68.バルグと合流
しばらく歩いていると、何やら建物のようなものが見えてきた。
建物は黒ずんでいて、外壁はだいぶボロボロで所々が欠けてしまっている。
廃墟のような外観をしているようだ。
なんだか不気味な雰囲気が漂っていて近寄りがたく感じる。
でも森よりは人がいそうだし、バルグもそこにいるかもしれないので、廃墟の方へ向かうことにした。
朽ちかけた建物は最初見たもの以外にも近くにたくさん存在した。
かつては町だったという設定なのだろうか?
まあ、ここはゲームの世界なんだから、そんなことを考えても仕方ないよね。
それより、この廃墟の町には人はいるのかな?
そう思いながら廃墟を歩き続ける。
すると誰かの声みたいな音が聞こえてきた。
僕は声らしき音がする方向に近寄ってみることにした。
少し歩くと、天竜族の人が複数いるのが見えた。
えっと、1、2、3……うん、4人いるな。
でも1人を3人が囲っているような様子に見える。
どういう状況なんだろう?
話をしているみたいなので耳をそばだててみることにした。
「おい、早く森林の秘宝を出せよ」
「お前が隠し持ってるの分かってるんだぞ」
「そ、そんなもの私は知らないわよ」
どうやら森林の秘宝というものを持っている天竜族の少女を他の三人が問い詰めているような感じだな。
秘宝という位なんだから、きっと大事なアイテムなんだろうな……
「しらばっくれんじゃねぇ! お前が秘宝を手に入れた所をこの目で見ているんだ、誤魔化そうったって無駄だぞ!」
「持ってないものは知りようがないわよ」
「こ、この……もう我慢の限界だ……お前達、やるぞ!」
今にも戦いになりそうな予感がする。
でも少女たった一人であの三人に勝てるのか?
助けた方がいいのかな……?
色々と悩んでいるうちに、一人の男が持った剣が今にも少女に襲い掛かろうとしている。
僕が今から助けに行こうとしても間に合わない!
絶望を感じたその瞬間、少女の目の前に何かが上から落ちてきた。
「な、なんだ!? 何者だ!?」
これには男も驚いたようだ。
よくよく見ると、少女の目の前には一人の天竜が立っていた。
あまりにもいきなりだったので、何かの物体かと思ったが、人だったのか……
男の声を聞くと、少女の目の前に立つ天竜が話し始めた。
「フフン、ぼくのことが知りたいかい? いやいや、君なんかには名乗る必要はないさ。何と言ったって、ぼくは誇り高き貴族、モーフィン様なのだから!」
いやいや、結局名乗っているじゃないか!
何か変な人が登場したものだな……
関わらない方が良さそうかも……
「おい、お前! 邪魔するなら容赦しないぞ!」
「フフン、ぼくが邪魔だって? とんでもない! ぼくは救世主なのさ、そんな扱いを受ける筋合いは……グハッ!?」
くどくど話している間にモーフィンは男の一人に殴られ、倒れた。
うん、何かウザったいから殴りたい気持ちは分かるよ。
あまりにもウザいので、救世主なはずのモーフィンよりついつい男側を応援してしまう。
登場の仕方は比較的格好よかったのに話しがくどすぎたな、モーフィン。
でも、ここから挽回してくれる……ってあれ?
全然起き上がる様子がないんだけど?
まさかあの一発の殴りだけで気絶してしまったんじゃないよね……
恐る恐る僕はステータス画面を開き、モーフィンの状態を見てみた。
モーフィン LV 1
状態:気絶
HP 5/ 152
MP 10/ 10
AP 78/ 100
えっ、本当に気絶してるの!?
それにもうすぐやられちゃいそうなんだけど……
これってまずくない?
