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異世界で魔物生活  作者: はちみやなつき
第五章 天空竜国という名の牢獄
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63.天竜の追手の脅威

 排水溝を突破すると水の流れが急に速くなった。

 小さい体のままでは為す術なく流されてしまいそうだ。

 流されない為に排水溝の金属の棒にしがみつつ、僕は魔法を使って体の大きさを元に戻す。

 バルグが魔法をかけることによって他のみんなも体の大きさを元に戻った。


 体の大きさを元に戻した僕達は、川を泳いで陸にあがろうとする。

 だがその直前に強烈なオーラを感じ取る。



「待って! 何か嫌な予感がする……」

「どうした急に?」

「今まで気づけなかったけど、もしかしたら僕達、天竜に囲まれているのかもしれない」



 脱出することに必死になりすぎていて、周りが見えていなかったみたいだ。

 でもまだ幸い天竜にはこちらの姿を見られてはいないだろう。

 ギリギリ間に合ったようで良かった。

 これで位置を特定されるまでに少しは時間を稼げそうだ。

 

 それにしても、せっかく秘密裏に脱出しようとしてもこんなあっさり待ち伏せされてしまうなんて、だいぶ辛いよなぁ……

 相手にオーラを感じ取れる人がいるということは思っていた以上に厄介な事だと痛感する。



「そうか、やはりシュルドがいるのは間違いなさそうだな。あいつがいればこんな迅速な対応をされてもおかしくはないだろう」

「どうする、バルグ? このまま陸にあがると間違いなく天竜にすぐにみつかることになると思うけど……」

「だが、ここで待っていても相手に位置を特定されるのは時間の問題だろうな……」


 うん、それは分かっている。

 まさに八方塞がりな状況って訳だよなぁ。

 ここで待ってもダメ、陸にあがってもダメ。

 下水道に戻るという手もあるかもしれないが、外に出られないことは変わらないので、見つかるまで待つことなってジリ貧である。

 一体どうすればいいんだろう?



「ここは強硬手段に出るしかないな」

「強硬手段って……外に出て天竜に見つかった上で逃げるということ?」

「そうだ。外に出る為には天竜に見つかることは避けられないだろう。だが、それでもなんとかする」

「なんとかするって言っても一体どうやって?」

「俺に考えがある。その考えを実行するにはみんなの協力が必要なんだ。大変だろうが、引き受けてくれるか?」



 僕達はすぐにうなづき、バルグから作戦を聞いた。


 バルグの作戦というのは、簡単に言えば、手分けして材料を集めるということだ。

 黄金のハスはエルン、碧の粘土はリザース、火竜の紅鱗は僕とバルグで集める。

 とは言っても、この状況じゃ材料集めどころではないだろう。

 そこでバルグがまず陸にあがり、天竜の注意をひく。

 天竜がこの場からいなくなった所でエルンとリザースは川からあがり、材料探しへと向かう。

 バルグは天竜を振り切った上で火山へ向かい、火竜の紅鱗を入手するということだった。

 あれっ、僕は何もしなくていいの?



「バルグ、僕はやることないの?」

「いや、そのことについてなんだが……レンはシルピィと精神交換して俺と一緒に火竜の紅鱗の入手をしてもらいたい」

「でもシルピィが嫌がっているんじゃなかったっけ?」

「そうだな。でもこんな状況だし、そうするしかない。ちょっと説得してくるから待っててくれ」



 そう言ったバルグは僕達から少し離れて何やらブツブツと言い出した。

 何かすごい言い合いになっているようだが大丈夫だろうか?

