58.霊竜の秘術
「クーロスさんはスイノと長い付き合いなんですか?」
「そうなんだな。生まれた時期も同じだし、幼馴染みたいなものなんだな。それと、レンはおいらのこと呼び捨てでいいし、気使わなくてもいいんだな」
「あ、じゃあお言葉に甘えて……そうなるとクーロスはだいぶ苦労したんだろうね」
「分かってくれるなんて嬉しいんだな。本当、スイノの扱いには苦労して……あがっ!?」
クーロスにスイノの魔法が直撃した。
なんという強烈なツッコミ……
「わらわが面倒臭い奴みたいな言い方をするでない! わらわはそれなりに常識を持つように心がけておるわ!」
うーん、その言葉に賛同はできないかな。
そう思っていると、スイノに鋭くにらまれたような気がした。
なんて恐ろしいんだ……
海底神殿をしばらく進むと、スイノは止まった。
「よし、ここまでたどり着いたの。じゃあレン達は下がっておるがよい」
スイノは何かするつもりらしい。
クーロスは分かっていたかのように、すぐにスイノのそばから離れる。
僕も慌ててクーロスの近くまで行った。
スイノは僕とクーロスが離れたのを確認すると、呪文を唱え始めた。
すると、海底神殿全体にある溝のような所がすべて青く光りはじめる。
真っ暗だった神殿の中が突如、青い光に覆われたその光景はなかなか幻想的だった。
しばらくすると、青い光は徐々に弱まっていき、次第に神殿の中は再び闇に包まれていった。
光が完全に消滅したとき、今度は大地が揺れ始めた。
「な、何が起こっているの!?」
「大丈夫。いつものことなんだな」
これがいつものことって言われても、地上に住む生き物にとっては大問題なんだけど……
まあ、ここは深海だから、距離がある地上では揺れはだいぶ弱まっているとは思うけど。
揺れと同時に神殿の床が動き、階段が出現する。
それからしばらくすると揺れはおさまった。
「秘伝書はこの下にあるのじゃ。早速行くとしようかの」
そう言ったスイノはさっさと階段を下りていってしまった。
一方僕は一連の出来事に驚いて、その場で立ち尽くしていた。
「道は開いたんだな。行くといいんだな」
クーロスの言葉で我にかえった僕は、慌ててスイノの後を追いかける。
階段を下りると、比較的小さな部屋にたどり着いた。
小さいといっても先程の大部屋と比べての話であって、スイノが入れる位の広さはあるんだけど。
「来たか。レン、これが霊竜の秘伝書なのじゃ」
スイノはそう言うと僕に巻物のようなものを差し出した。
僕はそれを開いてみる。
すると中には何か文字がたくさん書かれている訳なんだけど、その文字が読めない。
あれっ、おかしいな……
これまでこの世界の書物は読めていたんだけどなぁ……
「レン、どうした? なんか様子が変じゃぞ?」
「ここに書かれている文字が読めないんだ……」
「どれどれ……確かにこれはひどいな。わらわでもこんな文字読めんわ」
どうやら文字が読めないのは僕だけではなかったらしい。
これを書いた人、先代のシルピィはとても字を書くのが苦手だったようだ。
「ちょっとおいらに貸してみるんだな」
このまま持っていても仕方がないと思った僕はクーロスに巻物を渡す。
するとクーロスはその巻物をじっと見る。
「ふむふむ。なんとか読めそうなんだな」
「本当!? どんな内容が書かれているの?」
クーロスが話してくれたことをまとめると
・生命のエネルギーを一点に集める
・集めたエネルギーを対象にぶつける
この二つのことが書かれているようだった。
結構長々と書かれているようだったが、内容はそれだけなんだろうか?
「何だか色々とグダグダ書いてあるからとても読みにくいんだな。なんとか読めて良かったんだな」
どうやら無駄な内容がたくさん書かれているようだった。
でも無駄な内容とはいえ、どういうことが書かれているか気になるな。
「どんな事が書いてあるの?」
「聞きたいんだな? なら、ちょっとこっちに来るんだな」
クーロスは僕を手招きした。
どうしてそんな事をするのか分からなかったが、とりあえずクーロスのそばに近寄ってみた。
「スイノに関する悪口が書かれているんだな。例えばスイノは200キロ太ったとか」
その瞬間スイノがギラリとこちらをにらんだような気がした。
身の危険を感じたので、スイノの悪口をまだ読み上げようとするクーロスを慌てて止める。
「レン、それでよろしい」
どうやらクーロスとのやり取りはスイノに筒抜けだったようだ。
止めなかったときのことを考えると恐ろしい……
さて、本題に戻ろうか。
どうやら霊竜の秘術を使う為にはまず、生命のエネルギーを一点に集める必要があるらしい。
でもそれってどうやればいいんだ?