いくらLV1とはいえ、一発殴られただけでこのダメージを受けるなんて、相手はどんだけ強いんだろう……
ステータスを見てみよう。
アーダス LV 8
HP 929/ 929
MP 0/ 0
AP 67/ 100
イーダス LV 7
HP 829/ 829
MP 0/ 0
AP 67/ 100
ウーダス LV 7
HP 729/ 729
MP 20/ 20
AP 67/ 100
うわっ、かなり強いじゃないか!
こんな人達を相手じゃ僕でも敵わないよ。
少女には悪いけど、自分の身が危ないからここは逃げよう。
そう思って後退しようとすると、ドンッという音がして、何かにぶつかる。
えっ、後ろに物なんてなかったはずなんだけど、これってもしかして……
「お前、こんな所で何してんだ? 盗み聞きか?」
「フン、そんな姑息なやつ、軽くぶちのめしてくれる」
後ろを振り返ると、そこには天竜が二人立っていた。
どうして今まで気づかなかったんだろうか……
精霊の力を使えなくて、周りを察知できないというのはだいぶ恐ろしい事だということを痛感した。
もっとこれからは周りに気を付けて行動しないと。
いや、今は今後の心配をしている暇はない。
目の前の状況をなんとかしないと……
不意をつかれた僕は慌てながらも、目の前にいる天竜のステータスを調べることにした。
エーダス LV 6
HP 801 / 801
MP 0 / 0
AP 67 / 100
オーダス LV 6
HP 529 / 529
MP 30 / 30
AP 67 / 100
この天竜達ってもしかして兄弟なのかな?
みんな○ーダスだし。
覚えやすくていいんだけどね。
それよりこの二人はさっきのアイウーダスよりは弱いけど、僕よりは断然強そうだ。
まともに戦っても勝てそうにないよなぁ……
「ステータスを見て怖気づいたか? だが残念だな。気づくのが少し遅かった」
「俺達の行動を見た奴を逃がす訳にはいかないからな。悪く思うなよ!」
そう言うとエーダス達が僕に向かって襲い掛かってきた!
だが、僕は二人の攻撃をかわしきる。
意外と攻撃のスピードが遅かったので、かわすのは結構容易かったのだ。
スピードに関してはLVの差は関係ないみたいだね。
「ちょこまかとうっとうしい奴め!」
「逃がさないぞ!」
攻撃をかわすことは容易くても、二人から逃げきるほどの余裕はなさそうだ。
ここは二人に攻撃をしてひるませ、ひるみによってできた隙に逃げるしかないだろう。
LV差からして倒すのは困難だと思うからね。
作戦を決めた僕は、早速行動を開始した。
まず二人の攻撃をこれまで通りにかわし続ける。
そして二人の比較的大振りな攻撃をかわした瞬間、僕は一気に間合いを詰める。
「なに!? いつの間にこんな近くに!?」
「油断した!?」
「くらえ、炎熱槍!」
僕の至近距離から繰り出した炎魔法は二人の体を直撃し、吹っ飛ばした。
よし、この隙に逃げよう!
そう思って移動しようとした瞬間、体に異変を感じた。
急に体が痺れて動けなくなってしまったのだ!
一体何が起こっているというんだ……
「フフ、なかなかやるなお前。さっきの攻撃はさすがの俺様にもこたえたな」
「だが、残念ながらお前は勝てない。既に俺達の術中にあったんだよ、お前は」
既に術中にあったってどういうことなんだろう?
二人はあらかじめ何らかの作戦をたてていたというんだろうか?
「不思議そうな顔をしているな。いいだろう。お前がこのゲームを終える前に、俺達の素晴らしい作戦を聞かせてやろうじゃないか」
聞いた話をまとめると、どうやら隙の多い攻撃を多用することで接近を誘い、接近した所で相手を麻痺させる設置魔法を発動させる作戦だったらしい。
つまり、僕はエーダス達に近づいて攻撃しようとした時点で相手の術中にはまってしまったということなんだろう。
まんまとしてやられたものだ……
「話は分かったか? なら、ここでお前のゲームは終わりだ。あばよ」
抵抗しようにも体は全く動かない。
このまま為す術もなくやられてしまうというんだろうか!?