 しばらくするとバルグは僕達の方に戻ってきた。



「納得してもらった。それじゃあレン、そのままじっとしていてくれ」



 そう言ったバルグと僕は向かい合う。

 するとバルグの手から放たれた光が僕の体に命中する。

 一瞬気を失い、僕が再び意識を取り戻したときには目の前に霊竜の姿があった。

 それはつまり、精神交換が成功したということだろう。



「ピィー!」



 目の前の霊竜がそう鳴いている。

 この鳴き声を聞くのもずいぶんと久しぶりな気がするなぁ。



「シルピィ、エルンとリザースが陸にあがるときに変身魔法を解いてほしい。できるな?」

「ピィ!」

「変身魔法を解いてからはお前の好きにしていいぞ。どこへ行くのも自由だ」

「ピィッピィッ」

「何!? 俺達の手伝いをしてくれるのか!?」

「ピィ!」

「そうか、それは心強い。頼りにしているぞ、シルピィ」

「ピィ!」



 バルグにはシルピィが言っていることが分かるのか。

 僕にはさっぱり分からないんだけど……

 バルグの言葉から察するに、どうやらシルピィはバルグの作戦を手伝ってくれるらしい。

 それはありがたい事だね。



「バルきゅん、ピィちゃんの言葉分かるなんてすごいね~」

「ん、ああ。ここまでずっと一緒にいたら誰でも嫌でも分かるようになるさ」

「ピィピィ!!」

「あ、すまん、悪かった! お前と一緒にいたときは色々楽しかったぞ」

「ピィー」



 バルグ、つい本音が出てしまったようだな……

 シルピィと一緒になってからのバルグは見るからにやつれていたから相当苦労していただろうし。



「あ、そういえばバルきゅん、これを持っていくといいよ~」

「ん? なんだこれは?」

「今はただの袋なんだけど、ボクとの絆魔法が発揮されたときに時空を越えて物体の移動を可能にする魔法の袋になるんだ~」

「そ、そんなものあるのか……すごいものだな」

「ふふ~ん、何せボクの自信作だからね~」



 時空を越えて物体の移動を可能にするなんて、一体どういう仕組みをしているんだ……

 絆魔法という強力な魔法を組み込んでいるからこそ可能になることなんだろうけど。



「ボクもその袋を持っているから、バルきゅんが袋に素材を入れてくれればボクはその素材を取り出すことできるよ~」

「そうか。ということは、火竜の紅鱗をエルンに直接渡す必要はないということか」

「そういう事だね~でも必ず無事に帰ってくるんだよ~」

「ああ、努力する」



 バルグの言葉を聞いたエルンは少し安心したような様子だった。

 だけど比較的自信を持ってるバルグが帰ると断言していないことから、帰るのは相当厳しいように感じられた。

 天竜の大群を振り切った上で火竜の紅鱗を入手するだけでも相当困難なことだもんな……



「では作戦を決行する! みんな無理はしすぎるなよ!」

「バルグさんこそ、気を付けて!」

「絶対またみんなで集まろうね~」

「ピィ!」



 バルグはそう言うと、川を出て天竜のいる地へと向かっていった。


 川から出たバルグは辺りを見渡す。

 すると遠目にではあるが天竜の姿がちらほらと見える。

 まだこちらに気づいてはいないようだが、時間の問題だろう。



『天竜化して一気に火山へ向かうが、いいか?』

『うん、任せるよ』



 飛んだり戦闘したりするのはバルグの方が得意だろうから、任せてしまった方がいいだろう。

 僕は意識を集中させる。

 すると体は変化し、天竜の姿へと変貌した。

 

 天竜の姿になった途端に周りの天竜がこちらに気づいてしまった。

 天竜独特のオーラのようなものが放たれた影響なのかもしれない……

 天竜はこちら目がけて物凄い勢いで飛んでくる。



『ここから勝負だ、いくぞ!』



 バルグは上空に浮かびあがると猛スピードで飛んで移動をし始めた。

 しかし、追いかけてくる天竜との距離は徐々に縮まってきている。



『だんだん追いつかれているみたいだよ!』

『くっ、久しぶりにこの姿で飛ぶからか、腕が鈍ったのかもしれないな……』



 やがて、追いかけてくる数十匹の天竜の口から火のエネルギー反応が感じられる。

 これは、攻撃しようとしているってことじゃないか!?



『攻撃だと!? くっ、冗談じゃないぞ!』



 それから少しすると、ついに天竜の数匹から火の玉が発射された。

 しかし、バルグは難なくそれを避け切る。

 さすがの飛行技術だ。

 だが、その追撃となる攻撃はその比ではないほどのエネルギー反応を感じる。

 しかも今度は天竜全員でバルグに攻撃を放たれようとしているみたいなので、バルグとはいえども次の攻撃は避けられそうになさそうだ。

 でもその強力な攻撃はある意味チャンスかもしれない。




『ぐっ、次の攻撃はさすがに避けられそうにないな』

『そうだね。でもこれはチャンスだよ』

『チャンス?』

『うん。バルグは天竜の攻撃に対して爆発を誘発させる攻撃を放ってほしいんだ』

『それは目くらましの為か? 爆発させるのはいいが、それじゃ俺達も無事では済まないぞ?』

『大丈夫。僕がその攻撃を防ぎきってみせるから』



 僕は飛んだり、攻撃をすることは苦手だ。

 でも攻撃を受けないようにすることだけはできる。



『そうか、任せたぞ』



 バルグは僕を信用してくれたみたいだ。

 後はその時を待つのみ。


 そしてついに一人の天竜が何かを叫んだのと同時に、バルグに向かって一斉に攻撃が放たれた!



