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異世界で魔物生活  作者: はちみやなつき
第四章 存在を求めて
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55.バルグとブローダン

「で、どうして戦うことになっちゃったの?」



 僕は先程まで喧嘩をしていたバルグとブローダンに問いかける。



「コイツが急に現れて、色々と悪口を言ってきたから力でねじ伏せようとしたんだ」

「俺様は悪口なんか言ってないぞ? ただ話しかけただけなのに急に攻撃を仕掛けてくるからそれに応じただけだ」



 うーん、なんかどっちもどっちだな……

 ブローダンって多分無意識に人を蔑むようなことを言っているから、それがバルグの怒りをかったのだろう。

 でもブローダンの発言に頭に血を上らせて、すぐに攻撃しようとするバルグも悪い。 



「余計な発言をしたブローダンも、ちょっとした挑発にのるバルグも両方ともダメだよ」

「喧嘩両成敗って訳か?」

「そうだね。バルグも少しは反省してね」



 バルグは不服そうな顔をしているが、渋々僕のいう事を受け入れたようだった。

 一方のブローダンはというと……



「俺様が悪いだと? 俺様はただ売られた喧嘩を買っただけだ。どこに非がある?」



 全く自分に悪い所はないとでも言いたげだ。

 ブローダンの言葉を聞いたバルグはいまにも怒りが爆発しそうな感じである。

 このままじゃ危ないと思ったので、バルグをブローダンから隔離することにした。


 こうして裏通りには僕とブローダンの二人が残った。 


 

「少しはその煽るような口調をやめた方がいいよ」

「そんなつもりはない。あいつが勝手に悪口だと思い込んでいるだけだ」



 いや、悪口だと思うのはバルグだけじゃないと思うんだけど……

 もしかしたら、ブローダンにとってはこれが素だから、本当に悪口を言っているつもりはないのかもしれない。

 だとしたら、ブローダンの悪口というものは気を付けて直せるものじゃないよなあ。



「とりあえず、バルグには近づかない方が良さそうだね。あまり刺激しない方が互いの為だと思うんだ。無駄な戦闘は避けたいだろう?」

「いや、むしろ戦闘は良い暇つぶしになるから俺様としては大歓迎だぞ」



 ブローダンって戦闘好きなのか…… 

 なんとなくそんな印象はあったけど。

 そうなると、僕の言葉は逆効果だったかもしれない。



「だが、まだ力が戻りきっていないからアイツには敵いそうにない。仕方ないからしばらくアイツに話しかけないことにする」



 力が戻りきっていないのか。

 なら、天竜化しないバルグでも十分に戦えそうだし、現にブローダンはバルグとの戦いを避けようとしている。

 結局、これで喧嘩の件は片付いたかな?



「アイツとの戦いはしばらくお預けだが、レン、オマエとの戦いには絶対に勝ってみせるから覚悟しろ!」



 そう言ってブローダンはどこかへ立ち去ってしまった。

 そんなに争う必要はないと思うんだけどなぁ。

 まあ、とりあえず戦いを止めることができたからいいか。

 

 ブローダンとの話を終えた僕は、バルグの所へ向かう。



「話は終わったのか?」



 少し離れた所で待っていたバルグが話しかけてきた。



「うん、ブローダンは相変わらずだったよ。多分あれが彼の素なんだと思う」

「そうか、あれが素なら絶対俺と分かり合うことはないだろうな」



 バルグはまだ少し怒りが残っている様子だった。

 確かにブローダンの言っていることは癪に障るかもしれないけど、そんなに怒るほどのことを言っているように思えないんだけどなあ。

 それにバルグってこんなに短気だなんて知らなかった。



「それよりここに戻ってきたっていうことは、病は治ったという訳なんだよな?」

「うん、そうだよ」

「そうか! なら、もう霊竜の体が滅びることもないな! おい、シルピィ、早く精神交換を……って嫌だと!? ワガママいうんじゃないぞ!」



 シルピィは霊竜の体に戻りたくないらしい。

 別に僕は戻してもらわなくても構わないのだけれど。



「別に僕はこのままでも構わないよ。病がなくなって、それなりに快適に過ごせているし」

「いや、それだと俺が困るんだよ! もう子守りみたいな状態疲れた……っておい、泣くんじゃない! 分かった、俺が悪かったから!」



 そっか、バルグはいつもシルピィと一緒にいないといけないから、ずっと子守りをしている状態になっているのか。

 そりゃあ疲れてヘトヘトにもなるよな。

 もしかして、それがストレスになっていて、怒りやすくなっていたのかもなぁ。


 

