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異世界で魔物生活  作者: はちみやなつき
第五章 天空竜国という名の牢獄
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69.ゲームからの脱出

 バルグを追って、上空へと高度を上げて飛んでいく。

 下を見ると、僕達がいた廃墟は巨大な森に覆われた所にあるのが分かる。

 こんなに広かったら、しばらく森の中でさまよってしまったのも無理ないよな……



「ここの森ってすごい広いんだね。森の中じゃ木々が密集していて飛ぼうとしても飛べなかったし、結構苦労したなぁ」

「それは無理もないな。何せここの森はサバイバルの森と言って、追尾を回避するために使われる所だからな」

「追尾を回避……って、それはこの森が迷いやすいから追尾しようとしてもできないっていうこと?」

「その通りだ。他の特徴としては、上空から森に侵入することが不可能だというのもあるな。つまり森に逃げ込んだ者を追うには歩いて森に入る必要があるのさ」

「なるほど、そういう面もあるんだね。森から脱出できなくて不便だとは思っていたけど、逆にいえば空から森に侵入されないとも言えるもんね」



 森の中からゲームが始まるのは不運だと思っていたけど、案外そうでもないみたいだ。

 もし視界が広い場所から始まっていたら、強い人に狙われてあっという間にゲームオーバーになっていたかもしれないからね。

 何よりこうして無事にバルグと合流できたんだから、結果的に良かったと言えるだろう。



「そういえば、バルグは僕と会うまではどうしてたの?」

「そうだな、ひたすらレベル上げをしていたな。後、有用なアイテムを手に入れたりしたぞ」



 ひたすらレベル上げか……

 一体バルグのレベルって今どれ位なんだろうか?

 あのユリンよりもレベルが高かったりするのかな?


  

「レベル上げしてたっていうけど、まさかレベル50を超えていたりするの?」

「ん? ああ、そうだな。どうしてレベル50っていう聞き方をするんだ?」

「僕を助けてくれた人がレベル52だったから、バルグもそれ位いっているんじゃないかなと思って聞いてみたんだ」

「レベル52か……なかなかやるな」



 バルグはレベル52と聞いても全然驚く素振りを見せない。

 むしろ、なかなかやるなとか少し上から目線で話してるみたいで、だいぶ余裕を感じられる。



「お、見えてきたぞ、あそこを見てくれ」



 バルグが指差した先を見ると、だだっ広い平原の中にポツンと黒くよどんだ所が見えた。

 いや、ポツンどころじゃない!?

 先に進むにつれて、より多くの黒い部分があらわになってくる。

 黒い部分のすぐ近くに着陸すると、目の前には黒い海が広がっていた。



「これはひどいな……こんなにウイルスの侵攻が起きているとは……」

「バルグが見たときにはこうじゃなかったの?」

「ああ。俺が見たときには小さな池みたいな感じだった。それがこんなに広がっているなんて、思ったよりもまずそうだぞ……」



 どうやらバルグの予想以上に早いペースでウイルスの汚染が進んでいるらしい。

 実際、黒い部分が汚染する領域を広げている様子が目で見て分かるのだから、もたもたしてはいられなさそうだ。


 汚染領域のすぐ近くには野次馬のように集まっている天竜がいたので、僕とバルグはその天竜達の所へ向かう。

 黒い領域について軽く説明をし、危ないからゲームを終了してほしいことを告げると、その天竜達はだいぶ困惑しているように見えた。



「ウイルスだって!? 冗談じゃない! 一体運営は何をしているというのだ!」

「こんな序盤にリタイアするなんて嫌よ! 今回こそは決勝まで勝ち残るって決めたんだから!」

「ひぇぇ、危ないとは思っていたけど、まさかウイルスの仕業とは……どうしよう!?」



 急にウイルスなんて聞かされたら、そりゃ戸惑うよね……

 しかも目の前の土地が既にウイルスの影響を受けているし、脅威はすぐそばまで迫っているんだから無理もないよ。



「とにかく、このゲームを速やかに終えてここから脱出してくれ! 黒い部分には絶対に近づくんじゃないぞ!」



 そう言ったバルグはどこかへ飛び去ってしまった。

 あれ!?

 みんなが無事にゲームを終えたか確認しなくていいの!?


 バルグの突然の移動に驚きつつ、僕は慌ててバルグを追いかけることにした。



「バルグ、急にどうしたの!?」



 ようやくバルグに追いついた僕は質問を投げかける。



「次の場所に向かっているだけだが?」

「次の場所ってどういうこと?」

「野次馬が集まりそうな場所だよ。ここにいる連中が全員ではないからな。参加者の位置は俺のアイテムで見ることができる。ほら、見てみろ」



 確かにバルグが持っているアイテムには参加者がいる場所が白く点滅している様子が分かる。

 そんな便利なアイテムがあるんだな……



「こんな危ない所に一人いるから声かけないと……って、まさかあいつは……!?」



 僕達が進む方向には一人の天竜がいた。

 何やら頑丈そうな装備で体が覆われていて、その姿からは力強さが感じられる。

 でもそんなに強そうなのに、どうしてこんな所にとどまっているんだろう?