「来たな! それじゃいくぞ! 接触爆液コンタクトリクイドボム!」



 バルグは後方に液体をばらまいた。

 そしてその液体と天竜の攻撃が触れた瞬間、強烈な熱波、衝撃を伴った爆発が発生した。



虚構事実化フィクションファクト!』



 僕はすかさず霊竜の秘術を自分の近くの範囲に限定して使用する。

 この技は攻撃をなかったことにする技なので、全体に適用してしまうと、せっかく起こした爆発がなくなってしまうので意味なくなってしまう。

 そのため、自分の近くにだけ技を適用し、自分だけ爆発の影響を受けないようにしようとした。

 しかし、この判断は甘かったようだ。


 虚構事実化は確かに機能し、僕が思い描いていた範囲の爆発をなくすことができた。

 しかし、その範囲外の爆発が虚構事実化の効果が切れると同時に僕達を猛烈な勢いで襲い始めたのだ!



『嘘!? こんなことって!?』

『くっ、まずい! 絶対障壁アブソリュートバリア!』



 バルグはとっさに防御魔法を放つ。

 だが、無理やり作り出したその魔法の強度では爆発を防ぎきることはできなかった。


 爆発の衝撃を受けたバルグは為す術なく地面へと落ちていった……







 気が付くと僕は洞窟の中にいた。

 周りを見渡すと、地竜の姿が見えたので、どうやら地竜の洞窟の中にいるようだ。

 でも一体どうやってここまで来たんだろうか?



「バルグ、大丈夫?」



 すぐ近くから声が聞こえる。

 その声がする方を振り向くと、そこにはエナの姿があった。



「うん、大丈夫だよ、エナ。それよりどうしてここに?」

「その口調はレン……間違えてごめん。レンは私がここまで連れてきた」

「エナが連れてきたって……でもどうやって?」



 今の僕は10m以上はあるだろう天竜の姿をしている。

 当然その大きさに見合った重さはあるはずなので、エナ一人で移動させられるとは思えないのだ。



「ジルに手伝ってもらったの」

「ジル……そうか。ジルならなんとか僕を運べそうだもんね」



 ジルは僕の体よりもだいぶ体は小さいが、とても頑丈そうで力がありそうなので、僕を運ぶことも可能だと思うのだ。



「エナさん、バルグさんの様子はどうッスかー?」



 話をしていると、ジルの声が聞こえてきた。


 

「目が覚めた」

「本当ッスか!? あっ、本当ッスね! 本当に良かったッス!」

「ジル、本当って言い過ぎ」

「あっ、本当にすまないッス! あっ、言っちゃった……それよりバルグさんが無事で安心したッス」

「ジル、今はレンだよ」

「おっ、元に戻ったんスね? それは良かったッス」



 エナがこんなにしゃべるのを見るのはなんだか新鮮だな。

 結構無口な印象があったらかもしれない。

 少しずつだけど、エナもみんなの中に溶け込めてきているんだろうね。



「それよりどうしてレンさんはあんな所に倒れていたんスか? レンさんほどになれば、ほとんどの魔物は相手にすらならないと思うんスけど」

「ああ、それはね……」



 僕はこれまでの経緯をエナとジルに話した。

 するとエナは納得した様子になり、ジルはなんだかワクワクしたような感じになっていた。



「私が見た未来、レンが天竜に追われているのはそういう意味ね」

「天竜に追われているってことは天竜がここに来るって事ッスね! なんか久々の戦いに胸が高鳴るッス!」



 エナは未来視で僕とバルグの様子を把握していたらしい。

 だからこそ助けに来てくれたんだろう、きっと。

 それよりジル、どうしてそんなに嬉しそうなんだ……

 相手はあの強力な天竜だというのに……



「こうしてはいられないッス! オレは親父にこのことを伝えてくるッス! 天竜を迎え撃つッスよー!」



 そう言うとジルは洞窟の奥の方へと消えていってしまった。



「ジル、どうしてあんなに嬉しそうなんだろう?」

「私も、分からない」



 そりゃ、エナも分からないよなぁ。

 多分ジルはバルグと同じく戦闘が好きな部類の人なんだろう。

 この世界の竜って、なんだかそういう傾向にある気がする。

 

 それより、ジルの言う通り、地竜が天竜と戦うことになってしまったら、エナが危なくないか?