「生命のエネルギーを一点に集めるってどうやるんだろう?」
「そうじゃな……わらわもよく分からないが、確かシルピィは目をつぶって光の玉みたいのを作り出してた気がするのう」
「光の玉といえば、霊竜の特殊な魔力を凝縮させたときに現れると聞いたことがあるんだな」
二人の話を合わせると、どうやら僕が目を閉じて精神を集中させればいいということだろう。
そしてその精神集中によってできた光の玉を自分にぶつければいいんだな。
言葉で言うのは簡単だけど、実際にはどうなのかはやってみないと分からない。
とにかくやってみよう。
こうして僕は目をつぶって精神を集中させようとしたが、
「あっ、ちょっと待つんだな! まだ巻物に何か書かれているんだな!」
ん?
まだ何かあるの?
「光の玉を作るためにはこれを取り付ける必要があると書かれているんだな」
「これって何なの?」
「うーん、何だろうな……あっ、これのことかもしれないんだな!」
クーロスは巻物から何かを取り出した。
取り出した物は、ペンダントのようなものだった。
ペンダントをクーロスから受け取り、僕はそれをつけてみた。
するとペンダントが黄金に光りだし、僕の体から力があふれてくる!
これならいけるかも!
僕は目を閉じて、精神を集中させる。
すると何だか目の前に強大なエネルギーの熱が感じられるようになった。
でも気を抜かずにそのまま精神集中を続けるように努める。
精神集中を続けた結果、目の前には体を焼き切るほどの熱を放つものが感じられる。
多分光の玉が十分に成長したんだろう。
そろそろ良さそうかな?
僕は光の玉を自分にぶつけようとする。
だが、どんな頑張っても光の玉は微動だにしない。
このままではまずい。
どうにかしないと……そうだ!
光の玉が動かせないなら、自分が動けばいいじゃないか!
そう思った僕は前のエネルギー体の中に飛び込んだ。
すると体全体が強烈な痛みに襲われる!
あまりの痛みに声すら出ず、僕は気を失ってしまった。
しばらくして、僕は目を覚ます。
「レン、無事で良かったぞ! 一体どうなることかと思ってヒヤヒヤしたのじゃぞ!」
「でも成功したようで良かったんだな」
二人の声が聞こえてくる。
どうやら霊竜の秘術に成功したらしい。
いや、成功したと思って間違いなさそうだ。
その根拠は、フィナとの絆が再びつながり、再び精霊の力が僕を包んでいるからだ。
きっと存在を取り戻したことで、フィナが僕をはっきりと認識できるようになり、絆が再びつながったのだろう。
そうなると、おそらくバルグとの絆も取り戻したはずだな。
「レンの体から何やら精霊の力を感じるな。それは何なのじゃ?」
「これはフィナという仲間との絆魔法『精霊使役』だよ」
「なるほど、これが絆魔法というものなんじゃな……」
スイノとクーロスは興味深そうに僕のことを見ている。
絆魔法ってそんなに珍しいものなのかな?
「そういえば、レンが付けているペンダントの光が消えてしまったんだな。どうしてなんだな?」
「確かに不思議だね。ペンダントの光はなくなってしまったけど、力はまだ感じているんだよね。どういうことなんだろう?」
ペンダントをつけたときに感じたあの力は、弱くなったとはいえ、まだ心の中に感じ取れるのだ。
「そうじゃな……恐らくペンダントの力はレンの魂に取り込まれたのじゃろう。だから光が消えてもレンの中に力は残っているのだと思うぞ」
魂に取り込まれる……か。
いまいちピンとこないけど、体から力があふれでてくるこの感じが僕に取り込まれたペンダントの力なんだろうな。
「もうレンにペンダントは不要じゃろう。そのペンダントと秘伝書は元の場所に戻すのじゃ」
僕はペンダントを、クーロスは秘伝書をスイノに渡した。
するとスイノは部屋の奥の方で何やら作業を始めた。
多分、封印を施しているのだろう。
「良かったな、レン。これで君の目的は達成したんだな?」
「うん、そうだね」
「この後はどうするんだな? 地上に戻って仲間達と旅するんだな?」
「そうだね。まあ、どこかで少しゆっくりしたらたまには旅でもしようかと思っているよ」
ようやくやらなければいけないことがなくなった。
待ちに待った、だらだら生活を過ごすことができそうで何よりだ。
普段はだらだら過ごして、時々みんなと旅をできたらいいかな。
「レン、もう行っちゃうのか?」
スイノがそう問いかけてくる。
「うん。みんな待たせちゃっているし、ここに来る目的も果たしたからね。早く地上に戻ってみんなを安心させてあげないと」
「そうか……それは残念じゃ……」
スイノは残念そうな顔をしている。
別れを惜しんでくれているんだろうか?
