでしまってごめんなさい」
「いや、いいんだよ。久しぶりの再会なんだから無理もないよ」
ハーナはだいぶしょんぼりした様子で僕に謝ってきた。
そんなに気にすることじゃないと思うんだけどね。
それにしても、こんなに嬉しそうなハーナをみたのは初めてだし、よっぽど二人に会えて嬉しかったんだろうなぁ。
そういえばテールとフートスがキョトンとした様子なんだけど、どうしたんだろう?
『レン、ハーナが魔物語で話しているから二人には何言ってるのか分からないんだと思うぞ』
そっか……テールとフートスにとっては、親しいハーナが急に訳の分からない言葉を話し始めた訳だから戸惑うのも無理はないよね。
「ハーナ、本当に魔物語を話せるんだね……」
「ええ……ってごめん! つい魔物語で話しちゃった……」
「つい話しちゃうとかすごすぎだろ、ハーナ……」
うん、もし僕が二人の立場だったら僕もそう反応すると思うよ。
「じゃあ改めて、そろそろ始めてもいいかな?」
「「「はい、お願いします!」」」
三人から威勢の良い返事が同時に返ってきた。
こんな感じで返事してくれると嬉しくなるよね。
「分かった。でもその前にお互いのことを知らないと始まらないよね。だから自己紹介から始めたいんだけどいいかな?」
僕の言葉を受けて、三人はコクリとうなずく。
その様子を見た僕は言葉を続ける。
「じゃあ僕から始めるね。僕はレンという竜人族だよ。色々あってこの世界をあちこち旅しているんだ」
するとなにやら三人がざわつき始めた。
特に何の変哲もない自己紹介だと思うんだけど、なんか変な所あったかな?
気になった僕は三人のつぶやきに耳を傾けてみた。
「なぁ、レンって名前、あの人と同じ名前だけどもしかして……」
「そんなことないよ。だってこのレンさんはとっても優しいんだよ? あんな人と同一人物な訳ないよ」
「ボクもハーナの意見に賛成。だってあの人はそもそも魔物じゃないから」
「確かに言われてみればそうだな……」
どうやら三人とも僕の名前について話し合っているらしい。
ハーナに自己紹介したときも変な反応されたし、何かしらの事情があることは間違いなさそうだ。
分からないままだとモヤモヤするし、ここは思い切って詳しく聞いてみよう。
「ねぇ、もしかして三人とも僕の名前に心当たりあるの?」
僕がそう問いかけると三人ともビクッとして、恐る恐る僕の方へ振り返る。
「ごめんなさい、話し込んでしまって……続きをお願いします、レンさん」
ハーナは明らかに話題を変えようとしているようだ。
これは絶対何かあるよね……
「ハーナに自己紹介したときも変な反応をしていたし、何かあるんだよね? 何を言っても怒らないから、話してくれないかな?」
僕は真剣な表情でそう話、ハーナ達の返答を待つ。
すると、三人は戸惑いながら、またこそこそと話し始めた。
そしてしばらくすると話し合いを止め、少し間をあけてからハーナが重い口を開いた。
「絶対に、怒らないですよね……?」
「うん、約束する」
「分かりました。では、話します」
ハーナは大きく深呼吸した後に言葉を続ける。
「レンさんのおっしゃる通り、私達はレンさんの名前に心当たりがあります」
「そうなんだ。それは僕と同じ名前の人がいるという事?」
「そうだと思います。そして別人であってほしいと思っています」
そうだと思う?
それに別人であってほしい?
そこまで親しくなくて、そして酷い人っていう事なのかな?
「ハーナにもよく分からないの?」
「はい。だって、実際に会ったこともないですから、よく分からないんです」
実際に会ったことがない?
じゃあなんで三人とも知っているんだろう?
「それなのにどうしてハーナはその人の名前を知っているの?」
「――そっか。レンさん達は魔物の人だから知らないのも当然ですよね……」
僕の反応を見たハーナはほっとした表情になっていた。
その表情をみると、一体どういうことなのかますます分からなくなってくる……。
「魔物の人だから知らないっていうことは、人間であればみんな知っているということ?」
「はい、その通りです。なぜならその人は――――人間の国家の中で最大勢力を持つレーネシアス神聖帝国の皇帝なんですから」
こ、皇帝だって!?
それはさすがに予想外だなぁ……