 こんな空中にとどまってまで野次馬をするなんて物好きな天竜もいるんだな。


 そんな物好きな天竜が僕達をみつけると近寄って話しかけてきた。



「このゲームはウイルスに感染していて正常にプレイすることはできない。リタイアするんだ」

「ああ、それは分かっている。だが、ウイルスの事を他のプレイヤーに知らせている最中だから、まだリタイアすることはできない」

「そのことなら心配ない。もうじき運営から全プレイヤーに通知が届くはずだ」



 そう天竜が言うと同時に、メニュー画面に音が流れ、何かが表示された。

 そこには、このゲームがウイルスに感染したこと、そして今回のゲームの試合結果は無効とすることの通知が表示されていた。


 

「見ての通りだ。もう知らせに回る必要はない。早くこのゲームから脱出するんだ」

「そうか、分かった。お前はまさか―――」



 バルグがそう言うと、重装備の天竜はニッコリとほほ笑んだ。



「ここは私の庭のようなものでね。みんなが逃げ切るまでは時間を稼いでみるよ。なに、無理はしないさ」

「実に頼もしいな……。レン、このゲームからログアウトするぞ」

「あっ、うん、分かった」



 僕達が伝えたかった情報はみんなに伝わった。

 なら僕達もこのゲームに残る必要はないだろう。

 僕はバルグからゲームをリタイアしてログアウトする方法を教えてもらい、実行した。

 すると意識はどんどん遠のいていった。





 目を覚ますと、カプセル型のゲーム装置が目に入った。

 どうやら無事にゲームを終えることができたらしい。

 カプセルから出ると、近くには同じくカプセルから出てきたバルグが近くにいた。



「バルグも無事みたいで安心したよ」

「俺もレンが無事で安心だ」

「だけど他の人達も大丈夫かな? 情報が流されたとはいえ、ちょっと不安かも」

「ああ、そのことなら心配いらないだろう」



 えっ、どうして心配いらないって言い切れるんだろう?

 情報を信じずに断固としてゲームを終えない人とか、ウイルスの影響に巻き込まれてしまった人とかいてもおかしくないのに。



「不思議そうな顔をしているな、レン」

「うん。だって運営から情報が発信されただけじゃ、みんなが無事に帰ってこれるなんて思えないんだけど……」

「あっ、そうか。レンはあの人のことを知らないのか。それなら、そう思うのも無理はないな」



 あの人って誰だろう?

 そんなにすごい人なのかな?



「さっき俺達に早くゲームから脱出しろと言った人がいただろ?」

「うん、あの強そうな装備をしていた人の事だよね?」

「ああ。実はな、あの人は数か月前まで”天空覇竜決戦”を連覇していたっていう人なんだ」



 えっ、そうだったの!?

 てっきりバルグが連覇をしていた人なんだと思っていたから、不意をつかれた気分だよ……



「何そんなに驚いているんだ? そこまで驚くほどのことじゃないだろ?」

「いや、だっててっきり、連覇していた人ってバルグのことかと思ってたから……」

「そうなのか? 確かに俺は”天空覇竜決戦”でそれなりに上位に入ったことはあるが……まぁ、もっとやりこむことができれば一度位は優勝できていたかもしれないけどな」

「あまりやりこめなかったんだ?」

「ああ。シュルドが色々とうるさくてな。城にあるゲーム機はシュルドとの約束で一週間に一度しか使えなかったし、街のゲーム機を使おうとしたら、変装した上で城から抜け出さないといけなかったからな」



 確かにシュルドはバルグに「ゲームは一日一時間までですよ」とか言ってそうだよなぁ……

 それにしても一週間に一度しか許してくれないなんて厳しいんだね。

 ゲーム好きの僕だったらそんな暮らし耐えられないと思う。

 いや、だからこそバルグは度々脱走して街のゲーム機を使っていたのか。

 さすがに一週間に一度は少なすぎるもんね。



「大変だったんだね。わざわざ変装した上で脱走しないとゲームができないなんて。でも変装する意味ってあるの?」

「そりゃしないとマズいだろ。だって一国の王子がゲームをして遊びほうけているのを国民がみたらどう思うよ?」



 確かに、国を代表するような人がそんなことをしているのは見たくないね。

 だから、変装する必要はあるっていうことか。 



「でも変装していて本当にばれなかったの? バルグの変装技術を疑うようで悪いけどさ。何度も出入りしていたら気づく人も出てきそうな気もするけど」

「恐らく大丈夫だろう。行く度に違う天竜の姿に変身していたから誰も気づいていないはずだ。その証拠に、俺が参加表明をしたときに民衆がどよめいただろ?」

「うん、確かにみんな驚いていたよね」



 バルグがゲームのある建物によく行っていたにも関わらず、民衆がバルグの参加表明に驚いていたのはそういう訳があったんだね。

 それから僕はバルグとしばらく話し合っていた。


 色々とあったけどなんとか無事に戻ってこれて良かった。

 でもここで一つ疑問が生じる。

 ”天空覇竜決戦”は勝つか負けるかしないと終われないとかバルグは言ってたはず。

 なのにどうして普通にログアウトしてゲームを終えることができたのか?