それから僕達は隠し部屋を出て、海底神殿の大部屋へと戻った。
海底神殿を出た所でスイノが止まった。
「どうしたの、スイノ? あっ、そうか。ここがスイノの家みたいなものだから、ここでお別れという訳だね?」
僕はそう声をかけるが、スイノは全く反応してくれない。
一体どうしたというんだろうか?
「レン一人で地上まで戻るの大変なんだな。おいらが地上まで連れて行くんだな」
「ありがとう、助かるよ」
そう言って、僕はクーロスの背中に乗って浮上しようとした。
しかし、それを遮る大きな生き物がいた。
「スイノ、一体何をするつもりなんだな!?」
そう、スイノが僕とクーロスの進路を妨害しているのだ。
一体何のつもりなんだろうか?
「レンを地上には帰さない。神殿でわらわとずっと一緒に暮らすのじゃ!」
えっ、なんかスイノが変なこと言っているんだけど……
とても面倒な事になってしまったようだ。
「スイノ、そんな自分勝手な事は―――」
「うるさい! これでもくらうのじゃ! 水流竜巻!」
クーロスの言葉を遮り、スイノは僕達に攻撃をしかけてきた。
攻撃をそのまま受ける訳にはいかないので、僕は霊竜の秘術のうちの一つ、虚構事実化を使ってスイノの攻撃を無効化する。
「ほう、なかなかやるのう。そんな技も使えるとは……ますます楽しくなってきたのじゃ!」
「おいおい、まさか本気で戦うつもりだったりするんだな!?」
攻撃を防ぐ為に霊竜の秘術を使ったのがまずかったらしい。
ますますスイノの戦う気分を盛り上げてしまったようだった。
色々と力を手に入れた今ならば、スイノに全く勝てないということはないだろうが、戦うのは面倒だな……
僕はスイノの攻撃を防いだり回避しながら、これからどうするか考える。
僕の近くにいるクーロスも僕と同様、スイノとの戦いを面倒そうに考えている顔をしていた。
そうだ、クーロスならスイノの暴走を止める手段を知っているんじゃないか?
戦いを止める為に協力してくれそうだし、話しかける価値がありそうだ。
「クーロス、このスイノを止める方法ってあるの?」
「そんな簡単に止められたら苦労はしないんだな」
「うん、そうだよね……」
まあ、確かに簡単にスイノを止められるなら、先代のシルピィも秘伝書にわざわざ悪口を書いたりなんてしなかっただろう。
昔から今までずっとスイノは手を焼く存在だったんだと今、確信した。
さて、止められないとなると、どうしたものか……
「止められなくても逃げることはできるんだな」
「逃げる? どうやって?」
「おいらにちょっと策があるから耳を貸すんだな」
僕はクーロスから作戦を聞いた。
うん、作戦は実行できそうだ。
でも本当にそんなことでうまくいくんだろうか?
「大丈夫。おいらを信じるんだな」
「分かった。それじゃあ実行するよ」
僕はクーロスとのひそひそ話を終えると、スイノと向き合った。
「なんじゃ、こそこそと作戦会議でもしておるのか? 小賢しい。まとめて葬ってやるわ!」
「違うんだ、スイノ。話があるから聞いてほしい」
「話とはなんじゃ?」
「君の言った通りにするから、怒りを鎮めてほしいんだ」
するとスイノは急に大人しくなり、満面の笑顔をうかべた。
どうやらスイノのご機嫌とりには成功したようだった。
「じゃあレン、わらわは先に神殿で待っておるぞ! おぬしも早く来るのじゃぞ!」
そういったスイノは海底神殿の中へと入って行った。
これでスイノの妨害を受けることはなくなった訳だけど、問題はスイノと神殿で過ごさないといけないことだ。
一見、状況はさらに悪化したようだ。
でも、クーロスによれば、この状況には抜け穴があるそうだ。
抜け穴とは、スイノの言葉には、誰がスイノと一緒に過ごすか明言されていないことである。
まあ確かに前後の言葉から、僕のことを指しているんだと分かるので、屁理屈といえばそれまでなんだけど。
でも今はその屁理屈にすがるしか方法はない。
だが、その屁理屈を利用するとしても、誰かはスイノと一緒にいないといけない。
そこをどうするかだな……
「スイノと一緒に過ごす人はどうしよう? まさかクーロスが担当してくれたりしないよね?」
「まさか。おいらがそんな苦行をすすんでする訳がないんだな!」
「そうだよね……それじゃあどうしようか? 人形みたいの作ってそれをスイノの所に送り出しても速攻でばれちゃうだろうし……」
「いや、その方法で十分だと思うんだな」
え、でもその方法はやったことあるけど、うまくいった記憶がないんだけど……
なんだかんだで誰かにばれてしまっていることがほとんどな気がする。
「その程度でスイノをだましきれるとは思えないんだけど……」
「普通はそう思うかもしれないけど、レンは霊竜なんだな。方法はあるんだな」
つまり、僕の知らない霊竜の秘術を使えば大丈夫になるっていうことかな?
