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異世界で魔物生活  作者: はちみやなつき
第六章 異世界の人間
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74.レンの魔物語教育

 次の日、僕は早速警察の所へ行って、人間の女の子との面会をお願いすることにした。

 ちなみに人間との出会いの一連の出来事を仲間のみんなに話すと、だいぶ驚かれたけど、人間と面会することには特に止められることはなかった。

 むしろ、分かり合えるのなら良いという感じで快く見送ってくれた。


 警察の建物の中に入っていって、受付らしき人に話しかける。



「すいません、人間の女の子との面会をしにきたレンと申しますが」

「レン様ですね、担当の者をお呼びしますので少々お待ちください」



 そう受付の人が言うと、電話のような物で話し始めた。

 ここにいても邪魔になると思ったので、僕は近くにある椅子に座って待つことにした。



『なんだ、すぐに会える訳じゃないんだな』

『こういうのは色々と手続きがあるものだろうから仕方ないよ。僕がいた世界でもそうだったし』

『そうか、そういうものなのか』

『うん。いくら面倒な手続きがあっても、会う時間と機会をくれただけ良かったと思うよ』

『確かにな。何しろレンが強引に飛んで包囲網を突破しようとしたんだからな。俺達が処罰されてもおかしくなかったもんな』



 確かにそうだよね。

 まあ危ないからということで中への立ち入りを怒られたんだろうけど。

 特におとがめなしみたいで良かった良かった。



「お待たせしました」



 その声と共に近寄ってきた人はどこか見覚えがある。

 僕が知っている賢猿族の警察の人といえば……



「クーリさんが僕の担当なんですか?」

「そうですよ。なにか不満でも?」

「いや、そんなことないですよ。むしろ安心しました!」

「そう言っていただいて嬉しいです。では参りますよ」



 そう、エルンの友達の友達のクーリだ。

 それから僕はクーリにしばらくついていった。

 どうやら人間の女の子は地下20階にある牢屋に閉じ込められているらしい。



「それにしてもレンさんが人間の言葉を話せるなんて驚きです」

「僕自身も驚いているよ。だって僕にとっては今までと同じように話しているだけなんだからね」

「そうなんですか。なんとも不思議な話ですね。道理で上の者があの人間をこんなに優遇する訳だ」

「優遇ってどういうことですか? 普段はもっとひどいことになっているんですか?」

「それはですね……」



 それからクーリが話してくれた事によれば、普段は人間を捕まえたらすぐに殺してしまうそうだ。

 なんて残虐なんだと僕は思わず言葉を漏らしてしまったが、クーリは僕の言葉を否定することはしなかった。

 恐らくクーリも僕と同じ気持ちなんだろう。


  

「だからこそレンさんに期待しているんです」

「僕に期待だって?」

「ええ。人間と話せるレンさんならば、人間と分かり合える可能性があるじゃないですか。それならば、レンさんを通じて私達も人間と分かり合える可能性もある。いわばレンさんは私達が人間と分かり合う為の一筋の希望の光ですね」



