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異世界で魔物生活  作者: はちみやなつき
第五章 天空竜国という名の牢獄
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62.天竜の包囲網

 目の前の天竜は僕達を見下ろしている。

 間近で見るとますます威圧感を感じられるな……

 その強烈なオーラに圧倒されそうになってしまう。

 えっと、天竜は何て言ってたんだっけ?



「聞こえなかったのか? この天竜の姿に見覚えはないか?」



 天竜はそう言うと、一つの紙を僕達の目の前に突き出してきた。

 その紙はバルグらしき天竜が写っていた。

 今のバルグよりも若干幼そうではあるが、間違いないだろう。

 だけど知っているなんて言ったら一巻の終わりなので、もちろん知らないふりをしないといけないな。



「そうですね……天竜の姿を直接見たのはあなたが初めてです。あなたの写真じゃないんですか?」

「と、とんでもない! 私なんかを王子と見間違えるなんて失礼だぞ!」

「す、すいません……」



 どうやらバルグはそれなりに尊敬されているようだ。

 でもこの天竜はその王子を捕まえようとしているんだよなぁ。


 

「その様子だと王子の事を知らないようだな」



 うん、知らないんですよ。

 だから早くどこかへ行って、ね?



「だけどお前達、何か妙だな。違和感がある……」



 え、どこが妙なの?

 僕達どこもおかしくないよ?


 

「お前達はどうしてここにいるんだ?」

「どうしてって……研究の為に決まっているじゃないですか」

「そうなのか。では何の研究してるのか?」



 何の研究って言われても……

 困った僕はエルンに目配せをする。

 ここは本職のエルンさんに頼むしかないでしょ、うん。

 幸いにもエルンは僕の行動に気づいたようで、僕にウインクを返してきた。

 ここは任せたよ、エルン!



「それはね~癒しの効果に関する研究をしているんだよ~ほら、この辺りで採れる葉は毒を浄化する作用があるんだ~」



 エルンの言葉を聞いた天竜は変な顔をしていた。

 なんかエルンまずいこと言っちゃったのかな?



「そうか、なるほどな。賢猿族は研究の為に各地に移動すると聞いている。お前達もそのために移動しているんだろう。分かった、もう行っていいぞ」



 どうやら変な発言はしていなかったようだ。

 天竜の偉そうな態度に少し不満を感じたが、せっかくくれた機会を無駄にする訳にいかないので、とりあえずその場を後にすることにした。


 こうしてなんとか天竜からの問いを乗り切ることができたのだった。



「なんとかなって良かったね。緊張しすぎておかしくなりそうだったよ」



 エプール村のエルンの家についた僕は思わずそう言葉をもらす。

 天竜に遭遇してからは特に何事もなくエプール村に到着することができたので良かった。

 あんな緊張する場面が連続したらどうにかなっちゃうよね。



「天竜があんなに大きいとは思わなかったな」

「バルグがそんなこと言うなんて意外だね。故郷でいつも見てきたんじゃないの?」

「恐らく賢猿族に変身していたからだろうな。ヴェルナーダでは俺も天竜の姿だったから、天竜を見上げることなんてなかった」



 なるほどね。

 自分の体が大きいとき、その自分と同じ位の相手を大きいとは認識しないだろうな。

 バルグの言う事は一理ある。



「どうしてそんなに驚いてるの~? あの天竜はバルきゅんよりもちょっと小さそうだったよ~?」



 え、そうなの?

 そっか、自分じゃ体の大きさなんて正確には分からないよね。

 天竜のバルグを僕が外から見ることなんてできないからなぁ。


 

