64.VS執事シュルド
ここがバルグから聞いた例の火山か。
バルグが以前来たときには、怒った火竜からひたすら逃げたらしいんだよね。
その火竜と今回は真っ向から挑まないといけないなんて気が重いなぁ。
『火竜は確かに強い。だが一対一なら負けることはないだろう。そんなに心配することないさ』
『でも力づくだと、火竜との対立が決定的になっちゃうよね。なんとかして話し合いに応じてくれたりしないかな?』
『そうなれば理想だが、恐らく話すら聞いてくれないだろうな……。大事な卵を壊しちまったからな』
話し合いすらできない……か。
確かによく考えれば、自分の子供を殺した相手に対して冷静でいられるはずがないだろう。
本当にエルン、大変な事をしてくれたよな。
でも過ぎたことに文句言っても仕方ない。
『可能な限り話し合いを試みる。だめだったら戦いを挑むという形にするのがいいかな?』
『ああ、それでいいんじゃないか?』
とりあえず方針は決まった。
話し合いは絶望的かもしれないけど、なんとかできるだけ頑張ってみよう。
僕はそう決意し、火山の頂上に向かって登っていく。
しばらく山を登っていくと、平らで開けた所に出た。
赤く輝く石があちこちに点在している。
『ここに来ると、深紅の宝石を取りに来たときを思い出すな』
『深紅の宝石は確か、僕を転生させる儀式に必要な物だったんだっけ?』
『ああ。あのときは本当に辛かった。レンが無事で本当に良かった……』
僕にとって、エナがいなくなったら後悔するように、バルグにとっての僕もいなくなってしまったらバルグを悲しませることになるんだろうな。
その強い結びつきが仲間というものなのかもしれない。
互いが互いを必要として助け合っていける関係っていいなあ。
『それより、この奥にいけば火竜の住処にたどり着くが、心の準備はいいか?』
『うん、大丈夫だよ。行こう』
僕は気を引き締めて、さらに先へ進んでいった。
すると不自然に盛り上がった大地が見えた。
この辺りは山頂付近で平らなのに、そこだけドーム状に地面が盛り上がっているのだ。
『あそこだけ明らかにおかしいよね?』
『そうだな。俺も初めて見たが、あそこが恐らく火竜の住処なんだろう』
『エルンってこの中に入っていったのかな?』
『俺も直接見た訳じゃないから、分からないが、多分そうなんだろうな』
『エルン、本当に火竜の住処って気づかなかったのかな? 明らかに不自然な所だから分かりそうな物だけど……』
『何かそう言われると、何かワザと侵入したように思えてくるな……』
エルンって研究熱心だから、研究材料になるものがあると思ってワザと侵入した可能性は否定できないよな。
もしそうなのだとしたら身の危険を省みずに材料を追い求めるとか、どれだけ研究熱心なんだろう?
まあ、ただ興味本位で中に入っただけかもしれないし、考えすぎかもしれないな。
一通り落ち着いてから、僕は入口らしき大きな横穴からドーム状の物の中へと入っていった。
ドームの中は外よりもさらに熱気を帯びていた。
バルグの冷却魔法で暑さを軽減しているにも関わらず、汗ばむほどの暑さだ。
火竜ってこんな場所でよく生きていられるなぁ。
それよりも気になるのは、どこにも火竜の姿は見当たらないことだ。
オーラの気配もしないからここにいないことは間違いないだろう。
どこかに出かけているんだろうか?
でもそれはこちらにとって都合がいい。
だってもし火竜の紅鱗が落ちているのを拾えれば、火竜と戦わないで済むんだから。
僕はしばらく中を探った。
中には卵の破片や鱗が落ちている。
このいっぱい落ちている鱗ってもしかして火竜の紅鱗だったりしないかな?
『いや、それは違うぞ。火竜の紅鱗はもう少し光沢があるんだ』
『光沢? でもどこにもそんな物は……』
そう思って周囲を見渡すと、ふと赤く輝く物を発見した。
『もしかして、あれが火竜の紅鱗?』
『あの光沢、間違いないだろうな』
どうやらあれが火竜の紅鱗のようだ。
僕は早速火竜の紅鱗の所へ近づく。
火竜の紅鱗はドームの壁に突き刺さっているみたいなので、僕は思いっきり引っ張る。
しかしなかなか抜けない。
『これ、どうなっているの? 全然抜けないんだけど……』
『完全に壁にめりこんでしまっているな。取り出すのはだいぶ骨が折れそうだ』
抜くのは大変だけど、諦める訳にはいかない。
僕は鱗の周囲に魔法を放って壁を削っては鱗を引っ張ることを繰り返す。
するとついに火竜の紅鱗を引き抜くことができた!
『やった! やっと鱗を引き抜くことができたよ!』
『レン、危ない、後ろ!?』
え?
そう思って後ろを振り返ると目の前に巨大な火の塊が迫っていた!