 一筋の希望の光か……

 なんかすごい重荷だな……

 でも、人間と魔物が分かり合えたらどんなにいいかとずっと思ってきたから、不思議と逃げ出そうとは思わない。

 うまくいかないかもしれないけど、できる限りのことはやってみよう。



「レンさんはここに座って待っていて下さいね」



 そう言うとクーリは部屋から出て行った。

 僕は今、地下20階のとある一室に連れてこられている。

 その部屋には椅子が一つおかれているだけで、他になにもなく質素なものだった。

 他に変わった所といえば、左の壁が他の灰色の壁より少し明るい色になっている位だろう。

 ここが面会する部屋だとすれば、この部分の壁がなんか変化するんだろうな。

 人間の女の子と直接会うとは思えないし、壁か何かで仕切られた状態で面会することになるだろうからね。


 しばらく待っていると、どこかからクーリの声が聞こえてきた。



「レンさん、心の準備は万全ですか?」

「うん、いつでもいいよ!」

「ちなみに、この部屋で話されている内容はこちらで記録させていただきますがよろしいですか?」

「うん、構わないよ」

「ありがとうございます。それではいきますよ」



 クーリは恐らくこの部屋を監視する所にいるんだろう。

 そんなクーリとの会話を終えると、少し明るい色の壁が変化をはじめ、だんだんと色が薄くなっていく。

 すると、徐々に壁の向こう側に誰かがいる様子が明らかになってきた。

 そしてついに、そこには昨日出会った人間の女の子がいることをハッキリと確認できた。


 相手も僕に気が付いたようで、僕に向かって何かを訴えている様子が見て取れる。

 でも何を訴えているのかは聞こえないので分からない。



「それでは防音機能を外しますね」



 そうクーリが言うと、目の前の壁の色が完全に透明になった。

 すると途端に前から声が聞こえてきた。



「助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて」



 なんか軽くホラーな感じなんだけど、なんだこれ……

 クーリには女の子が何言ってるのか分からないから、特に何も感じないんだろうけど。



『どうしたんだ、レン? なんかこいつが変な事を言ってるのか?』



 バルグも分からないからのんきなものだよなぁ。

 この恐怖感は多分僕にしか分からないものなのだろう。

 なんか不公平な感じがする……


 結局僕は事情を話して、女の子がすぐに殺されることはないことを伝えた。

 すると少し気持ちが落ち着いたようで、狂ったように助けを求めることはなくなった。

 でもまだ不安は残っているようだ。



「それでもいつかは殺されちゃうんでしょ?」

「それは分からない。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「どうしたら殺されないですむの?」



 涙ぐみながらそう訴えてくる女の子は、僕の解答をじっと待っている。

 だいぶ真剣な様子である。

 まあ、自分の命がかかっているんだから当然と言えば当然なんだろうけどね。



「君が魔物達と分かり合って、共存できたら、かな?」

「分かり合うってどうやるの?」



 どうやる、か……

 確かにどうやればいいんだろう?

 クーリが言っていたように、僕が通訳をすれば、女の子と魔物達の意志疎通をとることができて、分かり合えるような気もする。

 でもそれって本当に分かり合ったと言えるのだろうか?

 僕がいないと女の子と魔物達は話し合うことも、お互いの考え方も分からない訳だし……



『レンの考えることも分かるぞ。確かにレンが通訳するだけじゃ、レンがいなくなった途端に人間と魔物は話し合うことができなくなるし、分かり合っているとは言えないだろうからな』

『そうだよね……一体どうすればいいんだろう?』

『どうするかなんて簡単だろ? 人間が魔物語を話せればいいのさ』

『確かにそうできれば僕がいなくても女の子は魔物達と話せて、分かり合うこともできるだろうけど、本当にそんなことってできるのかな?』

『それはレン次第だから何とも言えないな。だけど、やってみる価値はあるんじゃないか?』

『そうだね。とりあえずやってみるだけやってみようかな』



 それから僕は女の子に魔物語を教えることを伝えた。

 そして魔物語を教えようとした。

 女の子は真剣な表情で僕のいう事を聞いて頑張ろうとしてくれたのだが、残念ながら話すことはできなかった。

 いや、そんな短時間で話せないのは分かっていた。

 でも、一単語も話せてないっていうのはどういうこと!?



 僕の自動翻訳的な力は、相手のいう事を理解するためには非常に有用なものだ。

 でも教えるとなると話は別だった。

 何故なら、僕が何を話しても、相手が分かる言葉に翻訳されてしまうため、相手が分からない言葉を伝えることができないのだ。


 僕はこの現状に頭を抱えていたが、それはバルグが解決してくれた。

 どうやら、バルグは僕と体が一体化していても、自動翻訳の能力は共有されないようなので、バルグが話した言葉はそのまま魔物語として発声されるらしい。

 なので、バルグが言葉を発した後で、僕がその意味を伝えることを繰り返すことによって、女の子に魔物語を教えることができた。


 最初はなかなか言葉を覚えられなかった女の子は、苦労しながらもいくつかの魔物語の単語を覚えて発することができたようだった。

 女の子が魔物語を話せたとしても、僕には人間の言葉と全く同じように聞こえて判別がつかないので、話せたかどうかはバルグが判断していた。

 本当、自動翻訳されるのって、教えるには不向きだよなぁ……


 しばらく教えていると、クーリからもうそろそろ面会の終了時間がくることが伝えられた。

 とりあえず、今日の所はここまでということだね。



「ありがとう、えっと……」

「あぁ、そういえば名乗っていなかったね。僕はレンっていうんだ。よろしくね」



 僕がそう言うと何だか女の子の顔色が若干悪くなったように見えた。

 一体どうしたんだろう?