「そういえば飛行船の設計図ってエプール村にあるって言ってたけど、どこにあるの?」

「う~んとね、ボクが所属する研究室に確かあったはずだよ~今から取ってくるね~みんなはここで待ってていいよ~」



 そう言ったエルンは外に出て行った。

 エルンの家にあるのかと若干期待したけれど、さすがにそれはなかったな。

 でも研究室にあるんだったら、取りに行くまでにさほど時間はかからないだろう。

 ここで適当に時間でもつぶそうかな。



「バルグはあの天竜が誰か知っていたりするの?」

「いや、知らないな。恐らく兵士のうちの一人だろうが……」



 どうやらバルグの知り合いではなかったらしい。

 でも変に知り合いだったよりかはマシだろうな。

 だってバルグの事をよく知る人物だったら、正確や癖から見破られちゃうかもしれないからね。



「俺が天竜で知っているのは家族と執事位だからまず知り合いが地上に来ることはないだろう」

「そういうものなの?」

「ああ。家族や執事は国務で忙しいだろうからな。わざわざ地上に来るのは末端の兵士位だろう」



 末端の兵士しか来ないのか。

 それは朗報かもしれない。

 だってバルグをよく知る人物が地上に来ない訳だから、時間稼ぎはしやすくなるということなのだから。

 でも末端の兵士でさえあの迫力を持っているんだよなぁ。

 精鋭部隊だとどうなっちゃうのか考えただけでも恐ろしい。

 戦いになってしまったら敵いそうにないので、天竜に気づかれないように慎重に行動することが欠かせないだろうな。



「みんなおまたせ~設計図持ってきたよ~」



 エルンが帰ってきた。

 やっぱりそんなに時間かからなかったね。


 エルンが床に設計図を広げたので、僕達はそれの周りに集まって設計図をのぞきこむ。



「ふ~ん、こんな感じになっているんだ~ボクも初めて見たけどなかなか興味深いな~」



 設計図には何やら細かく文字が書かれているけど専門用語みたいのが羅列されているからよく分からない。

 そもそも細かくびっしりと文字が書かれているから、読む気にもなれないんだけど。



「エルン、設計図の内容分かりそう?」

「なんとか分かりそうだよ~でもちょっと時間かかるかな~分かるまでもうちょっと待っててね~」


 

 エルンは設計図の内容を理解できるようだ。

 良かった……分からなかったらどうしようかと思ったよ。

 僕には手を出せない領域だからなおさらね。


 エルンによれば解読に数時間かかるかもしれないとのことだったので、僕達は少し寝て休むことにした。



「みんな~解読終わったよ~」



 どうやらエルンが設計図の解読を終えたらしい。

 外は暗くなっていたので、解読にはだいぶ時間がかかったようではあったが、解読できただけすごいと思う。


 

「なんとか作れそう?」

「うん、材料さえあればなんとかなりそうだよ~ボクだけじゃ無理だけどキーたんやクーりんに手伝ってもらえばなんとかなるかな~」

「そっか、それは良かった。それで、必要な材料って何なの?」

「それはね~」



 エルンは飛行船に必要な材料を話し始めた。

 その内容をまとめると、

・飛ぶ為に必要なエネルギーを秘めた物

・軽くて頑丈な素材

・エネルギーを調整する為に必要な柔軟性のある物

 が必要とのことだった。


 え、それだけじゃ何を集めればいいのか分からないんだけど?