「そういえば、普通にログアウトして終わることができたけどさ、”天空覇竜決戦”って、勝つか負けるかしないと終われないんじゃなかったっけ?」

「ん? 別に間違ったことは言ってないぞ?」

「え? でも負けるってHPとかが0になってゲームオーバーになることをさすんじゃないの?」

「いや、諦めてリタイア、つまりログアウトしても負けた扱いになるぞ? ゲームを一旦中断してから再開することはできないという意味でいっただけだぞ?」



 なんだ、そういう意味だったのか。

 てっきりログアウトとか、簡単にゲームを終える手段がないのかと思ってた。

 だからバルグはログアウトがどうとか言ってたんだな。



「バルグ様、ご無事で何よりでございます」



 バルグと色々と話していると、部屋の中に執事のシュルドがやってきた。



「ああ、シュルドか、こっちは色々と大変だったぞ」

「そのようでございますね。そのような危険な事をさせてしまい誠に申し訳ございません。王も大層ご立腹でした」



 まあ、王が怒るのも無理ないよね。

 せっかく国を盛り上げるための行事が台無しになっただけでなく、バルグの身を危険にさらしてしまったのだから。

 そういえば”天空覇竜決戦”で優勝したら国から出てもいいっていう話はどうなったんだろう?

 今回はこんな緊急事態だったし、また次の機会を与えてくれたりしないのかな?



「そんなに気にすることはない。俺達はそんな被害を受けてないからな。それより、改めて”天空覇竜決戦”に挑戦する機会をもらいたいんだが……」

「……バルグ様、王は今回の事態を重く受け止めていらっしゃいます故、再挑戦を認めていただくのは厳しいかと」

「なに!? だったら俺達の国を出るチャンスはどうなるんだ!?」

「……諦めて頂く他にないかと」



 バルグは呆然として、しばらくその場に立ち尽くしていた。

 そりゃ、せっかくのチャンスが無駄になってしまったのだから無理もないよね……


 結局僕達はそのままバルグの部屋へと戻ることにした。

 ちなみにその前にバルグと融合して天竜化を済ませておいた。

 全てが天竜サイズのこの国では、竜人族の体じゃ色々と不便だからね。

 例えばドアの取っ手に届かなくて部屋の出入りすらできなかったりする。

 うん、まともに生活すらできなそうだ。

 

 バルグの部屋に入ると、バルグはベッドに突っ伏した。

 何も考えたくないといったような感情が僕にも伝わってくる。

 よほどショックだったんだろうなぁ……



「バルグ様、私は用事がありますので、失礼します」



 シュルドはそう言うと部屋から出て行ったようだ。

 まあ、ここにいてもしょうがないよね。



『なあ、どうしてレンはそんなに平然としていられるんだ?』

『え? だってまだ方法がない訳じゃないでしょ?』

『そりゃ、みんなが助けに来てくれる可能性はあるが……いつの事になるか想像つかないぞ?』

『それは前から分かってたことだし、今更嘆くことでもないんじゃない?』

『それはそうかもしれないが……』



 こんなに弱気なバルグは珍しいなぁ。

 いつもだったら僕が弱音を吐いて、バルグが勇気づけてくれることが多い気がするんだけど。

 何か理由があるのかな?



『理由か……何なんだろうな? 俺もよく分からない。なんか調子でないんだよな……』

『もしかして、この国から入ってからずっとそうなの?』

『ああ、そうだな。なんでなんだろうな……?』



 バルグにもよく分からないらしい。

 本人にも分からないなら僕に分かるはずないよなぁ……

 でも、この国に来たことが原因であるのは何となく分かる。

 だから国から脱出すればいい訳なんだけど、それができたら苦労しないよね。

 苦労はするかもしれないけど、一つ一つできることからやっていくしかないか。



『できることって何があるんだ? みんなを待つことしかできないんじゃないか?』

『そんな事ないよ。ガルダン王とまだ交渉することができると思うんだ』

『あいつと交渉だと!? 冗談じゃない! あんな頑固な奴が俺の話を聞くものか!』

『それは話し合ってみないと分からないんじゃないかな?』

『とにかく、俺は嫌だからな! 話し合うならレンがあいつと話してくれよ!?』



 バルグはふてくされてしまったようだった。

 まあ、僕も実の父親にそうやってお願いするのは気が引けるし、気持ちは分からなくもないんだけど。

 ここは僕が頑張るしかないか。

 かなり面倒だけど。


 ひとまず今日はそのままベッドで寝て過ごすことにした。

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