まだバルグに会うことすらできていないのに……
絶望を前にして、僕は途方に暮れた。
僕の目の前には今にも攻撃をしようとする二人の天竜が――いなかった。
あれ?
さっきまで僕を攻撃しようとしていた天竜がいたはずなのに……
一体何が起きているんだ!?
事態がよく飲み込めない僕は辺りを見渡す。
すると、遠く離れた所に二人の天竜が倒れているのが見える。
まさか、あれがさっきの二人だというのか……!?
僕は慌ててステータス画面で調べてみると、
エーダス LV 6
HP 1/ 801
MP 0/ 0
AP 66/ 100
オーダス LV 6
HP 1/ 529
MP 30/ 30
AP 66/ 100
うわっ、もうやられる寸前じゃないか!?
一体誰がこんなことを……
「あら? あなたはこの人達とは違うようね」
声がする方に振り向くと、そこには先程の少女が立っていた。
少女は気絶したモーフィンを引きずりながら僕の方へと近づいてきた。
えっ、まさかとは思うけど、一瞬でエーダスとオーダスを瀕死に追い込んだのってこの子だったりするの!?
「さっきまで三人の天竜に囲まれていた気がするんだけど……」
「ああ、あの○ーダス三兄弟の事ね。まあ、本当は五兄弟みたいだけど。あいつらはもう倒してきたわ」
あの三人を相手に一人で勝ってしまうなんて……
一体どんだけ強いんだよ、この子……
そういえば少女のステータスは結局見てなかったんだっけな。
えっと、どれどれ?
ユリン LV 5
HP 511/ 511
MP 38/ 50
AP 87/ 100
あれ?
そんなに強くないんだけど?
僕よりは強いとはいえ、このステータスじゃ、○ーダス兄弟に勝てるとは思えない。
どういうことなんだろう?
「信じられないって顔をしているわね、レン君」
「うん、このステータスだとあの天竜達に勝てるとは思えないんだ」
「確かにそうよね。でも事実、私はあいつらに勝った。どうしてだと思う?」
何か理由があるには違いない。
でも理由は全然思いつかないなぁ。
強力な魔法が使えるとしてもMP消費が激しくて、連発はできないだろうし。
表示されている以上にMPをもっと使えるなら話は別だろうけどなぁ……
「実はこの画面よりも多くのMPがあって、強力な魔法が使えるとか?」
「鋭いわね。その通りよ」
「ユリンさんは本当にこれ以上のMPを持っているっていうこと?」
「ええ。答えを言うとね、ステータスを偽装しているのよ」
「ん? どういうこと?」
「そうね、実際に見てもらった方が早いかもしれないわ。ちょっと待ってて」
そう言うとユリンは何やらアイテムアイコンをいじりはじめた。
そして何かを選択すると、
「もう分かるはずよ。ステータス画面を表示してみて」
「うん、分かった」
僕は再びステータス画面を表示させた。
ユリン LV 52
HP 5110/ 5110
MP 388/ 538
AP 87/ 100
ひぇぇ!?
これが本当のユリンのステータスだっていうのか!?
