66.天空覇竜決戦
『レン、起きてくれ』
ぐっすりと寝ていた僕はバルグの声で目が覚める。
朝になったのかと思ったが、外はまだ暗く、朝にはなっていないようだ。
一体どうしたというのだろう?
『急に起こしてすまないな。だが、もうそろそろ行動しないと散歩ができなくなるんだ』
『散歩ができなくなるってどういうこと? ふらっとここから出ればいい話なんじゃないの?』
『気軽に外に出歩けたらいいんだけどな。残念だが、それはできないんだ』
気軽に外に出歩けない?
それはどういうことだろう?
『公式行事以外で城から出ることは基本的に許されてないのさ』
『どうして城から出てはいけないんだろう?』
『どうしてだろうな? 身分が関係すると俺は勝手に推測しているんだが、本当の所は分からないな』
そっか、バルグはこの国の王子だったな。
もしかしたら王子が住民の近くにいすぎるのはよくないこととされているのかもしれない。
『バルグが城の外を出歩きにくいのは分かった。でも、出歩きにくいのは今も同じじゃないの?』
『いや、今の時間は兵士が一番少ないから、城から出るのはだいぶ楽だ。城さえ出てしまえば、後は追手が来なければ比較的自由に行動できる』
そういうものなのか……
天空竜国から脱出するのは困難だというから、城から出ても監視の目があるものだと思ってたけど、そうではないようだ。
『ただ、城から出たことに気づかれて追手が来てしまうと逃げるのはほぼ不可能になるな。それに加えて、捕まった後は城の警備が強化されてしまうから城から出るのがしばらくできなくなってしまう。だから気づかれる前に城に戻ることが重要だ』
散歩するにもかなりリスクがあるんだな……
王子って色々と大変だね。
『じゃあ、そろそろ部屋から出るぞ』
『うん、分かった』
こうして僕はバルグの部屋から廊下へ出た。
「おや、バルグ様どちらへ行かれるのですか?」
廊下へ出るとすぐに声をかけられた。
声の主は執事シュルドである。
あれ?
この時間は誰にも見つからないんじゃなかったの?
「ちょっとレンにこの国の様子を見せてこようと思ってな。すぐに戻る」
「それは結構でございますが……今日は厳重な警備がされていますから、脱走は相当困難だと思いますよ?」
「ぐっ……そうなのか……」
「実は今日の昼頃にバルグ様が外に出歩かれる行事がありますから、その後にでも自由時間を確保しておきましょう。それでよろしいでしょうか?」
「そうか、それは助かる。いつもすまないな」
え?
この会話から察するに、シュルドはいつもバルグの脱走を手助けしていたっていうこと!?
シュルドが主にバルグの脱走を止める人物だと思っていたよ……
『レンはそう思っていたのか? シュルドはむしろ俺の脱走のアドバイスをしてくれる奴だぞ』
『そうなの? でもシュルドはバルグを捕まえに地上に来ていたよね?』
『それは親父の命令だから仕方なかったんだろう。普段は脱走を止める命令なんてないから、むしろシュルドは脱走を面白がって手助けしてくれるのさ』
そうなのか……
シュルドが脱走を面白がるなんて思いもしなかったな。
『天竜族は基本的に娯楽というか、物事の変化を楽しむ所があるからな』
『そうなんだ。それは天空竜国が閉鎖的な環境にあって、物事の変化が少ないからこそ、そう思うのかな?』
『どうなんだろうな? 確かにこの国は変化がだいぶ少ないと思うぞ。レンと出会って地上で過ごした時の方が何倍も刺激的で楽しい生活を送れたからな』
『そっか。だとしたら、天竜族は地上の方がもっと楽しく過ごせそうだよね。どうして外に出ることを禁止なんかしたんだろう?』
『俺もよく分からない。外に出られた方がずっと楽しいから、そんな決まりなくなればいいのにな』
天空竜国って謎が多い国だよな……
まあ、気にしても仕方がないか。
シュルドとの会話を終えた僕達は、大人しく部屋に戻り、もう一眠りすることにした。
「バルグ様、時間になりました。王の間へ行きましょう」
シュルドが部屋の中に入ってきてそう言った。
バルグはシュルドについていって、部屋を出る。
しばらく歩くと王の間の扉の前にたどり着き、王の間へと入っていく。
部屋の中央まで移動すると王が話しかけてきた。
「来たか。昨日は書類を全部片付けたそうだな。よくやった」
「本当に。さすがはバルグ様でございます」
「あれ位、俺にとっては何ともない」
あの長時間にわたる集中力はすごいと僕も思う。
僕だったら1時間も集中がもたないと思うからね。
「相変わらず釣れないな……まあいい。今日の話をするぞ」
ガルダン王は少し不機嫌そうな顔をしながら話を続ける。
「我が国で人気のあるゲーム”天空覇竜決戦”については知っておるな?」
「ああ、流行っているサバイバルゲームのことだろ?」
サバイバルゲーム……?