僕はとっさに防御魔法を唱えてシールドを張るが、すぐに破壊されてしまった。
そして火の塊は僕の体に直撃する。
火の塊の勢いに押され、僕は壁に体をたたきつけられた。
でも、見た目の威力に比べて体の損傷はほとんど無いに等しかった。
ちょっと熱さや痛みを感じはしたが、傷らしい傷は一つもついていない。
『傷がつかないなんて驚いたな……』
『今の天竜の体はそれだけ頑丈だということだ。それより、また攻撃がくるぞ!』
目の前にはさらなる追撃を繰り出そうとしている怒り狂った様子の火竜がいた。
やっぱり話は聞いてくれそうにないよなぁ。
一応話しかけてみることにする。
「あの、火竜さん、戦いを止めてちょっと話しませんか?」
グワァー!!!
火竜は攻撃の態勢を崩さず、そのまま僕にめがけて炎のブレスを吐いた。
僕はしっかりとブレスをシールドで防ぎきる。
しっかりと集中すればシールドを張るだけで火竜の攻撃を防ぐことはできそうだ。
迫力ある火竜を最初は恐れたが、多分僕の脅威にはならないと思う。
でもだからといって簡単に逃がしてくれそうにもないのが厄介だな。
バルグが最初に火竜と出会ったときは火山の外まで追いかけてきたっていうからね。
普通に逃げようとしてもずっと追いかけられることになりそう。
どうすればいいんだろうか……
『レン、どうしてこんな簡単なことで悩んでいるんだ?』
『簡単なことって……バルグには打開する策があるの?』
『ああ。火竜から逃げ切ろうとするんだったら、エナとの絆魔法を使えばいい』
『そっか。エナとの絆魔法『時魔法』を使って自分の動きを加速させれば……』
『火竜が目の届かない距離を稼ぐことができるはずだ』
確かにオーラを感じ取れないであろう火竜に対しては、一回、目の届かない所まで移動することができれば諦めてくれる可能性はあるな。
実は火竜もオーラを感じ取れて追いつかれてしまうなんて事態になったら、諦めて火竜を攻撃することにしよう。
とりあえずやることは決まった。
まずは時魔法を発動させよう。
確か時魔法のコツは、時間と対象者を意識するんだったな。
時間については加速、対象者は僕自身を意識してみる。
すると、何やら一瞬視界が歪んだ。
そして、それからは火竜がだいぶゆっくりと移動しているように見えた。
これは、時魔法が発動しているということだろうか?
『ああ、時魔法は発動しているみたいだ。だが、そう長くは持たない。急いでここから脱出するぞ!』
僕は急いで火竜の住処の出口へと向かう。
火竜は出口を塞ごうと動き始めたようだが、あまりに動きが遅いので全く問題にならなかった。
僕は火竜の住処から脱出した後も油断することなく、飛んで下山することにした。
僕は時魔法を使って飛ぶことで火竜から距離をとることに成功した。
だがその反動か、次第に体から力が抜けていくのを感じる。
おそらく膨大な魔力が消費されているんだろう。
『レン、そろそろ時魔法を解除してもいいんじゃないか? 余計な魔力消費はさけた方がいい』
『そうだね。そうしようか』
火山の山頂からだいぶ離れたし、火竜に見つかることもないだろう。
僕は時魔法を解除する。
すると体がだいぶ軽くなって楽になったように感じた。
時魔法を使い始めたときは気づかなかったが、これほど体に負担がかかっていたとは驚きだな……
魔法を解いた僕は、のんびりと空を飛ぶ。
その間に火竜の紅鱗をエルンからもらった袋に入れておいた。
これで本当に火竜の紅鱗はエルンの元に届いたのだろうか?
まあ、心配しても仕方がないかな。
「天空束縛」
考え事をしていると、急にどこからか声が聞こえてきた。
『まずい! レン、ちょっと我慢してくれ!』
バルグにそう念話で言われると同時に、天竜の体が急に体の向きを変え、地面に向かって急降下し始めた!?
一体バルグ何を考えて……
だが、バルグへの文句を言っている場合ではなかった。
突然後方から大きな音が聞こえてきたのだ。
そしてその音は徐々に僕の方へと近づいてきている。
ちらっと後方を見ると、そこには複数の光の鎖が互いにぶつかってガシャガシャいいながら僕に迫ってくるのが見えた。
何だろう、あの鎖、嫌な予感がする……
『ああ、その予感は正しいぞ。あの鎖に捕まったらしばらく身動きがとれなくなってしまうだろう』
『動きを封じる魔法って……まさか!?』
『そうだ、おそらく天竜だろう。そしてあんな高度な魔法を使えるのは執事シュルド位なものだ』
バルグはそう言うと急に移動を止め、その場で滞空をし始める。
するとバルグを追っていた鎖があと数cmという所まで来たら、壊れて消滅してしまった。
『鎖の拘束魔法はかなり高度で優秀なものだ。だが長さの制限があるから相手が鎖を使い切るまで逃げ切ればどうということはない』
なるほど、魔法の鎖は魔法で作成されたものとはいえ、実際の鎖のように長さに制限がつくのか。
確かに魔力は無限ではないし、そう考えると理屈は分かる。
でもだからといってこんなあと数cmの所で回避しきるなんてよくできるな……
「さすがバルグ様、全てお見通しという訳ですか」
僕達を追っていた天竜もバルグと同様に移動を止め、バルグのすぐ近くで滞空する。
「やはり、お前だったか、シュルド。地竜の相手はどうした?」
「地竜との戦いは兵士達に任せていますよ。私は戦いが本分ではありませんから」
目の前の天竜、シュルドはそう言うとにっこりと微笑む。
シュルドの発言によれば、どうやら地竜と天竜は戦っているらしい。
だけどどうしてシュルドがこんな所にいるんだ?