「なんか大変そうだね。なんか手伝えることあったら言ってよ」

「ありがとな、でも大丈夫だ。それより、これからレンはどうするんだ?」

「そうだね。とりあえず霊魂覚醒砲の後遺症を治そうと思ってる。霊竜の秘術で治せるらしいからね。シルピィが治してくれたら一番早いんだけど」

「確かにそうだな。ちょっと聞いてみる」



 そう言ったバルグは目を閉じてしばらくじっとしていた。



「残念ながら、シルピィは霊竜の秘術の使い方を知らないらしい。先代が使ったことがあるという記憶がある位で、やり方はさっぱり分からないそうだ」

「そっか、それは残念だね。やはり自力でなんとかするしかないか」



 今のシルピィは生まれて間もないから、まだ霊竜の秘術を使うことができないとは思っていたけど、やはりそうだった。

 落ち込んでも仕方ないから、気を取り直して、これからやるべきことを考えよう。



「実は霊竜の秘術について書かれた秘伝書のあてがあるんだ。でもそこにいくには潜水艦が必要なんだ」

「潜水艦なんて聞いたことないぞ?」

「人間が秘密裏に開発していたものだから無理もないよ。でも潜水艦の設計図はあるから、潜水艦が存在するのは確かだと思う」



 まあ、設計図があっても、今の技術じゃ実現不可能なものだってあるから一概には言えないんだけど。

 でも元いた世界ではあったものだから、この世界でも開発されていても不思議ではないだろう。



「そうか……設計図があるならそうかもしれないな。だが、肝心の技術者はどうする?」

「それについてなんだけど、まずエルンに頼んでみようと思うんだ」

「エルンにだと? 確かにエルンは形状に関する研究をしているから、それなりの知識はあるだろうが……」

「心配なのは分かるよ。でも他に頼れる人はいないし、エルンは研究者としてはかなり優秀だと思うんだ。なんだかんだで僕達の窮地を救ってくれたし」



 エルンはエナを腐食から救ったり、フロセアを汚泥族スラッジダートの侵攻から救ったりしてくれたし、だいぶ高度な科学技術を持っていると思う。

 それに、もしエルンが分からなくても、エルンの知り合いに頼るという手もあるからね。

 多分大丈夫だろう。



「確かにそうだな。じゃあ、とりあえずエルンの所にいくとするか」



 バルグはエルンの場所を知っているらしいので、僕はバルグについていくことにした。




 バルグについていくと、とある店の中に入ることになった。

 何やら甘い香りが漂っている。

 何の香りだろう?



「この香りって何なんだろう?」

「多分ボナパトだろうな」 

「ボナパト? 果物なの?」

「ああ、そうだ。甘くてとってもうまいぞ」



 どうやら僕達は果物の販売店に来たらしい。

 果物の販売だけでなく、果物ジュースを作ったり、軽い料理の提供もされているようだ。

 店の中には見慣れない果物がたくさん並んでいた。

 こういう所を見ると異世界に来たことを実感するね。

 でも店中に漂うほど強い香りがするボナパトとは一体……?



「レン、これがボナパトだ」



 バルグが何やら黒いものを持ち上げる。

 桃のような形をしているが、表面は固そうである。


 

「どんな味がするんだろう?」

「気になるか? それなら買ってみるとしよう」



 そう言ったバルグはボナパトを元の所に戻した後、店のカウンターに行って何やら注文を始めた。

 そしてお金を払った後、飲み物が入った容器を二つ持って僕の方へ戻ってきた。

 

 あれ、バルグお金持っていたっけ?

 竜人族の体になってからお金を稼いでないから無一文なはずだったんだけど。



「ほい、これレンの分な」

「ありがとう。でも、バルグいつの間にお金稼いでいたんだね」

「ああ、実はな……ブローダンとの戦いの後にコボルドに賠償をしてもらった分のお金だ」



 賠償金か。

 でも僕達に賠償してもらうようなことってないから、賠償金といえるのか疑問だけど。

 兵器とか使ってないから、戦いにお金かかってないんだよね。

 まあ、細かいことは気にしないようにしよう。


 その後バルグは僕にお金を少し分けてくれた。



「少しだけで申し訳ないんだが、あまり分けてしまうと……後は分かるな?」



 多分、バルグが持っているお金を半分僕に渡した後に、シルピィが精神交換してお金を勝手に使ってしまうのを恐れているんだろう。

 そしてそれを直接口に出すと、シルピィが怒ってバルグを責めるのは避けられないから、言葉を濁したんだろう。

 バルグ、なかなかの苦労人だな。


 確かにシルピィは見境なくお金を使ってしまいそうで怖いな。

 別にお金なんて滅多に使うことないし、少しあれば十分だろう。

 僕はバルグの言う通り、少しのお金を素直に受け取ることにした。


 