この世界にゲームがあるの!?
魔物の村によっては文明が発達している所もあるとは思っていたが、まさかゲームまであるとは……
「そのサバイバルゲームを一層盛り上げる為、バルグにはそのゲームに参加してもらう。そしてその参加表明を今日行って――」
「おい、いくらなんでも急すぎるぞ!」
「仕方ないだろう。これは前々から決まっていたことだ。知らせようとしてもバルグがここにいないのでは知らせようがなかったしな。ここにいなかったお前が悪い」
「確かにここにいなかったのは事実だが、それにしても……」
バルグはだいぶ動揺しているようだ。
いきなりゲームに参加しろと言われて驚くのは分かるけど、どうしてそんなに動揺しているんだろう?
ただゲームに参加するだけなんだからそんなに大変じゃないだろうに。
『レンもゲームのことを知っているのか。だが、なんか認識が甘いようだな』
『認識が甘い? どういうこと?』
『”天空覇竜決戦”は一回始めたら終わるまで終われないゲームなんだ。だから本気でプレイする必要がある』
『えっ? 一回始めたら終われないってどういうこと?』
『そのままの意味さ。ゲームを始めたら、そのゲームをクリアするか、負けてゲームオーバーになるまでゲームを終わることができないんだ』
『その間、食事とかはどうするの?』
『ゲーム内でとる必要がある。ゲームで食べた物の栄養成分が現実の体に投与されるから、それで生きることができる。もし栄養不足になってしまえば、ゲームは強制終了される』
なんか思っていたよりもだいぶ大がかりなゲームのようだ。
多分バルグの言葉から推測すると、”天空覇竜決戦”というのは、全部の神経を仮想空間に反映させるヴァーチャルリアリティゲームのようなものなんだろう。
そんなの現実世界でもやったことがない。
バルグが動揺していたのは、そのゲームが体に大きく負担がかかるものだからだったんだな……
「確かに負担がかかるものだし、嫌々やられて、すぐに負けることがあってもつまらんな……そうだ!」
「ん? どうかしたか?」
「もし”天空覇竜決戦”で最後まで勝ち残ったら、この国から出ることを許してやろう」
「え、いいのか?」
「ああ、それで民を盛り上げてくれるなら十分さ。それにできたらの話だ。逆に予選で敗退するようなことがあったら、そのときは覚悟しておけ」
「分かった。約束する」
バルグは少し嬉しそうに返事をする。
国から出ることは絶望的だと思っていたのに、あっさりと希望と見えたのだ。
これは思わず笑みがこぼれるだろう。
だが、こんなに簡単に国から出ることを許していいんだろうか?
それだけ”天空覇竜決戦”で勝ち残ることは困難っていうことなんじゃ……
僕は不安を感じているが、バルグは全く気にすることなく、”天空覇竜決戦”参加表明をする為に外へと向かった。
バルグは兵士やガルダン王と共に城の外へと出る。
すると城の外にいる天竜族の住民が一斉にこちらの方を見る。
住民に見られながらもバルグ達は町の中へと入っていく。
一体どこへ向かおうとしているんだろう?
