60.この世界での故郷
「レン、会えてよかった! 心配したんだぞ!」
「無事だと信じてた」
バルグとエナが近くにやってきた。
だけど、エルン、フィナ、ジルは何故かキョトンと遠くから見ている。
どうしてだろう?
「レン、レンなのね? なんか姿変わってるからちょっと自信ないけど……でもオーラは変わってないから確かよね!」
フィナの言葉でようやく理解した。
そういえば、フィナ達は霊竜の姿を見たことすらないからそりゃ戸惑うよな。
逆に今更だけど、どうしてリザースは僕のことが分かったんだろう?
「リザースはどうして僕の事が分かったの?」
「師匠の事を二度と間違えないと誓いましたから、それ位見分けられて当然です」
やっぱりリザースの言う事って理由になってないよなぁ。
まあ、何かしら努力を積み重ねているということだろう。
「レンレン可愛くなったね~なんか触り心地もよさそ~う! さわらせてよ~!」
「なんかオレに弟分ができたみたいッスね……いやいや、冗談ッスよ、冗談!」
戸惑っていたエルン達もすぐに気を取り直して、いつも通りに接してくれた。
なんかこういう感じってあたたかくていいなあ。
前にみんなと一緒にいたのは戦いが続いて緊迫した状況だったから、こう何気ない会話をみんなとするのはすごい久しぶりな気がする。
さて、みんなと無事に合流できた訳だけど、これからどうしようかな……
「みんな、これからどうする? やらなければいけないことは全部終わったよね」
「確かにな……こうして集まる必要もないということか」
今まではブローダン戦という同じ目標があったからこうして共に旅をしてきた。
でも、目標というのがなくなったから、一緒にいる意味もなくなってしまったんだよね。
「そうだよね~でもみんなと別れるのはさみしいな~」
「みんな故郷に戻るとすると、離れ離れになってしまうからなかなか会えないッスよね……」
うん、せっかくこれまで一緒に行動してきたのに、なかなか会えなくなっちゃうのって寂しいよね。
「確かにそうよね……分かった。それならこれをみんなが持っているといいわ!」
そう言ったフィナは呪文を唱え、小さな精霊を呼び出す。
そしてみんなにその精霊を配り始めた。
「この精霊を持っている者同士ならば、いつでも連絡が取り合えるようになっているの。だから、何かあったらすぐに繋がれるわ」
電話みたいなものかな?
でも、どこでもつながるなら電話よりもちょっと便利かもしれない。
「そっか~確かにどこでも繋がれるんだったら心配ないよね~」
「これで安心ッスね! オレ達はいつも繋がっているッス!」
「みんなと、一緒」
こうしてフィナの精霊をもらって安心した僕達は、それぞれ故郷に帰ることになった。
フィナは妖精の里フィーティア
エルンはエプール村
ジルは地竜の洞窟
エナは生命の源泉フロセアへと帰った。
僕の故郷はここの世界にはないから、どこに向かおうか悩んだけど、やっぱり一番落ち着くスライム村に行くことにした。
スライム村に行くのはだいぶ久しぶりな気がする。
あの落ち着いた雰囲気に戻れると思うとなんだかホッとするのだ。
でも、姿が変わってしまった僕を受け入れてくれるのかという心配がある。
受け入れてくれるといいんだけどな。
ちなみにバルグとリザースは僕についてくることになった。