「それより、これを飲んでみようぜ。実は俺もボナパトジュースを飲むのは初めてだから、少し楽しみにしていたんだ」



 僕はバルグと一緒にそのボナパトジュースを飲んでみた。

 その味はオレンジと桃を足して2で割ったようなもので、甘くておいしい。

 のどごしも良く、スルスルと飲んでいけるので、みるみるうちにジュースはなくなっていった。



「これ、おいしいね。この世界ではよく食べられている果物なのかな?」

「どうなんだろうな? 俺も本で読んだことがあるだけだから、詳しくは分からない。でも本当にこれうまいな。やみつきになりそうだ」



 バルグもボナパトジュースを気に入ったらしい。

 本当にこのジュースおいしいよね。

 

 それはそうと、ここに来たのはエルンに会う為だと思ったんだけど、店内にエルンの姿は見当たらない。

 どういう事なんだろう?



「バルグ、そういえばエルンの姿は見えないけど、どこにいるの?」

「ああ、エルンはこの店を気に入ったらしいから、ちょくちょくここに買いにくるんだ。だから、ここで待っていれば会えると思ってな」



 待ち合わせしていた訳ではないのか。

 まあ、会えるんだったらそれでもいいだろう。


 立ちながら待つのもしんどいので、もう一杯、今度は別の果物ジュースを頼んでから、席に座って待つことにした。



「あ、バルきゅんだ~こんな所にいるなんて珍しいね~」



 あまり待たないうちにエルンが店にやってきた。

 エナとフィナも一緒だ。

 手提げ袋を持っているし、三人でショッピングでもしていたのかもしれないな。



「お、エルン来たか。実はお前に用があるんだが、ちょっといいか?」

「いいけど、飲み物頼むからちょっと待ってて~」



 エルン達三人は飲み物を注文しに行った。



「バルグは一緒にショッピングしなかったの?」

「誘われたんだが、面倒だからやめておいたんだ。エルンと一緒にいると疲れるだろ?」



 うん、その気持ちは分かる。

 エルンは一緒にいて楽しいんだけど、何か疲れるんだよね。

 からまれたときは特に。



「お待たせ~それで何の用があるの~? もしかして一緒にショッピングしたいとか~?」

「いや、そうじゃない。実はエルンに頼みがあるんだ」



 頼みって何だろうと思っているかのように首をかしげるエルン。


 

「レンが戻ってきたのと関係がありそう」

「エナの言う通りだ。レンにはまだブローダンを倒した技による後遺症が残っている。それを治す鍵がエルンにあるんだ」

「ボクにあるの~? なんでなんで~?」



 バルグは霊竜の秘術についてや、秘伝書の場所、そしてその場所まで行くために必要な潜水艦のことを話した。

 潜水艦の事を聞いた三人はキョトンとした表情だったので、この世界では存在が知られていない物なんだと改めて実感した。


 