「エナ、ここにいると危険かもしれない。地竜と天竜の戦いに巻き込まれちゃうかも」

「大丈夫。私には未来視もあるし、時間魔法もあるから逃げ切れる」

「でもどうしても避けきれない場面だってあるかもしれない。そんなことになったら……」

「そんなに私のことが心配?」

「うん、だってエナにもしものことがあったら……」



 エナの体は恐らく人間と同程度か、それよりも虚弱なものだと思う。

 魔力は比較的強めではあるが、天竜や地竜に比べると微々たるものでしかないだろう。

 そうなると、いくらエナが回避に特化した能力を持っていても限界があるように感じるのだ。

 その限界の為にエナが命を落とすようなことになったら、この場に巻き込んだことを必ず後悔するだろう。



「そう。なら、レンが私を守って」

「うん、そうしたいんだけど、ずっとそばにいられる訳じゃないから……」

「そばにいなくても私達は絆でつながってる。間違ってる?」

「それは、そうかもしれないけど……」



 僕達はフィナの精霊によっていつでも連絡が取り合えるし、危険が迫ったら助け合う関係にあるとは思う。

 でもその関係性だけでは、本当に危険な時にエナを守りきれる気がしないのだ。



『それなら、レンがエナに絆魔法を与えればいいんじゃないか?』



 えっ、絆魔法を与えることなんてできるの?

 でもどうやって?



『なに、そんなに難しいことじゃない。レンが与えたい能力とエナについて思い浮かべればいいだけだ』



 僕が絆魔法をもらったときには対象者を思い浮かべる必要があった。

 バルグのときは無心でいいって言われていたけど、それは例外なのかな?

 まあ、そのことについてはおいておこう。

 とりあえず、絆魔法を与えるには、対象者に加えて与えたい能力も思い浮かべる必要があるということか。

 言葉ではそんなに難しいことじゃないように聞こえるが、実際はどうなんだろうか?

 とりあえずやってみようか。



「エナ、僕がエナに絆魔法をあげる。その力でエナを守りたい」

「うん、分かった。何をすればいい?」

「エナは僕のことを意識していてほしい」

「分かった、やってみる」



 僕は自分の中に溢れ出る魔力とエナについて考えてみた。

 すると、目の前のエナの体が光は放ち始めた!

 しばらくするとその光は消えたが、果たして絆魔法は成功したんだろうか?



「エナ、何か体に変化はあった?」

「うん、体から魔力があふれ出てくる。これがレンの力……」



 どうやら絆魔法を与えることに成功したようだった。

 エナに天竜の魔力を与えることができたのならば、もし何かあってもエナ自身の魔力で危機を乗り越えることができるだろう。

 これでエナの心配をしなくても良さそうだ。



「レン、実は私もレンに絆魔法あげてみた」



 え?

 いつの間にエナから絆魔法をもらっていたの?

 その割には体に変化はないようだけど……



「時間と対象者を意識する。そうすると私の絆魔法『時魔法』が発動する」

「そうなんだ……ありがとう。助かるよ」



 時を操る魔法か……

 なんか大それた魔法をもらってしまったものだな。

 これを使えば天竜から逃げ切ることも可能なんじゃないか?



『時魔法は魔力消費が大きいから、いくら俺達の魔力量があるからといって、そう多用できるものじゃないぞ』

『そういうものなの?』

『ああ。それに時魔法は才能に左右される魔法だから、俺達が時魔法を使うときは、適正のあるエナが使うよりも多くの魔力を消費することになるだろうな』



 適正か……

 いまいち僕には何に適正があって、何に適正がないかはよく分からないなぁ。

 そもそもこの世界に来るまでは魔法自体の適正にも気づかなかった訳だし。

 でもこうして問題なく魔法を使えているから、それなりの魔法への適正はあるということだよね。



『それより、早い所、火竜の紅鱗を手に入れた方がいいだろう。もたもたしているのはもったいない』

『そうだね。そうしようか』



 ちょっとのんびりし過ぎてしまったかな。

 でもいい休息ができて良かった。



「それじゃ、僕はそろそろ行くよ。ありがとね、エナ」

「私もついていく」

「エナの力は十分強いのは分かるんだけど、ここから先は一人で行きたいんだ。ごめん……」

「……そう、分かった。気を付けて」

「ありがとう。エナも気を付けてね」



 エナの申し出を断るのは気がひけたが、ここから先はエナを巻き込みたくない。

 火竜との戦いもそうだが、その後にあるであろう、天竜との戦いが非常に厄介なのだ。

 天竜との戦いにエナが加担したとなれば、エナが天竜と敵対する関係と勘違いされてしまうだろう。

 そうなると、エナが天竜にどんな扱いを受けてしまうか想像したくない。

 だからエナがどんなに強力な力を持っていようと、巻き込みたくないのだ。

 

 そういえば今の僕とバルグって天竜と敵対する関係になっているよね。

 捕まってしまったら、何か処罰でもされてしまうんだろうか……

 想像しただけで恐ろしい。

 いや、捕まらなければいい話だよね、うん。

 色々と考えつつも、僕は気を引き締めて、火山の方へ向かった。

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