そりゃ敵うはずないよ……
「ユリンさんって強いんだね……でもどうしてこんなに強いんだろう?」
「そうね、このゲームをやりこんでいると、効率の良いレベル上げの方法ってものがあるのよ」
「そ、そうなんだ……」
現実世界のゲームでも、効率の良いレベル上げとかあったけど、このゲームもそれと同様のようだ。
そういう技を知っている人には敵いそうにないな……
「これだけ強かったら、誰にも負けそうにないよね」
「いえ、そんなことはないわ。今回は”天空覇竜決戦”をずっと連覇していた例の人がいるから……絶対に負けられないの」
「ずっと連覇……すごい人がいるんですね」
「そろそろ私は行くわ。レン君も頑張って。予選、勝ち抜けれるといいわね」
「あっ、ちょっと……」
ユリンはそう言うとさっさとどこかへ行ってしまった。
このゲームに危険が迫っていることを伝えられたら良かったんだけど……
「く、くそぉ、許さないぞ!」
その声の方を振り返ると、先程まで倒れていたエーダスとオーダスが僕に襲い掛かろうとしているのが見えた。
僕はとっさに火魔法を放つと、魔法は二人に命中し、光の粒子となって消え去ってしまった。
レベル差があるとはいえ、残りHPが1しかない状態で襲い掛かってくるなんて無謀だよなぁ。
まあ、二人はそんな状況も忘れてしまうほど怒り狂っていたんだろうな。
さて、落ち着いたことだし、気を取り直して再びバルグ探しを再開しよう。
エーダス達が落とした物をいただいてから、僕は再び廃墟を歩きだす。
しばらく廃墟を歩いていると、目の前に急に一人の天竜が降り立った。
あまりにも突然だったので、驚いてその場を立ち尽くしていると、
「やっと見つけたぞ! こんな所にいたのか!」
そう目の前の天竜は言う。
好意的な反応だったのでバルグなのかな?
ステータス表示をしてみよう。
ベクト LV 9
HP 999/ 999
MP 99/ 99
AP 100/ 100
どうやらバルグではないようだ。
というか、ベクトって誰なんだ?
「ああ、スマンスマン! 訳あってステータス偽装をしているから分からないよな。俺だ、バルグだ」
ステータス偽装って名前まで偽装できるものなのか……
それはともかく、こうしてバルグに出会えたのは良かった。
早くあの事をバルグに話しておかないと。
「バルグ、ちょっと話があるんだけどいいかな?」
「ん? どうしたんだ、神妙な顔をして?」
「うん、結構大事な話なんだ。よく聞いてね」
僕はこのゲームに入る直前に聞いたことをバルグに伝えた。
するとバルグの表情は曇る。
「ウイルスか、それは厄介だな……もしかしてあそこでみた黒く変色した所がそうなのか?」
「バルグ、何か心当たりあるの?」
「ああ、色々とこのゲームの世界を見て回ったんだが、一部黒く変色したおかしな所があったんだ。初めて見たときは、それがゲームのアップデートによる新機能なのかと思ったが、そうじゃなかったんだな……」
どうやら既にウイルスによる影響を受けているらしい。
それだったら一刻も早くここから脱出しないと……
「もうウイルスの影響を受けているっていうことだよね? それだったら早いうちにゲームを終わらせないと」
「ああ、そうだな」
「HPが0になれば、ゲームを終えることができるよね。だったら――」
「いや、それはできない」
「え? どうして?」
早くこんな危険なゲームから脱出した方がいいのに……
もしかして、バルグは予選敗退したときの罰の事を考えているのかな?
緊急事態なんだから多少の配慮はしてくれると思うんだけどなぁ。
「俺達だけが脱出したとして、ゲームに残された者はどうなる?」
バルグは自分の事ではなく、ゲームをプレイしている天竜の民の事を考えているようだった。
確かに僕達だけが脱出しても、ゲームにウイルスが蔓延していることは変わらない。
ゲームに残された人達は事情も分からずウイルスの被害を受けることになってしまうだろう。
せっかく僕達が情報を持っていて、その情報によって救える人がいるかもしれないのだ。
「自分勝手すぎた、ごめん」
「気にするな。緊急事態なんだから、誰もが自分の身を優先して当然だと思う。レンは自分を責める必要はない」
「ありがとう。とりあえず僕達はやることをやるべきだね。何からやるべきだろう?」
「そうだな……ウイルスの被害を受けている場所の周辺にいる人達に警戒を呼びかけるべきだろうな。不用意にウイルスに感染した場所に入られるのはまずいからな」
「分かった、そうしよう。場所は分かる?」
「ああ、こっちだ。ついてきてくれ」
そう言ったバルグは空へと飛び立っていく。
僕もバルグを追って空へと飛び立った。