「それだけじゃ曖昧すぎて何を集めればいいのか分からないよ……」

「そうだよね~ボクもそう思うよ~」



 エルンもそう思っているのか……

 せっかく設計書があっても材料が分からなかったら作りようがないよな。

 いや、だからこそ今まで作られてこなかったんだろうなあ。



「エルン、その三つの物さえ手に入れば作れそうなんだな?」

「うん、他の材料はもう研究室で揃うから作れると思うよ~」

「そうか、ならなんとかなりそうだな」

「え、バルグは三つの物に心当たりがあるの?」

「ああ。確信はないけどな」



 そう言ったバルグは自分の考えを話し始めた。


 バルグによれば飛行船に必要な三つの物とは、

・火竜の紅鱗

・黄金のハス

・碧の粘土

 だそうだ。



「ある場所も分かっている。火竜の紅鱗はジルと冒険した火山、黄金のハスは大鬼族の村の西側にある湖に、碧の粘土は腐敗の地ブロドーアにある」

「火竜の紅鱗ってもしかして……エルンが怒らせた火竜に関係する物だったりする?」

「その通りだ。恐らくこれが最も入手が困難な物になるだろうな。火竜の逆鱗に触れることになりそうだからな……」

「う……なんか嫌な予感がする。まさか火竜の紅鱗の入手方法って、火竜から鱗を引きはがすことだったりしないよね?」

「恐らくそうなるだろうな。協力してくれるか、地面に鱗が落ちていればその必要はないんだが……」



 僕が直接見た訳ではないが、バルグから聞いた話ではエルンが火竜を怒らせることをしたとのこと。

 そんな火竜の所に行かないといけないのか……

 しかも火竜から直接素材を入手しないといけないときた。

 考えただけで頭が痛くなりそうだ。



「とにかく火竜の紅鱗については後回しでいいだろう。で、残る二つについてなんだが……」

「あ、黄金のハスについてはボク知ってるよ~確かちょうど今の時期の湖に浮かんでいるアレだよね~?」

「アレって言われても分からないが、多分そうだろう」

「そっか~ならそれは問題なく入手できそうだね~」



 黄金のハスについては問題なさそうだ。



「残る碧の粘土については、恐らくヘドドに頼めばなんとかしてくれる気がするな」

「ヘドドって誰なの? バルグの知り合い?」

「ああ。ヘドドは俺の知り合いの汚泥族スラッジダートだ。見た目はヘドロみたいだが、意外と話が分かる奴だからきっと協力してくれるさ」



 ヘドロのような見た目の生物ってなんか想像するだけで不気味だなぁ。

 きっとすごい悪臭がするんだろうね……

 でも友好的な人みたいなので、そこさえ我慢できればなんとかなるかな?



「つまり、そのヘドドっていう人に会うことさえできれば特に問題ないっていう訳だね?」

「ああ、そういうことだ。ただ、ブロドーアは長居できないから油断は禁物だな」

「長居できないって、何か理由があるの?」

「ブロドーアは一面ヘドロで汚れた土地だ。当然そこでは強烈な悪臭が漂っているし、そこに長時間いるだけで体が毒にやられてしまうのさ」



 そこにいるだけで毒にやられてしまうなんて……

 ブロドーア、恐ろしい土地である。

 いかに早くヘドドに会って協力してもらえるかが鍵になりそうだな。 



「とりあえず俺達は一番入手が簡単そうな黄金のハスを取りに湖に行くべきだと思うんだが、どうだろう?」

「僕はいいと思う」

「私も同じく」

「バルきゅんの言った通りでいいよ~」



 みんなバルグの意見に賛成のようだ。


 こうして僕達の目的地は決まった。

 しかし、今日はもう夜遅い。

 出発は明日の朝にするとして、それまではみんなエルンの家で休むことになった。





 朝目覚めると、僕はエルンがいないことに気が付く。

 バルグとリザースはまだ寝ているようだ。

 エルンのことが気になった僕はちょっと外に出てみることにした。


 外はなんだか騒がしい。

 一体何があったんだろう?

 そう思ってある賢猿族の会話を聞いてみた。



「本当なのか? 天竜の大群がこの村の近くまでやってきているって」

「どうやら本当らしいぞ。うちの研究室のフィールドワーク担当の奴が実際に見たんだって」

「そうか、それは大変だよな。でもおれ達ができることって何もなくね?」

「そうだよな。逃げようにも囲まれてるらしいから意味ないしな」

「そうなのか? それってヤバくね?」



 え、天竜の大群が近くに来ているって!?

 それって大変な事じゃないか!

 どうしてそんな事になってしまったんだろう……


 エプール村まで徒歩で向かったから、天竜と遭遇してから5日は経っている。

 その間、特に気づかれるような行動はしていないはずなのに……


 天竜の大群の事を仲間達に知らせる為に、僕は急いでエルンの家へと戻った。


 僕が戻った時にはバルグもリザースも起きていた。

 そしてそこにはエルンの姿もあった。  

 僕が出かけている間にエルンは自分の家に戻っていたようだ。



「大変だよ、天竜の大群が――――」

「ああ、エルンから話は聞いている。結構厳しい状況だな」



 どうやらエルンも天竜の大群の話を聞いていて、一足先にバルグ達に話を伝えていたらしい。



「村の周りを囲まれているなんて、どうしてこんなことになっちゃったんだろう? 僕達、目立つ行動してないよね?」

「ああ、確かに目立つことはしていない。それなのに明らかに位置を特定されているということはもしかすると……」

「何か心当たりがあるの?」



 バルグの表情が曇る。

 何か良くないことが判明したんだろうな、きっと。



「恐らく、天竜側にはかつての俺の執事シュルドがいるんだろう」

「どうしてそう思うの?」

「シュルドはフィナのようにオーラを感じ取る才能を持っている。つまり、どんな変装をしても無意味だということだ」



 オーラを感じ取れる……

 だから変装しているバルグがこの村にいることをつきとめられたのか。


 

「オーラを感じ取れる人が天竜側にいるとなると、どこへ逃げてもすぐに居場所がばれるっていうことだよね?」

「基本的にはそうだな。だが、遠くからオーラを感じ取ってもピンポイントで場所が分かる訳じゃないからここを特定された訳ではないだろう。それにオーラを誤魔化す方法だってある。策はまだ尽きてはいない」