バルグは一心同体みたいなものだし、リザースはスライム村の近くに部下がいるから仕方ないだろう。
「レンは一人で海底まで行ったのか?」
スライム村に向かう途中、バルグが僕に話しかけてきた。
「いや、一人じゃさすがに行けないよ。深海竜の力を借りたんだ」
「深海竜が協力してくれたのか、それは良かったな」
「うん、良かったといえば良かったけど……」
「何か歯切れが悪そうな言い方だな。どうかしたのか?」
確かに深海竜スイノのおかげで僕は存在を取り戻せた。
でも、僕はそのスイノをだましてここまで来てるんだよなぁ。
海底神殿に一緒にいるのが僕じゃないとバレてしまったら結構大変なことになることが予想される。
だからこれからのことを考えると、一概に喜んでばかりはいられないんだよなぁ。
まあ、そうなったらそのとき考えればいいか。
「あ、ううんなんでもないよ」
「そうか。それならいいんだが……何かあったら言ってくれよ」
「うん、約束するよ」
スイノがもしここまで来ちゃったら、バルグも無関係ではいられないだろうし、ちゃんと話すことにしよう。
「そういえば、バルグ達は僕がいない間どうしていたの?」
「ああ、ムカデとの戦いの後のことだな」
「ムカデには勝ったの?」
「負けはしなかったんだが、突然の揺れでムカデが逃げてしまったから勝ったともいえないんだよな……」
やっぱりスイノの攻撃の影響はバルグたちも受けていたようだった。
「湖全体が揺れて、地面が崩れようとしていたから俺達は急いで湖から脱出したな」
「そうなんだ……でも、それで無事だったんなら良かったよ」
「ああ。でもレンを見捨てて逃げる形になってしまったから俺達は気が気でなかったんだぞ」
「そっか。心配してくれてありがとう」
下手に僕を助けてくれようとして命を落としてしまったらシャレにならないからね。
みんなが無事に逃げてくれて良かったよ。
「バルグさん達は湖に行っていたんですね。湖の中はどんな様子でした?」
「ああ、そりゃあ綺麗な所だったぞ!」
バルグはリザースに湖の事について熱く語っていた。
どうやらバルグとリザースはだいぶ仲が良いようだ。
二人が話している所はそういえば見たことなかったな。
まあ、バルグが僕と分離したのは霊竜の精神交換後のことだから、初めて見るのも無理ないか。
そういえば、リザースは僕とバルグのことをどう思っているんだろう?
リザースと最初に旅していたときの僕は僕であると同時にバルグでもあった訳だし。
「リザースは僕とバルグの関係は知っているの?」
「ええ。バルグさんから話は伺っていますので知っていますよ。お二人とも私の目標です」
「ハハハ! せいぜい俺を目指して頑張るんだな!」
「はい! 精一杯頑張って、バルグさんにひけをとらないように成長してみせます!」
リザースはもう知っているみたいだ。
それより、バルグがだいぶ調子にのっている事が気になる。
こんなにバルグって偉そうにしていたっけ?
「バルグって性格変わった? いつもと違うような気がする」
「いや、そんなことないぞ。気のせいじゃないか?」
「多分バルグさんにも色々と苦労があるんですよ、師匠」
よくよく見ると、バルグの顔がやつれているようにも見える。
もしかしてストレスがたまっているから、ストレス発散しようと無意識にそういう性格になってしまったのか……?