「潜水艦なんて初めて聞いたよ~設計図を見てみたいな~」

「ふっふっふ……実はな、設計図はもう用意できているのさ」

「ええ~!? そうなの~!? 見せて見せて~!」



 なんでバルグがそんなにえらそうなんだ……

 それはさておき、エルンが設計書に興味を持ってくれたのはありがたい。

 早速、僕はバルグを経由してエルンに設計書を渡した。



「ふ~ん、こんな感じなんだぁ~なるほどね~」

「どうか、作れそうか?」

「材料さえあれば作れるかもしれないな~」



 作れちゃうのか。

 エルンって本当に何者なんだ……



「何を集めればいいんだ?」

「そうだね~ほとんどの材料はエプール村に戻れば揃うんだけど、一つだけ足りないんだよね~」

「それは何だ?」

「深海竜の鱗が必要なんだ~でも深海竜なんて会う事すら厳しいんだよね~」



 深海竜か……

 多分深海を住処にしている魔物なんだろうな。

 深海に行く為に深海に住む魔物の素材が必要なんて、そんなってないよね。

 でも深海でかかる水圧に耐える為には、その水圧を耐えて生活している魔物の素材を使う必要があるのもありそうではある。



「普通はそうだろうな。だが、ちょうど今、深海竜が地上付近にいる時期だったりするから手はあるんだぞ」

「え~そんなの聞いたことないよ~? 何かの間違いじゃないの~?」

「私も聞いたことないわよ?」

「聞いたことないけど、バルグが竜と会ってる未来が見える」

「本当か? なら俺の情報は正しそうだな」



 エナがバルグと深海竜が会う未来を見ているなら、何かしらの方法で出会うことができることを示している。

 それがバルグの言う方法かは分からないが、試してみる価値はあるだろう。



「深海竜はコーボネルドの北にある湖にいるらしい」

「なんで湖なの? 深海を住処としているなら、海にいるんじゃないかしら?」

「その湖は海につながっているとされていて、水も淡水じゃなくてほぼ海水なんだそうだ」

「そうなんだ。でもどうして深海からその湖に行く必要があるのかしら?」 

「それは分からない。本人に聞いてみないとな」



 理由はよくわからないが、湖にいるんだったらそこに向かうしかないだろう。

 でも湖に行くはいいけど、深海竜って湖の中にいるんだよね?

 どうやって深海竜に会いにいけばいいんだろう?

 水の中じゃ呼吸できないし。

 ちょっと聞いてみよう。



「バルグ、深海竜って水の中にいるんだよね? 呼吸できないけど、どうやって会いにいこうとしているの?」

「ん? 単純なことだろ? 変身魔法でアクアリザードとか水中で活動できる魔物になればいいだけだ」

「え、でも変身魔法って、外見だけ変化をさせる魔法なんじゃないの?」

「そんなことないぞ? 実際に体の構造も変化させるから、えら呼吸できる魔物に変身すれば水中でも活動できるぞ?」



 そうなの?

 コーボネルドに潜入するときにわざわざエルンのコボルドの着ぐるみを作ってもらって着た意味ってあったのかな……?

 まあ終わったことだし、気にしなくてもいいか。



「なんかバルきゅん独り言しゃべってる~」

「多分、そこにレンがいるんでしょうけど、何か変に見えるわね」

「バルグ、ドンマイ」

「あ、エルンとフィナには見えないんだよな……すまない」



 僕のことを見えない人からすると、僕に向かって話しかけるバルグはぶつぶつ独り言を言っているように見えるから変なようだ。

 まあ、事情を知らなければ頭がおかしい人なのかと思ってしまってもおかしくはないか……

 早く存在を取り戻さないといけないと改めて思った。

 

 エルン達がジュースを飲み終えるのを見届けた後、バルグが立ち上がる。



「じゃあ、俺はレンと一緒に深海竜の所に行ってくる。みんなはショッピングを引き続き楽しんでくれ」

「何言ってるの~? もうショッピングは十分楽しんだし、ボクもついていくんだから~」

「私もついていくわ。もうコボルドもだいぶ落ち着いたみたいだし、私達がいなくても大丈夫そうだもの」

「もちろんついていく。置いていくなんて言わせない」



 三人とも一緒に来る気のようだ。


 

「ついてくるのは勝手だけどな……レンが少し困るんじゃないか? 俺とエナだけがレンといるときは問題ないんだが」

「ちょっと~だからといって仲間外れはひどいよ~ボクも仲間に入れてよ~」

「そうよ! それに見えなくても、レンがいることが分かれば、見えるかのように応対すれば問題ないわよね!」

「私が通訳する。問題ない」



 確かにこのままバルグとエナ以外をのけ者にするのはかわいそうだし、コボルドを落ち着かせるという役目もみんな果たしてくれた。

 一緒に来るのを拒む理由はないだろう。

 それにエナが通訳みたいなことをしてくれるらしいから、いざとなったら間接的にではあるけど、エルンとエナとの会話もできる。

 バルグが心配するほど僕が窮屈な思いはしなくてもよさそうだと思う。



「レンはそれで大丈夫なのか?」

「うん、問題ないよ。気遣ってくれてありがとう」

「そうか、でも無理だけはするなよ。何かあったら言ってくれ」 

「うん、分かった」 



 こうして僕達は店を後にし、深海竜がいるらしい湖へと向かった。


 あれ?

 誰か忘れているような気が……




「皆さんどこかへ旅立つんスね!? オレに黙って行こうとするなんてひどいッス! 意地でもついていってやるッスよ!」



 そうだ、そういえばジルを忘れていたな。

 誰か忘れていると思ったけど、気のせいじゃなかったようだ。

 という訳で、ジルを加えて僕達はコーボネルドを出て北へと向かった。

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