 バルグはまだ諦めていないようだった。

 いや、諦めたら終わりなんだから、諦めてはいけないのだが。



「これからどうしよう? ここにずっととどまっていたらいつかはバレるし、でも周りを囲まれているから村の外に出ることもできないよ……」

「そうだな。なんとか気づかれずに村を出る方法があればいいんだが……」

「村を出る方法なら一応あるよ~強硬手段みたいなものだけどね~」



 どうやらエルンは何か考えがあるようだ。



「その方法を教えてくれないか?」

「いいよ~それはね~下水道を使えばいいんだよ~」



 エルンの考えによれば、エプール村の下水道は川とつながっているので、泳いでいけば脱出できるということだった。

 確かにそうなのかもしれないけど、なんか汚そうで嫌だな……



「確かにその方法だったら天竜の目をかいくぐって外に出られそうだな。それでいこう」



 バルグは何のためらいもなくエルンの案を採用した。

 もうなりふり構っていられないから、仕方ないんだろうなぁ。

 何しろ捕まったら国の外に出られなくなってしまうんだから、必死になるのも分かる。


 もたもたしていると、いつ天竜が村の中に侵入してくるか分からないので、早速僕達は行動を開始した。


 僕達は賢猿族の警察へ行き、クーリという人と合流した。

 どうやら下水道に行くには警察の許可がいるらしい。

 クーリはエルンの知り合いみたいで、エルンから事情を聞くと進んで協力を申し出てくれたのだ。


 クーリとともに僕達は研究施設の中へ入っていく。

 どうやらこの施設の地下8階に下水道の入り口があるらしい。


 

「下水道の入り口って、例の研究者が汚染物質を流していた所か?」

「そうです。でも今では汚染物質が流されることはありませんし、下水道と言ってもそんなに汚くないですよ」



 バルグは下水道に心当たりがあるらしい。

 エルンと出会ったときに立ち寄ったことがあるんだろうな、きっと。


 クーリについて行くと、そんなに時間かからずに下水道らしき場所の目の前まで来た。

 水が噴き出して、川みたいなものがあるけど、多分これが下水道になっているんだろう。

 流れる水は透き通っていて、下水道とは思えないほど綺麗に見える。



「これって本当に下水道なの? とても透き通っていて綺麗に見えるんだけど」

「その言葉は光栄ですね。何しろその綺麗な水こそ、私達賢猿族が誇る浄化技術の賜物ですからね」



 浄化技術か……

 賢猿族は現実世界の先進国に匹敵するほどの技術を持っているんだな。

 その割には飛行機みたいな飛ぶ乗り物はないみたいなんだけど。

 でも飛行船を作る設計図はあるんだから、技術的にはあってもおかしくないのか。


 何はともあれ、こんな綺麗な水なんだったら泳ぐのに何の問題もなさそうだ。



「それじゃ、そろそろ行くか」

「じゃあね~クーり~ん」



 魔法を使ってエルンは人魚に、僕を含めた他の三人は水蜥蜴に変身する。

 そしてクーリに見送られながら僕達は下水の川に入って行った。


 下水道をしばらく泳いで進んでいくと、格子状になっている金属の棒が目の前に立ち塞がった。



「行き止まりかな? でもこれまで一本道だったし、道を間違えたはずないんだけど……」

「おそらくここは排水溝になっているんだと思うぞ。ここを越えればもう外に出るだろう」

「そっか。それならここをなんとか突破しないといけないね」

「そうだ。通れないなら道をこじあければいいだけの話だろ?」

「ちょっと待ってよ~排水溝壊しちゃったら魚が下水道の方に入ってきちゃって困るよ~」



 力づくで解決しようとするのはバルグらしいな……

 でも排水溝を破壊するためには相当強力な技を放つ必要がありそうだ。

 そうなると、エルンが言う問題が起こる上に、僕達が技の衝撃に巻き込まれて無事で済まないような気もする。

 力づくの解決はしない方がいいだろう。

 だとすると、これからどうしたらいいんだろうか?



「皆さん悩んでいるようですが、魔法で排水溝の隙間よりも小さくなればいい話なのでは?」

「お、その手があったか」



 え、そんなに小さくなれるものなの?

 10cmほどの正方形の穴しかないんだけど……


 バルグは早速みんなに魔法をかけ始めた。

 するとみるみるうちに体が小さくなっていく。

 ついに排水溝の隙間よりも体が小さくなった。



「これで排水溝を突破できそうだな。いくぞ!」



 先頭をきって進むバルグに僕達はついていった。

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