「ああ。本当に苦労は絶えないな……もう、そういうものだと諦めかけてはいるんだが……」
多分バルグの苦労とはシルピィのことだろうな。
僕がバルグから分離してから、バルグは相当ストレスたまっているように見える。
きっと今も絶えずシルピィに気を使いながら過ごしているんだろう。
それは疲れるよな。
そうこうしているうちに僕達はスライム村の入り口付近にたどり着いた。
「あ、ランドリザードの兄ちゃんがいるよ!」
「本当だ! それに竜人と竜もいるよ!」
「うわぁ、かっこいいなぁ」
「私が一番最初に遊んでもらうんだから!」
スライムの子供たちに僕達は出迎えられた。
やっとここに戻ってこれたなと僕はほっとしつつ、村の中に入って行った。
僕とバルグは以前村に来たときと姿が変わってしまったが、スライム達は特に戸惑うこともなく受け入れてくれた。
むしろ興味を持って、色々と聞かれたりした。
一通りスライムの住民とふれあってから、僕達は村長の家へと向かった。
最初は驚いた村長も、事情を聞いてもらうと落ち着いてくれた。
そして歓迎してくれるようだったので、僕はほっと胸を撫で下ろした。
村長と話していると、誰かが中に入ってきた。
「お、来客なんて久しぶりダ! なんか楽しくなりそうだナ!」
独特の言葉遣い、スラオに違いない。
スラオに会うのも、ゴブリンの村、ゴーブ村へと向かうとき以来だよな。
僕達はスラオや村長と話をしばらくしてから、村長の家を後にする。
そしてリザースは外に出て部下と合流しに行き、僕とバルグは来客用の家の中に入った。
まあ、岩盤に穴を開けて空間を作ったものだから、家と言えるかどうかは怪しいのだが、意外とこの中は快適に過ごせるのである。
中は妖狼族だった僕のサイズに合わせて広めに作られたらしいので、窮屈に感じることもない。
実はゴーブ村に向かう前辺りから、スライム村でくつろぐときはこの家を使っている。
「この家に入るのも懐かしい気がする」
「そうだな。もう前にここで過ごしてからはだいぶ経つからな」
「やっぱりここが一番落ち着くよ。僕にとって、この世界での故郷にあたるのかな?」
「そうかもな。ここって良い所だよな。俺にとっても故郷と呼んでも良いくらいだ」
バルグもこのスライム村の家を気に入っているようだ。
気温も湿度もちょうどいいし、周りは時々スライムの子供達が遊んでいる声が聞こえる位で静かで快適な場所だもんな。
スライムの住民もみんな優しくて居心地もいいし、バルグがここを故郷のように思うことに何の不思議もないよ。
あ、そういえばバルグは故郷に帰らなくてもいいんだろうか?
成り行きで僕と一緒に来ているけど、僕と一緒にいなければいけない理由もないよなあ。
無理に断る必要もないから黙っていたけどやっぱり聞いておこう。
「そういえばバルグは故郷に帰らなくて良かったの?」
「あ、あんな退屈な所、二度と帰ってやるものか!」
「ば、バルグどうしたの……?」
「……スマン、取り乱してしまった」
どうやらバルグにとっての故郷は良い所ではないらしい。
確かバルグと初めて出会ったときに少し話を聞いたっけな。
竜の国から家出をしてここまできたんだっけ。
ということは、家出してしばらく経つことになるけど、親は心配しないのかな?
僕も人の事は言えなそうだけど、一応聞いておこう。
「バルグって家出したんだよね」
「ああ。本当にあの牢獄から出られてせいせいするな」
「うん、バルグにとってはそうだろうけど、親が心配しないかなと思って」
「そのことについては心配ない。俺の身代わりをしっかりと残しておいたから大丈夫だ」
「本当にそれで大丈夫なのかな? 前、僕が旧リ・ザーラ村で身代わりを残したときは結局短期間で気づかれてしまったみたいだけど」
するとバルグの顔が青白くなっていくように見えた。
なんか不味い事言っちゃったかもしれない。
「だ、大丈夫だ! そのときは俺の魔力は十分じゃなかったから、身代わりが不完全だったんだろう、きっと!」
「そ、そうだよね。きっとバルグなら大丈夫だよね!?」
「あ、当たり前だ! 実際、こうしてしばらく過ごしていても全く問題ないだろ? だから大丈夫だ!」
まあ確かにバルグ以外の天竜の姿は見たことがないから、バルグがいなくなったことに気づかれていないとも解釈できるかもしれないな。
心配する必要は――――
「師匠、バルグさん、何か外でこんなものがばらまかれていますよ!」
リザースが慌てて家の中に入ってきた。
リザースの手には何やら白い紙のようなものが握られている。
一体何なんだろう?
僕はリザースからその紙を受け取り、内容を確認した。
すると、紙には次のように書かれていた。
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大地の住民へ
天竜族バルグ・デュルベールを捕えた者には天竜族の恩恵を与えよう
天竜王ガルダン・デュルベール
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あ、これまずいパターンじゃ……?