地竜にはジールダースという規格外の強さを誇る人がいるからそんな簡単に負けないと思うのだが……
『シュルドは様々な魔法に長けている。恐らくジールダースの目を欺いて戦い自体を避けてここまで来たんだろう』
『幻術でも使ったということ?』
『それは分からない。でも単なる幻術位じゃジールダースに通用しないだろうから、もっと色々な術を使ったんだろう』
ジールダースすら欺く力の持ち主……かなり厄介な相手であることは間違いなさそうだな。
「バルグ様、大人しく捕まっていただけませんか? もう十分休暇は満喫したでしょう? お仕事が山積みですよ」
「げっ……そ、それなら尚更捕まる訳にはいかないな! あんな国に閉じ込められるなんてもうまっぴらだ!」
「わがまま言わないで下さいよ。せっかくバルグ様がいらっしゃらないことをしばらく黙って、その間は私が仕事を肩代わりしていたのですから」
やっぱりバルグがいないことはとっくにバレていたのか。
それでもしばらく天竜がバルグの捜索に来なかったのはシュルドが隠していたからなんだね。
「俺がいなくたって、そのままシュルドが仕事をしていればいいだろ!」
「そんな訳にはまいりません。仕事できるできないではなく、バルグ様がいらっしゃらないことが問題なのです。ご両親も心配されてますよ」
「そんなの、知ったことか」
「いい加減にしてくださいよ、バルグ様。さもないと……」
シュルドは何やら呪文を唱え始めた。
『レン、逃げるぞ! このままここにいてはシュルドに……』
「強引につれていきますからね! 天空束縛」
バルグがとっさの判断で距離をとったことでシュルドの技をギリギリかわすことができたのだが……
「それも想定済みです。空間操作」
シュルドの言葉を聞いた次の瞬間、僕は天空束縛の鎖に取り囲まれていた。
そして為す術なく鎖によって体を拘束されてしまう。
「くそっ! 空間操作の魔法なんてずるいぞ!」
「こうでもしないとバルグ様を捕えることはできませんから」
空間操作の魔法だって!?
そんな魔法を使われたら、どんなに早く逃げようとしても一瞬のうちに捕われてしまうじゃないか!?
空間操作ができるのであれば、ジールダースに気づかれずに地竜の洞窟を突破することも可能だろうな……
いや、それよりも今の状況をなんとかしないと……
このままじゃ天空竜国にバルグと一緒に連れて行かれちゃうじゃないか!
バルグは仕方ないにしても僕まで行く必要はないはずだ!
『レン、今さらそんなこと言うのはひどいぞ』
『そうは言っても僕は天竜じゃないんだから行く必要はないはずだよ!?』
『それはそうかもしれないが、この状況じゃどうしようもないだろ。諦めるんだ』
『えっ、どうしてそんな簡単に諦めちゃうの!? さっきまで全然諦めていなかったのに!?』
『やるべきことはやった。だからもう捕まっても問題ないだろう。それに捕まるのは時間の問題だったんだから、仕方ないことだ』
確かに必要な材料はエルンに送ったし、やるべきことはやったかもしれないけど……
でもだからといって捕まるのは嫌だよ!
なんとかしてここから抜け出してやる!
そうだ、バルグとの天竜化を解けば……
僕は天竜化を解こうとする。
しかし、全く体に変化が起きない。
一体どういうことなんだろうか?
『ああ、この鎖は捕えた者の状態を保存する力があってな。天竜化した状態も保持されるのさ』
『それって、鎖を壊さないと天竜化が解けないっていうこと!?』
『そういうことになるな』
何ていうことだ。
天竜化を解くことができないなんて事態が起きてしまうなんて……
とにかく、すぐに鎖を破壊しなくては。
とは言っても手足は拘束されて動かせないので、僕は口から魔法を発射しようとしたのだが……
「させませんよ。強制睡眠」
あまりにも突然だったので僕は対応できず、シュルドの呪文が僕に直撃してしまった。
そしてその瞬間から強烈な睡魔に襲われてしまう。
「ここで寝てしまったら駄目だ! なんとか……しない、と……」
必死で抗おうとしたものの、結局僕は睡魔には勝てなかった。
こうしてシュルドに捕まったまま、僕は深い眠りに落ちてしまった。