「どうかしたの?」

「いや、きっと気のせいだよね……ごめん。私はハーナっていうの。よろしくね」

「うん、こちらこそよろしく」



 自己紹介を終えたところで、僕はハーナとの面会を終えた。

 ハーナの意味深な発言が気になりつつも、僕は面会の部屋を後にした。


 部屋から出てしばらく待っていると、クーリが僕がいる所までやってきた。



「いやぁ、言葉を教えるなんてすごいですね! でもレンさんはひたすら魔物語を話しているように聞こえたんですけど、人間に言葉が伝わっているように見えたので不思議ですね?」

「多分クーリだけじゃなくてみんなそう思うだろうね。僕自身もそうなんだから。それより、ハーナと明日も面会できたりするかな?」

「ハーナ……ああ、人間の名前ですね。ええ、恐らくできると思いますよ。しっかりと私が交渉してきますので、ご安心下さい」

「うん、よろしく頼むね」



 それからクーリからハーナについて色々と聞かれたことを答えつつ、警察署から出る所でクーリと別れた。

 そして、僕は昼食用の料理の材料を買ってからエルンの家へと戻った。



「レンレ~ン、人間の子と話せたの~?」



 そんな感じで、僕がエルンの家に入った途端にみんなから質問攻めにあった。

 まあ、人間と話したことのないみんなが人間にある程度興味を持つのは予想していたけど、まさかここまでとはなぁ……



「それじゃあ、そのハーナさんという方はもう魔物語を一部話せるということですね!? さすがレンさんです。教えるのが上手い」

「まだちょっとの単語だけだけどね。でもこの調子なら、魔物語で会話できるのもそう遠くないかも」

「そうなのね。ハーナが魔物語を話せるようになったら、私、お話してみたいわ」

「ガールズトーク、私もしたい」

「オレもガールズトークしてみたいッス!」

「あんたはガールじゃないでしょ!」

「す、すまないッス……」



 フィナの強烈なツッコミにシュンとしてしまうジル。

 調子乗りすぎちゃったな、うん。



「――ジルさんはおいといて、確かにハーナさんと話してみたいですね。どんな事を考えているのか興味があります」

「そうよね。生活してきた環境も立場も違った訳だし、考え方も大きく違って当然よね。確かに気になるわ」



 確かに言われてみれば、ハーナ達人間はフィナ達と考え方が全く違っていてもおかしくないように思える。

 でも僕が話してみた限りではハーナとみんなは大差なかったように感じた。

 ひょっとして、ハーナが僕に合わせてくれていただけなのかな?

 まあ、そのあたりはもうしばらく交流していると分かってくるだろうし、あまり気にしないことにしようかな。



「そういえばレンさん、人間語と魔物語を両方とも話せるなんてすごいですよね! いつ覚えられたんですか?」

「うーん……実は覚えたというより、話した言葉が勝手に相手が使っている言語に翻訳されちゃうみたいなんだ。だから覚えたという訳じゃないんだよね」

「そうなの? なんとも不思議な力よね……私聞いたことないわよ?」

「私も聞いたことない」

「オレもそんな話初めてッス」

「不思議だね~生まれたときからそうだったのかな~?」



 そういえばみんなには僕の境遇を説明してなかったね。

 まあ、そんな説明をした所で信じてもらえなさそうだけど……

 とりあえず説明してみよう。


 若干不安を感じながらも、僕は説明を始めた。

 僕はこことは違う世界で生まれたこと、そこでは人間だったこと、この世界に来たら妖狼族になっていたこと、そしてバルグの頑張りによって竜人族に転生したことを伝えた。

 みんなは僕の話に聞き入ってくれて、やがて僕は説明を終えた。


 説明を終えてからはしばらく沈黙が続いた。

 やっぱり変な事を言ってると思われちゃったのかな……?



「こんなこと言っても信じてもらえないよね……変な事言ってごめん」

「いえ、そんな事ないですよ! むしろこのお話のおかげで、どうして師匠が色々な力を持っているのか、他のコボルドと違うのか理解できましたから!」

「ええ。それならレンが人間と言葉を通じ合えるのも不思議じゃない気がする」



 どうやら僕の話を信じてくれるらしい。

 こんな突拍子もない話をどうして……?



『レン、俺達はここまでずっと一緒に過ごしてきたんだ。疑うはずもないだろ?』

『そうはいっても、変な話には変わりないと思うんだけど……』

『今更変もなにもないだろ。元々レンがやってきた行動は今までの魔物では考えられなかったことなんだから、それ位の境遇があっても不思議じゃないだろ』

『そ、そういうものなのかな?』



 他の魔物では考えられないような行動をしてきたんだから、元人間だった位の事実くらいあってもおかしくないっていうことか。

 でもそれって、僕がすごい変な行動をしていたっていうことだよね!?

 なんか嬉しくないなぁ……



『でもその行動があったからこそ、レンはみんなと出会えた。俺も含めてな』

『そうだね。そう考えると、これで良かった気がする。みんなと一緒に旅できて楽しいし』

『そうか。俺もレンと旅できて楽しいぞ。多分みんなも同じ気持ちだろう。後悔する必要なんて全くないさ』



 別に後悔していた訳じゃないんだけど、まあいいか。

 バルグの言葉に元気をもらった僕は、それからみんなと談笑をしつつ一日を終えた。

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