『町の中心部に広場がある。そこのステージに俺達は向かっているんだ』
『そうなんだ。いつもそこで公式行事はしているの?』
『大体はそこでしているな。天空竜国で一番アクセスが良くて、目立つ所だからな』
広場で公式行事をしているんだね。
そこまでいつもこうして多くの兵士に守られながら行進しているんだろうか?
なんか物々しい雰囲気が漂っているけど……
まあ、王族だから仕方ないのかな。
そうこうしているうちに、バルグ達は広場のステージにたどり着いたようだ。
バルグ達を一目見ようと天竜族の住民が広場に集まってきた。
そして広場に住民がだいぶ集まった所でガルダン王がステージの中央に立って話し始める。
「我が民達よ、本日は我が息子バルグから一つ発表することがある。心して聞いてほしい!」
そう言ったガルダン王はステージから下がる。
そしてバルグがステージの中央に立つ。
ステージの中央は多くの人の視線が集まっている。
緊張で頭が真っ白になりそうだ。
話す訳じゃない僕でさえ、それほど緊張してしまうんだから、バルグは一体どれだけのプレッシャーがかかっているのか想像もつかない。
ステージの中央に立ったバルグは、深呼吸して少し間をあけた後、話し始める。
「民達よ! 我、バルグ・デュルベールは、”天空覇竜決戦”に参加することをこの場にて正式に表明する!」
バルグは民衆に向かって堂々と宣言した。
すると民衆はどよめいて、あちこちで話し始めた。
バルグが”天空覇竜決戦”に参加することはだいぶ衝撃的な事だったらしい。
それにしてもバルグ、よくこんな所で堂々と言葉をだすことができるな……
僕だったら緊張で声が震えてしまうと思う。
バルグがそう言うと、ステージの後ろの方へさがり、代わりに再びガルダン王がステージの中央に立つ。
「聞いてもらった通りだ。バルグは”天空覇竜決戦”に参加する。我が王家代表として、全力で挑んでもらうつもりなので、楽しみにしておくがいい! ではこれにてこの場を締めくくらせてもらおう!」
その後、ガルダン王と兵士達は城の方へ戻っていった。
「バルグ様、王には私から説明しておきました。1時間外出してもいいそうです」
「そうか、分かった」
バルグと話し終えたシュルドは城の方へ向かっていった。
参加表明を終えたバルグはステージから降り、町を歩いている。
ちなみにステージ裏で変身魔法を使い、若干外見を変えて町を歩いているので、町の人達にバルグだと気づかれることもない。
バルグはこの国では有名人だから、変身しないで歩いたら、大変なことになるだろうけどその心配も不要のようだ。
『1時間だけだが、なんとか町を案内できそうだな。どこへ行こうか?』
『なんかこの町ならではの場所が見てみたいかな』
『この町ならではのものか……だとしたらやはりあそこだな』
そう言ったバルグはある建物を指さした。
そこには現実世界のビルのような建造物がある。
だいたい10~20階だてのように思える。
特別変わった建物のようには見えないが……?
『ああ、外見は特に他の建物と変わらないさ。中が違うだけだからな』
『一体建物の中はどうなっているの?』
『まあ、それは見てのお楽しみといった所だな』
そう言ってバルグは指を指した建物の方へ進んでいった。
建物に入ると、中は天竜族の人々であふれかえっていた。
こんなに人が密集しているのを見るのはこの世界に来てから初めてかもしれない。
一体ここに何があるというんだろうか?
『こんなに混んでいるとは思わなかったな……これじゃ進むのも苦労しそうだ』
『それほど人気が出るものがここにはあるの?』
『ああ。ここはゲームができる所なんだ。昔ながらのゲームはもちろん、最新のゲームもここには揃ってる』
どうやらここは、大規模なゲームセンターのような所みたいだ。
でもどうしてゲームセンターに人がごった返しているんだろう?