そんな簡単にできるものとは思えないが、クーロスの話を聞くことにした。
クーロスの話によれば、霊竜は世界のどこかにある魂をその人形につぎこむことができるらしい。
その術を使えば、体は人形とはいえども、一人の魂が宿っているので、そう簡単に人形だとばれることはないそうだ。
うん、一人の魂が宿っているなら、話も自然とできるだろうし、スイノと一緒にいても話に関しては大丈夫そうかな。
ただ、その作戦は呼び出した魂がしっかりと協力してくれることが前提になっているんだけど、大丈夫だろうか?
「呼び出した魂は協力してくれるのかな?」
「ああ、それについては心配ないんだな。条件に協力してくれる魂が自然と選定されるみたいなんだな」
「条件って、それは僕が呼び出すときに設定するのかな?」
「うーん、どうなんだろうな? シルピィが無意識に条件が設定されるようなことを言っていた気もするんだな」
「そっか、条件のことはあまり気にしなくてもいいんだね。でも魂を呼び出す方法ってどうやるんだろう?」
そう疑問に思ったその時、頭の中で自然と秘術のやり方がイメージされてきた!
一体何が起こっているんだろう?
「魂を呼び出す方法はよく知らないんだな……」
「ごめん、クーロス。僕、やり方分かるかもしれない」
「うん、それは良かったんだな……って急にどうしたんだな!?」
「僕にもよく分からない。ただ、秘術の使い方が頭の中で急にイメージされてきたんだ」
「急にイメージ……もしかして、レンに宿ったペンダントが関係しているのかもしれないんだな」
どうやらクーロスの推測によれば、僕に宿ったペンダントは今までの先代のシルピィの知恵が入ったもので、それの影響を僕が受けたのではないかということだった。
そんなことが本当にあるものなのかと疑問に思ったが、そんなことはどうでもいい。
早く作戦を実行しないと、待ちくたびれたスイノがここまで戻ってきてしまう。
急がないと。
僕は頭の中でイメージされた通りに呪文を唱え始めた。
すると目の前に光の粒子が発生し、次第に何かを形作って行った。
しばらくすると光の輝きが消え、一人のアクアリザードが現れた。
そのアクアリザードは、僕が変身している姿と身長や体格がほぼ同じだったので、おそらく分身の作成に成功したんだろう。
目の前のアクアリザードはしばらく眠っていたようだったが、やがて目を開けた。
「あなたが私を呼んでくださったのですね。何なりとご命令をお申し付けください」
僕はそのアクアリザードにスイノとこれからずっと過ごしてもらうことや、過ごすときの注意点をいくつか伝えた。
結構大変な役目を押し付けてしまっている気がしたのだが、アクアリザードは全く嫌な顔一つせず、真剣に聞いていた。
「そういうことでしたらお任せください。必ずやご期待に沿う働きを致しましょう」
「うん、期待しているよ。くれぐれも無理はしすぎないようにね」
「ご心配ありがとうございます。では、私はこれで失礼します」
そう言ったアクアリザードは海底神殿の中へと入って行った。
「こんな色々と無茶を言っているのに、どうして嫌な顔一つしないんだろう? 僕だったら絶対面倒だと思うんだけどな」
「どうしてなんだろうな? もしかすると、肉体と魂を実体化させることがそれだけの意味を持つのかもしれないんだな」
それだけの意味……か。
僕にはちょっと理解できそうにないけど、作戦に問題なさそうなら気にしなくてもよさそうだ。
それから僕とクーロスは地上を目指して移動を始めた。