家でゲームすればいいと思っちゃうんだけど。
『確かに家でできるものもあるが、人気のある仮想空間没入型のゲームはここでしかできないからな。みんなここに来てゲームをする訳だ』
家でできないからこそ、天竜族の人達はわざわざここに集まっているという訳か。
現実世界のゲームも、元々アーケードゲームから始まったようなものだし、最新のゲームがゲームセンターにあるのも不思議ではないかな。
『ここで”天空覇竜決戦”はできるの?』
『できるぞ。まあ、時間がないから俺達が練習でプレイすることはできないと思うが。とりあえず”天空覇竜決戦”のブースまでいってみるか?』
『うん、お願い。どんなゲームなのか知っておくだけでも違うと思うんだ』
『それもそうだな。何の情報もなしにぶっつけ本番じゃ恐ろしすぎるよな。とにかく行ってみるとしよう』
バルグはエレベーターに乗り、どこかの階で降り、”天空覇竜決戦”のブースがあるであろう場所へと向かった。
『ここが”天空覇竜決戦”のブースらしいな』
『そうなんだ。でも人がすごくて様子が全然見えないよ……』
この建物には多くの人であふれかえっているが、”天空覇竜決戦”のブースには特に人が密集しているらしい。
それだけ人気のあるゲームだということか。
『でもどちらにしろ俺達はプレイする時間もないし、観戦できれば十分だろ。観戦スペースに向かおうか』
『それだったら最初からそっちに向かっていれば良かった気がするんだけど……』
『まあ、そう言うなよ。どれだけ”天空覇竜決戦”が人気か一目見て分かっただろ?』
『それはそうだけどさ……』
『観戦する場所はすぐそこだ。そんなに時間はかからないさ』
バルグはそう言うとどこかへ移動をし始めた。
バルグはこの建物の中についてよく知っているみたいだね。
まあ、故郷にある建物なんだから知っていても何の不思議もないか。
『この機械を使えば”天空覇竜決戦”を観戦できるぞ』
目の前にはパソコンのような機械がある。
これを使えば、”天空覇竜決戦”の様子が見えるそうだ。
『早速見てみるとするか』
バルグはそう言うと機械を作動させ、何やら色々と操作をし始めた。
そしてしばらくすると、画面にゲーム画面のようなものが映る。
『これが”天空覇竜決戦”の様子だな』
現在行われている”天空覇竜決戦”の中継映像がこの機械に映っているらしい。
映像をよく見てみよう。
映像には一人の天竜が他の天竜と戦っている様子が映っている。
そしてその天竜のそばに何やらステータスのようなものが表示されている。
ジュルン LV32
HP 2624/2928
MP 59/ 123
AP 29/ 100
なんかこういう表示を見ると現実世界でやってたゲームを思い出すなあ。
HPとかMPとかはなじみ深い。
でもAPって何だろう?
『APっていうのはアクティブポイントの略だ。このゲームをやっている奴らには腹減りポイントとも言われているな』
『これが0になるとどうなるの?』
『飢餓状態、つまりゲームオーバーになって強制的にゲームが終了するな』
『えっ!? そんな値なんてあるんだ……だったらAPってどうやって回復したらいいの?』
『ゲームの中に食べ物があるから、それを食べればいいだけだ』
『なんだ、結構簡単なんだね』
『確かに回復の仕方は分かりやすいかもしれない。だが、食べ物がなかなか見つからないときもあるから油断はできないぞ』
『そういうものなんだ……』
僕は再び”天空覇竜決戦”の中継映像に目を向ける。
ジュルンという人は剣や魔法を使って相手の天竜と戦っている。
うん、なんかゲームっぽいよね。
それから映像をしばらく眺めていると、時間があっという間に過ぎていった。
「バルグ様、お時間でございますよ」
突然後ろから執事のシュルドが声をかけてきた。
「もうそんな時間なのか?」
「はい、そうですとも。やはり私が様子を見に来て正解だったようですね。来なかったらどうなっていたことやら……」
こうしてシュルドに連れられる形でバルグは城に戻ることになった。




